真の中国経済
--全国初の経済センサス(動態調査)の結果が発表され、より真の、実感できる中国経済の実態が明らかになった。
蘭辛珍
国家統計局の李徳水局長は昨年12月20日、国務院新聞弁公室が行った記者会見で、全国初の経済センサスの結果を公表。李局長は「2004年のGDP(国内総生産)総額は15兆9878億元に達し、速報値の13兆6515億元より2兆3000億元増え、16.8%上方修正した。これにより、中国はGDP順位で世界7位から6位に上昇するが、1人当たりGDPが100位以下であるため、総額では上位に位置するが、依然として発展途上国にある」と説明した。
中国のGDP統計については、これまで過大評価されていると海外から指摘されていたが、逆に過小評価していた結果となった。国家統計局は今回の統計値に基づいて過去10年間のGDPについても修正を行うことにしており、修正後はやや増加するものと見られる。
2兆3000億元の差が生じたのは
李局長は「経済センサスによってGDPが2兆3000億元増えたと言う人もいるが、これは正確ではない。経済センサスでGDPを創り出すことはできないからだ。15兆9878億元という総額は客観的に存在していたものであり、統計漏れが原因で13兆6515億元になったにすぎない。経済センサスは速報値に対する修正だ」と指摘。
さらに李局長は「2004年の速報値と比べると、2兆3000億元の増加分のうち、第3次産業が2兆1300億元となり、93%を占めた。この2兆3000億元は小額ではない。2004年の第1次産業の総額が2兆744億元だったからだ。この2兆3000億元の差が出たのは主に、第3次産業に関する統計に遺漏があったのが原因だ」と強調した上で、具体的な要因として以下の5点を挙げた。
(1)1980年代まで、国民経済計算システムでは長期にわたり計画経済体制下での「物質平衡表体系」(MPS:Material Product System)が採用されていたため、サービス業の統計は非常に不確かなものだった。1990年代以降、国際的な計算標準(新SNA)の段階的な導入によって、サービス業統計はある程度強化されてきたが、基礎統計作業は依然として不完全だった。
(2)第3次産業分野では企業数が多く、また範囲も広く、市況は複雑であり、財務制度も不健全であるなど、統計方法が相対的に立ち遅れていた。
(3)改革の深化に伴って、経済要素は日増しに多元化し、特に私営や個人経営によるサービス業が急速に発展してきたが、分散的で変化が激しいため、組織的な統計や調査が一層難しくなっているため、統計漏れが生じた。
(4)新興のサービス業が数多く登場し、急速に発展しているが、データが不備であるため、従来の統計方式では正確に計算するのが難しい。そのため、数値が低すぎる結果となった。
(5)工業や建築業関連企業が設立したサービス業については、第2次産業に混在されてしまった企業も一部あるが、多くは統計から漏れていた。
李局長は「今後、経済統計は国家統計局が各省(自治区・直轄市)の原統計資料を算定し、県クラスの原統計資料については各省が算定するようにする。また統計漏れを防止するため、第3次産業の統計制度の完備、主に新興産業や過去設立されたことのない業種に対応した統計制度の確立に取り組んでいく」との考えを示した。
国有経済を超す非国有経済の発展
経済センサス値よると、2004年末現在、第2・3次産業の法人企業数は合計325万社に上り、うち国有企業はわずか6%。集団企業や私営企業、外資系企業が94%を占める。(表1を参照)
表1:形態別法人企業数
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法人数(万社) |
比率(%) |
合計 |
325.0 |
100.0 |
国有企業 |
17.9 |
5.5 |
集団企業 |
34.3 |
10.5 |
株式提携企業 |
10.7 |
3.3 |
国有共同経営企業 |
0.3 |
0.1 |
集団共同経営企業 |
0.6 |
0.2 |
国有・集団共同経営企業 |
0.3 |
0.1 |
その他の共同経営企業 |
0.5 |
0.1 |
国有単独出資会社 |
1.0 |
0.3 |
その他の有限責任会社 |
34.5 |
10.6 |
株式会社 |
6.1 |
1.9 |
私営企業 |
198.2 |
61.0 |
その他の国内資本企業 |
5.4 |
1.7 |
香港・澳門・台湾企業 |
7.4 |
2.3 |
外資系企業 |
7.8 |
2.4 |
今回の経済センサス値を001年の第2回全国事業体センサス値と比べると、法人企業は22万3000社増え、7.4%上昇した。そのうち、国有企業と国有共同経営企業、国有単独出資会社は計19万2000社で、17万7000社、48.2%減少した。集団企業と集団共同経営企業、株式提携企業は計45万6000社で、40万2000社減少し、46.9%下降した。有限責任会社と株式有限会社は計40万6000社で、10万6000社増えて35.2%の増。私営企業は198万2000社で、65万8000社増えて49.7%増加。国内資本企業は2万5000社増えて6万2000社に達し、66.5%の増。香港・澳門・台湾企業と外資系企業は1万3000社増えて15万2000社に上り、9.6%の増となった。
