2006 No.01
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「姚経済」がもたらした新たな意識

安 子

05年11月、米プロバスケットボール協会(NBA)の今季シーズンが開幕した。「巨人」の姚明(ヤオミン)選手の参戦で、中国人であればバスケファンならずとも、多かれ少なかれスポーツ番組が毎日伝えるNBAの試合結果が気掛かりで、所属するヒューストンロケッツのふがいなさに思わず滅入っているのでは。

とはいえ、ビジネスマンたちの姚選手への関心は高まる一方。ここ数年、広告などで次々とマスコミに登場、「姚経済」という新語すら生まれたほどだ。

姚明選手の価値

2002年、上海出身の身長226センチ(現在は229センチ)の姚選手は、ヒューストンロケッツと4年間計1780万ドルで契約を結んだ。

今年8月31日、1年前倒しで5年間計7600万ドルで契約を継続。中国だけでなくアジア、NBAでも最高額プレイヤーとなった。年俸に広告収入も加えた推定総収入は1億9400万ドル。

姚選手がもたらす経済効果「姚経済」を研究している復旦大学国際金融学部の程実氏は「どうしてこんなに高い価値があるのか。まだ経済学者が明らかにしないうちに、ビジネスマンたちに仔細に算出されたのは、ビジネスマンの方がその価値が分かっているということだろう」と言う。

姚選手の価値は、ビジネスマンについて言えば、富を創造するその能力にある。彼が1億9400万ドルに値するのは、この数字をはるかに超える富をチームのオーナーやスポンサーにもたらすことができるからだ。

 ロケッツのオーナーにとって、価値があるのは彼のテクニックとコート外での人気だ。NBAでは得難いセンターであり、チームを勝利に導いて後期リーグ戦に挑むことができる。うまくいけば、チャンピオントロフィーを手にし、チームにより多くの収入をもたらし、より多くの商業的価値を創造することもできる。

スポンサーにとっては、スタートとしてのアピール力や彼が背負う中国という“名刺”が価値だ。健康で常に前向き、パワーとユーモアのセンス、英知に富むスタープレイヤーとして、製品の販路を広げて利益を増やせるため、巨額の広告契約を結べるのは当然だ。とりわけ中国市場を狙う企業にとって、彼の潜在的価値は計り知れない。

姚選手をめぐる出来事のすべては中国人にとって、まさに伝奇的だ。自伝『私の世界、私の夢』でこう記している。「中国から米国に来たのは、私にとって大きな転機となった。私が取り組んでいることを試みた人は少ないだろう。つまり、同時に米国と中国の一部になることだ」

姚明選手の魅力

『タイムズ』誌に「アジアの英雄」と称された姚選手は、バスケットボールの天分に恵まれ、驚くべき成績を上げた。しかも、公益事業にも熱心で、富の蓄積にも取り組んでいる。中国で最も羨望されている人物の一人だ。

だが、姚選手は言う。「すでに成功したように見えるが、さらに努力して、より高い目標を追求しなければと考えている」

今年9月4日、姚選手は北京の中国人民大学で採血を行い、中華骨髄バンクに造血幹細胞のドナーとして登録。組織適合性が一致する患者がいれば、造血幹細胞を提供するつもりだ。バスケ男子ナショナルチームや、男子大学生バスケ・スーパーリーグ戦に参加した中国人民大学と清華大学の選手たちも共に登録。中国人民大学の王新青教授は「姚選手や大学生がドナーになったことに、敬意と喜びの気持ちを表したい。彼らはコートの素晴らしいプレイヤーであり、骨髄バンク事業でも素晴らしい“プレイヤー”だ」と強調する。

姚選手の商業的価値で最高の魅力は、彼を通して13億の消費者を擁する中国市場にたやすく進出できることにある。多国籍企業は異文化圏に入るには“踏み板”が必要。その点、彼は最も理想的な踏み板だ。彼を“前衛”に配置すれば、文化的摩擦は起きることはないだろう。

姚明選手の吸引力

商標:NBAでプレーするようになって、その家族は国家工商総局に12類、24件で「姚明」を商標として登録した。

ブランドの代弁者:姚選手のブランド代理会社「姚チーム」は、彼がロケッツに入団した当初から広告契約を結ぶブランドを選択してきた。オールスター戦期間中、ペプシコーラ傘下のガトラド(Gatorade)社と3年間計500万ドルで広告契約に調印。「姚明のように!」が広告のキー・ワードだ。彼がNBAで成功したことで、「姚明のように」が数多くの青少年の夢をかき立てた。

NBA進出後、それぞれアップル・コンピューターやVISAカード、中国聯通、ペプシコーラ、mig携帯電話短信、sorrent携帯ゲーム、マクドナルド、ホイヤー腕時計などと相次いで広告契約を結んだ。総収入は2000万ドル、税引き後の手取りは1200万ドル以上。この間、米国の燕京ビール独占販売代理店は2003年、ヒューストンロケッツと6年間、協賛金額600万ドルの契約を締結。燕京ビールはこれで米国で中国最大のスポーツ協賛企業となった。

控え目に推定しても、姚選手の向こう5年間の広告協賛による収入は少なくとも8000万ドルを突破しそうだ。

生中継:姚選手が進出する以前、NBAの試合が中国で中継されることは少なかった。彼より先に王治?(オーチシツ)選手と巴特爾(バトル)選手がいた時ですら、NBAがこれほど注目されることはなかった。しかし、姚選手のロケッツ入団で、オールスター戦の視聴率は北京で4.8%と、同じ放送時間帯の0.4%をはるかに上回ったことが、中央テレビ局傘下のメディア研究公司の調査で明らかになった。

