2006 No.09
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ダボス会議を振り返る

商務部国際貿易経済合作研究院副研究員

梅新育

世界経済フォーラムの年次総会(ダボス会議)は5日間の日程を終えて1月29日に閉幕した。世界89カ国・地域の2340人の代表は「創造的責務」をテーマに、世界の経済や政治が直面する重大な挑戦および対策について、240余の分科会を開き、中国とインドの台頭、経済が発展した地域の変化、将来の就業機会の更なる創造、国際的危機処理における指導力など八つの議題をめぐって討議した。筆者は、今回のフォーラムは国内的な公平、国際的な公平、発展途上国間の競争と協力の三点に概括できると考える。

国内的な公平を追求

ここ数年、世界経済は力強い伸びを続けている。経済成長率は2004年に5.1%に達して過去30年で最高を記録し、昨年は4.3%に達したと予想されるが、今年も大きく逆転する可能性はほとんどない。国際通貨基金(IMF)など国際経済機関は昨年下半期から相次いで世界経済の成長率を高く予想するようになったが、各国の所得配分構造が広範囲にわたって悪化しているため、世界経済の将来の繁栄に暗い影が落ちている。ダボス会議開幕(1月25日)直前の1月23日、英国の新経済基金は、過去10年来、世界の最貧困層の収入は激減傾向にあるとする研究報告を発表した。それによると、1990〜2001年にかけて、世界の1人平均収入が100ドル増えるたびに、最貧困層ではわずか0.6ドルしか増えておらず、1980年代の2.20ドルに比べ73%も激減した。

問題の深刻さは貧困の範囲や程度にととまらず、貧困支援の弱体化や貧困層が上の階層に上がる機会の減少にある。国内の貧困支援について言えば、経済的に成功を収めた発展途上国のモデルとされるアジアでも、1980年代から90年代にかけて、国民所得の増加に占める支援資金の比率は10.2%から2.9%にまで激減した。国際的な貧困支援では、1990年代以来、ほとんどの先進国が政府間援助を大幅に削減し、その他の援助についても多くの条件を付けるようになった。   

「魚をあげるよりは、漁をする方法を教えるほうがいい」。貧困を減少する上で最も重要なのは、直接支援するのではなく、貧困層や貧困地域に自らの力で上の階層へ上がる機会を提供することだ。ダボス会議の主催者たちはこの問題に留意し、「将来の就業機会の更なる創造」を4番目の議題に設定した。「経済成長や就業の創造の面で現れた変化の性質や地球規模の就業情勢、新しい技能の要求、労働力の移転、それがもたらす社会・経済的な結果」が主要な内容となっている。しかし、優位に立つ国々や階層は、大きな影響力を持つようになると、矢も盾もたまらず、貧困層が次ぎの階層に向かう上で障壁を大幅に高くするなど、自らに一方的に有利なルールを定め、分化された社会構造を固定させよう目論む。当今の政治ゲームルールの下で、こうした企てが達せられるのはよくあることだ。残念ながら、この問題はダボス会議では十分に討議されず、最終的に、「飢餓に反対する闘いの道は長い」と感嘆することで事を済ますしかできなかった。

国際的な公平を実現

今年のダボス会議では、最大の発展途上国である中国とインドに関心が集中し、トップテーマは「中国とインドの台頭」だった。会議の初日、「中国の台頭」をテーマにシンポジウムを行い、銀行業の発展に向けた展望、環境保護、農村問題、中国の台頭による外部世界への打撃、中印のエネルギー需要などをめぐって白熱した議論が展開された。米クリントン政権の通商代表部(USTR)で代表を務め、現在はロンドン・ビジネス・スクール学長のローラ・タイソン氏が閉幕式で行った講演のテーマも、やはり中国とインドだった。出席者たちは「口を開けば必ず中国を語る」が、今回の会議最大の特色だと言える。

中国とインドを代表とする発展途上国がこれほど高い関心を集めた背景には、ここ数年、発展途上国の経済が目覚しい成長を遂げ、その影響力が増しつつあることがある。英国誌『エコノミスト』が発表した報告によると、2005年の世界に占める新興市場の総生産量の比重はすでに50%を超え、総輸出量も1970年の20%から42%に上昇し、過去5年間で輸出の伸びは世界の50%以上を占め、先進経済体と新興市場間の貿易の伸びは、先進経済体内部の2倍となった。新興市場の外貨準備高は世界の3分の2、石油消費量は世界の47%を占めた。過去3年間の新興市場の平均成長率は6%を超えているが、先進経済体はわずか2.4%に過ぎない。昨年、新興市場のGDPは1兆6000億ドル増えたが、先進経済体は1兆4000億ドルの増だった。IMFは、今後5年間に新興経済体の経済成長率は引き続き先進経済体の2倍を維持すると予測している。この動きが続いていけば、新興経済体の生産は20年後には世界の3分の2を占めることになる。