非国有経済がこの5年間に急速に発展し、国有企業を追い越したことは資本投入からも窺える。経済センサス値によると、2004年末現在、全企業の実質資本総額は18兆2000億元に達した。うち国が87000億元で、全体の48.1%を占めた。集団は7.9%の1兆4000億元、個人は28.0%の5兆1000億元、香港・澳門・台湾は7.3%の1兆3000億元、外国企業は8.7%の1兆6000億元。ちなみに、2002年には国有資本が50%以上を占めていた。
経済構造はより健全に
GDP値の修正によって、第1・2・3次産業の構成比に変化が生じた。第1次産業は2004年速報値の15.2%より2.1ポイント減の13.1%。第2次産業は同52.9%から6.7ポイント減って46.2%まで降下したが、第3次産業は同31.9%から8.8ポイント増えて40.7%に上昇した。
李局長は「第3次産業の比率が大幅に上昇したことは、経済成長の構造が速報値が反映した状況よりもさらに合理的、健全になっていることを示している。つまり、中国の経済成長は完全に製造業がけん引したのでもなければ、よく言われるように輸出が推進したものでもない。サービス業の功績は無視できないということだ。また、サービス業と消費の関係は最も直接的であり、その意味で、経済成長を推進する3大基幹産業における消費の役割をわれわれは過小評価していた、ということも明らかになった」と説明した。
第3次産業の比率の上昇によって、最終消費のGDPへの貢献度が36.3%から37.8%に上がった一方、固定資本は同52.9%から48.1%、純輸出額は同9.1%から6.3%、固定資産投資額は同51.5%から44.1%に下がった。そのほか、一部マクロ指標にも変化が見られる。例えば、GDP1万元当たりの標準石炭消費量は1.58トンから1.39トン、電力弾力性係数は同1.53%から1.44%に下降。GDPに占める財政収入比率は19.3%から16.5%、財政支出比率は同20.8%から17.8%にそれぞれ下がった。
李局長は「構成比の変化は、経済構造は予想されていたほど非効率的、非合理的ではなく、より健全なものになりつつあることを示しており、政府のマクロ経済政策の制定にとってきわめて大きな意義をもつものだ」と強調した。
政策の方向性に与える影響は
国務院はすでに各地方政府に対し、今回の経済センサス値に基づいて、2005年国民経済の算定を行うと共に、国民経済と社会発展に関する第11次5カ年計画(2006〜2010年)と2006年計画を策定するよう求める通達を出した。そのため、政府のマクロ政策は変更される可能性がある、との懸念が出始めている。
李局長は「過去の統計数値がマクロ経済政策の決定に影響したことはなかったし、今回の経済センサスによって現在制定中のマクロ経済政策が変わることはありえない」と強調。
さらに李局長は「今回の経済センサスで明らかなように、経済活動に存在するさまざまな際立った問題、その本質的な変化は、数値の修正によって生じたわけではない。例えば、エネルギーの消費比率はやや下がったとはいえ、消費量は過度に多い、資源の利用効率が低いといった現状は改善されていない。また、その他の資源の消費量も過度に多い、投資対生産率が理想的でない、経済効果がまだ全面的に出ていない、経済成長方式に依然として整合性がない、といった問題もある。だが、これによって政府が制定中の経済政策を変えることはありえない」と指摘した。
この問題について、学者や政府高官の見方は様々だ。
清華大学経済管理学院の白重恩教授は「GDPが16.8%上方修正されたことは、今後の経済政策の決定にとって重要な意味を持っている。修正後、第3次産業の比率は40.7%となった。まだ先進国に後れを取っているとはいえ、第3次産業は急速な発展をとげており、各産業の構成比は予想より良かったことが裏付けられた。投資や貯蓄、輸出、エネルギー消費量などの対GDP比もそれ相応に変化したため、関連するマクロ政策も見直す必要がある」と強調。
財政部科学研究所の賈康所長は「GDP値の修正後、GDPに占める財政赤字の比率が2004年の2.5%前後から2005年に2%弱に下降したことは、公共部門の財政リスクの減少を意味するものでもある。GDPに占める公共部門の債務比率とマクロの税負担などの数値が一定程度、下方修正されたことから、マクロの財政予算も変わるだろう」と分析。
社会科学院経済研究所の袁鋼明研究員は「東部沿海地区の第3次産業は中西部より発達しており、しかも今回の増額分はかなりの部分が第3次産業によるものだ。これは、東部と中西部の収入の格差が一段と拡大する可能性のあることを示している。中央政府もマクロ政策を決定するに当たっては、中西部に一段と配慮せざるを得なくなるだろう」と指摘する。
現在、政府は専門家や学者による経済センサス値の分析を行っているところだ。これらの数値が経済政策にどれほどの影響を与えるのか、その結果が待たれる。
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