2005 No.48
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関心高まる精神衛生問題

――20数年来、精神疾患率が上昇傾向を呈していることから、精神衛生問題が社会、政府から非常に重視されるようになってきた。

蘭辛珍

2004年8月4日、精神分裂症の患者が幼稚園に刃物を持って押し入り、4歳の児童が亡くなり、14人の児童と3人の保育士が負傷した。

法律は、精神分裂症患者による発病時の行為については刑事責任を負わないと規定しており、被害者の家族は犯人の責任を追及することはできない。

精神衛生問題はすでに重大な社会問題となっている。

衛生部の陳嘯宏副部長は「精神疾患は患者や家族の生活に影響を及ぼすだけでなく、社会に重い負担をもたらしている。精神衛生事業を強化し、精神疾患の防止・治療を円滑に進めて、様々な不正常な心理による行為の発生を防止・減少させることは、市民の心身の健全や社会の繁栄と安定にかかわるものであり、経済社会の全面的、調和の取れた持続的な発展を保証する上で重要な意義ある」と強調している。

精神疾患の増加

専門家によると、精神分裂症は数百種にのぼる精神疾患の1種にすぎない。現在、重大な精神疾患では、精神分裂症のほか、うつ症患者は2300万人に上るという。

この20数年来、精神疾患の患者数は増加傾向にあり、衛生部の統計によると、発病率は13.47%に達している。

広東省精神科学会主任委員を務める、広州市脳外科医院の趙振環院長は「精神病の調査は1982年に始まり、当時の統計によると、重大な精神疾患の発病率は8.3‰(千分比)だった。だが90年代になると、11‰まで急上昇した。2003年の広東省の統計では15‰と、患者数は約110万人に上り、発病率は毎年0.03〜0.04‰上昇している」と指摘。

精神衛生事業に携わる北京市の安定医院の姜佐寧教授は「北京地区では精神疾患者が急増しており、とくに不安神経症やうつ症、老人精神障害の患者が目立って増えている。なかでも不安神経症の発病率は、以前の2%未満から3.5%前後まで上昇している」と指摘している。

衛生部の統計によると、現在、精神障害と自殺が疾病によってもたらされる総負担の20%を占めるなど、様々な疾病の中でトップを占める。この10年近くの間に、全国の精神病院が事件を起こして収容した精神病患者は7万5000人に達し、うち殺人が30%。自殺者は全国で年間約25万人に達しており、とくに農村の若い女性の自殺率は世界で最も高い。

とりわけ憂慮されるのが、精神疾患者の低齢化傾向だ。

北京市の友誼医院神経内科で心理診療の副主任を務める柏暁利医師によると、診察する患者のうち30歳未満が54%を占めているという。

広州市脳外科医院の趙院長は「広州では毎年、新たに5000人余の患者が増えている。その大半が18〜35歳の若い患者だ。うち大学生と中高生が30〜40%を占めている」と説明する。

中国疾病予防制御センターの精神衛生センターが行った調査によると、17歳以下の児童・青少年では、少なくとも3000万人が様々な情緒障害などの問題を抱えている。小中学生や高校生の精神障害の発病率は21.6〜32.0%にも達しており、うち犯罪やアルコール中毒、薬物吸飲、反社会的人格といった障害率は30%に上り、普通人の5〜10倍の高さだ。

20年前と比較すると、生活の質や精神面で大きな改善が見られているのに、精神疾患者数が増加し続けているのは何故なのか。

この問題について、衛生部の陳副部長は「仕事で緊張を強いられている、勉強で急がしい、職場の競争が厳しいなど、大きなプレッシャーを感じる人が増えて、心の問題も増大している。とくに中国は現在、社会の転換期にあるため、様々な問題が多く、それが心の問題の増大と関係している。こうした心の問題がすぐに緩和されなければ、精神状態を損ね、精神疾患をもたらすことになる」と指摘している。

防止と治療が重点

精神疾患者の増加とそれによって起きる社会問題に、政府も非常に重視するようになった。

政府は2004年9月、『精神衛生事業を一段と強化することに関する指導意見』を公布。児童・青少年、女性、高齢者、災害の被災者、職業人と監督される立場にある職員を精神衛生事業の重点的な対象とし、精神分裂症とうつ症、老人性痴呆を重点的に防止・治療する精神疾患に定めた。

衛生部疾病制御司の斉小秋司長によると、この指導意見は、児童・青少年の心の問題について(1)予防を重視するとともに、学校の教師やクラス担任、校医などに対して心の健全教育や精神衛生に関する知識の習得を強化することで、早い時期に児童・青少年の心の問題を見つける能力を高める(2)学校にすでにある作業チームやネットを活用するとともに、専門家の指導を受けながら、年齢の異なる児童・青少年の特徴に即して、心の健全教育(技能訓練を含む)や相談を行って指導・支援する――と規定している。