発展途上国の経済成長に伴い、各国は相応の調整を行うことが必要となり、とりわけ世界経済の不均衡が日増しに加速し、しかも各国とも維持していくのが難しいと考える中、先進国や主要な発展途上国は経済的協調を改めていく必要がある。このフォーラムでも冒頭に、「世界の発展の中心がアジアに向かいつつある中、各国が直面するチャレンジとチャンス」という思考的な問題が出席者に提起された。喜ぶべきは、西側の少なからぬ有識者がこの傾向を高く評価したことだ。ローラ・タイソン学長は「中国やインドの消費の増大が世界経済の成長を牽引する」との考えを示した。だが、我々としてはこれとまったく異なる見方を軽視することはできない。「先進国の人々は往々にして自国の失業問題をグローバル化のせいにし、政府に貿易保護措置を講じよう迫る」とタイソン学長は指摘する。彼女がダボス会議で接触したアメリカ人の中には、中国の発展を脅威と見なしたり、中国に対して恐れや焦り、怒りを抱いたりしている者もいる。一部で上述した原因から、中国では国際経済貿易で紛争が多発しており、世界貿易機関(WTO)のドーハ・ラウンド交渉も難航している。  

実際、経済発展が双方にもたらすものの多くは利益であり、ゼロや競争ではない。発展途上国の経済発展が先進国にもたらすのは、主として新たな発展に向けての空間であり、打撃や脅威ではない。この年次総会の議長である米元財務長官で、ハーバート大学学長のローレンス・サマーズ氏は「世界経済は米国という1台のエンジンだけに頼ることはできない」と指摘した。英紙『フィナンシャル・タイムズ』のマーティン・ウォルフ首席論説員も「資本は最も豊かな国に向かって流れており、発展途上国は純粋な資本供給者だ」と強調した。まして、現在の国際経済貿易ルールは発展途上国にとって極めて不公平なものであり、この経済グローバル化の時代に、時々刻々と発展途上国ないし世界経済全体の持続可能な発展の将来を脅かしていれば、貧困に満ちた洋々たる海洋に繁栄した小さな孤島が長期に、かつ安定してそびえ立つことなど期待できるものではない。ドーハ・ラウンドの「発展方向」を堅持するというのは、発展途上国に格段の特恵を与えることではなく、共有するグローバル化に伴う利益と担うべき負担を均衡させることである。結局のところ、いかなる「発展」による成果も、できるかぎり広範な社会の構成員に分かち合わせる必要があり、1つの国はもちろん、国際社会も例外ではない。世界にはこれまで、逆転できない潮流といったものはなかった。仮に発展を求めようとする発展途上国の理にかなった要求をおろそかにするなら、グローバル化のプロセスは全面的に逆転し、南北ともに敗退し傷を負う可能性もないとは限らない。ガーナ共和国のアラン・キェレマテン貿易・工業相が総会で警告したように、現在、多角的貿易システムが確約を履行できるかと疑問視する国は増え続けている。インドの石油化学大手リライアンス・インダストリーズのムクシュ・アンバニ会長は「国際社会はWTOのプロセスそのものが崩壊に向かうことを懸念している」と直言している。

幸いなことに、主要な西側諸国の代表はこの総会で多少なりとも積極的な姿勢を示した。欧州連合(EU)欧州委員会のマンデルソン貿易担当委員とポートマンUSTR代表は、総会中に開かれたWTOの少数国による閣僚会議は雰囲気がある程度変わったとの認識を示し、マンデルソン氏は各方面に対し、この機会を捉えて、できるかぎり雰囲気を改善させるよう促した上で、「発展途上国が自ら実施し、しかも発展途上国にとって有利な農業改革を目にしたい」と言明した。ポートマン氏は「仮にドーハ・ラウンド交渉が行き詰まれば、関係各方面はいずれも負けることになる。米国は現在の交渉では、自由化に向けた全てを支持する」と強調するとともに、各方面がともに努力するよう呼びかけた。パスカル・ラミーWTO事務局長は「EUは農産物市場の開放でより大きく譲歩し、米国は国内の農業補助金を削減するほか、スイスや日本も同時にこの二つの面で改革を進めるべきだ」と述べるなど、関係各方面に現実に目を向けるよう促した。我々はドーハ・ラウンド交渉での最終合意を各国が着実に遵守するよう切望している。WTOのルールが効果的に履行されず、とりわけ先進国が確約を履行せず、WTOのルールを曲解するか、または国内法がそれに取って代わることを、中国はWTO加盟後の貿易紛争の中で骨身に沁みるほどその苦しみを味わったからだ。

