2006 No.33
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>> 国際評論

「海に沈む夕日」

その得失について評価が分かれるなか、小泉首相はいよいよ国際舞台に別れを告げる----。

周永生(外交学院国際関係研究所 教授)

7月中旬にロシア・サンクトペテルブルクで開かれたG8サミットの場で、小泉首相はカナダのハーパー首相に「私は沈みゆく夕日のようなものだ」と感傷的に語った。小泉氏は9月の自民党総裁選には出馬しないため、別の人物が新たに首相の座に就くことになる。2001年4月に首相に就任して以来、小泉氏は日本政界や国際社会で5年の長きにわたり権勢をふるってきたが、まもなく日本の政治権力の中心から離れることになり、そこに力の衰えた小泉氏の心境を垣間見ることができる。

米国追随の得失

米日関係は第2次大戦後で最も安定した二国間関係である。米国がそのグローバル戦略の利益を踏まえて日本と長期にわたって連携してきたからであり、また日本政府が自国の国益に対する判断から、形式的には「日米基軸」の政策としながらも、実質的には米国に長期にわたり追随し、忠誠を尽くしてきたからだ。

政治的要素から見れば、日本の対米追随政策は伝統的要素を帯びたものである。しかも冷戦終結後ある程度、米国が国際政治を主導するという超大国の影響力が強まってきている。日本の国家的戦略はいかなる制限も受けない世界的な政治大国となり、再び世界一強い国としての地位に復帰することを目標としており、それには米国の承認と連携を得なければならないのである。

経済と文化的要素から見れば、1990年代は日本経済にとって「失われた10年」だった。日本のGDP成長率は高度成長期を下回っただけでなく、同期の世界の平均成長率よりも著しく低かった。日本民族の自信はひどく傷つけられ、米国崇拝の意識を高まらせることになった。

軍事と安全保障的要素から見れば、日本の主流をなす政治家は、日米安保体制が長期にわたって日本の安全を保障しており、冷戦終結後も依然、重要な政治的遺産として擁護していく努力が必要だと考えている。特に中国の急成長や朝鮮政策、台湾海峡情勢に関しては、日本政府は日米軍事同盟を強化しなければならないと考えている。

小泉氏は政権を握って以降、親米一辺倒の外交政策を実施してきた。こうした政策について言えば、日本に対するメリットは非常に明白だ。米国は90年代初めになって日本に対して懐疑的になったり、恐怖を感じたりしていた姿勢を改め、日本の国連安保理常任理事国入りを支持するなど、国際政治で全面的に日本と連携し、日米軍事同盟を引き続き強化するようになった。しかし、親米一辺倒政策の弊害も非常にはっきりしている。ある意義から言えば、小泉首相の対アジア政策には、日本は米国を自らの切り札として、アジア諸国に米国の対日支持を顕示することでアジアの一部の国に日本に歩み寄らせるか、あるいは日本のアジア地域での指導的地位を黙認させようとの意図があったからだ。日本はもともとアジアの一部の国との間で深刻な問題を抱えており、その上さらに米国という後ろ盾を顕示しようとしたことから、こうした米国を介して自国を重じる政策はアジア諸国から大きな反感を買ってしまった。中国や韓国、ロシアなどとの関係が悪化しただけでなく、日本自身の長期的国益をも損なうことになったのである。

内外的に苦境に陥らせた靖国参拝

頑ななまでに参拝の意思を表明し続けたことから、小泉首相はアジアの被害国の人民の感情を著しく傷つけてしまった。それゆえに小泉首相は外交を理解していないとか、日本を東アジア諸国から遊離させたといった非難の声が上がっている。小泉首相は対外政策と対外関係についての思考にバランス感覚が欠けており、広く深い国際的視野もなく、「日米関係が良ければ、対アジア外交はスムーズになる」と考えているのだ。まさに「金持ちに寄り添う」というやり方を外交関係に一面的に応用したのである。

別の角度から見れば、外交をその国内政治や国際戦略に利用することに長じているからだ。小泉首相など日本の一部政治家の思考には冷戦時代の対抗思想がまだ根強く残っており、一部の周辺国を潜在的敵国、現実的な敵対国、あるいは仮想敵国と想定している。小泉内閣の主要閣僚は靖国参拝続行という政策を通じて、以下の3つの目的を達成しようとした。

