海賊版撲滅は達成不可能な使命なのか
---まだ「任重くして道遠し」だとはいえ、政府は知財保護の強化に本腰を入れている
唐 穎
広東省文化査察チームの捜査官・万強氏(仮名)は映画マニアで、トム・クルーズ主演の「ミッション:インポシブル(達成不可能な使命)part2」が気に入り3回も観たという。「いずれも映画館に足を運んだ。海賊版のDVDやVCDを買わないのはルールであり、自覚することが必要だ。それに海賊版撲滅を『ミッション:インポシブル』にしないために」と万氏。
南部沿海に位置する広東省は香港、澳門(マカオ)と隣接し、経済が繁栄して人口密度が高く、交通が発達していることから、各メーカーが中国市場のシェアを争う前線基地となっている。同省はまた音響・映像(AV)産業の3大拠点の1つであり、年間販売量は全国の70%以上を占める。それだけに、海賊版がはびこる地帯ともなっている。
AV新製品の開発には企業は多額の資金を投入しなければならない。発売されたばかりの製品はおろか、未発売品までも海賊版業者から狙われている。あるデータによれば、全国のAV製品市場の潜在的売上高は200億〜300億元前後と見られているが、正規版の年間売上高は全体の10分の1しか占めていないという。つまり、残りは海賊版の巨額の富の源泉となっているのだ。
万強氏は、「海賊版の利益で一カ月に7人ずつ百万長者を生み出している。“近道”に目がくらんで犯罪するものが後を絶たない」と説明する。
取り締まりを強化
ここ数年来、広東省政府は海賊版取り締まりに大量の「ヒト」「モノ」「カネ」を投入してきた。同省の文化・公安・税関・商工業など関係機関は海賊版の製造拠点や販売輸送ネットワーク、海上密輸ルートなどに関する情報の収集と分析を強化している。
万氏によると、海賊版AV製品の源は2つある。1つは香港やマカオ、台湾、東南アジア地域からの密輸だ。密輸業者はあの手この手を試みているが、特徴的なのが「漂流ドラム缶」だという。つまり、事前に計算した潮の方向やスピードに基づいて、百万枚もののCDを入れた黒いプラスチック製ドラム缶を海に投げ入れて広東省内の砂浜まで漂流させるという手口だ。またCDを漁船や綿布類、コンテナなどに隠して持ち込む密輸もある。
いま1つは違法生産ラインだ。そのほとんどは海外から輸入されたものだが、台湾で組み立てたものも一部ある。オートメーション化された設備であるため、10数平方メートの部屋と2、3人の作業員さえいれば作業場として十分だ。
海賊版業者の人の目をくらます手法は万氏や同僚にとって難題だ。例えば、生産ラインを郊外の養鶏場に設けているのは、他人に見つからないようにするためであり、ニワトリの餌や糞の臭いが化学製品の臭気を消すのに効果があるからだ。また、ファンを据えつけ、さらに長さ数百メートルの隠しパイプを使って遠く離れた田畑に排出させる作業場もある。洞窟や不要となった軍事施設も巣窟となっている。隔絶された山間部、出入りする道が一本しかない村に隠されたラインもある。村の入口に設けられた売店は一見、それらしいように見えるが、実は“歩哨”だ。誰かが来たり、何か普段と違うことが起きたりすると、“店員”はすぐ警報を出す。さらには、廃棄されたガソリンスタンドはまさに“リサイクル”だ。地下タンクは広く、出入り口も見つかりにくいため、多少手を加えて食べ物を用意すれば、“地下製造”ができる。
手がかりがあっても、製造拠点を摘発するまで半年もかかるケースもあるという。「偽装と偽装の摘発、追跡と逃走の繰り返しだ」と万氏。海賊版業者の“新旧交替”で、製造の手口も巧妙化されている。例えば、マザーディスクの複製、量産、包装・印刷、貯蔵・流通などの製造プロセスを各地に分散する、工場の一部を住宅団地やオフィスビル内に移転させるなどだ。
広東省政府は、違法CD生産ラインの設置場所を通告した場合、事実と確認されれば、一本につき30万元の奨励金を支給すると共に、通告者の身分は明らかにしない、との規定を設けた。1996年から実施されたこの政策は功を奏し、多くの違法生産ラインが押収された。
海賊版を撲滅するには、「源」を押さえ込むほか、販売ネットワークの取り締まりを強化する必要もある。広東省には従来、AV販売店が約1万店あったが、海賊版の販売で利益を維持していた業者もいたため、文化管理部門はハードルを引き上げ、輸入総量を圧縮することで販売店を6000店まで減らした。また監督・管理も強化している。
広東省が押収した違法生産ライン数とAV製品正規版の売上高は2001年は15本に8億3000万元、2002年は13本に16億元、2003年は32本に達し、SARSの影響を受けたにもかかわらず、売上高は16億元に上った。
こうした中、広東省政府は昨年9月に文化部と中国第1回国際AV製品博覧会を共催。世界の五大レコード会社と米映画協会(MPA)傘下の大手企業を含む国内外のメーカー200余社が出展すると共に、海賊版対策について協議した。
米国と対策で協力
今年11月には、2回目の国際AV博覧会が同じく広東省で開催された。期間中、同省AV製品販売代理業界商会は世界のレコード製作・販売会社約1300社の会員を擁する国際レコード産業連盟(IFPI)との間で、AV製作企業の知的財産権を保護し、省政府の海賊版撲滅に協力することに合意して覚書に調印した。IFPIが中国の地方の業界組織と協力協定を結んだのはこれが初めて。
