2006 No.28
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「2049計画」と「要綱」

中国は全成人を対象に科学的素養の向上を目指す長期戦略計画を策定した。だが、専門家はこの計画の実行可能性に疑問を投げかけている。

馮建華

中国は2020年までに革新型国家を築き上げる目標を打ち出したのに次いで、今年3月には「全国民の科学的素養に関する行動計画要綱(2006−2010−2020年)」(以下「要綱」と略称)を発表した。この「要綱」は1949年の新中国成立以来初めて策定された全国民の科学的素養の向上を目指した綱領的文書だ。

「要綱」は「2049計画」に基づいて制定された具体的な実施案である。「2049計画」とは、建国50周年の1999年に、中国科学技術協会(以下「中科協」と略称)が全国民の科学的素養を高めるために中央政府に提出した計画案であり、建国100周年に当たる2049年までに、全成人が基本的な科学的素養を身につけることを目標としている。この計画案は2002年4月に国務院に認可され、2003年10月に本格的にスタートした。

「要綱」は、今後15年間の各段階での主要な目標や課題、措置を提起している。

では、この長期戦略計画を提出したのはなぜか。「国民の科学的素養は国民経済の持続的な急成長に伴って大幅に向上するどころか、経済と社会の発展を制約するボトルネックとなっているからだ」と中科協のケ楠副主席は説明する。

中国科学院科学技術政策・管理科学研究所の朱効民博士は「米国の『プロジェクト2061』に啓発されて、米国に学ぼうとしているのは明らかだ」と見ている。

1980年代以降、国際的または全国規模の計画を策定、実施して国民の科学的素養を向上させることが世界的な潮流となった。米科学振興協会(AAAS)が中心になって1985年に策定を始めた「プロジェクト2061」は、2061年にハレー彗星が地球に戻るまでに、米国社会を担う人材を育て、実際に世の中に送り出し、特に初等、中等教育(K-12)のレベルを世界的レベルにまで引き上げることを目標とする人材養成計画だ。

「要綱」の内容

「要綱」は、(1)2010年までに、国民の科学的素養が明らかに向上し、世界主要先進国の1980年代末期のレベルに達する(2)2020年までに、全体的に見て主要先進国の21世紀初期のレベルに達する――との段階的目標の実現を目指している。

また「要綱」は未成年者や農民、都市部の労働者、幹部や公務員を重点グループにすることで、全国民の科学的素養を向上させていくとしている。

四つの重点グループが選ばれたことについて、専門家は「未成年者は国の未来であり、全体的に科学的素養を向上させる上でカギとなる層だ。農民と都市部の労働者の科学的素養はあまねく低く、現代化の実現を制約する“ボトルネック”となっている。幹部と公務員の科学的素養は国の発展にかかわるものであり、社会の手本となる働きがあるからだ」と分析している。

計画の目標を実現するため、「要綱」は四つの「基本的プロジェクト」を打ち出した。第1は科学教育と訓練、第2は科学普及資源の開発と共有、第3はマスコミによる科学技術の伝達能力の育成、第4は科学普及のための基盤施設の整備である。

科学普及に投入する費用は、一人平均にしろ、GDPに占める比率にしろいずれも低く、全国約3分の1の地域では、年間費用は1人平均0.2元足らずであり、一般向けの科学普及の場や施設は非常に少ない。米国では平均41万人に科学技術博物館が1カ所あり、日本では38万人、中国は540万人と高く、しかも施設は小規模で技術的にも立ち後れている。

そのため「要綱」は、今後5年間に、各直轄市や省都、自治区の区都に少なくとも大・中型の科学技術館を1カ所建設し、市街の常住人口が100万人以上の大都市には少なくとも科学技術関連の博物館を1カ所建設すると提起している。また国家クラスの青少年科学技術教育基地と科学普及教育基地を現在の約300カ所から500カ所、省・部クラスでは約1000カ所から2000カ所まで増やし、無料または低料金で定期的に一般開放するとの目標を設定している。

2003年に行った調査によると、国民の90%以上がテレビを通じて科学技術情報を得ている。とはいえ、マスコミが伝える科学技術関連の内容では科学的素養を高めたいとの要望を満たすことはできない。

「中央テレビ局の科学普及番組の放送時間は全体の9%に過ぎず、視聴率はまだ1%足らずであり、そのうえ受信できないところも多い。日本では、放送時間は15%、米国では20%を占めている」と中国科学技術館の王渝生館長は指摘する。

こうした状況から、「要綱」は「科学技術を伝達するマスコミの知名度の向上に力を入れ、テレビの科学技術番組の質的向上を奨励、支援するとともに、読者が多く、しかも知名度の高い総合新聞に科学技術に関するコラムなどを開設する。科学知識を普及させるための図書や新聞、AV(音響・映像)製品、電子出版物を出版するほか、マスコミ業界に一定規模と影響力のある科学普及出版機構を設ける」ことを提起している。

普及だけでは

「2049計画」の発起者と主な組織者である中科協は、1958年に発足した科学技術団体だ。科学の普及が主要な仕事だが、長年にわたり技術の普及や生産力の拡大に限られてきたのはかなりの程度、当時の国情によるものだった。「当時は衣食の問題が完全に解決されていなかった。そんな状態で地球がどう回転するのかといったことを調べる興味が湧くだろうか」と朱効民氏は指摘する。

