2006 No.14
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〈概要〉

「三農」(農業・農村・農民)問題は一貫して中国の発展を妨げる重大な問題となっていた。1979年に農村で改革を実施して以降、社会・経済ともに急速な発展を遂げ、第2、3次産業も成長を続け、2005年に国内総生産(GDP)は18兆2321億元と、1979年の30倍近くに達した。だが、農業には改革・開放でより多くの成果がもたらされることはなかった。農業のGDPに占める比率は下がり続け、1979年の25.6%から2005年には12.4%になった。農業は発展が遅れ、農村の経済は貧しく、農民の生活は低下しており、こうした状況を変えるのが一貫して政府の事業の重点となっている。多様な方法を講じて一部で成果を収めたものの、三農をめぐる総体的に苦しい局面について言えば、良好な解決方法はなかった。

政府はこのほど「新しい農村を建設する」との構想を打ち出し、実施に移すことになった。この構想は三農問題の解決に向け最良の「コマ」になりそうだ。

「三農」問題の解決へ新方法

蘭辛珍

政府を苦悩させ続けてきた「三農」という難題に今日、新たな解決方法が現われたようだ。温家宝総理が提出した「社会主義の新農村を建設する」との構想を含めた向こう5年間の発展計画案が3月14日、最高立法機関である全国人民代表大会(全人代)で採択された。これを受け、今後の政府の三農事業では新農村の建設が重点となる。建設に当たっては(1)現代的農業の発展を促進する(2)穀物の生産を安定させる(3)農民の収入を増加させる(4)農村のインフラ整備を強化する(5)農村の民主、財務及び機構改革を推進する――が柱となるが、温総理は「これはかなり長期にわたる極めて難しい任務だ」と指摘した。

農業問題の専門家で、中央財政経済指導小グループの陳錫文主任は「新農村の建設は、三農問題を解決するベストな方法だ」と強調する。

中国の改革・開放は農村から始まった。70年代末から80年代初めにかけて、家庭請負制を中心とする農業経済体制の改革により改革・開放に向けた幕が開かれた。この改革で農業生産手段が解放されたことで、農業は急速に発展、13億の食の問題が解決された。

1984年以降、改革の重点は都市へと移る。その後の20年余り、農業は工業発展への基礎を築き、農村は都市の経済発展戦略を支援して、工業を優先的に発展させ、都市の建設に重点を置く政策が実施された。この改革はかなりの成果を収めた。

だがこの間、農村の改革は緩慢となり、農業の発展は停滞してしまった。そのため、農民の収入は低下し、都市部との格差は拡大し続け、農民は診察や教育、社会保障を受けるのが難しくなり、こうした問題に社会の関心が集まっていた。三農問題は社会の発展を妨げる一大要因となったのである。

政府の計画では、2020年までを発展に向けた重要な時期と位置づけ、いくらかゆとりのある社会を全面的に建設する目標を達成するとしている。三農問題を円滑に解決できなければ、この目標は達成されない。

新農村を建設

中央政府が発表した2006年1号文書は、新農村の建設に関して「生産の発展、生活のゆとり、文明化、インフラ整備、管理の民主」を目標に掲げている。「生産の発展」とは、現代的な農業を推進し、農業科学技術の革新と転換能力を大幅に向上させ、穀物生産を安定的に発展させるとともに、農業構造の調整を積極的に推進し、農業の産業化を発展させるというもの。「生活のゆとり」とは、農民の増収を図る方法を模索して、持続的な増収を促進する。「文明化」とは、義務教育を早急に普及させ、文化事業を活発化し、余暇文化団体を支援するともに、文化産業を振興し、農民のスポーツ・健康づくりを推進するなど。「インフラ整備」とは、基盤施設の整備を強化し、生活・衛生環境を改善する。「管理の民主」とは、基層組織の整備を強化し、農民の自治体制を健全化するとともに、行政事務の公開と民主的議事制度をさらに改善するというものだ。

新農村の建設に向け、政府は今後5年間に(1)大規模な穀物・綿・油生産基地を建設する(2)1億人の農民の水不測問題を解決する(3)農村間を結ぶため120キロの道路を修復・新設する(4)医療衛生サービスシステムを完備する(5)農民を就業移転させる――など14件のプロジェクトを実施する予定。

また、より多くの農村余剰労働力を都市部に段階的に移転させることを考慮して、中央政府は各地方政府に対し、農民労働者の社会保障問題の解決に向け、最低時間給基準の制定と実施、傷害保険の加入範囲などの具体的措置を講じるよう求めている。

戸籍簿統計によると、農村部の人口は現在9億4000万人にのぼるが、現実の居住地統計では、農村に住む農民はおよそ7億5000万人。約2億人が就業などで実際には農村に住んでいない。新農村の建設により、こうした流動人口が増加する一方で、農民の数は減少し続けていくだろう。

温家宝総理は「社会主義新農村の建設で重要なのは、穀物生産の安定的発展と農民の持続的な増収だ。2010年までには総合生産能力5億トンを達成しなければならない」と強調した。

