2006 No.17
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巨額の外貨準備高の利害とその対策

梅新育研究員
(商務部国際貿易経済合作研究院)

2005年末現在、わが国の外貨準備残高は8188億7200万ドルに達し、前年に比べ2089億ドル増加した。一般的な推計では、このような増加速度に照らせば、中国が日本を抜き外貨準備高で世界のトップに躍り出るのは時間の問題に過ぎない。外貨準備高の源泉は結局のところ経常収支の黒字、または資本収支の黒字にほかならず、90年代以降、経常収支と資本収支は連続して10年以上「双子の黒字」であり、これがここ数年間に外貨準備高が増加し続けている根本的原因だ。2005年について言えば、経常収支黒字は過去最高の水準に達し、通年の貿易黒字は累計で1019億ドルとなった。現行の売渡外貨決済体制の下では、これらの貿易黒字は最終的にほぼ全てが外貨準備高に転化されることになり、外貨準備高増への貢献度はかなり大きい。

同時に、2002年に「人民元引き上げ論」が起きて以来、ホットマネーの流入が外貨準備高に果たす貢献度もかなり突出してきた。正常な状況の下では、為替相場変動による利ざや獲得を狙うホットマネーの流動は資本収支に組み入れられるべきだが、わが国では資本収支の管理・統制はまだ完全に開放されていないため、多くのホットマネーは経常収支の形で流入したものであり、従って、その規模に関連する正確な数字を示すのは難しいが、1年に百億ドル以上ないしは数百億ドルの規模ではいかと考える人が多い。

巨額の外貨準備高には正、負の両面の影響があり、その正の影響は先ず、わが国がすでに、現在も依然として大多数の発展途上国の経済発展を制約している外貨不足から徹底的に脱却したことに表れている。1950年末、わが国の外貨準備高は1億5700万ドルに過ぎなかった。1981年末に至るまでは、10億ドルに達したことはなく、しかも1950〜1980年の間の計11年間は、その年の末時点で1億ドルにも達しないことがあった。1981年末に初めて10億ドルの大台を突破し、27臆800万ドルに達した。1990年には初めて100億ドルの大台を突破して110億9300万ドル、1996年に1000億ドルの大台を突破して1050億2900万ドルに達した。2005年は1年で2000億ドルを突破する増加となった。当時を振り返ると隔世の感があり、中国が外貨不足の時代に別れを告げたのは確かだ。

次に、巨額の外貨準備高によって経済の安定性が増強されたことである。このように巨額の外貨準備高を保有することは、わが国は十分な国際支払能力を有し、債務危機または本人民元為替相場を圧迫する投機的な通貨攻撃にも打ち負かされないことを意味している。

現在の人民元相場の引き上げが予想できる環境にあっては、人民元相場を圧迫する投機的通貨攻撃はかなり遠くにあるように見えるが、外国為替市場はこれまでもその情勢の急変は測りがたく、我々は忘れてはならないが、1993〜1997年にかけて、人民元への引き上げ圧力は今日より弱くはないものの、東南アジアで金融危機が勃発すると、ほぼ一夜にして、人民元はそれから転じて巨大な引き下げ圧力を受けたのである。

負の効果は先ず、外貨準備高が増加する過程でかなりの程度、通貨政策を操作する主導権が失われたことだ。外貨の占める額がすでにわが国の基礎通貨発行の主要な目安となっており、通貨供給増の速度は通貨管理当局の予想を超え、中国人民銀行が2005年初めに制定した通年のM2(定期預金を含む広義の通貨)増加目標は15%だったが、実際に実施した結果は17.5%の増となり、増加幅は2004年末を2.94ポイント上回った。

