2006 No.13
(0320 -0326)
 

アドレス 
中国北京市
百万荘大街24号
北京週報日本語部
電 話 
(8610) 68326018 
(8610) 68886238

>> 国際評論

ブッシュ大統領の南アジア歴訪

----米国とインド、パキスタンとの関係の新たな進展から、ブッシュ政権が対南アジア戦略及びグローバル戦略についてある種の調整を行ったことが窺われる。

張利軍(中国国際問題研究所研究員)

ブッシュ米大統領は3月初めにインド、パキスタン、アフガニスタン三カ国を歴訪した。ブッシュ大統領が南アジアを訪問したのは2001年に就任して以来初めてのことだ。

米国のグローバル戦略の枠組みにおいてこの三カ国の影響と役割は非常に重要だと言えよう。インドは大国として台頭しつつあり、パキスタンはテロとの戦いで「前線国家」であり、アフガニスタンはいま「国家再建」に向けてカギとなる時期にあるからだ。ブッシュ氏の南アジア歴訪、とくにインドとパキスタンへの訪問から、米国が対南アジア戦略、ひいてはグローバル戦略についてある種の転換、調整を行いつつあることが窺われる。

このところ、米印関係は急速に緊密化している。政府高官の相互訪問は頻繁に行われ、軍事や経済貿易面での協力も絶えず深まっている。ブッシュ氏のインド訪問について、両国のストラテジストの間では、米国はインドに重要な贈り物をしたにとどまらず、それ以上に初めてインドを世界大国として見るようになったが、これはインドが長年求めてきたものだとの認識が一般的だ。

訪印中、両国は原子力に関して技術協力を進めることで合意したが、これは米国がインドに対する核政策を根本的に転換したことを示すものである。インドのシン首相は昨年7月の訪米期間中、米側と民生分野で原子力技術協力を行うことで基本合意に達し、その後、両国間で数カ月にわたって交渉が続いていたが、高速増殖炉などの問題で双方に見解の相違があったために交渉は一時、膠着状態に陥った。ブッシュ氏の訪印直前、両国の高官は合意に達する可能性は極めて小さいと表明していた。今回の合意により、米国はインドに民生用の核技術と核燃料を提供し、インドは核施設を民生用と軍事用に分けると同時に、民生用については国際原子力機関(IAEA)の査察を受け入れることになる。これは米国が、インドが「合法的なルート」を通じて核保有国となり、「国際核保有クラブ」に加入するのを認めることを意味している。米印間の核を巡る協力がさらに進めば、核軍縮と核拡散防止を取り巻く総体的情勢に変化が生じるであろう。

両国首脳はまた、昨年7月に宣言した戦略的パートナーシップをさらに具体的に進めることについても意見を交わした。具体的には、米国の農業や工業、サービス業をインド市場へ進出させるため、(1)テロの脅威を封じ込める(2)世界的範囲で民主を推進する(3)自由かつ公平な貿易を通じて経済的繁栄を促進する(4)国民の健康と生存環境を改善する(5)米国は実質的かつ責任のある方法でエネルギー事情の改善を求めるインドを支援する――の五つの分野で協力を行うことになった。

米国がインドをこれほどまでに重視している主因は、インドの情報技術(IT)革命が両国関係をより緊密にしていることがまず挙げられる。現在、インドは米国企業にとって海外最大のアウトソーシング国となっており、その経済的利益が巨大であるが故に、米国はインドに別の眼を向けざるを得なくなった。次に、米国はテロとの戦いや、南アジア情勢を安定させるうえでインドの支持を早急に必要としているからだ。より重要なのは、米国の対アジア戦略では、インドは中国を牽制するための“最良のコマ”と見なされている。米国の主要紙は、ブッシュ氏訪印の重要性はニクソン元大統領の訪中と遜色ないと指摘し、「当時、ニクソン大統領が中国を引き込んだのは、ソ連に対抗するためだったが、今日、米国がインドを引き込むのは、中国に対抗するためだ」と評論している。

ブッシュ氏のパキスタン訪問の目的は、パキスタンを促してテロとの戦いを継続させることにある。当今の南アジア地域の反テロ情勢は依然として厳しく、決して楽観は許されない。ブッシュ氏のパキスタン訪問前日には、在カラチ米国総領事館の外交官一人がテロで亡くなる事件が起きた。米国は戦略的に、パキスタンは極めて重要な国であり、ムシャラフ大統領は重要な役割を発揮すると考えているのである。米国の同時多発テロ事件の後、パキスタンは反テロ戦線に加わり、タリバン政権の打倒や、「ジェマー・イスラミア」のメンバー逮捕で大きな功績を上げてきた。

