2006 No.01
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民主化の実現に向けた障害と突破口

――世界・中国研究所の李凡所長に聞く

馮建華

末端部の民主化はここ数年、農村部から都市部へと広がっており、北京を含む多くの都市では、民主を実現させる方式を模索している。民主化の原動力はどこにあるのか、どんな障害にぶつかるのか、突破口はどこにあるのか……。『北京週報』記者はこうした問題について民間シンク・タンクの世界・中国研究所の李凡所長にインタビューした。

記者:都市部の末端部での民主化の現状をどう評価するか

李所長:都市部の末端部での民主化は始まったばかりであり、いくつか問題がある。主に、コミュニティーの住民委員会と政府との関係が完全には是正されていないことだ。民政部がコミュニティーの民主化を推進するために設定した目標の一つは、住民委員会と政府の分離、住民委員会の自治を真に実現させるというものだ。しかし、この目標は実現されておらず、一部地方政府は意識的または無意識に住民委員会の自治行為に干与しているのが現状だ。

とはいえ、民主が芽生えて成長するにつれて、新しい気風が生まれたことも認めなければならない。例えば、住民の民主に対する意識は大きく向上し、管理されることに慣れていた以前とは異なり、コミュニティーの民主的管理に自発的、積極的に参加するようになったことだ。また、住民と政府との間に矛盾が起きた場合には、話し合いを通して解決するようになった。こうした民主的な雰囲気が、コミュニティーの発展を促進しているのはもちろんだ。

民主を発展させる上での突出した問題は、不動産所有者委員会(以下「所有者委」と略称)と不動産・共有施設管理委員会(以下「管理委」と略称)との矛盾が日増しに先鋭化してきたことだ。現体制の下で、コミュニティーの最初の管理委は不動産開発業者によって指定されることが多く、不動産開発業者の背後には政府の利益が隠されている。そのため、不動産所有者と管理委との間に管理方法や費用徴収などを巡って食い違いが生じると、不動産所有者の権利を保護する組織である所有者委は管理委と激しい争いを行い、自ら管理委を選択することを要求するようになる。むろん、この要求が通るのは非常に難しい。そのため双方の矛盾は一段と激化し、ひいては流血事件と化す可能性もある。

所有者委と管理委との利益争いはここ数年、深刻な社会的問題として注目されるようになった。ある意味では、不動産所有者の所有権意識の覚醒とも言えるいい現象だ。いかに制度面から双方の利益を均衡させるかが、解決すべき問題となっている。

記者:ここ2、3年、一部都市は住民委員会の直接選挙を実現して以降、さらなる民主化に乗り出している。北京や上海などの都市で実施された「議行分設」(住民問題の話し合いと行政の分離)制度がそれだ。住民委員会を繁雑な行政事務から解放することで、より多くの精力と時間を民主・自治の推進に当たらせることが目的だそうだ。この制度をどう見るか。

李所長:現在の実施効果を見れば、この制度にはよい面もあれば、よくない面もあるとしか言えない。

よい面とは、大学教授や小学校の校長など、社会的責任感があり、進んだ理念や民主的な意識を持つ資質の高い人が住民委員会に入る上でプラスとなることだ。これまで住民委員会のメンバーは教養のそれほど高くない定年退職者が主体だった。

よくない面とは、一部都市では、住民委員会は「町内会」の役割をほとんど果たせず、名ばかりのものとなった町内会もあるほどだ。例えば、東部の浙江省寧波市海曙区でこの制度を実施した当初、「町内会」の選挙は非常に激しかったが、3年後の交代選挙が間近になった今、選挙に意欲のある人はほとんどいなくなった。「町内会」の役割が果たせなかったことが原因だ。従って今後、「町内会」により積極的に役割を果たさせるように、制度を改めることを考えるべきではないか。

実は、深?市がすでに「第3の道」を模索している。今年3月から一部コミュニティーに政府の出先機関を設置し、政府の任命を受けた幹部がコミュニティーの行政事務を取り扱うようになった。政府と「一線を画した」住民委員会は住民にかかわる内部的な問題しか担当しない。この改革が実行されて日がまだ浅いため、はっきりした効果は見られておらず、さらに言及するのは控えたい。

記者:この制度は民主の発展に実質的な意義はあるのか。

李所長:実質的な意義は非常に大きいと言うべきだろう。民主化は政府と民衆の間のことである。この制度を実施している地域、特に私営経済が発達した地域では、「小さな政府に、大きな社会」(政府の職能が縮小されて、社会の自治機能が拡大した社会)の意識を形成する上でプラスとなるからだ。

