2006 No.05
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省エネ型建築物を普及

――エネルギーの逼迫に対応するため、政府は省エネ型建築物の全面的かつ強制的な普及に乗り出した。だが、現在のところ、こうした戦略的行動は政府の“独り相撲”の感があり、不動産開発業者や消費者に積極的な反応は見られず、支持も得られていない。

馮建華

唐有成さんは結婚後、ずっと楽観していたが突如、プレッシャーを感じるようになった。住宅価格がぐんぐん上昇しているからだ。そこで、妻と一緒に住宅を見て回った。この1年で40物件ほど見たが結局、価格が高かったため、今でも賃貸住宅から抜け出せないままだ。唐さんが先ず考慮したのは価格で、省エネについては考えたこともないという。

実際、彼のような人は少なくない。その大半は中所得者で、住宅の質に対して高すぎる要求は持っていない。

唐さんとは異なる、一部の人の多くは購入時に別の苦悩を抱えている。北京の外資系企業で働く未婚の王蕾さんもその一人。多くの経済力のある若い女性と同様、彼女も住宅を購入する計画。価格は多少高くても構わないが、省エネや環境に配慮した住宅であるのが条件だ。

だが、モデルルームを見て回っている間に、省エネは大多数の住宅にとって抽象的な概念に過ぎないことが分かった。ほとんどの業者は販売に当たり、価格や所在地を強調して宣伝しても、省エネの状況についてはいささかの説明もないのだ。

王さんは「一般の消費者は大多数が省エネの専門家ではない。詳細な計画や説明がなければ、購入しようとする住宅が果たして省エネ型の建築物かどうか判断できない」とため息をつく。

日々逼迫する貴重なエネルギーを節約するため、政府は省エネ型建築物の普及に力を入れており、この方向に沿って建築市場を重点的に発展させていく方針だ。だが、王さんの体験は、市場の将来に大きな疑問符を付けることになったようだ。では、省エネ型建築物が苦境にあるのは一体なぜなのか。どのようにすれば、有効に大々的に普及させることができるのか。

一刻の猶予も許されない

資源の逼迫は、中国が経済発展に向けて直面している最大の難題だ。だが、増加する建築群はむしろ貴重なエネルギーのかなりの部分を消耗し、しかもその比率が上昇しつつあることを考える人は極めて少ない。

全国のエネルギー総消費量に占める建築関連消費は、70年代末は10%だったが、この数年間に約28%まで上昇しており、近いうちに35%に達すると予想される。間接的消費を加えれば、その比率は既に46%を超えた。

より懸念されるのが、建築物が急速に増えていることだ。中国不動産協会の顧雲昌副会長によると、“世界最大の工事現場”と呼ばれる中国では毎年、住宅建築面積は16億〜20億平方メートルずつ増えており、先進国全体の建築面積総数を超えている。こうした新規建築物のうち、国が制定した省エネ規準に達しているのは僅か10〜15%。80%以上がエネルギー高消費の建築物であり、単位面積当たりのエネルギー消費は先進国の2〜3倍だ。

建設部が2005年2月に公表した統計では、全国にある400億平方メートルの建築物のうち、省エネ型(都市部)は3億2000万平方メートルと、その比率は10%にも満たない。専門家は「現在の状況で推移していけば、2020年にはエネルギー高消費建築物は700億平方メートルに達する」と試算した上で、「エネルギーの戦略・安定の角度から言えば、建築物のエネルギー消耗の削減は、単なる技術的な問題にとどまらず、政治的な問題になるだろう」と強調。

精華大学建築管理工程学部工程管理研究所のケ暁梅副所長は「中国の建築がエネルギー高消耗の産業となった主因の1つは、その多くが規模や斬新さ、洋風化を闇雲に求めているからだ」と指摘する。

苦しい現実

実際、政府も早くから省エネ型建築物の必要性を認識していた。1986年に初の地域別居住建築物の省エネ設計に関する基準を発表。これを機に、冬寒く夏暑い北方地区を対象に、省エネ型建築物を普及させることになった。先進国は1973年の石油危機後にスタートさせているが、それから僅か13後のことだ。だが、普及は主に建築主管機関に依存し、講じる措置も政策上の提言にかなり限定され、有効な経済・政策的な奨励手段はなく、さらに強制的な普及手段も講じなかったことから、現実的で理想的な成果はなかった。

建設部は2005年9月、全国17の省・直轄市を気候別に区分して、2000〜2004年の居住建築物の省エネ状況について行った実地調査結果を発表した。それによると、省エネ基準に基づく建築物は23.25%に過ぎなかった。うち厳寒の北方地区は僅か31%、夏暑く冬寒い中部地区は15%未満、夏暑く冬暖かい南部地区は11%に過ぎない。

科学技術部のビルは省エネのモデル建築物として象徴的だ。省エネ率は72.3%。米国との科学技術協力プロジェクトの1つで、供用されて既に2年余りたつ。

同部中国科学技術促進発展研究センターの楊国雄副主任は「総建築費は一般の建築物より10%前後高かったが、省エネ7〜8年で余分な負担は回収できた」と強調。だが、楊副主任は現実的な状況にかなり悩んでいるようだ。

北京など北方の寒冷地区では、建築物のエネルギー消費は熱供給と電気使用が主体で、全体の50%を占めている。熱供給で消費するエネルギー量では、科学技術部ビル(1万3000平方メートル)は同一面積の一般建築物に比べて3分の1に過ぎない。ただ、北京市の現行熱供給費用徴収体制では、暖房費は実際の消費量ではなく、建築面積に応じて計算される。つまり、節約水準に大きな開きがあったとしても、一般建築物と同じ費用を納めることになる。

