2005 No.52
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“彼女たち”の世界

――ゲイ、男性の同性愛者に比べ、“彼女たち”はより隠して表に出さそうとせず、しかも常に社会に無視されている。

唐元カイ

技術助手の26歳になる女性、Aさんは工場の今年の「10大優秀従業員」の候補者となったが、1通の匿名の手紙で、その資格を失うところだった。手紙は「彼女は実習生の女性修士生といかがわしい関係にある」と“暴露”するものだ。

関係部署はAさんから事情を聴き、“情事の噂”は彼女本人が自ら「恋愛関係にある」と語ったことから立証された。そこで特別会議が開かれ、評価委員会では異常とも言える激しいやり取りが交わされた。最終的に、次のような見方が主流を占めた。「愛とは人間の最も基本的な権利であり、同性愛という性傾向の問題には、ある人間が左利きであるのと同様、間違いや正しいといったことはなく、一種の心理的、生理的な嗜好にすぎず、当然、優秀な従業員に背く評価基準ではない」。

さらにAさんの直接の上司は、1991年の古いニュースを取り上げた。安徽省無為県の公安局は1通の署名入りの手紙を受け取った。手紙を出した父親は、ある女性を自分の娘と同性愛の関係にあると告発し、「醜い行為を厳罰に処す」よう求めた。この手紙はすぐさま大きな論議を呼び、国家公安部までも驚嘆させることになった。公安部がその後に出した回答は「何が同性愛か、また同性愛の責任問題に関し、現在のところわが国の法律に明確な規定がない状況の下においては、原則上、この案件を受理することはできず、猥褻行為をもって治安上の処罰を科すのも不適当であり、具体的にいかに処理するについては、検察院や法院など関係機関と検討して解決する」というものだ。この回答は中国の同性愛問題に関する初の司法解釈と見なされ、その後、警察はこれに沿ってこの種の問題を処理するようになった。「わが国では同性愛はこの十数年の間に次第に理解、尊重されるようになってきている。Aさんの問題を対処するにあたっては、我々は時代に沿うべきだ」と、Aさんの上司は強調する。

評価委員会は再び投票による裁決を実施。結果は賛成と反対が同数だったため再投票したところ、1人が賛成に転じた。意外にも「男性の同性愛だったら、また別の問題だ」というのがその理由だった。

ゲイがエイズ感染の高危険度群になりつつある中、同性愛者が水面上に浮上してきた。だが、そのなかでもレズ、女性の同性愛者について、専門家は「彼女たちが、エイズの危険度の極めて低い人たちであるのは確かであり、エイズに感染する可能性は普通の女性よりも低い。それでいながら、社会に無視されている」と指摘する。表面的に見れば、レズの多くはその他の女性とはかなり異なる。一部のゲイが女性っぽいと嘲笑されるのに反して、彼女たちの颯爽ぶりと気風、あるいはその女性らしさは広く認められている。それがゆえに、彼女たちはより“隠蔽”しようとするのだ。ある研究機関が中国には現在、レズが1000万人いるという推定統計を発表した際に多くの人が驚いたのは、恐らくこれが原因かも知れない。

この膨大な数字の背後にあるのは、偏見と理解、好奇心と尊重、排斥と冷淡さのなかに置かれたレズたちの、“普通の人”には理解できない内心と行動の狭間でのもがきなのだろう……。

仲が“良い”

レズに真に近づかなければ、彼女たちの間に特有の幸福を見いだし、それを体験するのはさらに難しいだろう。「一緒にいるだけで、互いの眼差しに格別の幸せを感じるの」。こう話すAさんの目に涙が光った。

Aさんは「わたしの恋人のBさんは体つきがとても綺麗なの。わたしが好きではないのでは、と彼女は心配したりもしていますが、ただ彼女の体が好きなのです。でも実際、わたしたちの関係は肉体に引かれたからではなくて、お互いに通じ合う気持ちがあるからなのです。あるいは、初めに精神的な和やかさがあって、そしてその他がある、とでも言えるかも知れません」と話す。

Aさんは子どもの頃、男児の玩具で遊ぶのが一番好きだった。彼女は今でもはっきりと覚えている。幼いときに女児に見られるのが一番辛く感じ、次第に女性の度量の狭さをますます軽蔑するようになっていった。女の人、意識して自らを「女性化」する女の人に同情を寄せるようにもなり、それが彼女にコンプレックスを感じさせた。社会は女性化を求めているが、その点で彼女は低く評価されたがために、温順ひいては思わせぶりといった、いわゆる“本能”が注ぎ込まれてしまった。あたかも男性の自尊心が注ぎ込まれたかのように。

Aさんは常に何をするにしても最高を、と自分に言い聞かせてきた。恋愛もそうだ。大学時代、彼女は学校で誰もが最優秀と認める男性と友人になった。だが、ナンセンス、リラックスできない、心に壁があるように感じる、と常に思っていたという。「初めてのキスは彼とでしたけど、幸せなんていう感じはなかったし、頬も火照ることは……。その後、卒業間際になって、彼から結婚を申し込まれたのですけど、言われてすぐ逃げてしまいました」。工場に配属された後、以前に彼女に影で好意を寄せていた下級生の女性に電撃的に引かれ、ひそかに恋愛するようになった。「わたしはすぐに、自分が女性の体に生理的に反応することが分かったのです。でも、そうだったからこそ、同性愛、というこの言葉の意義を考えることもしなかったのです。時間がすぎて、はっきりしました。わたしは異性との結婚を選択することはないと」