都市部の住民は長年間にわたり「国有単位」(政府機関・事業体・非営利機構など)に所属する「単位の人」であり、単位から政治や経済、生活などに関するすべての「資源」を供給され、コミュニティーでの生活は単位の人にとってただ生活上の副次的な一部にすぎなかったため、コミュニティーの事務に関心を持ったり、参加したりすることはなかった。しかし、市場経済の発展によって、多くの国有企業が破綻する一方で、非国有企業が多く生まれたことから、数多くの単位の人は「社会の人」へと変わっていった。社会の人はますますコミュニティーの事務に関心を寄せ、自らを「コミュニティーの人」と見なすようになってきた。議行分設制度はとりもなおさず、社会の人が集中するコミュニティーで推し進められてきたのだ。

民主は一種の生活様式だ。民衆は政府を監督し、コミュニティーの管理に参加することを生活様式にし、問題があったら、話し合いを通して解決すべきだ。政府も矛盾や争いにぶつかった場合には、民衆と話し合いを通して決定し、徐々に話し合いや多数決を制度化させているべきだ。こうすれば、民主は生まれてくるだろう。

記者:農村に比べ、都市部の末端部での民主化は遅れている。障害があるのではないのか。

李所長:民衆はすでに民主化を推し進める主要な原動力となっている。民衆が政府を監督し、腐敗に反対し、法秩序を整備するなどは、民主の発展方向に合致するものだ。

また、政府の推進も民主化を実現させる重要な要素であり、現行の体制に必要なものでもある。それがなければ、民主化の実現は不可能だ。だが、末端部で民主化が進められたからには、徐々に政府の役割は弱めるべきだ。さもなければ、民主化プロセスは遅延することになる。

政府は役柄の転換に努めるなど、民主の推進に取り組んでいる。まさに議行分設はその試みだ。それにもかかわらず、一部地方では、さまざまな原因で住民委員会の民主・自治の実現に対する政府の圧力が依然として強い。これは認めざるを得ない。

『住民委員会組織法』に、住民委員会と政府の権限を定め、政府が住民委員会の自治に干渉してはならないと規定するよう提言した人がいる。この法律の改正案は今年になってようやく関係機関に審議のため提出されたが、隔たりが大きいため、来年に採択される可能性は小さいと思っている。

法律の欠如は民主化が直面する重要な問題だ。民主化には法的支えが必要であり、それがなければ民主化は進んではいかない。

記者:社会や経済の分野が大きく変わっている中、民主化はいくら障害にぶつかっても、阻むことはできない。では、民主化を実現させる突破口はどこにあるのか。  

李所長:住民委員会の影響力は結局のところ限られたものだ。民主化に向けた改革が困難な状況に追い込まれた時、そこから抜け出させる別の民主的プロセスが必要である。区の人民代表大会(市政府に次ぐ政治機構)代表の選挙だ。コミュニティーからより多くの代表を出すべきであり、すべてのコミュニティーに住民の声を反映できる代表がいるのがもっとも理想的だ。これができれば、民主化を実現させる上での突破口となる。住民委員会に比べ、人民代表は政府の政策決定に直接影響を与えることができるからだ。言い換えれば、現在の状況では、住民委員会に民主化の推進を期待するのは無理だろう。

現在の区人民代表大会代表の多くは各単位の責任者であり、家はコミュニティーにあっても民意を理解する時間や精力はほとんどない。こうした状況が短期間に変わりにくい中、一部都市はほかの方法を模索し始めた。遼寧省瀋陽市瀋河区では、すべてのコミュニティーは「二代表」と呼ばれる代表を選出した。二代表は選挙権以外に、人民代表大会を傍聴する権限や政府機関に質疑する権限、政府の文書を閲覧する権限など正式の人民代表が有するすべての権限が持てる。この制度は、現有のコミュニティーの民主制度を踏まえて生まれたより先進的なものであり、区人民代表大会代表の選挙制度を改革するまでの移行的な産物であり、つなぎとなるものとも言えるだろう。

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李凡氏の略歴

1949年生まれ。1978年に北京師範大学歴史学部大学院に合格。卒業後、中国社会科学院政治学所に勤務する。

1984年に米オハイオ州立大学修士課程で政治学を専攻。1989年に帰国。1994年に民間研究機関の世界・中国研究所を創設し、国際関係や中国政治の発展を研究し始める。

1998年、四川省歩雲郷で中国初となる郷長の直接選挙を指導。歩雲郷は翌年の米タイムズ誌に、中国建国50年で最も影響力のある50カ所の一つに選ばれた。その後、李凡氏はNGOの身分で政治体制改革を推し進めている。