2006 No.23
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プレッシャーの多い子供たち

――伝統的な「少年時代」という概念にある素晴らしさを子どもたちが経験することが少なくなりつつあるのは、プレッシャーに満ちた学校内外での生活がその主因だ。

唐元カイ

北京の小学1年生の歳成くんはまだ7歳。父母の“指示”で10年余り先の大学受験の準備をすでに始めた。だが、“戦いの準備”は順調ではない。最近は常に注意力が散漫になり、いつも気分の悪さを訴え、拒食ときには過食をするようになった。精密検査をしたが、病気ではない、というのが医師の診断結果。小児科医は両親にカウンセリングを受けるよう勧めた。

「彼の症状の原因は非常に簡単で、プレッシャーだ」。カウンセラーはこう見ている。「プレッシャーを感じるのは一種、自然の反応。だが現在、多くの子どもは多方面からの期待や要求に耐えられない、あるいは処理できないために、心の問題を抱えている」

歳成くんは時間ごとに“奮闘する”生活を決めた。毎朝5時半に両親か目覚まし時計に驚かされて起床。最近は5時20分ごろに自分で起きるという。5時45分から30分間ジョギング。7時。3キロもあるカバンを背負って家を出る。両親かおじいさんが3キロ以上ある学校まで送ってくれる。午後5時前、おじいさんに迎えられて家に帰り、宿題を開始。7時、夕飯を食べながら家族と中央テレビ局のニュースを見る(本当はアニメを観たいのだが、それは“贅沢な希望”に過ぎず、土曜の2時間だけ実現)。食事をして15分後、先ずするのはコンピューターを開くこと。だが、ゲームを楽しむのではなく、山と積まれた数学のソフトを選んで練習。そうでない時は、英語を学んだり古詩を暗記したり……。

「1歳半の時、アルファベットを教え始めました」。父親の歳軍さんは自慢げに話す。これからは外国語を2つか3つ、マスターして欲しいという。「10歳の時には、数学のオリンピック班に入れさせるつもりです」

実際、歳成くんは毎週土曜、数学の私塾に通っている。だが、彼は“非公開”の場で何度も「数学には何の興味もない」。さらに日曜には、バイオリン教室にも行かなければならない。

歳軍さんは「私たちが厳しくしているのは、息子が有用な人材になれるよう確かな基礎を築いて上げるため。それに少年時代を豊かで、充実した意義のあるものにしたいと思うからです」と語る。父親は子どもがプレッシャーを受けているとは思っていない。だが、歳成くんの少年時代は決して楽しいものではなく、バランスを欠いた少年時代であるのは明らかだ。

バランスの取れた少年時代について言えば、少なくとも学校に行く、授業を受けるほかに、さらに遊ぶ時間が必要だ。両親はこれまで彼を遊ばせようとしことはない。ただ、しなければならない“より大切なこと”が非常に多く、それは“習うことを放棄”せざるを得ないほどであり、全ての“余暇の時間”をほとんど学習に充てているのだ。今、歳成くんは学校に入る前に近所の友だちと一緒に遊んでいた日々が懐かしいと言う。

教育専門家は「児童も家庭以外での接触が必要である。こうした人間関係は、子どもたちが他人を理解し、社会の支援ネットワークを確立するのを手助けしてくれるからだ。忙しすぎる児童はこうした関係を築くことはできない」と指摘。具体的に歳成くんについては、悪い結果が現れているとして、「同級生に対して、自分から何か言いたいと思っても、常にどんな風に口を開いたらいいか分からない。そのため彼はいつも物寂しく孤独な気持ちになってしまい、性格も徐々に臆病に変わりつつある。男子生徒に突かれても、体を揺らしながら、この互いの動きを利用してどう彼らと交流すべきかが分からず、そのため笑い返すほかなく、同級生からは軽視されてしまう」と分析する。

歳成くんの周囲には、同じ様に“グループに馴染まない”児童がかなり多い。

「僕もじき李トさんの様になってしまう!」。取材した際、彼は泣きながら叫ぶように言った。

「李トさん」とは、彼がある雑誌の報道で知った「同級生」。やはり一人っ子で、彼より5歳年上。記者が取材をした時に呆然とした表情をしたことについて、「顔の神経と筋肉を緩めているの」と語ったという。学校が終わってバスで家に帰る時に、窓の外を見るのが習慣だ。彼女にとって本当に自分に属する“戸外の時間”なのだ。彼女は大半の時間を家と学校、補習教師の家で過ごす。学校に行く前にはピアノの練習を開始。小学校に入ると数学オリンピック班、英語班に。中学1年の今は毎週、3科目の補習を受けている。「今年は旧正月に両親が数日休ませてくれた以外、ずっと勉強が忙しくて、忙しくて……」と李さん。