次に、巨額の外貨準備高により人民元相場の切り上げ圧力が強まり、しかもわが国はかなりの程度、人民元切り上げ圧力の軽減と通貨供給増の抑制の両方に配慮できない難しい立場に陥った。外貨の占める額がもたらす過多な基礎通貨発行が国内の通過市場に与える影響を和らげるには、中央銀行は現金の回収に力を入れるか、または金利を引き上げなければならないが、こうした操作は人民元引き上げ圧力を強めることになる。仮に引き上げ圧力を弱めるために通貨供給を増やすか、または金利を引き下げれば、もともと極めて緩やかだった通貨市場はよりその状況は深刻になり、過度に緩やかな通貨供給も国内の資産市場を刺激しアワの膨張を招くことになる。

第3は、資産の収益格差の問題であり、それは準備資産の収益率が低いからだ。発展途上国の投資資本回収率はあまねく先進国より高く、1994〜2003年の期間、ラテンアメリカや東アジア(日本を除く)、その他の発展途上国はそれぞれ12.9%、14.7%に11.3%であり、発展途上国全体の平均が13.3%であるのに対し、G7の平均は僅か7.8%で、最高の米国でも9.9%に過ぎない。現在の中国の「経常収支黒字の外貨準備資産への転換+外国企業による大規模直接投資の内流」という結果の組み合わせは本質的には、海外の低収益資産で国内の高収益資産と交換しているだけに過ぎず、そのために国民の現在の消費を犠牲にしているだけでなく、回収率のより高い投資機会も犠牲にしているのであり、投資効率の低さがまさに内外に公然と認識されている中国投資の問題点なのである。

2005年の巨額の貿易黒字と外貨準備高の増加額はグローバル経済が均衡を失ったことの重要な表れだと見られるとともに、内外で幅広い関心を呼んでおり、こうした構造は中長期的にかなりのリスクを孕んでいるため、これをいかに調整するかが中国経済の重要課題であり、外貨準備高の増加の不制御を食い止めることが政策議題に上がってきた。外貨準備高増の不制御を食い止めるには、貿易黒字の増加速度を下げる一方で、新たな外国為替管理を通じて国際収支の黒字が全て政府の外貨準備高の増加額として転化されるのを回避する必要がある。

貿易黒字の増加速度を下げることについては、我々がなすべきことは輸出増大を抑制するのではなく、内需とくに消費需要を引き起こして輸入増大を促進することであり、輸入を拡大する際には一次産品の高価格の大量買い入れを避ける必要がある。

外国為替管理制度については、高外貨準備高をもたらしている重要原因の1つは、強制売渡外貨決済制度と10年近く実施してきた非公式な米ドルレートリンク制度であり、こうしたレート設定の下では、企業は保留できる少額の外貨収入を除き、残りの外貨収入は全て規定期限内に国内に戻して人民元に兌換しなければならず、一方、中央銀行は外国為替市場でその他の市場参与者が放出した外貨を全額買い入れなければならいため、外貨準備高はかなりの程度、受動的に増加することになる。これに対処して、我々はすでに外国為替市場に新たなマーケット・メーカーを導入しており、さらに強制売渡為替決済制度を段階的に緩和し、任意為替決済制度に改める必要がある。

外貨準備高の増加を抑制する過程では、我々が期待する達成目標は多元的なものであり、しかも多元的目標の間には一定の対立が存在しており、それには全面的な判断が必要であることを、我々は胆に銘じておかねばならない。マクロ調整の公認された主要目標は経済成長、十分な就業、価格の安定と対外経済の均衡であり、このほか、発展途上国として、さらに国内の産業構造を絶えずグレードアップし、最終的に我々の「追い越す」目標を実現したいと期待している。上述した目標では、貿易黒字と外貨準備高増の抑制(即ち対外経済の均衡)及び価格の安定は統一的なものだが、貿易黒字と外貨準備高増の抑制努力と、経済成長、十分な就業と産業構造のグレードアップという目標との間には一定の対立が存在すると考えていいだろう。輸出そのものが2005年に事実上、中国経済の成長をけん引する機関車的な役割を発揮したからであり、中長期的には内需を外需に取って代わる経済成長の主要な推進力にする必要はあるものの、これを短期間に実現するのが難しいのは、大幅な投資拡大はわが国にすでにあるかなり深刻な生産過剰の局面を一層悪化させるからであり、消費増は収入配分の枠組みの改善や、社会保障システムの再開と改善いかんによって決まるとはいえ、この2点も1日で功をなすものではない。従って、仮に貿易黒字と外貨準備高の増加を過度に抑制すれば、経済成長の失速というリスクに直面する可能性がある。国のマクロ調整部門は、今年のマクロ経済政策の主体が反デフレとなった場合、恐らくこのリスクに耐えうるのは難しい、との考えを明確にしている。