(1)日本を、日本側が言ういわゆる「普通の国家」にさせるため、中韓などに日本国内の侵略の歴史を覆そうとする逆流を認めるよう迫り、これを機に、第二次大戦後の平和憲法と国際政治の中で日本が敗戦国として受けた一部の制約を清算する。

(2)小泉首相など日本の指導者と国内の右翼勢力は、中韓などによる靖国参拝に対する善意に立った批判を正面から理解せず、それどころか国民に対して、靖国参拝への国際社会の批判は、「歴史カード」を持ち出して日本の民衆に国際社会との対立的な感情を煽るものである、といった歪曲した情報を広める。その一方で、自ら外来の圧力に敢えて立ち向かい、日本の国益を擁護する民族的英雄として装うことで、政治的資本を詐取する。また、短期間に「政治票」をかき集め、支持率を高める。

(3)参拝行為が慣例化した後、中韓などにこれは平常なことだと認めさせるとともに、最終的に譲歩を迫って参拝問題を追及させない。これによって、日本は徹底的に歴史問題を清算しないまま、徹底的に歴史的な負担を投げ捨てる。

しかし、実際には靖国参拝の政策は所期の効果を上げられなかったどころか、日本に対する反感はさざ波が立つように広がっていった。このため、韓国は首脳の相互訪問を無期限に中断し、中国の最高指導者も小泉首相との首脳会談を行っていない。

7月20日付けの日本経済新聞の1面に、故富田朝彦元宮内庁長官のメモが掲載された。1988年に昭和天皇は、靖国神社に1978年にA級戦犯が合祀されたことに強い不快感を示し、「だから私はあれ以来参拝していない。それが私の心だ」と、富田氏に語っていたというものだ。靖国神社問題をめぐる論議が日本で再び起きている。今度の論議が以前と異なるのは、参拝したくないという、日本の国民に崇敬されている昭和天皇の発言が明らかにされたことで、靖国参拝派が大きなダメージを被ったことだ。

「常任理事国入り」外交の挫折と利益

小泉政権の発足後、特に国連創立60周年を迎えた2005年を機に、日本は国連安保理常任理事国になるための外交努力を一段と強化し、一挙に安保理改革と常任理事国入りの目的を実現しようとしたが、果たすことはできなかった。

安保理入りという夢が大きく挫折した主因としては、日本は「国連憲章」の趣旨を十分理解せず、ただ安保理入りをその政治大国の目標を実現する手段としてしか見ていなかった、他の国をしっかりと尊重せず、しかも世界のために着実な貢献をしなかった、目前の功利を求め、短期的な政策手段で長期的な利益を謀る政策が失敗したことなどが挙げられる。

しかし、「常任理事国入り」という問題では、日本は完全に失敗したとは言えない。長年の外交努力を通じて、すでに一部の国から支持する考えを取り付けているからだ。さらに、2005年の「常任理事国入り」で外交攻勢に出たことで、安保理改革の問題で国際社会の注目をより集め、影響力も拡大した。常任理事国の数が増えれば、支持する国の数に関係なく日本が外される可能性はない、と予想する人もいるほどだ。これが日本が挫折の中で得た利益であるのは疑う余地はない。

挫折した日本主導の東アジア政策

小泉氏は政権の座に就ついて以来、新たな外交政策を積極的に推し進め、特に東アジア地域での国際問題で主導権を握ろうとしてきた。7月初めの朝鮮のミサイル試射は、東アジア地域を主導しようとする日本にとってその手腕を大いに発揮するチャンスとなった。日本政府は朝鮮がミサイルを試射したその日に閣僚会議を開き、7月5日から半年間、朝鮮船舶の日本への入港を禁止するとともに、対朝鮮経済制裁の実施を検討する決定を下した。また、日本は制裁決議案を作成し、安保理で草案通り採択させようと、米英仏などと積極的に外交折衝を展開した。

