2006 No.25
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民間が海外流出文化財を回収

「中華搶救流失海外文物専項基金(海外流出文化財保護組織)」は、今回派遣した「文化財回収団」の主要な目的は、単に海外からどれほどの文化財を取り戻すかではなく、流出した文化財を買い戻すモデルを確立とともに、社会がこうした文化財返還問題に関心を寄せる雰囲気を醸成することだ、と話している。

馮建華

民間の収集家からなる全国初の「海外流出文化財回収団(以下、回収団)」は5月9日、7日間の日程を終えて日本から北京に戻った。回収団の発表によれば、東京や横浜、名古屋、京都、大阪などを見て回り、経済的価値の高い文化財20数点を買い戻したという。

1840年のアヘン戦争以降、中国の貴重な文化財は戦争や不正な貿易などで大量に海外に流出した。中国文物学会の統計によると、この百数十年の間に欧米や日本、東南アジアなどに流出した文化財は1000万点超。うち国指定の1、2級の文化財は百万点余、至宝は数十万点を数える。そのほとんどは民間に散在している。ユネスコ(国連教育科学文化機関)の統計によれば、世界47カ国200余りの美術・博物館が収蔵する中国の文化財は167万点にのぼるが、個人収蔵の10分の1にすぎない。

歴史の証明として、文化財は文明を伝承する重要な媒体である。ある意味から言えば、文化財という「証左となるもの」を失った国あるいは民族は、まさに一部の歴史が切り離されたようなもので、完全とは言えない。こうしたことから、経済的地位の向上に伴って、中国社会でも海外に流出した文化財を探し戻すよう求める声があちこちで上がってきた。国際的に見ても、こうした要求は普遍的だ。多くの国が法律と道義の原則に基づいて、違法な手段やルートで海外に流出した文化財の追跡に粘り強く取り組んでいる。国の主権と民族の尊厳を守るために、強硬な外交手段をとるケースさえあるほど。

率直に言えば、国内に多くの問題を抱えているため、政府にこの問題を顧みる余裕がないのが実情だ。民間の力が強まってきたのにはそうした背景がある。2002年10月に北京で発足した「中華搶救流失海外文物専項基金(以下、基金)」は、民間ルートを通じて、政府に協力して海外流出文化財の回収を促進する全国初の民間公益組織。基金の専任職員はわずか4人だが、創立以来の活動はすべて幅広い関心を呼んだ。2003年7月5日、基金は中国の法律や、中国が調印した国際条約の原則に基づいて、多ルートを通じて海外流出文化財の祖国返還の実現を目指す「国宝級文化財回収プロジェクト」をスタートさせた。今回の回収団派遣はその一環。今後はアメリカやフランス、イギリス、スウェーデン、ノルウェーなどを回る計画だ。

回収団については、「人心を得、民意を反映したもので、もっと早く行動を起こすべきだった」と評価する人が多い。一方、「実際は愛国という看板を掲げての商売行為にすぎず、たいした社会的意義はない」と批判的な声も一部にある。また「国宝の返還では、政府が主要な役割を果たし、外交・法的手段を運用すべきだ。民間組織の力は象徴的なものにすぎず、根本的にはたいした実質的な役割は担えない」といった「理性的」な意見や、「失業者を多く抱え、また文化財が効果的に保護されていない状況で、たとえ海外から文化財を買い戻したとしても、『恥の上塗り』になり、全くそんな必要はない」といった声もあるほどだ。

回収団を送った動機は何か。民間組織としてどんな役を演じるのか。こうした問題について、団を組織した基金の牛憲鋒副事務局長に5月22日、インタビューした。

記者:なぜ今回、回収団を組織したのか。

牛氏:経済条件が改善されるにつれて、ここ数年、民間で収蔵熱が高まってきた。一部の収集家は視野が広がってきたことで自然、海外へという考えが芽生え始めた。すでに海外に出ている収集家は大勢いても、ほとんどが「一兵卒作戦」だ。だから効果は大きくない。もし、民間組織がこうした収集家をまとめて共同で買い戻せば、相手の信用が得られやすくなるだけでなく、双方の交流や効率の向上にも役立つだろう。また、2002年10月に改正された「中華人民共和国文物保護法」で、民間でも購入やオークションなどの形で文化財を手に入れたり、法律に基づいて流通させたりすることが許されるようになった。これで庶民の文化財回収にある程度、法的根拠が整った。回収団を組織したのは、国内の収集家の要望に応えるためだ。

一方で、社会的に大きな関心を集めることで、流出した文化財に社会が関心を寄せる雰囲気を醸成したかったためでもある。違法に海外に流失した文化財を探し出すのは国家間のことだから、政府が主体となるべきだとは思っている。この面では、イタリアなどに成功例がある。しかし、そうだからといって、民間組織としての役割と力を無視してはならない。国際的には、この問題では民間組織が先行しており、地固めをした後に、政府が決着をつけるケースが多い。

