2006 No.30
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国境貿易に新たなチャンス

チベット自治区とインド北東部のシッキム州を結ぶ乃堆拉(ナトゥラ)峠の国境貿易ルートが40余年ぶりに再開されたが、その意義は単に二国間貿易の拡大にとどまらず、両国のさらなる信頼関係の構築にも役立つと考えられる。

張利軍
(中国国際問題研究所 研究員)

中印両国は隣国であり、同じく発展途上国でもあり、国際社会における影響力はきわめて大きい。両国はここ数年、経済が持続的に発展し、総合国力が絶えず向上するにつれて、外交活動もますます活発となり、いずれもアジアでの影響力拡大や資源開発を目指している。それゆえある程度、両国のアジアにおける影響力が入り組むのは必至である。例えば、双方はいずれも東南アジア諸国連盟(ASEAN)、中央アジア協力機構(CACO)、南アジア協力機構会議(SAARC)などの地域的な協力組織及び各国との関係発展や、協力水準の向上、影響力の拡大、資源の獲得などを重視している。

現在に目を向ければ、二国間関係の処理に当たっては、両国はいずれもある程度、不信感や警戒心を抱いている。アメリカと日本はアジア情勢の変化と発展を左右する大国ではあるが、それぞれ異なる戦略的意図から、インドを極力引き込もうとしたり支援したりして、中印両国と米日との関係をいっそう微妙かつ複雑にさせている。しかし、中印両国は、意思疎通と交流を強化し、政治や経済、文化などの分野での対話を重視し、互恵協力を進めてこそ、共同の発展と繁栄を実現できることをすでに認識しているのである。7月6日、中印両国が40年余り閉鎖していたナトゥラ峠の国境貿易ルートを再開したことは、相互信頼の増強と協力の強化を本格化させる措置と見られる。

協力の潜在力はきわめて大きい

今回のナトゥラ峠の再開は一時的なものである。ナトゥラ峠から約16キロ離れた洞青崗地区に市場を設置し、毎年6月1日から9月30日の間、月曜日から木曜日に限り、午前10時から午後6時まで開かれることになっている。ナトゥラ峠はかつて「シルクロード南路線」の主なルートとして栄え、両国を陸路でつなぐ主要な貿易ルートだった。20世紀初めには年間取引額は1億元(当時の銀貨)以上にのぼり、国境貿易総額の80%以上も占める取引が行われていた。しかし、1962年の中印国境紛争の後、両国は税関などを相次いで閉鎖し、ナトゥラ峠には軍隊が駐留するようになった。このため、国境貿易は拡大することはなく、その大部分はシンガポールやアラブ首長国連邦のドバイ経由の中継貿易となり、チベット自治区の対外貿易はほとんどが数千キロ離れた天津港を経由して行われるようになった。

国境地帯の住民は貿易ルートと国境貿易の再開を待ち望んでいた。今回の国境貿易の再開は、両国にとっても大変重要な意味を持つものだ。チベット自治区商務担当のハオポン副主席は「国境貿易の発展は、国境地区が経済的に封鎖されていた状態を改め、市場経済を発展させる上で重要な力となり、交通や建設、サービスなど産業の発展を促進し、両国を結ぶ南アジア貿易ルートの整備という構想を実現するための環境を整えることもできる。両国の政治と外交の発展、また経済の発展にも必要だ」と強調している。

今世紀に入って以来、インド経済は目を見張るほどの急成長を続けている。経済構造から見れば、製造業の発達した中国と異なるのは、インド経済に最大の貢献をしているのは情報産業を含めたサービス業で、GDPの50%を占めていることだ。インドは世界第3の科学技術大国であり、およそ400万人の人材を擁し、日本やイギリスなどと並んで開発大国である。中国は世界の製造業の拠点であり、インドは世界の研究開発の中心なのである。経済の相互補完性が強いことから、両国間の貿易の潜在力はきわめて大きい。

ここ数年、中印貿易は急速に増大している。貿易総額は2004年は136億ドルだったが、2005年には187億3000万ドルにのぼり、今年は200億ドルを突破すると見込まれる。現在、中国はインドにとって第2の貿易パートナーである。インドの中国向け輸出は工業原材料と農産物、中国の輸出は紡績品や機械・電機製品が主体となっている。総人口20億を超える両国にとって、貿易協力にはまだかなり大きな潜在力があると言えよう。商務部の薄煕来部長は、2010年に貿易総額500億ドルを達成して、中国がアメリカを抜いてインド最大の貿易パートナーとなり、インドも中国にとって10大貿易パートナーになるという壮大な目標を定めた。両国にはすでにWTOや基準の協調性、原産地表示ルール、非関税障壁、農業、貿易調整など二国間貿易に関する問題を解決するための共同作業部会が設置されている。

