公益事業に情熱を燃やす

封 けい

濮存�ﾏ（ぼくそんきん）さんは、北京人民芸術劇院の俳優である。

濮さんが公益事業に情熱を燃やすようになったのは、５年前に「エイズ予防普及委員」になるずっと前からのことだ。「私はこの生涯に、２つの事をきちんとやれば、心が落ち着くのです。１つは、素晴らしい俳優になること。いま１つは、公益事業をやり遂げること」

実際、濮さんはこの数年来、「普及委員」として担うべき仕事を完全に上回るほど数多くの事を手がけてきた。「エイズ患者の援助には、すべきか、あるいはすべきでない、などといった境界線はない。援助を必要とする人がいれば、援助することができる。できないことはない」と言う。

数年前のメディア報道を検索して、下記のような記録が見つかった。

――1998年、洪水防止・被害者救済慈善公演に参加し、被災者に１万6000元を寄付。同年、中国児童基金会が提唱・発起した学校に入れない、途中で退学した女子児童を百名のスターが支援することを趣旨とした「春蕾計画」に参加し、３名の児童の授業料を負担。2000年、台湾での文化交流公演に参加し、台湾の被災者に１万元を寄付。2002年、北京市赤十字の呼びかけに応じて、被災者に4000元を寄付。2003年、SARS撲滅の中、北京人民芸術劇院の俳優を率いてテレビ生放送番組に出演し、個人として1000元を寄付……。

濮さんは今、エイズ予防普及委員のほかにも、「無報酬献血普及委員」と「北京青少年麻薬禁止普及委員」を勤めている。

「公衆のそれぞれ、とくに公衆の中のある人物、あるいは富裕層にとって、社会公益事業は逃れない責任だと考えている」と、濮さんは強調する。

子どもたちに希望を

８月中旬、エイズの影響（両親あるいは片親がエイズ患者で、両親あるいは片親（非エイズ患者も含む）が死亡）を受けた児童に関心を持ってもらうおうと、北京でサマーキャンプが開かれた。全国８省の13県・市区から、８〜15歳までの児童85人が参加。故宮や長城、頤和園など有名な観光地を見学した後、１人ひとりが85の家庭にそれぞれ２日間滞在した。

濮さんと２日間生活を共にしたのは、雲南省徳宏州盈江県から来た15歳になるダイ族の思?瑜（しほうゆ）君だ。

思君が２歳の時に母親は、父親の麻薬に悩み、何度となく止めるよう勧めたが聞いてもらえず、彼と弟を残して自殺。父親は６歳の時に、麻薬常習でエイズに感染して亡くなった。

思君は以前、テレビでしか濮さんを見たことがない。その日、濮さんは奥さんと車で思君を迎えに。米国から夏休みで帰国している娘さんが朝早くから、昼食の準備をしていた。

家に着くと、思君は堅苦しさを感じた。濮さんは先ず家の中を案内し、壁一面に張られた写真について説明。そして、思君をソファに座らせて、これまでの自分の生活の様子や、新劇や映画のスチール写真について語った。

だが、思君はずっと話をしない。そこで彼の好きな話題を探し、学校では何をして遊ぶのが面白いかと聞いてみた。「バスケです」。濮さんは部屋を出ると、米NBAで活躍する姚明選手のサイン入りのユニホームを彼に見せた。興味を持ったらしく、思君は笑顔を見せるようになった。次第に慣れてきたのを見て、「ここを自分の家と思うようになった」と、濮さんは非常に喜んだ。

昼食後は一家で国家博物館を見学。途中、濮さんのファンがサインや記念写真を求めることがあった。すると思君は自分から距離を置いて、脇で静かに待っていた。

翌日、濮さんは飛行機のチケットを購入して、彼を他の都市で行われる公益活動に連れて行くことにした。「彼に世界をもっと多く見てもらいたいから」と濮さん。

このサマーキャンプについて、濮さんは「これを機に、社会の良識を呼び起こし、巨大な社会の力を結集して、エイズの影響を受けた児童をより多く援助したいと思っている。子どもたちにとって、北京での生活は２日間に過ぎず、サマーキャンプが終われば、それぞれの生活に戻って行く。これから、彼らは自分の道を歩み、困難は彼ら自身が克服していかなければならない。最終的には、彼らの運命は彼ら自身が変えることができるだろう。いずれにしても、彼らを北京に数日滞在させたことで生活は多少なりとも変化し、視野を広げることもでき、彼らに希望の種子を植えることができた。今回の85人の子どもだけでなく、エイズの影響を受けた全国のすべての子どもたちに、生存と教育、成長に関するしっかりとした権利を持たせることができるだろう」と話す。