記者:回収団の目的は何か。

牛氏:単にどれほどの文化財を取り戻すかではなく、買い戻すモデルの確立を探索することにある。回収する方法は主に海外からの返礼、買い戻し、返還の請求の3つがある。

返礼の形はここ数年増えてきたが、全体的に見て制約があるため、主要なモデルとはならないだろう。

違法に海外に流出した文化財の返還を求めるのは、過敏になりやすく複雑な問題だ。国連が国際条約の中で「文化的財産はその地で保護する」との原則を打ち出しているにもかかわらず、いざ実行するとなると、さまざまな妨害に遭遇する。例えば、2002年12月9日、大英博物館やパリのルーブル美術館、ニューヨークのメトロポリタン美術館など欧米18の美術・博物館は共同声明を発表し、芸術品とくに古代の文化財をその国に返還することに反対する姿勢を示した。この声明は世界に大きな論議を呼んだ。私の知るところでは、中国には返還を求めて海外から戻った文化財はまだ一つもない。

違法に海外に流出した文化財の多くは、ほとんどが曲折を経て市場に流通し、一種の商品となっている。この点から見れば、市場を通じて買い戻すのが不可欠な手段だと言えるだろう。基金が模索している方式は、国際協力や文化交流を通じて、平等な対話をもとに返還を実現することだ。

記者:世論は回収団の民間としての性格に大きな疑問を持っている。愛国という看板を掲げた商業行為だと見る人もいるが、これについてはどうか。

牛氏:完全なる民間行為であって、政府からはいかなる指示や資金援助もない。基金はただ慣例に従って、主管する文化部に届けを出しただけだ。収集家はみな自費で参加した。基金は民間の公益団体として、組織する役割を果たしただけで、当然ながら、より良い成果を上げようと、文化財を鑑定する専門家を招聘して同行させた。

民間としての性格を疑問視している人が一部いるが、それは中国人独特な思考方法だ。このような「民族的感情」を帯びた活動の背後には必ず政府がいる、と考えるのだろう。だが、実際はそんなことはない。海外に流出した文化財を中国に戻すのは大きな時代の流れになっていて、基金はその流れに乗っているだけなのだ。言い換えれば、回収団を組織したのは市場経済が発展した中での必然的な流れであって、自然な結果である。仮に基金が組織しなかったとしても、他の機関がきっと同じことをしていただろう。

ある程度、文化財は一種の商品であって、ただ普通の商品と比べれば特殊な商品だ、というにすぎない。団を組織したのは商業行為だとは認めるべきだが、社会的効果から見れば、公益的な性格があり、経済的価値だけではとても計れるものではない。

記者:何故これほど大きな反響を呼んだのか。このことは予想していたのか。

牛氏:予想していた、と言うべきだろう。基金がこれまで行ってきた活動が社会の関心を集めていたからだ。ただ、一部のマスコミは基金を買いかぶっている。さらには感情的なところもある。たとえば、ややもすれば文化財の海外流出と民族の自尊心を同列に扱いがちな傾向がある。ここで強調しなければならないのは、戦争や略奪といった非合法な手段のほかに、海外に流出した文化財の中には、貿易や文化交流など合法的なルートで海外に出たものもかなりあるということだ。しかも、たとえ違法に流出した文化財を収蔵していても、その人が非合法的な行為をしたとは限らないのだ。また、文化財の海外流出はある意味で恥ではなく、逆に国が強大であることの表われでもある。例えば、封建社会の全盛期である唐代(618-907年)には、その文明と文化は大量の文化財の流出によって世界各地に伝わっていった。こうしたことから、この問題は理性的かつ客観的に判断するべきで、個人的感情をはさんではいけない。

記者:今回の活動で、何か遺憾に思うことはなかったか。

牛氏:活動そのものは、別に、遺憾だとは思わない。ただ、収集家からは「見たものや、買えたものが少なかった」との声がある。一部の収集家はかなりの額のお金を持っていったが、「実力が発揮できなかった」と言う。この問題は二つの面から考える必要があるだろう。一種の商業行為として見れば、「買い戻すという行為」はきりのないことなので、満足しないと感じても、おかしくはない。その一方で、言葉が通じないので意思疎通や交流がうまくできなかったなど、客観的な要素と関係があることだ。また、国内の収集家は駆け引きが下手だ、ということも要因となっている。

なんと言っても、今回はスタートにすぎない。基礎ができて、今後も活動を継続していけば、成果は上がっていくだろう。現在、内外の収集家が情報を互いに共有できる場を設けて、海外に流出した文化財の返還がよりスムーズに行えるよう、それを平等な話し合いできる場にしていきたいと考えている。