中印関係においては、長年にわたり経済貿易面での協力が立ち遅れていた。現在、両国が大きな発展を遂げる中、それは現実的ではない。この面での協力が進めば、間違いなく政治関係も深まるであろう。インドの商工業担当次官は「ナトゥラ峠の貿易ルートと国境貿易の再開は大きな歴史的な出来事であり、印中両国の経済貿易関係に新たな一ページを記すものである。その意義は貿易を拡大することにあるだけでなく、世界で偉大な二つの国が良好な関係を構築するのにも役立つであろう」と強調した。

インドの影響力拡大をどう見るか

インドは長期にわたり南アジアに封じ込められていた不利な局面を打破し、世界の大国になる夢を実現するために、1990年代から「東西に向かう」戦略を推し進めるようになった。中央アジアや中東、東南アジア地域にその影響力を拡大し、戦略的空間を切り開くことを目指してきた。

インドの対アジア政策はとりわけ耳目を引いている。例えば、エネルギー協力を強化するため、政治面から経済を促す姿勢をもって高官が相次いで中央アジア各国を訪問している。カザフスタンの4つの油田の株式の取得や、トルクメニスタンからの天然ガスの輸入など一連のエネルギー協力で合意し、その既得権益を守るため、同地域で外交機関を増設したり、軍事基地を設置したりしている。アフガニスタンでの4つの領事館の新設や、タジキスタン・アイニでの空軍基地の建設がそうだ。また、近いうちに「中央アジア・エネルギー生産国会議」を主催する計画だ。

インドはASEAN諸国との関係を積極的に強化している。2003年に「東南アジア友好協力条約」(TAC)に加盟するとともに、「インド・ASEAN経済協力枠組み協定」に署名した。また、2004年に、双方の関係の進展への一里塚となる「平和、進歩及び共同の繁栄のためのパートナーシップに関する協定」に調印したのに続き、2005年には双方の貿易投資の新たな原動力となる「インド・ASEAN自由貿易協定」にも調印した。

さらに注目すべきなのは、インドと中国北部の隣国であるモンゴルとの軍事協力関係が急速に発展していることだ。2006年5月初め、インドのムカジー国防相は3日間にわたってモンゴルを訪問した。訪問期間中かなりの厚遇を受け、大統領や首相と会見しただけでなく、国防相や外相とも長時間にわたり会談している。インドはモンゴルでの軍事基地を計画していると言われるが、両国が合意にすれば、海外にいま一つ軍事基地を持つことになる。

総合国力の増強に伴い、インドはその外交舞台を南アジア亜大陸のみにこだわらず、その戦略的影響力をアジア、ひいては全世界へと拡大しようとしている。中国は「海外に出る」戦略の重点を周辺地域に置いている。そのため、双方の戦略上の影響力はかなり入り組んでおり、両国の利益も入り交じっている。中印両国がそろって台頭するにつれ、互いに競い合うようになるのは必至だ、との議論が国際社会で聞かれるようになったのはそのためである。事実、この間、中央アジア地域におけるエネルギーの開発・利用をめぐって、両国がある程度、競争したのも確かだ。両国政府はこれを非常に重視し、積極的な姿勢をもって、大局に立ってできるだけ競争を協力に変え、競い合いを避けようと努めている。

中国から見ると、インドは新興の大国であるとともに、発展途上国のリーダーでもあり、国際社会における地位と役割が日増しに重要になっているため、大国が引き込もうとする対象となっている。特にアメリカはインドと軍事同盟を結ぶことで、西側から中国を包囲しようとしている。積極的にインドとの関係を発展させることは、戦略的に中国に有利なだけでなく、アジアひいては世界の平和にも有利となろう。インドは積極的にアジアの問題に関与することで、アジア地域の政治構造の多極化を進めることができる。したがって、中国は中印国境や、インドの国連安保理常任理事国入り、印パとの三国間関係及びエネルギー問題において、インドとの協力を十分に進めることで、競争のエスカレートや拡大を避けるべきであろう。

中印両国には発展に向けて、共通の利益と幅広い協力のための基礎がある。インド人民は強い独立自主の意識と大国としての抱負を有しており、指導者も国家利益と長期的戦略を深く認識、理解している。両国の国家戦略と国際的な地位にはきわめて似た面がある。このような類似性により、両国の指導者は、発展の過程に現われるさまざまな複雑な局面に対応するため、国益と民衆の福祉を重視し、協力を強化するとともに、束縛から抜け出すよう努力し、国家関係を層的に向上させ、戦略的パートナーシップを構築し、互いに力を借りて競争しながら協力することができるのである。