2005 No.50
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復活した抵当賃業

――抵当賃業、昔風に言えば質屋である。この言葉を聞くと、中国人は決まって、落ちぶれた惨めな思いと重なり、たとえ窮地に陥っても、質屋だけには行きたくなかった、との記憶がよみがえってくるのではないか。ところが今、抵当賃業者に出入りするのは、多くが衣食足りた人たちであり、一部の理財に長けたナウな人たち主要な顧客だ。

譚偉

Aさんは北京でビジネスをする浙江省寧波出身の会社社長。出張する際に最も気がかりなのは、80万元(1元約14円)で購入した高級車アウディだった。だが、愛車のための「セーフティーボックス」が見つかったと言う。

彼が示した明細書によると、最低価格の5万元で業者に半月間、抵当に入れた場合、支払う費用は1050元(50,000×4.2%/2、4.2%は法定月間手数料率)。一般の駐車場を利用すると、1時間5元かかるため、半月で駐車料金は1800元が必要となる。750元節約できる計算だ。

経済貿易委員会の統計によると、今年7月現在、抵当賃業者数は全国で1370社。年間貸付額が6000万以上に上る業者もあるという。取扱範囲は伝統的な金銀の装身具から自動車、不動産、有価証券などに拡大し、業務は現代化してきた。とくに自動車の抵当貸付が急速に伸びている。抵当賃業者をセーフティーボックスとして利用するのは、多くが地方から北京に来てビジネスに従事している人たちだ。

北京の華夏「典当行」(抵当賃業者)の王樹林マネージャーによると、新世代の抵当賃業はセーフティーボックス以外にも、昔ながらの質屋的な機能も残しているという。顧客が緊急に必要とする資金を提供することだ。こうした顧客は、子供を外国に留学させたい、一時保証金が調達できない、株売買でチャンスがありさらに投資したい、外国旅行に行きたいが定期預金は下ろしたくない、など目的は様々。

王マネージャーは「こうした人たちはお金がないわけではなく、ただ、一時的にお金が融通できないだけ。抵当賃業は中小企業者などを含む一部の人たちが融資を受けたり、理財を行ったりする上でも重要な役割を果たしている」と強調する。

理財向けの“第2の銀行”

新聞社に勤めるBさんは北京のデパートで気に入った洋服を見つけたが、買うには800元余り足りない。そこで、近くの抵当賃業者に行き、買ったばかりの装身具を抵当に1000元を借り、デパートに戻って待望の洋服を購入。数日後、1000元に15元の抵当料を払って装身具を請け出した。彼女の計算によると、家にお金を取りに帰れば、往復するのに1時間余り必要で、タクシー代が40元かかるという。抵当に入れた方がずっと合理的だ。

融資だけでなく、抵当賃業者にちょっと足を運べば、質流れに思わぬ掘り出し物を見つけるかも知れない。抵当賃業の規定によると、一定の抵当期間が過ぎると、抵当を継続せずに請け出さない場合、抵当品は質流れとして業者の所有となる。北京抵当賃業協会の郭金山会長は「値段の安い質流れが結構多い。抵当価格で売り出しているからだが、それはコストを回収するだけでいいからだ」と説明する。

海外旅行をする場合、抵当賃業者から資金を調達するのが今流行っているという。旅行社の間では国外不法滞在を防止するため、旅行者から「一時金」を徴収するところが多い。東南アジア以外の国に観光に行く場合、5万〜10万元の保証金の支払い必要となる。一般市民にとって、海外旅行に数万元を消費するのは大きな問題ではないが、数十万元の保証金を一括して旅行社に払うのはやはり困難だ。こうしたことから、上海のある大手業者は旅行社と提携し、2万〜20万元の範囲で資金を融通する貸付サービスを開始。手数料は日率0.1%で徴収する。

郭会長は「抵当品については、業者は厳格に鑑定して、無傷の状態で債務者に請け出させている。だが、業者をうまく利用するのもいいが、自身の許容限度内に留めておくべきだろう。いずれにせよ、抵当賃業は営利機構であって、慈善機構ではないからだ。規定では、抵当期日を5日過ぎれば、業者は抵当品を質流れとして取り扱うので、時期を逃すことなく請け出してほしい」と強調する。

中小企業融資の新ルート

山東省済南に住むCさんは資産1000万元の中核企業の社長。だが、回転資金が不足し、新規業務に乗り出せなくなった。必要な資金はそう多くない、借りる期間もそう長くない、それに手続きが煩雑であることから、銀行融資は割に合わないと考えた。Cさんは住宅を2戸所有しており、価値は100万元超。今年10月、試してみる気持ちで市内の業者を訪れた。手続きが完了すると、わずか3日で必要な資金を借りることができ、1カ月後には抵当に入れた2戸の住宅を請け出している。

今年10月に制定された『抵当貸付管理法』は、顧客は抵当貸付の際に抵当金額の4.2%を月間リース料として納めると規定している。銀行の金利を大幅に上回る利率だ。しかも不動産や自動車など大型物件の場合、抵当元利はさらに高くなる。つまり、抵当品で緊急を要する資金を借りることはできても、高額の元利を支払う必要がある。

業界関係者は、中小企業や個人にとって、抵当賃業者による貸付は銀行融資に比べ3つの長所があると言う。第1は、手続きが簡便で迅速で、時間と手間が省けること。第2は、中小企業と個人を主要対象にしていること。第3は、貸付限度額がないことだ。

上海恒通典当行の馬一甚マネージャーは「抵当賃業者はまだ金融機関ではないが、預金業務は行わない、民間資本による全額出資である、この2つの条件を明らかに満たしていれば、資金の貸付など、中小企業の支援で貢献することができる」と強調。

