2006 No.11
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>> 国際評論

核拡散を防止するには

事遅きに失する前に、現行の核不拡散制度を補完する必要がある。

中国共産党中央党学校国際戦略研究所教授
張l瑰

ここ数年来の事態の推移、とりわけ朝鮮やイランの核問題が深刻化しているが、それは『核兵器不拡散条約』(NPT)を主とする一連の核禁止に関する国際的な文書で構築されてきた核兵器の拡散防止体制の権威、機能が著しく損なわれていることを示すものだ。

米国は第2次大戦終結前、日本に原爆を2個投下した。それ以降、戦争兵器としての核兵器はすでに本質的に変化し、その直接的な殺傷力や人類の生存環境への壊滅的な破壊力および人々に与える心理的な打撃は、人類が耐えうることのできないものであり、使用してはならない兵器だということを人類は認識するようになった。それ故に、最も早く核兵器の開発を手がけた米国のアインシュタインや旧ソ連のクルチャトフら科学者はいずれも強く核の廃絶を訴えたのである。

幸いなことに、人類は良識を失わなかったた。NPTは1968年に国際社会によって制定され、1970年に発効した。1995年5月、圧倒的多数の国の支持を得て条約の無期限かつ無条件延長が決まった。これらの国々は締約国であり、しかも条約上の義務を履行したことから、核拡散の動きは一度かなりの程度抑止された。

しかし、事態は変わりつつあり、核拡散防止体制は試練に直面している。歴史的発展によってもたらされた新たな問題、核禁止制度そのものの欠陥などが要因である。

第一に、核知識や核技術が発展・普及したことで、核を巡るハードルが大幅に低くなったことだ。かなり前になるが、米国は、大学の物理学科を卒業した二人に、いかなる特別な援助もしないことを条件に、学校で学んだ核知識や公開されたルートで調べ上げた資料だけで原爆を製造させる実験を行ったことがある。その結果、二人とも成功を収めた。今や、核兵器製造の理論や技術は国家の極密実験室から民間に広まるまでになり、違法な核技術や核燃料の国際取引網も編み出されているため、どの国の政府またはある集団であれ、十分な決意と資金、時間がありさえすれば、核兵器開発に何ら克服できない困難はなくなった。

第二に、核不拡散に関する世界の管理制度そのものに欠陥があることだ。NPTなどの国際文書は、締約国の核不拡散に関する条約上の義務を定めているが、条約の署名と脱退は自由意志にまかされており、核不拡散の管理体制は柔軟性のあるものである。そのため、国について言えば、核兵器を開発するつもりのない時は条約に加盟するが、開発しようとする時には脱退する。NPT側から言えば、核開発に野心を抱く者に対しては本来、制約を加えるべきでありながらむしろ制約する手だてを講じることができず、本来開発するつもりはなく特別に制約する必要のない者に対してむしろ制約を加える、といった裏腹の局面に陥っている。核不拡散の管理においては実際、無政府状態にあると言えよう。

第三に、NPTは、非核保有国は核兵器を製造しないと定める一方で、原子力の平和利用の権利を有するとも定めていることだ。これについてはより詳細な規定がないため、核兵器を製造しようとする者に、原子力の平和利用という口実で平和目的以外に転用する余地を残す結果となった。原子力を平和利用するか、それとも平和目的以外に転用するか、その間の境界は当事者の心中にあるのみであり、第三者には知り難いことだ。事実、NPT発効後に行われた一部の核兵器製造行為は当初、ほとんどが平和利用を隠れみのに進められた。

第四に、NPTは、核保有国は非核保有国に核兵器を拡散してはならないと規定していながら、核保有国は核兵器を先制使用してはならない、さらに非核保有国に対し核兵器を使用または威嚇使用してはならないとは規定していないため、これが客観的には、核保有国に非核保有国に対して優位性を持たせ、非核保有国に対しては戦略的均衡を図るために核兵器を持つよう長期にわたり圧力を掛けてきたのである。

上述した要因が現行の核不拡散制度をむしばみ、核拡散防止体制はその機能を失いつつある。周知のように、一旦、数カ国でも核不拡散制度から先行して逸脱するようなことがあれば、多数の国々がそれに追随し、崩壊の一途をたどることになる。仮にそんな事態にでもなれば、世界はモートン・カプラン氏の想定した国際システムにおける「単位拒否権型」(1国の拒否行動がすべての国家の存在を破壊できる状態)に近づくことになるであろう。その時、すべての国は人類の運命や将来を決定する致命的な手段を有するようになり、国際テロ組織さえ核兵器を持つ、といったカプラン氏の想定をも超える事態に陥ってしまう。核兵器を使用するか否か、いつ、どのように使用するかは、いずれも保有する者の良心、気性、ひいては気分によって決まる。すべての国が核兵器を有し、「1票の拒否権」を持つようになれば、世界は真に「民主化」が実現できる、と無邪気にそう考える者もいる。これはまったく根も葉もない仮説だ。可能性がより大であるのは、人類がある国または集団に脅迫され、しかも脅迫されるのはある特定の国の国民ではなく、全人類だということだ。法秩序が整ったいかなる現代国家においても許されざるべきこうした空恐ろしい「広範な民主」とやらを、まさか国際社会においてこの種の危険な実験を行うべきだと言うのではあるまい。

核拡散を抑止できない局面に陥らさせないためにも、事遅きに失する前に現行の核不拡散制度を補完する必要がある。それには知恵ばかりでなく、決意を固めることが必要だ。

核不拡散制度を整備する原則はすでに確定している。つまり、核兵器の拡散を断固として防止することが全人類共通の責任であり、すべての国は原子力を平和利用する権利を有し、核技術の進歩は全人類に幸福をもたらさなければならないというものだ。

これに基づき、筆者は以下のような構想を練った。

1. 安保理は、核技術の生産・管理に関する超国家的な機関の

設立を決議する。この機関には@原子力の平和利用のための核燃料物質と設備を生産・製造するA原子力の平和利用を意図する非核保有国に核燃料物質と設備を売却するとともに回収するB売却した核燃料物質と設備の使途を追跡・監督するC非核保有国のために原子力の平和利用の技術者を育成するD原子力を平和利用する国に核施設の管理サービスを提供するE回収した使用済み核燃料棒やその他の核燃料物質の再処理を統一的に行う――などの機能を持たせる。

2.安保理は、上述した機構を核技術・核燃料物質の世界唯一の合法的な取引市場として規定することを決議する。

3.安保理は、NPTの権威性を重ねて表明し、NPTに背いて行ういかなる核兵器の秘密裏の開発はいずれも「戦争犯罪」と同一の反人類的な犯罪だと規定し、こうした犯罪行為を発見した場合、査問や調査、制裁および強制的制止に至る行動をとることを決議する。

4.安保理の監督の下において、核保有国は、核兵器を先制使用

しない、非核保有国に対し核兵器を使用せずかつ威嚇使用しない義務を負うとする国際文書に署名する。