発展して以降、農業部や科学技術部、林業部などの部・委員会は技術普及に乗り出した。朱効民氏は「こうした状況の下、中科協としてはいかに科学普及活動を展開するか、科学普及をいかに位置づけるかを考えなければならなくなった」と強調。同氏は先ごろ公布された「国家中長期科学・技術発展計画要綱」の課題検討作業(温家宝総理が座長)に参加し、執筆を担当した。また「2049計画」の研究に強い興味を持っており、幅広い関心を呼ぶ論文を次々と発表している。

「2049計画」が策定された当初、中科協は軸足を基本的には科学普及に置いていた。だが、深く検討した結果、朱効民氏は「科学教育の役割を排除してしまえば、科学普及が国民の科学的素養の向上に果たす貢献は非常に小さなものになり、少なくとも学歴が小学校以下の国民について言えば、向上させることはできない」と結論づけた。この意外な結論は大きな論議を呼んだ。

「『要綱』を読んでも分かるように、『2049計画』の考え方は明らかに変わった。科学普及活動の展開が国民の科学的素養を高める唯一の手段だと考えることはせず、多様な手段を運用する、なかでも科学教育を優先するとしているのは大きな進歩だ」と朱効民氏は強調する。

1つの国の国民の科学的素養のレベルは正規の科学教育の年数と大きく関係しており、全国民の科学的素養を向上させることができるのは学校での正規の科学教育だ。

朱効民氏は「科学教育はある程度強制的なところがあり、教育する対象が同じであるため、実行可能性は高く、明確な考査基準が設定できることから、国民の科学的素養を向上させるには最良の方法だ。拘束力の弱い科学普及では達成できない」と指摘する。

「2049計画」は18歳から69歳までの国民を対象としており、「要綱」はそれを踏まえて未成年者など四つの重点グループを定めた。

「私の考えでは、重点グループを定めたことで、かえって重点がぼけてしまった。実際には十把ひとからげにしたものであり、実行するのは難しい」と朱効民氏は端的だが、「国情によるもので、仕方のない方法だ」とも話す。

目標は実現できるか

米国は76年かけて全国民が科学的素養を身につける目標を達成させる計画だが、中国はわずか50年で実現するつもりだ。こうしたことから、期限どおり達成できるかと懸念する人は少なくない。

中米両国の基本的国情を比較してみよう。1990年代初期、基本的な科学的素養を身につけた国民の比率では中国は0.3%だが、米国は1989年に6.9%に達していた。2003年には中国では1.98%まで上昇したが、米国では2000年に17%に達し、両国の差は今も拡大しつつある。

1人平均の教育年数を見ると、米国では1999年に12.7年(大学1年に相当)となり、中国では2000年に15歳以上25歳以下で7.85年、25歳以上は7.42年である。この数字はわずか中学二年のレベルであり、米国の100年前の15歳以上の教育レベルに相当するに過ぎない。

米国は20世紀中葉までに、25歳以上の1人平均教育年数を8年から9年まで引き上げるのに約40年の歳月を要した。

「中国では9年制義務教育さえまだ普及しておらず、一体いかにしたら全国民の科学的素養をできるだけ早く高めることができるのか、いかにしたら所定の目標を達成できるのか。これは計画を策定するに当たって避けることのできない課題だ」と朱効民氏は指摘する。

中科協の徐善衍副主席も「『2049計画』の実施は急ぐことも待つこともできない。国民の科学・文化的知識レベルの差が大きいため、それぞれ個別に計画を作成して実施すべきであり、それには長期にわたる複雑な作業が必要だ」と直言する。

「プロジェクト2061」では、300人余の専門家を動員し3年かけて1989年に報告書をまとめ、さらに4年(1989〜1993年)かけてK-12モデルカリキュラムと達成基準をそれぞれ設定。1995年には「国家科学教育基準」を正式に公布しており、「推敲に推敲を重ねた」ものだと言えるだろう。「2049計画」では、基礎的検討は約200人の専門家によって半年余り行われただけであり、しかも理論的研究や政策の制定、計画の試行がほぼ同時に進められた。朱効民氏など一部専門家は、「2049計画」は多少性急に進められ準備不足ではないかと懸念を示す。

「要綱」の実施に当たっては、例えば資金の投入などで実行可能性に欠けている。「要綱」は各地方政府に対し、財政状況と国民の科学的素養向上の必要性に応じて、教育や科学普及の経費を段階的に増やすとともに、予算に計上するよう求めている。これは明らかに柔軟性のある要求だが、強制的な拘束力が一旦失われれば、この規定が実際には大きく変わり、ひいては形骸化してしまうのは間違いない。

朱効民氏は「『2049計画』はさらに完備させ、細分化する必要があり、PRのために声を張りあげる段階にとどまっているだけではいけない。実行可能性を高めることが当面の重点だ。でなければ、少なくとも現時点で見れば、この計画の将来性は楽観視できるものではない」と強調する。