華夏の王マネージャーは「業界が今後どう発展していくかは定かでない。現時点では『抵当貸付管理法』しか制定されておらず、関係する法律がないため規制はかなり厳しい」と指摘する。

中国人民大学の趙錫軍教授は「抵当賃業は民間金融の形態の1つであり、リースや担保、各種貸付業務などを行っている。銀行に昇格したならば、預金業務も取り扱うことになるだろう。だが、そうなった場合には、国の法律の枠組みや社会状況、信用が問題となる。たとえ今後、預金業務を行うにしても、法人としての信用問題や、手形を換金できないという問題が生じてくるだろう。それは関係する法律が欠如しているからだが、業者も自己の信用維持に努めることが肝要だ」と指摘し、憂慮を示す。

さらに趙教授は「抵当賃業は金融システムを補完する役割しか果たせず、銀行などの金融機関の代替になることはできない。中小企業へのサービスについて言えば、現有の信用組合や都市商業銀行が地域の銀行、あるいは中小企業向けの銀行としての役割を果たしている。商業銀が営業範囲を拡大しようとしている中、抵当賃業者も中小企業や地域に貢献することはできるとしても、その役割は暫定的なものに過ぎない。商業銀がより力をつけることにでもなれば、抵当賃業者が今扱っている業務に挑んでくるだろう」と指摘する。

軽視できぬ潜在的リスク

「抵当賃業者の金利が銀行より高いことに目を奪われがちで、その潜在的なリスクは目に入っていない」。郭会長はこう指摘する。「もし、彼を天国に行かせたいと思うなら、彼を抵当に入れるだろう。もし、彼を地獄に行かせたいと思ったにせよ、やはり彼を抵当に入れるだろう。抵当賃業が今流行っているのは、その他の業種とは比較できないほどの機動性と迅速さという強みを持っているからだ。だが、潜在的なリスクは非常に大きい」

さらに郭会長は「銀行に比べ、抵当賃業の規模はかなり小さい。預金を吸収して資金が獲得できなければ、大半の業者は商業銀行から融資を受けるのが難しくなる。経営はすべて資本金をベースにして成り立っており、業者にしてみれば、回収できない資金が企業の命取りになることもある。さらに、多くの新規業者はノウハウを持っていないため、経営者はこの業界の随所で遭遇する可能性のある落とし穴に陥って、元手を失う恐れもある」と指摘する。

抵当賃業の経営と管理については既に、厳格な規定が設けられている。いかなる個人や事業体であれ、営業する場合は商務部への届出と一定の登記資金が必要となる。新しく制定された『抵当貸付管理法』は、資本金は最低300万元とし、不動産を抵当にする業務を扱う場合は、同500万元、知的財産権を抵当にする場合は、同1000万元と規定している。郭会長は「高額の登記資金を規定することである程度、業界の透明性と安定性は保証される」と強調する。

また郭会長は「抵当品の評価リスクが、業界が直面する最大の不安定要素である。評価にミスでもあれば、業者の生存にかかわるからだ。現代社会では模造技術が進んでいることから、業界は数多くの問題を抱えるようになった。リスクを軽減するため、北京の大手業者は鑑定士に対する要求を高めると同時に、先進的な鑑定機器を導入している」と指摘する。

現在、鑑定を巡る状況は楽観視できるものではない。業者の多くは家族経営であり、試験に合格した専業の鑑定士はまだまだ不足している。抵当賃業の復活が遅かったため、人材が養成されていない。また鑑定士に対する要求が高いため、多面的な知識を備えた信頼できる人材は非常に少ない。こうしたことから、業者の間では、鑑定の難しい書画や玉器などは取り扱わず、金銀の装身具や不動産、車だけに絞るところが多くなってきた。

業者がリスクを防止するために、郭会長は(1)『抵当貸付管理法』や関係する法律や法規に厳格に基づいて経営する(2)業界の整備を強化し、就業者の総合的資質、とくに様々な抵当物件の真贋を判断するとともに、価値を評価する能力を向上させる――との2点を提言している。

◆関係資料

1500年前に、寺院や廟などの倉庫で物品の抵当・請け出しが行われたのが、抵当貸付の始まり。

寺院での抵当貸付が興隆し、普及するにつれて、抵当貸付は次第に社会へと広まっていく。唐代(618〜907年)には民営と官営の業者が出現。物品を抵当にした貸付の専門業種が徐々に形成されていった。

当時、民営業者は小額で短期の抵当貸付が主体。貸付金を著しく低く抑え、期間を極めて短くしているのが特徴で、窮地に陥った貧困者が主要な対象だった。その一方、官営業者は封建時代の高級階層の特権を背景に、巨額の富を築き、土地の売買も独占していた。

1949年に中華人民共和国が建国。これにより封建社会は完全に終結した。1956年初め、民間抵当貸付業は完全な公私共同経営体として運営されることになる。一部都市では、中国人民銀行の支店が管轄する、小額抵当貸付を専門に取り扱う独立した経営体、小額抵当貸付所に生まれ変わった。こうして、抵当賃業は次第に姿を消していく。

1987年12月、四川省成都市に新中国初の抵当賃業者、成都市華茂典当服務商行が設立。抵当賃業は復活を果たすと、すぐに全国に広まっていった。封建社会の時代には窮地に陥った貧困者が対象にしていた抵当賃業者に今、出入りするのは、多くが衣食足りた人たちであり、一部の理財に長けたナウな人たちが主要な顧客だ。