また女性の心の問題と精神疾患については(1)研究を強化し、精神疾患と心の問題を抱えた女性の権利や利益を擁護するとともに、妊娠時の心の健全を通常の心の問題と判別して対処することを強化し、出産前と出産後に生じる心理的な問題の発生率を低下させる(2)更年期の心の健全に関する相談と指導を円滑に行う(3)農村部の女性の心の問題について多学科的な研究を強化するとともに、様々な相談に乗りながら、効果的な措置を講じて精神疾患率を低下させる――と規定。

高齢者については(1)現在ある精神衛生に関するデータを活用して、老人性痴呆症ネットワークを樹立する(2)老人性痴呆症とうつ症などの精神疾患に関する予防知識を普及させるとともに、心の問題に関する相談を普及させる(3)高齢者が質の高い生活を送れるよう支援する――と規定している。

災害の被災者については(1)支援を強化し、被災後の精神衛生支援対策案を早急に制定する(2)組織、人的、政策面から被災者の救済を保証することで、被災後の精神疾患率を低下させる(3)重大な災害を受けた被災者の心の問題の解決を早急に支援するとともに、被災者の要望に応じて、電話相談や診療などを行う――と規定。

職業人と監督される立場にある職員については(1)地区、職種ごとに職業人としての具体的な状況に適した計画を策定し、仕事や家庭などが原因となるプレッシャーを緩和させる(2)監督される職員の精神衛生に関しては、その地区の精神衛生事業計画に盛り込み、公安機関の監視人民警察、監獄や労働教育機関の人民警察、医療関係者に対する精神衛生知識教育を強化する(3)被監督者の流行病学的特徴に基づいて、そのタイプや特徴に即しながらカウンセリングなどの診療を行う――と規定している。

様々な措置

調査研究と論証、修正を繰り返した後、衛生部が起草した『精神衛生法(意見聴取草稿)』がまとまり、現在、社会から意見を聴取しているところだ。

同法の適用範囲は、精神疾患の予防と治療、リハビリの3方面にかかわる精神衛生事業の全過程を網羅している。各地方政府と政府機関、社会団体などが精神衛生事業を進める上でのその職責と任務を規定。また精神の健全を促進するために公民がなすべき義務や、精神の健全にプラスとなる環境を創造するために政府や事業体、コミュニティーが果たす責任などについて具体的な規範を設けるとともに、コミュニティーにある精神衛生リハビリ施設を積極的に支援することで、生活苦にある精神障害者の治療やリハビリ、社会復帰といった問題を適切に解決するよう強調している。さらに、精神疾患の強制的治療については国が費用を支払うと規定している。

衛生部の陳副部長は「精神疾患の予防事業を確実に行っていくために、政府は一貫して財政を主体にした、同時に多方面から資金を調達する方策を堅持してきた。政府が主導し、関連機関が協力して、社会の各界が幅広く参与する精神衛生防止治療組織管理システムがすでに形成されている」と説明する。

また政府は2010年までに、心の健全・精神疾患の予防知識を都市部住民の間で現在の30%から60%、農村部住民に対しては同10%から40%まで広める計画だ。心の健全に関する知識を普及させる、重点的な疾患の予防を強化する、医療サービスを改善する、といった手段でこの目標を達成することにしている。

政府の精神衛生事業の重点の1つが、カウンセラーの養成だ。2005年3月、労働・社会保障部は初めて277人にカウンセラーの「職業身分証」を交付。現在、カウンセラー養成機構は全国で52カ所を数える。健全な精神を重視する市民は増え続けており、カウンセリングは問題を解決上で重要な手段となっている。

数年前まで、市民は一部テレビ局の深夜番組を通じて、自分の悩みを打ち明けたり、説明を聞いたりするしかなかった。こうした番組では心理学者を招き、ホットラインも設けて聴取者と対話する、というのが一般的だ。番組の終了まで、電話は鳴りっぱなしの状態だった。

だが、心理学を専門にする医師は極めて少数だ。国の資格を取得したカウンセラーは3000人足らず。社会の需要を満たすにはほど遠い。

カウンセラーにとどまらず、精神科医も不足している。医師対患者の比率は1対20000だ。

この問題については、行政機関がこの数年来一貫して解決に取り組んできた。だが、人材養成には一定の時間が必要であり、経費の問題もあることから、解決するまでにはさらに時間が必要だ。衛生部の陳副部長によると、政府は5年以内に精神科医を現在の1万5000人から2万人まで増やし、県にある総合病院の半数以上に精神科またはカウンセリング科を設置する方針だという。