発展途上国の経済成長はかなりの程度、周期的な要素に依るか、または先進国のマクロ経済政策のいかんによって決まるのである。その経済的依存性は根本的には変わっておらず、経済成長の勢いが続くかどうかには、大きな不確定性が存在している。ここ数年、発展途上国の経済成長を促してきた周期的な要素は、大口の一次産品の価格が何度も記録を作り出すことだった。だが、これに越したことはないものの、いつまでも上昇することはあり得ず、大幅に下落する暗い影が広がりつつある。2000年の下半期以来、先進国は相次いで金利を大幅に引き下げた。低金利は発展途上国への資本流入を刺激する一方で、先進国の消費をも刺激して、発展途上国の輸出を牽引してきた。しかし、2004年6月以降、米連邦準備理事会(FRB)は周期的に金利を引き上げるなど、先進国の金利は上昇し始めた。国際資本の流動方向が大きく逆転する可能性がある半面、高金利によって先進国の負債が抑制され、消費が減速するのは必至であることから、発展途上国の輸出に与える影響は想像するに難くない。

中印両国の適正な競争と協力

経済と社会が発展する過程で、発展途上国間には競争と協力という二重の関係が存在している。この関係は中国とインド、この二つの発展途上国で最も顕著だ。ここ数年、国際政治・経済、学術界や世論では、中印の比較論が活発化しているようであり、対象は両国の政治や軍事、経済、文化など各分野に及び、このフォーラムでも高い関心を集めた。西側資本が主導する国際メディアは、中印両国の関係を両立し難い関係だと誇張している。両国の世論もそうした影響を受けて、「中国の繊維製品は制限されながら、インドの工場はうまい汁を吸って日夜残業をしている」とか、「ATケルニーによる世界の投資者の自信ランキングで、インドは中国を大きく越す勢いがある」など、こうした報道が中国では例外なく関心を呼ぶと同時に、インド政界の一部の人士が多少軽率な発言や行動をしたことも、両国間の猜疑心や競い合いの雰囲気を煽り立てることになった。また、無意識的にインドの総合国力を過大に評価したり、ひいては中印間の競争関係を過度に重視したりする者も中国にいる。

実際、海外のメディアによるこうした比較に対して、我々は真しに受け止める必要はない。まず、インドは基本的に英国の政治体制を踏襲しているため、国際経済秩序やメディアがアングロ・サクソンの国家に主導されている枠組みの中で、中印両国に関する比較では、中国のいかなる欠点も倍に拡大されるが、インドのいかなる業績も倍に拡大されてしまう。西側の者たちの目で見れば、インドでは良好に管理されている企業や実業家の数は中国よりはるかに多く、金融システムの安定性や株式市場に対しても評価は高い。中印両国の間には領土や経済などの面でいくつかの問題、ひいてはゆゆしき問題も存在しているが、それは西側のメディアによって意識的、また無意識的に拡大されたものだ。「分割統治」という一般的なルールは、強者を抑え弱者を助けるというものであるため、中印紛争で、まさに、総合国力が相対的に弱く、植民地時代にアングロ・サクソン化された支配階層を育成したインド側が西側メディアからより多く支持されるのは、確かに当然なことだ。これに対しては、われわれは過度に神経を尖らせるよりは、むしろ根本から国際世論に対する西側の主導権を転換させることに尽力するほうがいい。また、インドの社会各界が提起した勧告がわが国の利益に合致しないとも限らない(例えば、インドのチダムバラム財務相はこのフォーラムで、中国に消費率を高めるよう提言した)ことも認識すべきである。我々は海外のメディアが煽った中印間の競争を過度に重視する必要はなく、両国が円滑に協力を進める道を模索すべきだ。結局のところは、ともに人口の多い発展途上国であり、この共通の基本的な国情が、互いに相手国の発展の経験を分かち合うことができ、国際経済や政治問題でも共通の利益が多くあることを決めるのであり、従って、協力する土台はあると言える。エネルギー開発から多角的貿易交渉に至るまで、両国が競争を協力に転化させていく動きを見せてくれたのは喜ばしい。

総 括

グローバル化された利益や問題は経済のグローバル化がもたらしたものであり、客観的には、各国や社会各界は幅広く協調して問題を解決することが求められている。我々は世界経済フォーラムが多くの問題を直接解決するなどと過分の期待は抱いてはいないものの、多くの国や地域の各界の代表が一堂に会して問題を討議することで、問題の解決にプラスになるのではないか、というのが期待を寄せる理由である。結局、このフォーラムには89カ国・地域から2340人が出席し、その範囲も政治やビジネス、メディア、スポーツおよび国際機構、NGOといったように、かなりの代表性を有しているからだ。