2006 No.07
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養老保険が直面する難題

――老齢化が進む中、養老保険の“空口座”問題の解決が新たな難題となっている。

蘭辛珍

年金資金が不足しているため、養老保険への中央政府の財政支出は増え続けており、5年前に比べると10倍以上も膨らんだ。2005年12月5日に開かれた国務院新聞弁公室の記者会見で、労働・社会保障部の劉永富副部長は、中央政府の養老保険への補助金が2005年に500億元余りに達したことを明らかにした。この5年近くで合計2093億元にのぼり、この数字は2004年の国内総生産(GDP)の2%強に相当する。

また同部の高官は「一部地方では、退職者への養老年金の給付で常に問題が生じている。期限通りに給付できないのは、年金口座に給付するのに十分なお金がないからだ。そのため、退職者が金額通りの年金を受け取れるようにするため、中央政府はより多くの財政資金を養老基金に注ぎ込まざるを得ない」と強調する。

中国では高齢化が進んでいる。2000年に実施した第5次国勢調査によると、60歳以上の老齢人口は1億3000万人、65歳以上は総人口の7%を占める。国家人口研究センターでは、60以上の人口は2030年前後に約4億人に達して年金給付に問題が生じ、老齢化が進む中国は新たな困難に直面すると予測する。

問題はどこにあるのか

退職者の養老年金は2つの部分から構成されている。1つは社会統一調達金。国と企業が毎年、一定の比率で資金を供出して年金を給付する。いま1つは個人口座。養老保険の加入者はそれぞれ銀行口座を開設し、従業員・職員と企業が共に毎月、一定の比率で保険料を個人口座に振り込み、退職後に受け取るというものだ。

養老年金の給付が難しい問題は主に、養老保険の個人口座にある。退職者の個人口座の多くがほぼ残高がゼロ、お金がないのだ。

労働・社会保障部のデータによると、養老保険の個人口座が空口座になり始めたのは2000年からで、現在、その規模は累計8000億元に上っており、しかも年間約1000億元ずつ増大しているという。

中国社会科学院の唐均・研究員は「個人口座が空口座になったのは制度によるものだ」と指摘する。

1997年以前、都市部の従業員・職員の年金はいずれも企業あるいは国が責任を負っていた。1997年に社会統一調達金と個人口座を合体した養老保障制度が確立され、個人も保険料を納付するようになった。原則は「社会統一調達基金は現金で徴収・給付し、互助共済に用いる。個人口座基金は積み立てて、個人の将来の老後に用いる」というものだ。

国務院が公布した文書は「個人の保険料納付を実施する以前の国有企業の従業員・職員の連続勤続年数は、保険料納付年数と同様に見なす」と規定している。これは、1997年以前に退職した人と1997年以前にすでに仕事に就いた人については、1997年以前には彼らの個人口座にはいかなる累積もなく、つまり空口座であることを意味するものだ。

現在、年金を受け取っている人は、すべてが1997年に退職、あるいは1997年以前に仕事に就いて退職した人であるため、年金を給付すれば、不足が生じることになる。

労働・社会保障部によると、年金を受け取っている退職者は4350万人。これら退職者を含めた養老保険の加入者はわずか1億7300万人と、都市部人口の約30%にすぎず、労働力人口の15%にも及ばず、加入者率は世界水準の半分以下だ。

この5年近くの間、保険加入者は平均4.04%のスピードで伸びているものの、退職者は同6.64%で増加しつつある。養老保険基金は過去に資金の累積がなかったため、現在の退職者に年金を給付するには、現役世代が納付する個人口座基金を流用せざるを得ない。このため年金給付は非常に逼迫しているのが現状だ。

社会保障基金理事会の解学智・副理事長は「年金問題は主に2つの面に見られる。先ず、納める年金保険料が給付を下回っているため、中央政府が毎年500億〜600億元拠出していることだ。次に、個人口座から毎年1000億元余りが統一調達金に流用されており、2004年に個人口座の不足額は累計で7400億元余りに達した」と説明。

また同理事会の項懐誠・理事長は、世界銀行の報告を引用して「老齢化のスピードが加速するにつれ、現在の制度モデルに基づけば、2075年までに基本養老保険の赤字は9億1500万元に達する」と予測する。

個人口座の改革

2006年1月1日から、従来の養老保険制度を改め、従業員・職員の養老保険個人口座はすべて個人のみが納付することになった。毎月の振込み額は給料の8%。これ以前は個人が同8%、所属事業体が3%だった。改革後、事業体は個人口座ではなく、社会保障基金に振り込むことになる。この社会保障基金は、老齢化に対応するため2000年に設立された。現在の資金規模は1800億〜1900億元で、うち3分の2以上を中央政府が拠出している。