財政支出を増加

また温家宝総理は、今年の三農への財政支出は前年比で422億元増の3397億元に達することを明らかにした。

この数字を比率にすると、前年に比べ14.2%の増。温総理は「資金の投入方向を調整するつもりだ。国のインフラ整備では、投入する重点を農村に移す」との考えを表明した。

三農への重点資金投入計画は以下の通り。

●教育:今年から2年かけて、義務教育段階の授業料と雑費は全額免除する。今後5年間に、義務教育への財政支出を新たに2182億元増やす。

●医療・衛生:医療・衛生サービスシステムの整備を加速する。5年間の財政支出は約200億元。衛生院や一部県の病院の建物を改修するとともに、設備を更新する。

●農民補助:穀物栽培や優良品種の栽培、農機具の購入に補助金を支給する。2006年の穀物補助資金は前年比で10億元の増。優良品種や農機具の補助についても、前年に比べ大幅に増やす。

●貧困支援開発:2006年は、経済未発達地区への財政支援を拡大する。西部地区に対しては前年比21.2%、238億元増の1359億元。民族地区は同25.6%、40億7700万元増の200億元。さらに貧困支援開発資金として、前年比で7億元増の137億元を投入し、貧困者の生産・生活条件の改善を主要目標に、貧しい農村のインフラ整備を重点的に支援する。

●基層組織への財政支援:2006年に農業税を廃止した後、基層組織の正常な行政運営を確保するため、中央政府は毎年約780億元、地方政府は同約250元を交付する。

●道路建設:向こう5年間に国は1000億元を投入する。

人材面から支援

北京市は、大学卒業生の農村幹部登用を奨励するため一連の政策を打ち出した。今年は近郊の区・郷・村の書記補佐、村主任補佐などを対象に2000人を募集し、新農村の建設を支援していく。

農村の発展を妨げる最大の障害の一つが、人材不足だ。現在、農村部の労働力は4億8000万人。うち学歴が小学生以下は37.3%、中学50.2%、高校9.7%、中等専門学校2.1%、短大・大学以上は0.6%。言い換えれば、中卒以下が全体の4億2000万人、農村労働力人口の87.5%を占めている。

現在、多くの都市が大学生に対し農村部で貢献するよう奨励している。河南省では、村の幹部のうち大卒は3000人を数える。

農業部は農村部の人材構造を改めようと、農民教育への資金投入を拡大する方針だ。先ず、科学技術訓練を大々的に展開する。2003年までにすでに2296人が訓練を受けているが、さらに2010年までに1600万人を再訓練する。

第2に、技能を有する人材の育成を重点に据え、労働力の移転を大々的に推進する。

第3に、即戦力となる人材の育成を重点に据え、今後10年かけて、栽培や養殖、加工、農村経営管理などの人材を養成することにしている。

直面する難題

農業部の杜育林部長は「三農問題は中国にとって長年にわたる古い問題だ。新しい農村を建設するには、農業と農村経済に存在する問題に目を向けなければならない」と強調し、以下の点を列挙した。

先ず、穀物の総合生産能力を高める任務が極めて厳しいことだ。2005年の状況から見ると、干ばつや洪水災害、重大な病虫害などによる生産への影響は深刻さを増しており、水や肥料、農薬などの利用率も低く、穀物栽培の収益は低い。今後を見ると、穀物需要は安定して増大し、しかも耕地面積が減少を続け、水資源不足も深刻であることから、科学技術の進歩による貢献度を短期間で著しく高めるのは難しい。生産能力の向上がますます難しくなることから、国の穀物安全を確保する任務はかなり厳しい。

第2に、農民の増収を持続させるのが難しいことだ。2005年に一部の主要農産物の価格が下落したが、農機具や肥料など農業生産の必需品は逆に値上がりした。長期的傾向から見れば、農業経営は小規模にとどまるため、農業による潜在的収入増は小さい。農村の余剰労働力は現在、1億5000万人に達しており、今後も年間600万人ずつ増えることから、就業移転による収入増は極めて難しい。

第3に、国際競争力が弱いことだ。世界貿易機関(WHO)に加盟してすでに一定の期間が過ぎたが、現在、一部の農産物は輸入品に押され、農産物をめぐる貿易摩擦も増えているため、技術面での障壁を強化して国際競争力を高めるのは厳しく、それに対応するまでにはかなり時間がかかるだろう。

第4に、農業の発展に向けて、科学技術の革新と普及がそれに追いついていないことだ。技術への投入資金が不足し、革新・装備能力が弱く、技術サービスシステムや革新システムが不整備であることが、先端技術の普及を著しく妨げている。

中央財政経済指導小グループの陳主任は「全ての農民をいかに社会保障に組み入れるかが、新しい農村を建設する上で解決しなければならない大きな問題だ」と指摘。その上で陳主任は「農村の金融情勢も楽観視できない。この数年、国有商業銀行は徐々に農村や辺ぴな地区から撤退し、営業拠点の統廃合に乗り出している。農村部では農村信用組合を除けば、支援する金融機関はほかになくなってしまう。財政投入だけに頼り、金融面からの支援がなければ、農村の発展は緩慢になるだろう」と強調する。