それだけでなく、米欧は我々の主要な貿易パートナー兼最大の貿易黒字の源泉であるため、わが国の輸出業績はかなりの程度、その内部のマクロ経済情勢に左右される。今年の米欧の経済情勢は良好であり、その輸入と貿易赤字の総体的規模が短期間に著しく削減される可能性はあまりなく、我々が仮にひたすら貿易黒字の増加を抑制しようとすれば、その結果、本来獲得できる市場を失うに過ぎず、かえってその他の国(一部の中国と潜在的に政治・軍事競争関係にある国)に機に乗じさせる可能性は大きく、米欧の貿易保護主義の震度も著しく低くなることはないため、我々は二兎とも失うことになる。

産業構造目標については、我々の関心は、貿易が最大限度、国内の経済成長をけん引する役割を発揮できるかどうかにある。加工貿易と一般貿易それぞれの成長状態、及び加工貿易の国内付加価値率の上昇傾向を分析すれば、中国の貿易収益は積極的な拡大傾向にあると見ていいだろう。その傾向は以下の3点に表れている。先ず、一般貿易方式が再び起こる兆しが出てきたこと。第2に、加工貿易方式で、原料輸入・加工の成長速度が継続して委託加工の成長速度をはるかに上回っていること。第3に、加工貿易の国内付加価値率が上昇傾向にあること。とくに加工貿易の国内付加価値率は現在、上昇傾向という一点にあり、委託加工・組立と原料輸入・加工、この2種類の最終目標市場が輸出の加工貿易方式であるとして、大まかな計算に基づき、上述した2種類の加工貿易方式の国内市場で購入し投入した物品にどれだけの輸入要素があるかは考慮せず、加工貿易用の輸入設備を含めた場合、わが国の加工貿易の国内付加価値率は2002年から2004年に順に45%、47%、46%であり、2005年1〜11月は50%だった。長期的に言えば、2005年の貿易方式の上述した発展傾向は中国の国際分業体系での地位の改善に有利であり、国民経済の持続的で安定かつ協調の取れた発展に有利だが、中短期的には、上述した発展傾向はさらに貿易黒字の増加を推し進めることになるだろう。我々はひたすら貿易黒字の増加を求めるべきではなく、貿易紛争や人民元引き上げ圧力を抑え、人民銀行による相殺のための介入負担を減らす必要があるものの、上述した中短期的な目標を求めるための手段を制限してもわが国の貿易方式の上述した発展傾向は抑制すべきではなく、でなければ、我々の長期的な発展目標を損ねることになる。

これに鑑み、少なくとも今年について言えば、我々は対外経済の均衡を求める際に単純に輸出と貿易黒字の増加を抑制すべきではなく、以下の2つの面から着手する必要があり、即ち、資本収支の黒字を減らすことを求め、外国為替市場と外国為替管理制度を調整することで、黒字を全て政府の外貨準備高の増加額として転化するまでもないようにすることだ。第1は、我々がなすべきは監督・管理を強化し、ホットマネーの流入を減少し、資本流出の自由度の適度な拡大を継続し、資本の流出規制を秩序よく緩和して、対外直接投資の増大を推進することである。ある意味で、我々は中国式貿易黒字計画を制定する必要があるのかも知れない。第2は主に、任意為替決済制度に移行することである。