これは政府が空口座問題を解決するために行った改革であり、その目的は各個人口座に資金を残しておくためだ。

この制度は2001年から遼寧省で試験的に実施してきたが、養老保険事業を取り扱う労働・社会保障部はこの方法に期待を寄せている。

具体的に言えば、2006年1月1日以前に退職した養老保険加入者については、従来の規定に基づいて基本養老年金を給付すると同時に、給付額も引き上げる。

1997年の養老保険制度実施後に仕事に就いた従業員・職員については、保険料納付年数が累計で満15年の場合、退職後に月ごとに基本養老年金を給付する。基本養老年金は、基礎養老年金と個人口座養老年金から構成される。退職時の基礎養老年金の月間基準については、当地の前年度の従業員・職員の月間平均賃金と、本人の指数化された月間平均納付保険料・賃金との平均値を基数とし、保険料納付満1年ごとに1%を給付する。個人口座養老年金の月間基準については、個人口座の残高を給付月数で割る。給付月数については、退職時の都市部の平均寿命、本人の退職年齢、利息などの要素を考慮して確定する。

1997年の養老保険制度実施前に仕事に就き、2006年1月1日以降に退職した養老保険加入者については、保険料納付年数が累計で満15年の場合、基礎養老年金と個人口座養老年金を給付し、さらに移行性養老年金も給付する。移行性養老年金の計算基準については、1997年以前の勤続年数中の納付保険料・賃金総額を指数化したうちの1.4%とするが、具体的には各地方政府が待遇水準を考慮して確定する。退職年齢に達したが、保険料納付年数が累計で15年に達していない場合は、基礎養老年金は給付せず、個人口座の残高を一括して本人に支払い、基本養老保険関係は終了する。

どれほどの効果があるのか

この養老年金口座の改革が直面する巨額の年金不足と関係があるのは明らかだ。

規定によると、企業は一般に1人平均賃金の22%を養老保険料として納付し、うち3%は個人口座に、19%は社会保険基金に納入される。だが現在、年金資金が不足しているため、この3%も社会保険基金に納入される。

2004年の従業員・職員の全国平均年間賃金は1万6000元。現在の増加水準に照らせば、2006年に2万元を超す可能性がある。そうした場合、月に3%増えるとして計算すれば、保険加入者は1億7300万人であり、養老基金は13億元に達し、年間で150億元余り増えて、500億〜600億元の年間給付不足額は25〜30%前後減少することになる。

この改革にはさらに最大のメリットがある。養老保険の「現金徴収・現金給付制」から「一部累積制」への転換を実現できることだ。早期に基金の準備を進めておけば、高齢化がピークを迎えた際にも給付ができるようになる。

ただ、こうした改革に保険加入者の間には不満もある。労働・社会保障部は「退職後に受け取る年金の給付基準が引き下げられることはない」と再三強調しているが、かなりの人が信頼していない。個人口座内の資金が減少しているのを承知しているからだ。

同部が新制度を公布後、新聞「中国青年報」社会調査センターが行った調査によると、年金だけで退職後の生活を維持するのは自信がないと答えた人が多数を占めた。「自分でほかに金を稼ぐ」が57%、「動けなくなった後の生活が気がかりだ」と感じている人が92.1%、「生活水準は著しく低下する」と答えた人は37%だった。

新聞「広州日報」が広州市で行った調査では、「毎月、貯金を50元下ろすのはいとわないが、養老保険に納めるつもりはない」という声もあった。

調査では、市民が最も心配している2つの点が明らかになった。第1は、養老保険は個人口座が空口座になったまま運営されているため、現役の従業員・職員が納付した保険料はその時代の退職者の年金に用いざるを得ない。第2は、年金を金額通り受け取ったとしても、生活水準が退職以前よりかなり落ちるのは間違いない、ということだ。現在の状況から言えば、個人口座を充実させるには無理がある、また、その必要もない、と市民は考えている。現在の養老保険基金には有効な利殖手段がなく、空口座が充実しても資金は銀行に積まれているため実際には目減りする、というのがその理由だ。

こうした心配から、養老保険に主体的に加入する人は非常に少ない。年金不足を解決するに当たって最も重要なのは、口座の改革だけでなく、保険加入者を拡大しなければならないことだ。加入者が増えてこそ、年金の給付は保証される。口座改革によって加入者数が増えることがなければ、どれほどの効果があるのだろうか。

養老保険がいかに市民の信頼を得るかを考えれば、より多くの努力が必要だ。