2006 No.12
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「禁煙」に新たな動き

――たばこの規制運動が奏功するかはかなりの程度、喫煙に対する姿勢の転換にかかっている。

李麗

張さん(女性)が初めてたばこを吸ったのは20年前。同時、21歳の彼女は上海復旦大学ジャーナリズム学部の学生だった。何も考えずにたばこに接したという。女性の喫煙は独立と前衛のシンボル、と見なされていた。「喫煙は今でもリラックスできる方法だと思っている」。現在は報道雑誌のベテラン記者だ。喫煙量は1日3〜8本。

彼女は10歳になる息子の母親だが、普段でも構わずに息子の前でたばこを吸う。ただ、子どもには「18歳になる前は吸ってはいけない。18歳になれば、吸うか吸わないかは個人の選択だ。でも、癖にならなければ、2本ぐらいは吸ってもいい」と話しているという。彼女はこの点で手本を示している。「私は絶対に中毒にはならない」。

驚くべき数字

彼女は大多数の喫煙者と同様、喫煙が体に及ぼす害についてしっかりと理解していないようだ。

世界保健機構(WHO)の統計によると、全世界で毎年500万人が喫煙による疾病で死亡している。うち4分の1が中国人だ。

たばこ規制専門家の楊功煥教授がまとめた統計では、2000年の医療費総額のうち、たばこに関係する疾病が12%、486億元を占めた。楊教授は「現在、たばこによる医療費の上昇率はたばこ産業の利益の伸び率をはるかに上回っている」と指摘。

さらに楊教授は、たばこが中国人の健康にもたらす害は2030年にピークに達すると警告を鳴らしている。中国ではたばこによる重大疾病は主にがん、心臓・脳血管疾病、喘息だ。

たばこがもたらす深刻な害は喫煙者だけに限らない。中国ではまだ重視されていないが、副流煙による害、間接喫煙による害だ。中国では非喫煙者の大半が間接喫煙者、とくに張さんの息子のように乳児や児童が父母から間接的に害を受けている。

たばこが健康を損ない、疾病をもたらすことは広く知られながら、世界的な範囲から見ると、中国ではたばこ規制運動はとくに厳しい状況にある。医療保険システムがまだ完備されていないため、低所得者は経済的理由で診察を受けられず、農村では病気が原因で貧困になるケースがかなり多い。

たばこは唯一、健康を著しく損ねる害がありながら法的に認められた消費品だ。しかも貧困と密接な関係がある。WHO中国事務所代表のベケダム博士によると、西南部の貧しい貧困地区では、たばこの支出が家庭収入の11%を占め、生活必需品の支出を上回っているという。

進むたばこ規制

長年にわたり、たばこ産業は財政収入を支えてきた。2004年の業界全体の納税額は2100億元に達し、財政収入の約8%を占めた。これについて、楊教授は「経済面を考慮するだけで、公民の健康を考慮しないのではだめだ。経済発展のために民衆の健康を代価にしてはならない、と多くの人が認識していると確信する」と強調した。

「たばこ規制枠組み条約」は世界のたばことたばこ製品を制限することを趣旨とした世界初の条約であり、世界範囲の多国間協定でもある。政府は2003年11月に同条約に署名、中国のたばこ規制事業は大きな一歩を踏み出した。条約は今年1月1日に正式に発効。政府は「同条約を批准したことは再度、中国が公共衛生の面で率先する地位にあることを示すものであり、同時に、たばこ製品の増加傾向を転換して、健全な社会を建設する決心を表明するものでもある」と宣言した。

この目標の実現に向け、政府はすでに一連の新たな措置を講じ始めた。「境界内で販売するたばこの包装表示の適正に関する国家煙草専売局の規定」が1月1日に施行。同規定は、たばこの包装に中国語で「喫煙は健康を損ねる」と明記するとともに、タールとニコチンの量のほか、一酸化炭素の含有量も注記しなければならないとしている。また包装と内側の付属説明書には「ライト」とか「マイルド」「低タール」「贈り物」といった用語を使用することはできない。