最新統計によると現在、エイズの影響を受けた児童数は全国で７万6000人を数え、2010年までに26万人に増えると予想されている。こうした児童は大半が貧困や中途退学、差別などの困難に直面しているのが現状。貧困は、もともと貧しかった上に、さらに親のエイズ発病によって深刻化している。中途退学は、エイズとエイズ患者への無理解と差別によるものだ。エイズは一部の地区で感染率が極めて高く、しかも夫婦が同時感染する率も高い。発病による死亡がピークに達するにつれ、子どもたちの問題は重大さを増しつつある。

衛生部の王隴徳副部長は先ごろ上海で記者会見し、「エイズ患者とその家族の権利を保護する法律が年末までに施行される」と発表。このニュースに濮さんは喜び安堵したという。

「愛の心の基金」開設

濮存�ﾏさんは2001年初め、中国青少年発展基金会に個人名を冠した「愛の心の基金」を開設した。エイズ患者のいる貧困家庭や、貧困地区の子どもの教育を援助するのが主目的だ。

同基金会によると、個人名の基金は、寄付者が信託方式で開設した公益の基金で、長期にわたって運営する場合、資金を補充する必要がある。基金の一部は毎年、寄付者が指定した援助プロジェクトに充てられ、同基金会が着実に実行し、寄付者は基金の管理と使用を監督する権利を持つ。

同基金会の責任者である谷嵐氏は「エイズ支援プロジェクトは、濮存�ﾏさんが推進したことで始まった。それまでは、基金会の援助対象は基本的に青少年が主体だった。この数年は、エイズプロジェクトも円滑に進んでいる」と説明する。

濮さんの評価については、「非常に尊敬するに値する人物です」

基金の開設に当たって、濮さんは40万元（１元約14円）を納めた。その後、絶えず補充して現在、援助資金は累計100万元を超えている。

「谷さん、今度は何をしたらいいだろうか。基金にはまだ資金はあるだろうか。補充の必要は？」。谷さんによると、濮さんからは、いつもこんな問い合わせの電話があるという。

「濮さんとの協力プロジェクトは非常に愉しい。仕事が忙しいにもかかわらず、エイズに関連することがあれば、また、スケジュールとぶつかることがなければ、いつでも積極的に参加してくれる」と谷さん。

濮さんはとくに、エイズの影響を受けた家庭の子どもの教育問題に関心を寄せており、愛の心の基金ではこれに関するプロジェクトが最も多い。現在、山西や河南、雲南省などエイズ高発生率の地区で、就学前の児童や小学生、中高生から大学生を含む約200人を援助している。こうした支援によって、教育費や生活費に困っていた子どもたちは高校を卒業できるようになった。大学に合格しても、学費の心配はいらない。河南省のある村では、貧しくエイズに悩む家庭の100人余の子どもたちが基金の援助を受けている。

愛の心の基金は、河南と山西の２省に「紅いシルクベルトに包まれた愛の心の島」と名づけた文化施設を設立。地元のエイズ患者が気楽に楽しめる場所だ。テレビや卓球台など設備は簡単なものだが、エイズや健康に関する知識を紹介するパネルも設置されて、専門の指導員が農民への知識普及に当たっている。指導員は同基金が専門に養成した衛生担当員だ。谷氏によると、エイズに関する知識の普及は非常に大きな効果を上げているという。

愛の心の基金はまた、貧困地区の子どもたちの援助や、環境保護など様々なプロジェクトを実施している。チベット自治区では、貧困地区にある約100校の生徒のために３年連続して新聞を購読契約、また北京郊外で「公益林」の整備を進めてきた。

濮存�ﾏさんは言う。「多くの貧困家庭にとって、我々が提供できるお金はたいしたものではない。少しばかりの気持ちを表したに過ぎない。より多くの人が、援助を必要としている人を援助するために力を尽くしてくれれば」