BさんはAさんの2番目の女性の友人だ。Bさんは「初めて彼女を見たとき、心がわけもなく震えてしまって。何度も会いたいと思ってもできなかったのですが、彼女のわたしを見る目が違うことにも気づいたのです。わたしはうっとりとしてしまいました」。こう話すBさんは幸せそのものだった。「わたしの方から彼女に近づいていきました。いろいろな話をしたりして。ほかの人はわたしを勉強家だと言うけれど、彼女の博学は本当に尊敬しているし、自然、わたしたちは一緒になったのです。口げんかをすることはあっても、わたしたちは本当に幸せ!」

Aさんと違って、Bさんは女性としか恋愛をしたことがない。高校時代、素敵な女性を好きになる自分の“男性嗜好”に戸惑い、自責の念に駆られたことも。Bさんは「レズも人を愛すると、同じ様にその体に近づきたいと思ったり、甘い衝撃に駆られたり、幸せを感じたいと思っているのです」と率直だ。「わたしたち2人の相思相愛はやはり、お互いの気持ちからなのです。けれど、性行為は恋人の関係を維持する手段でもあるのです。女性の同性愛であっても、表面的であれ、お互いの気持ちを映しています。異性愛と同じ様に無視はできません。愛を持続させる、その名に恥じることのないものなのです」。彼女が見るところ、女性の間では、感覚や情緒といったさまざまな微妙なところで自分を表現することができ、感情面から容易に自らの気持ちを相手に託することができるようだ。“自我”を捨てることで、女性の皮膚はより滑らかとなり、より繊細となることで、感覚的により自らに近づいていくのかも知れない。「女性の相思相愛は、彼女たちの自主性をその肉体と協調させたいという試みであって、女性の間の愛情、という関係によって、わたしたちは男尊女卑の社会秩序がもたらす束縛からより容易に抜け出すことができるのです」。だが、Aさんの恋は決して女権主義の立場に立っているものではない。「ただ愛情から」。彼女の説明はずっと明確だ。「わたしはBさんがレズだから愛したのではなくて、1個の人間として愛しただけ。それがたまたま、彼女が同じ性にすぎなかっただけのことなのです。わたしたちは女性として、互いに愛することを受け入れたのです」

Bさんの女性の友人、Cさんはこう話す。「多くの人は同性愛者の真の気持ちを理解できず、まったく冷淡に見ているか、勝手きままだとも思われています」。彼女もレズだ。「そう、意気地のないのは確かだけれど、心変わりはょっちゅうのことです」。彼女は話題を変えた。「一部のレズはもてあそんだり、ゲームのように遊んだり、確かに軽率なところがあります。同性愛を流行している“コート”のように見ている人もいて、それを着るのは、自分をクールに見せたいからだけなのです」

“世界”のなかで

上海から来たCさんはネットを通じて北京のレズの人たちと接触するようになった。彼女たちが属する“社交界”、それに彼女たちが生活する世界――バーとネットが、交流し“同志”を探す最良の場所だ。「早くから、父や母、友人、同僚の前では“仮面”をかぶらざるを得なかったけれど、わたしは自我を捨てたくはなかったのです。本当のわたしはこうではない。自分が“暴露”されてどうなるのかも、心配はしていませんでした。ただ分からなかったのです。レズとしてどの様にしたら、彼女たちと交流し、気持ちを通わせることができるのかが」とCさん。彼女は北京の“世界”で勇気と自信が見つかったと感じている。「わたしが知り合ったレズはみな、同じような人と交流するチャンスを得たいと思っているのです」。

中国では、レズの自我意識や参与意識など、その実態はまだ明確には把握されていない。社会団体による関心や経済的援助もゲイにはるかに及ばないものの、レズを支援する団体は増えつつある。Cさんは「閨vと名のレズ活動家を尊敬しているという。彼女は米国留学から帰国後、ボランティアの公益グループとサイトを立ち上げた。名称は「同語」(共通の言葉)だ。対内的には「レズ文化」の整備を促して、真実で健全なイメージを確立する、対外的には彼女たちの社会的立場を改善して、平等の権利と利益を獲得するのが目的だ。異なる人たちの間で共通の言葉を探すことを強調し、気持ちを通わせることができる交流の場を確立しようとしている。現在、サロンや講座を頻繁に開催したり、スポーツ大会や郊外へのピクニックを組織したりしている。土曜と日曜の午後に開くホットラインには毎月、30件以上の相談が来るという。グループの婦人科の医師や学者は健康調査を実施し、医学面から支援するとともに、外国のレズに関する関連資料を収集して翻訳し、メディア関係者が専門別に編集して情報を公開。一部のNGO(非政府組織)も経済的に援助しているほか、無償で活動場所を提供している。張北川氏など著名な同性愛研究者も毎年、グループの一部経費を負担している。

最後にCさんはこう語った。「わたしたちは先天的に少数派であって、そのために“隠蔽”された生活に、煩わしを感じたり、苦悶したりしている。生活にも影響して、仕事にもマイナスになっているけれど、太陽の光の下で恋愛をしたい、普通の人と同じように生活したいって、誰が思わないでしょう?! レズの人たちは心のなかで、多くの人に普通の目で見てもらいたい、社会が、同性愛は他人の利益を損なうことのない正常な情感であると認めてくれるよう、異性との恋と同じように社会的に平等な地位と、実効性のある法的保障を与えてくれるよう心から願っているのです」