学校から家まではバスで約30分。家から3分ほどのところにも中学はあるが、両親は人に頼んで家から遠い現在の中学に通わせた。重点高校への合格者が多いからだ。両親は学校の近くに部屋を借りるつもりだったが、彼女は拒絶した。「私は両親に、お金を使ってまで苦労する必要はないと言ったのだけれど、本当は、別に考えがあったの」

真の理由は、忙しさのなかに暇を見つけたかったからだ。たとえ可愛そうなほど短い30分余りの時間であっても。

「1日で唯一ホットする、一番リラックスできる時なの。眠る時でもそんなにリラックスできません」。彼女はいつも翌日の午前2時まで勉強している。「眠りが浅いと突然、勉強が終わっていないと思って目が覚める時があるのです」

歳成くんは自分も李さんと同じ様に、夜の雰囲気がますます好きになってきたと言う。「夜は落ち着いていて、寂しく、心境にずっと近く、親しみを感じる」。彼はこうした孤独な気持ちが自分の性格の一部になっていると感じている。あるいは毎日、不愉快にさせることは何も起きていないのだが、自分を愉快にさせる理由が見出せないのかも知れない。

現在の中国では、歳成くんや李トさんの様に少年時代を楽しむことのできない子どもは決して少なくない。彼らが受けるプレッシャーは心理的な問題、ひいては社会問題を引き起こしやすい。

昨年9月、中国青少年研究センターは北京や上海、広東、雲南、甘粛、河南の6省・直轄市で「小中学生の学習と生活の現状と期待に関する調査」を実施。その結果、平日であれ週末であれ、学習時間が教育部門の基準を超える比率が平均50%以上であることが分かった。小学1〜6年生では、週末の宿題時間は同70%以上。また半数近い小中学生が夏休みに補習班に参加。さらに同57.6%が「学習のプレッシャーが大きい」と悩んでいるが判明した。

「全国17歳以下の児童・生徒のうち、様々な情緒の障害や行動に問題があるのは少なくとも3000万人にのぼる」。北京大学精神衛生研究所の王玉鳳研究員によると、小中学生での心理障害の罹患率は21.6〜32%に達している。

罹患者は3つに分類できる。先ず、精神分裂症や偏執性精神病など、重度の精神病患者だ。この比率はかなり低い。次に、よく見られる運動過剰症、児童うつ症、児童孤独症、児童不安神経症などの精神障害患者。また情緒が落ち込み状態から狂乱へと、両極に乱れる子どもも少なくない。これは従来、成人だけに見られた症状だった。第3は、一部の精神疾病を患う危険度が高い子どもだ。即ち、精神障害と診断する基準には達していないが、すでにその一部の症状が見え始めており、そのまま放置していれば病気になるケースだ。

児童の心理の疾病に関心を寄せてきた中国新聞社の記者、何暁鵬氏は「重視すべきは、運動過剰症や不安精神症、憂鬱症など、心の疾病が標的にしている対象が低年齢化していることだ」と指摘する。

専門家がさらに憂慮するのは、心の病気を患った多くの子どもたちの年齢が性格を形成する重要な時期と重なっていることだ。この時期の児童に見られる心理的な異常は通常、自然に回復することがないため、その性格に直接重要な影響を与えることから、抑圧された性格になり、心は傷つき、成人になるまで、彼らの社会性や交流能力の育成を阻害してしまうことになる。北京少年児童心理衛生センターの主任、鄭毅教授は例を挙げて説明する。「これはまさに幼いころのカルシウム不足でかかるクル病のように、たとえ成長した後にいかにカルシウムを補給しても、治すことはできない。それはカギとなる時期を過ぎてしまっているからだ」

心の疾病はますます「国際的な病」になりつつある、と言っていいだろう。国連児童基金(ユニセフ)が公表したデータによると、程度の差はあれ世界で心の病を患う児童の比率は20%に達しており、5人に1人に相当する。中国疾病予防制御センター精神衛生センター弁公室の主任、劉津博士は「3000万人の子どもが心の問題を抱えている、というのは最も控えめな推計であり、実際は5000万人にのぼっているだろう。『3000万』というデータは長年用いられてきたので、それ自身が1つの推算に過ぎない」と憂慮を示す。さらに劉博士は「中国ではこれまで全国的な疫学調査は行われておらず、各地で実施された局部的な調査を通してしか推算できない」とも指摘する。

昨年に上海婦女連合会が公表した調査報告では、同市の小中学生の心の障害発生率は21〜32%だった。

北京大学精神衛生研究所は北京市の一部の市区の小学生を対象に4回、「児童の心理と行動の問題の罹患率に関する調査」を実施。1984年は8.3%、1993年10.9%、1998年13.4%、2001年は18.2%に達した。この数回にわたる調査では、調査区域を選択した前後で多少の変化はあるものの、数字が反映する増加傾向から深刻化しつつあることは間違いない。