IFPIのアジア地区代表は「今後両協会は健全で、好ましい市場環境を育成するために、知財保護と海賊版撲滅に関する情報交流や国際的に通用する法律の立案、共同行動などでさらなる協力を目指していく」との意向を示した。
これより前の7月11日、カルロス・グティエレス米商務長官は、中国との間で知権実施グループを発足させることで合意したと発表した。
7月13日、文化部と国家広播電影電視総局(放送・映画・テレビなどを監督)は北京で米映画協会(MPAA)と、中米両国の映画著作権保護に関する協力メカニズムの構築について合意し、覚書に調印した。協力メカニズムの目的は、映画著作権の効果的な保護、家庭向け映像製品の海賊版取り締まりを強化するためである。「覚書」によれば、3者は今後、合同会議を定期的に開催して、合意事項の実施効果を検証し、AV製品の海賊版撲滅と映画著作権保護の行動プランについて検討するほか、両国の関係機関のために法律の執行を高めるための枠組みを共に構築していく。またMPAAは3カ月ごとに中国側に上映計画の新作映画のリストや、会員企業の映画や家庭向けビデオテープ、DVD、VCDなどの発行についての情報を提供するほか、「覚書」では言及されていない映画の著作権保護については個別に協議する。中国側は文化部が海賊版撲滅を担当し、国家広播電影電視総局が映画の発行を監督する。
10月26日、中米双方は上海で定期合同会議を開き、「覚書」調印後の実施状況について評価を行った。MAPPアジア・太平洋地域代表マイク・エリス氏は、「覚書」が7月に調印されて以来新たな進展が見られたと述べるとともに、MAPPが行った調査結果を発表した。上海では10月の調査結果から、「覚書」に盛り込まれた著作権保護を受けるべきいかなる映画にも海賊版は見つからなかった。また広州ではほとんどすべての映画で海賊版が出回っていたが、著作権保護に指定された映画の海賊版の数量は9月から一気に減少した。深センでも数量が9月から50%減少。しかし、北京はむしろ9月から増え始めたという思わしくない結果となった。エリス氏は「解決するのに早道はなく、一蹴するのは不可能である。根絶するには長い時間が必要だ」と認めている。
政府の努力
今回の覚書調印に尽力した文化部文化市場司の張建新副司長は「海賊版の氾濫は外国企業の利益を損うだけでなく、中国の産業発展や税収、国家イメージに悪影響を及ぼし、自国の新製品開発能力をも阻害している。そのため、政府は、海賊版撲滅対策資金を増やすと共に、関連する法律や法規、著作権やインターネット、生産ラインなどに関する海賊版撲滅対策を徐々に整備して、AV製品正規版の開発や製作、発行への助成の強化に積極的な姿勢で取り組んでいる」と強調する。
2001年10月に施行された改正後の「著作権法」には、財産保全や証拠保全、権利侵害者の違法所得に基づく算定賠償額と法定賠償額など、海賊版撲滅に関する条項が盛り込まれた。WTO加盟後、政府は関係する公約に基づいて、WTOの基本的原則と合致した法律を相次いで打ち出してきた。例えば、「音響・映像(AV)製品管理条例」では、AV製品の経営者に対する資質認定制度が強化された。海賊版を取り扱うなど不適切な経営者に対しては、「ブラック・リスト」制度を導入し、10年間は同事業に従事してはならない、各地方政府のAV製品管理部門に対してユーザーへの海賊版認証サービスを義務づけることなどが規定されている。
国家知的財産権局の王景川前局長によると、現行の知財関連の法律や法規のほか、司法と行政による保全を同時に実施するメカニズムもすでに確立されている。
行政処罰だけで海賊版製造行為を押さえ込むのは十分でないため、政府はさらに刑事罰を強化した。例えば、知財関連の刑事訴訟については昨年末、海賊版のCDやコンピューターソフトウェアを5000枚以上複製した場合や、不法所得が25万元を超える場合、あるいはその他の情状が特に重大な場合は、いずれも人民法院は3年以上7年以下の有期刑に処することができるようになった。
知財侵害行為はすでに家族経営や規模化、組織化が多くの地方で特徴となっている。こうした現状に対応して、最高人民法院と最高人民検察院が共同で公布した「知的財産権侵害の刑事事件処理における法律運用をめぐる若干の問題に関する解釈」では、「他人が知的財産権を侵害していることを明らかに知りながら、融資や資金、口座、領収書、証明書、許可書を提供、あるいは生産や営業場所、あるいは運輸や貯蔵、輸出入代理等の至便な条件、援助を提供した場合は、知的財産権侵害犯罪の共犯として処罰する」と規定されている。
海賊版を市場から駆逐して正規版を市場に定着させるには、法律や法規を健全化し、政府が取り締まりを継続的に強化していくほか、市民の支持も必要である。だが、海賊版撲滅をより決定づけるのは、国民所得の増加や消費水準の上昇、国民資質の向上、知財を尊重する意識の醸成、正規版の開発助成といった社会環境の整備だ。従って、海賊版撲滅は政府にとっても、業界にとってもまだ「任重くして道遠い」だ。とはいえ、決して「ミッション:インポシブル」ではない。
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