NBAの05―06シーズンで、中央テレビ局のスポーツチャンネルはバスケファンのため、週に4日、試合を中継する。同局のチャンネルはファンたちに、姚選手が所属するヒューストンロケッツのホームコートにちなんで「トヨタセンター・テレビ局」と呼ばれている。バスケットボール解説員の於嘉(ヨカ)氏は「ロケッツの試合をスムーズに中継できるかどうかが、視聴率に直接影響する」と指摘する。

また中央テレビ局はNBA中国語オフィシャルサイトやSohuサイトなどと共同で「あなたの選択、あなたの試合」キャンペーンを展開し、登録したフャンたちの投票で中継する試合を決定することにした。スパーズ対キャバリアーズ戦はもともと中継予定はなかったが、希望者が登録者の59.6%、3万1880人に達したため中継されることになった。また、フャンには素敵なプレゼントが贈られる。NBAも抽選で20人にリュックサックやTシャツ、ノットブックなどを贈っているが、こうしたNBA的なやり方はバスケフャンたちの情熱をかき立てるには効果てきめんだ。

昨年、国内のスポーツ中継は1秒当たり6万元の経済効果を記録。一方、NBAの中継では6秒当たり230万ドルが可能だ。中央テレビ局スポーツセンターの馬国力主任は「今後10年間に国内スポーツでもこの目標を達成したい。だが、テレビ中継はまだ産業としてはなく、社会的サービスとして行われているため、10年では大きな利益は上げられないだろう」と見る。

ネットワーク:今、Googleの検索項目に「姚明」を入力すると、わずか0.17秒で196万件余りの情報が現れる。姚選手はネット上でもスターだ。

2003年5月8日、Sohuサイトは姚明中国語オフィシャルサイトを立ち上げ、姚選手関連グッズを販売する「オンライン商城」の運営を開始。直筆サイン入りユニホームの競売価格は最低1000元から、サイン付きボールは1万5000元で落札された。これもスターの魅力のなせる技だ。ネットワーク経済の新たな波は姚選手によって起きつつある、と言う人もいるほどだ。

著名なスポーツ選手の商業的価値について、Sohuの首席運営者の古永チャン(金偏に将)氏は「人気」という言葉で概括する。調査で明らかなように、NBAは若年層男性に人気が高い。25〜44歳ではフャンは72%を占め、うち週に少なくとも中継を1回観戦すると答えた人は52%。15〜24歳ではフャンは63%、同42%を占める。この爆発的とも言える人気が各サイト顧客争奪戦の一因だ。姚選手はネットを通してバーチャル経済で巨大な価値を創出している。その一方で、インターネットは彼の人気に乗って自社のブランド化と商業化を実現しようとしていると言えるだろう。

いかに「姚経済」を見るか

袁暁明氏(エッセンチュー社情報管理・コンサルティング高級顧問):私の目で見れば、姚選手は確かに中国のシンボルであり、世界クラスのセンターでもある。

過去数年で、NBAのグローバル化戦略は成功を収めた。姚選手をプレイヤーとして招き、さらに彼に中国市場に“ボールを打ち返させる”ことが、NBAが進めてきた核心的戦術の一つだ。ジョーダン時代、彼が好きだったのでNBAのフャンになった。現在、NBAの試合を観るのは姚選手がいるからだ。でも、テクニックがあるからではなく、彼が中国人だからだ。NBAが姚選手と契約を結んだことは、中国の数億の観衆と契約を結んだことに等しい。姚明ブランドの確立は、NBAのチャンピオントロフィーや五輪の金メダルより重要かもしれない。二つとも得られるかどうかは疑問だが、ビジネス面では計り知れない潜在力があると確信している。

諸雄潮氏(中央人民放送局高級記者):姚選手が出国してまもなく、彼を中国が輸出した最も価値ある「単一貨物」と呼ぶ専門家もいた。最近再び億万長者となったが、その使い道を聞かれて、「よく考えてはいない。まだ手に入れていないからだ。でも、公益事業に関心があるので、香港でのエイズ患者の支援にでも使おうかなと思っている。また、ハリケーンに見舞われたニューオリンズ州の人々を助けたい」とも話している。

現在、男子バスケのナショナルチームは「姚チーム」と呼ばれている。姚選手がいなければ、優勝決定戦ですら、NBAの視聴率は急低下してしまうだろう。イランチームのヘッド・コーチが「姚選手がいれば、アジアのチャンピオンになれる」と語るのもうなずける。

董濱氏(北京の私営企業家):「姚明現象」はスポーツの商業化という課題を提起した。姚選手のいる試合を観ようとすれば、彼を取り囲む商業的雰囲気も同時に受け入れなければならない。彼は私たちにスポーツの商業化を受け入れさせた典型的な代表だ。当初、彼の収入は誰の所有になるのか、バスケットボール協会にいくら納めるのか、クラブにどれほど分配するのかが議論されたが、今では、すべては契約に沿って行われるのだということが分かるようになった。市場経済では、こうした関係は簡単かつ明確なものだ。

NBA試合が中継されるようになって、中国バスケットボールのリーグ制の改革も進んだ。バスケに限らず、今ではサッカーやバレーボール、卓球の試合にも財団が関与している。そう、スポーツと経済が融合したことで、より実力のあるスポーツチームの、より素晴らしい試合を観ることができるようになった。