日本がこうした行動に出たのにはいくつか目的がある。

第1に、日本は朝鮮のミサイル試射に非常に敏感であり、日本に対する直接的な脅威と見ているため、日本政府は自国の軍事力を強化する口実を見出したことになり、この問題を誇大化させることで、いわゆる「朝鮮のミサイル脅威」を口実に自国の軍事力を増強し、日米同盟を強化する。第2に、小泉首相や麻生外相、安倍官房長官らの閣僚はいずれも対朝鮮強硬派であり、朝鮮に強硬に出ることで日本の民衆の関心を喚起し、右翼傾向のある有権者に迎合して支持者を取り込み、自身や党派のために政治的資本を蓄積する。第3に、日本政府は朝鮮のミサイル試射問題の解決を、朝鮮に圧力をかけ、中ロをけん制し、東北アジア地域での主導権を握ることで、国際社会での大国としての地位や影響力を高める格好のチャンスとして利用する。日本と朝鮮が対立して久しい。しかし、日本は朝鮮による日本人拉致問題を取り上げることはできても、それ以外では朝鮮や6カ国協議のその他の参加国を制約できる力はほとんどなく、東北アジア地域の外交折衝では比較的力の弱い国である。朝鮮のミサイル試射で、日本は朝鮮をけん制する格好の手段を見出すことができたのだ。

日本は一方では自らの利益を考え、また一方では米国などの西側諸国に大いに迎合することで、「国連憲章」第7章に基づき、安保理が朝鮮に対して厳しい経済制裁を行う決議を採択するよう要求した。こうすることで、日本が眼中にない朝鮮に圧力をかけることができ、朝鮮にダメージを与えることで、朝鮮問題と東北アジア問題での中国とロシアの影響力を弱めることもできるのだ。

しかし、中国は自国の核心となる利益と東北アジア地域の安定を考慮して、拒否権という利器を発動する意向を示した。15カ国で構成される国連安保理は7月15日午後、朝鮮のミサイル試射問題に関する第1695号決議を全会一致で採択した。この決議は、日本の決議案を中ロ両国の提案で修正したものである。

「ポスト小泉」の日本外交

日本国内では「ポスト小泉」をにらんだ動きが本格化しはじめた。各政党や自民党内の各派閥の取り組みはまさに鳴物入りだ。特に「次の政権」を目指して。

現在の最大の未知数は、誰が日本の首相になるかだ。現状から見れば、選挙で有権者の支持を集められることを考えて、小泉氏はタカ派の安倍氏と麻生氏を後継者に仕立てようと尽力するだろう。なかでも安倍氏が有力視されている。ただし、二人のうちどちらが政権を握ったとしても、小泉氏の対外政策を継続し、大きな変化はあり得ない、というのが絶対的だろう。対外政策では、引き続き米国に追随し、米国を介してアジアをけん制するといったことが特徴になりそうだ。「常任理事国入り」を依然として目指す、靖国神社に参拝する、中国に対して強硬姿勢をとる一方で、韓国を引き込んで軟化させることで中韓を分裂させる、東南アジアや南アジア、中央アジアなどの諸国との関係強化を求めるなど、アジアでの孤立から抜け出す政策を実施していくだろう。

仮に中日関係、中韓関係の問題が日本国民の関心の焦点となり、また中韓両国が理にかなった力のある、節度ある姿勢で問題を処理できれば、小泉政権が中韓のほかにも、米国を含む国際社会や日本国内から非難されて、かなりの失点になる可能性は排除できない。そうなると、自民党内の一部の有力者やその他の派閥の政治勢力が役割を果たして、比較的穏健な福田康夫氏か、与謝野馨氏らを担ぎ出すこともあり得るし、ダークホースが突如現れる可能性も排除できない。ただ、小泉直系ではない人物が政権を執れば、日本の対外政策は大きく調整されるだろう。とくにアジアがより重視され、日韓との関係の協調性に努める対外政策が生まれる可能性は大きい。

靖国神社参拝が非難されているなか、たとえ強硬派の安倍晋三氏が首相に選ばれたとしても、敢えてそうやすやすと靖国神社を参拝するとは限らない。しかし、米国を重視し、ひいては米国に追随することが日本外交の短期間では改変できない長期的な政策となるだろう。