「省エネで経済効率が図れなければ、省エネ型の建築物は誰も建てないだろう」と、楊副主任の言葉は重い。

この2年来、楊副主任は政府の関連機関にこうした現実を説明し、事業体や個人の積極性を保護するため、現行制度の不合理な箇所を是正するよう訴えてきた。

「2年余り待ったが、現状はどうか。まだ待つしかない」と楊副主任は嘆息する。

実は、苦しい立場にある、非省エネ型建築物を使用していない政府機関や事業体、一部不動者開発業者の“不満”も強い。

ある北京の不動産会社の高昆社長は「省エネ型建築物の大々的な普及を阻害する力はかなり大きい、と感じている。政府の出発点は良いとしても、悪い効果になる可能性のあることを認めるべきだ」と直言する。

さらに高社長は「中国のエネルギー産業と技術はまだかなり未成熟であり、生産が小規模だけでなく、価格も高めだ。こうした状況で省エネ型建築物を大々的に普及させても、コストは高くなり、しかも住宅全体の価格を押し上げることにもなる。大多数の中低所得者の消費者にとって、最も重視するのは価格だ。相応する関連措置がなければ、普及に伴って市場価格が上昇するのは必至であり、その負担は最終的に消費者が負担することになる。これは明らかに情理にかなっておらず、消費者もこの“情理”を引き受ける必要はない」と強調。

高社長に言わせれば、政府が策定した省エネ規準は内容が漠然としており、実行可能性を備えておらず、時に実情にもそぐわず、業者が検査合格に備えたいと思えば容易できる。

高社長は「大多数の消費者が意識して求めるようになってこそ、省エネ型建築物は大々的に普及していく。社会から離脱して強行に普及させようとすれば、恐らくプラスの効果は出ないだろう」と指摘する。

モデル試験から強制普及へ

政府は2005年、節約型社会の建設を提唱し、エネルギー安全も国家戦略に格上げした。同年に策定したエネルギー関連中長期計画の中で、政府は10大重点省エネプロジェクトを提起し、建築物の省エネも盛り込まれた。これを背景に、建設部など関連機関は省エネ型建築物の普及を加速せざるを得なくなり、従来のモデル試験の段階から次第に強制普及の時代を迎えることになった。

2005年7月、民間住宅に対する省エネ設計基準を全面的に推進させて以降、政府は再び、建築物の省エネ設計基準を公布。これは、公共建築物の省エネ設計に関する初の総合的な国家基準だ。その後、半年余りの間に省エネ型建築物に関する政策文書が次々と制定された。過去と異なるのは、罰金や建物の市場販売の不許可など、省エネ基準を執行しなかった場合の制裁を明確に打ち出したことだ。同時に、関係機関も普及に向けた奨励策について幅広い調査・研究を実施、既に初稿は作成ずみで、国務院に認可のため提出される予定。

政府は(1)2010年までに、全国の都市部で新規建築物の50%で省エネを実現する(2)2020年までに、北方と沿海部の経済発達地区及び超大都市で65%を実現し、既存建築物の大多数を省エネ型に改修する――との長期目標を策定した。

中央政府の指示を受けて、多くの地方政府も強制手段をより運用して省エネ型建築物を普及させるようになった。

この面で先行しているのが、首都北京だ。2010年までに新規建築物の省エネ65%を前倒して達成する、との方針を率先して提起。同市建設主管機関は(1)同年7月より、不動産業者は商品住宅を販売する際、建築主と、65%の省エネ設計基準と関連する賠償条項を設けた住宅販売契約を結ばなければならない(2)同年9月より、建設事業体は建築工事施工許可証を受理する以前に、建築物の省エネ管理機関に届け出なければならない。建築物に関する省エネ設計基準に達しない場合は、施工許可証を発行しない。また建築物の省エネ設計基準に達していない場合には、建築工事竣工の検査を行ってはならない――と規定した。

2005年11月、建設部は北京の経験を全国的に推進することにし、政策文書で、不動産開発企業は販売する商品住宅の省エネ措置、周囲の保護構造、保温断熱性の指標などに関する基本情報を販売展示会場の目に止まる場所に公示すると共に、『住宅使用説明書』に記載しなければならないと規定した。

省エネ型建築物をさらに推進するカギはどこにあるのか。清華大学建築学院の江億教授は「一般消費者が半生かけて貯蓄したお金で住宅を購入する際には実際、こうした指標を無視することはない。消費者が建築物の省エネの経済・社会的効率を直感的に体得できれば、開発業者も自ずとこうした指標を販売促進や競争の手段にするはずだ。こうなれば、建築物の省エネは社会の意識的な行為となっていくだろう」と指摘する。

江教授と違い、南京市の東南大学建築学部の鄭光復教授はより強制的な手段を用いるよう主張。「民間住宅については、政府は経済的方法を講じて関与すべきだ。例えば、建築物のエネルギー消耗が一定の比率を超えた場合には、政府がエネルギー消耗税を上乗せして徴収する。こうした方法で、消費者に省エネ型建築物を購入させるようにすることだ」と強調する。

だが、一部の専門家は、省エネ型建築物の普及を難しくしている主因は、明確な法律や法規が設けられていないからだと指摘。そのため、西側の一部先進国の経験を参考にし、建築物の省エネに関する専門の法律・法規を早急に制定するか、現行の関係法規を改定して、法律の形で建築物の省エネに関する奨励策を制定すると同時に、関係各方面の権利と責任も明確にするよう求めている。