米国は今後も、国際的な反テロと「中東の民主化」を推進するための戦略的配置の実現に向け引き続きムシャラフ政権を支持し、パキスタンに政局の安定を促していくであろう。ブッシュ氏はムシャラフ大統領を「勇気ある人物」と評価するとともに、個人的に良好な関係を維持していると表明した。また両大統領は首脳会談で、テロとの戦いで協力を継続していくことを確認。ブッシュ氏はパキスタン側に、国際テロ組織アルカイダのリーダーであるビン・ラディンとザルカウの指名手配で一層の協力と支援を求めた。パキスタンでは2007年に総選挙が行われるが、米国は同国のイスラム過激派がこの機に乗じてムシャラフ政権を倒し、「パキスタンをタリバン化」させるのではないかと懸念している。ブッシュ政権はその「民主の理念」を後回しにしても、ムシャラフ大統領を全力挙げて支持していくであろう。両大統領は共同声明を発表し、戦略的パートナーシップを発展させるため戦略対話を定期的に実施し、その基盤となる経済やエネルギー、平和と安全、社会発展、科学技術、民主及び核拡散防止など分野での協力を強化していく考えを表明した。

さらに米国は、インドとの経済・戦略的協力を均衡の取れたものにするとともに、対南アジア政策の均衡を維持していくであろう。また国際社会、特にパキスタンに対しては、南アジアでの「不公平な扱い」との印象を持たせたくないが故に、ブッシュ氏は再び「パキスタンとの経済貿易関係を開拓する第一歩として」、投資協定を締結することを強調するかも知れない。

また米国は、パキスタン人の対米イメージを改善することで、イスラム世界全体の対米イメージの向上につなげていくであろう。歴史的に、米国はかつて「用ある時の地蔵顔、用なき時の閻魔顔」を何度も繰り返してきたが、これがパキスタン人の米国に対する不信感を募らせてきたのである。ブッシュ氏は今後もパキスタンを訪問する際にはこの「公報活動」を続けていくであろう。

米国と南アジア諸国との関係はより緊密の度合を増してきたが、米国が同地域で直面するすべての問題が解決されたことを意味するものではない。現段階において、米国とインド、パキスタン三カ国には主に以下のような問題が横たわっているが、それぞれに態度は保留している。

◆印パの緊張緩和プロセスを傍観する

ブッシュ氏は、南アジア歴訪ではインドとパキスタンに対し、米国と印パとの関係が両国の「和平プロセスを推進する力の源の一つ」であることを喚起させると表明していた。米国の南アジア地域における最大の利益は対抗せず、和解もしないという不確定な印パ関係を維持することにあり、ことに主要な精力を国際的な反テロと「中東の民主化」の推進に向けている状況では、ブッシュ政権が印パ和平プロセスに対して実際的に講じるのは傍観する姿勢であろう。ただブッシュ氏は、カシミール問題は印パ間の問題であり、米国は両国が紛争解決に向け行動を起こすよう求めても、「それ以上のことはしない」と明言している。

◆米印の核合意後の作業

ブッシュ政権が今後なすべきことは三つある。第1は、インドへの民生用核技術と核燃料の供与承認に向け米議会に法改正を促す。第2は、原子力供給国グループ(NSG)の44加盟国がインドをNSGの原子力関連技術輸出禁止措置の「例外扱い」にするよう要請する。第3は、国際原子力機関(IAEA)とインドによる民生用施設への査察受入れを巡る協議を推進する。

◆インドが米国に完全に同調することはない

インドは地域の大国としての地位を目指してきたが、自国の目的を達成するため他の大国に頼ることはなかった。インドは、他国の国益に縛られれば、真の意味での大国外交にはならないと見定めているので、一貫して独立自主の外交路線を遂行し、対米関係の処理に当たってはなおさらこの原則に従っている。インドは対米関係を発展させることに積極的だ。例えば、自国の軍事力を増強するため、ここ数年は米国から武器や装備を購入するなど、両国間の軍事交流を強化している。その一方で、平等互恵の方針を堅持し、一部問題で立場の相違はあっても、決して自国の原則的立場を放棄することはしない。インドの左翼政党は、米印の核合意は米国がインドの原子力開発を抑止し、内政に干渉する道を開くものだと指摘し、「インドの独立以来、史上最大の恥辱だ」との批判の声も上がっている。

◆反テロを巡る米国とパキスタンの立場の相違

ムシャラフ大統領は「テロリズムと過激主義は概念上異なるものである。テロリズムは武装勢力であるから、軍事的手段で一掃しなければならないが、過激主義は一種の宗教的思潮であるから、人々に説得する方法でそれを放棄させる必要があるが、軍事的手段に訴えてはならない」と考えている。米国は、ムシャラフ大統領としてはテロとの戦いを一段と強化し、アフガニスタンのカルザイ政府を支持すると同時に、タリバンなどの過激グループを庇護してはならないと要求。これに対してムシャラフ大統領は、パキスタンは国際テロ組織アルカイダの壊滅にすでに全力を尽くしており、ビンラディンはパキスタン国内には潜伏していない、と指摘した。また、訓練センターを解散し、インドの要求に応じてカシミールの「自由戦士」(イスラム武装勢力)をテロリズムと見なすよう求める米国に対し、ムシャラフ大統領はパキスタン政府としては、カシミールの解放を目指す「自由戦士」の戦いは軍事面ではなく、精神面で支援しているだけだと主張し、さらにインドがカシミール問題で譲歩しないかぎり、今後もこうした支援は放棄することはないと強調している。