こうした規定はいずれも「たばこ規制枠組み条約」の条項に基づいて調整したものだ。

中国のたばこ規制運動について言えば、さらに困難なのは、法規の制定ではなく、喫煙は健康を損ねるという人々の認識を高めること、とりわけより多くの指導者を動員して、禁煙・たばこ規制に参与させることだ。過去の指導者である毛沢東やケ小平はヘビースモーカーだったが、いずれも長寿であったことから、これを根拠に、喫煙は健康を損なわないと結論づけて、誤った観点を広めている人もいる。

ベケダム博士は「規制運動が成功するかどうかは指導者の参与が極めて重要だ」と指摘する。また、温家宝総理が2004年4月にWHOの李鐘郁事務局長と会見した際、「2008年の北京五輪は無煙の五輪にする」と確約したことは大きな進歩だと評価。その上で「この確約は、スポーツと健康は、たばことはあくまでも対立する、との明確なシグナルを全世界に向けて発したものだ」と強調した。

姿勢の転換

ベケダム博士は「中国政府は署名した『たばこ規制枠組み条約』に基づき、規制の努力を一段と強化する必要がある」と指摘。努力目標として、(1)たばこ税を引き上げる。この措置を講じれば、たばこの消費を減らすことができ、しかも政府の財政収入は減らないことが、すでに多くの西側諸国で証明されている(2)たばこ広告の禁止など、立法措置を強化する(3)たばこの商標や包装に関する立法を強化する(4)公共の場所での禁煙の規定を厳格に実行し、間接喫煙による害を減らす――の4点を挙げた。

だが中国では、たばこ規制運動にとって最大の障害となっているのが、依然として民衆がその意識に目覚めていないことだ。西側とは明確に異なり、中国ではレストランでの喫煙は一般的なことであり、隣のテーブルや店員も好ましくないとは感じていない。中小都市のレストランではたばこがテーブルに並び、また友人が訪れた場合には、たばこを勧めるのが基本的な礼儀だとも考えられている。外国では想像できないことだ。

これについて、ベケダム博士は「外国の規制運動の経験に照らすと、社会の雰囲気や行動を転換させるにはかなり長い時間がかかり、民間組織も数多くのキャンペーンを展開する必要がある」と指摘している。

禁煙を望む人を対象に、医療機関もすでにこの面でのサービスを開始。北京の安貞医院や朝陽医院などは禁煙支援診療科を開設し、ニコチンに代わる国際的に先進的な錠剤を提供したり、心理相談にも乗ったりしている。

WHOは2年に1度、国際禁煙コンテストを行っているが、中国は1996年から参加。2004年は6万人近い喫煙者が申し込み、西太平洋地区で唯一の特別奨励賞は中国の33歳の運転手が受賞した。

中国たばこ規制協会の許桂麗副会長もベケダム博士と同様に憂慮を示している。「中国ではこの数年、青少年や若い女性の間、とくに高等教育を受けたキャリアウーマンの女性の喫煙率がやや上昇している。社会全体に禁煙・たばこ規制の機運が欠けているのが重要な原因だ。現在、映画の中でも喫煙のシーンが頻繁に登場し、テレビでもスターが日常生活でたばこを吸う場面が常に出てくる。これが青少年に、喫煙は時代の先端をいくもの、といった誤った概念を植えつけている」と指摘する。

このため同協会は、2001年から2つの行動を開始した。1つは、全国の小中高校で「学校を無煙にする」「最初のたばこは拒否する」活動を展開したことだ。2005年4月現在、全国で少なくとも100万人の小中高生が「一生たばこを吸わない」と決心する誓約書にサインしたという。

いま1つは、医師の禁煙だ。男性医師の喫煙率は中国では58%、外国は1〜2%。一般に外国では医師は患者の禁煙を指導し、模範を示す役割を担っている。こうしたことから現在、同協会は「無煙病院」を普及させているところだ。