2006 No.35
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「中国脅威論」は自ずと破綻する

江新鳳
(中国人民解放軍軍事科学院世界軍事研究部研究員)

近年、日本の「防衛白書」などの政府文書は絶えず「中国威脅論」を宣伝しており、一部の高官も中国の軍事費が2ケタで伸び続け、しかも軍事面で透明性に欠けていると公の場で非難するなど、「中国威脅論」に尾びれをつけようとしている。実は、彼らの心理は中国の急速な発展にあまり適応したものではなく、急速に台頭した中国と「失われた10年」の日本、という対比が強烈であることから、恐れや驚きを感じ、抑えようにも抑えられない矛盾した心理状態にあるのである。さらに中国は強大になれば日本に報復するのではないかと懸念するあまり、中国経済の崩壊や政治的混乱を期待する日本人も一部にいるが、中国が混乱しないことを恐れているだけなのであり、彼らには別に下心があるのだ。もし日本が過去、中国に対して良心に背くことをしなかったならば、こうした偏狭で変形した心理状態が生まれるまでには至らなかっただろう。実際、彼らの懸念は必要以上のものであり、中国をもう少し信頼し、もう少し理解すれば、「中国脅威論」は自ずと破綻するのである。

一.平和な文化が5000年に及ぶ奥底にある

中国は平和な発展の道を揺らぐことなく歩み、対内的には調和のとれた社会を築き上げ、対外的には調和のある世界を構築するよう主張している。この政策は5000年に及ぶ文化的伝統と相通ずるものなのだ。中国文化の核心となる儒学は、「和為貴」(和を貴しとする)や「和衷共済」(心を合わせて助け合う)、「親仁善隣」(隣国や隣人と仲良くする)と主張している。それは軍事面では、防衛重視や「慎戦」(戦いを慎む)、「不戦而屈人之兵」(戦わずして人の兵を屈する)に顕著に体現されている。防衛重視の考え方はすでに中国の祖先が創造した文字にも表れている。古代の「國」の字は、軍隊が国の辺境で自国の人口と国土を守ることを表す。「武」という字は「止」と「戈」からなり、「戈(武器)を止めるのは武」であることを意味する。「戰」の字は、戦争の目的は武力で人口や畑、道義を守ることを表している。また、万里の長城は歴代の王朝が防衛を重視したことを最も具体的に示すシンボルであり、古人は長城を築くことで北方の胡人の侵攻を防いだのである。鄭和は世界最強の船団を率いて7度も西洋を航海し、その途上で中国の文化と友情を広め、持ち込んだのは中国の商品であり、侵略や戦争ではなかったことが、その後の欧米植民地支配者とはまったく異なる。中国の「不戦慎戦」(戦わず、戦いを慎む)や善隣友好、厚徳をもって物を戴すといった「和合」の文化的伝統は、すでに中国人の戦略的思考に深く根を下ろしており、今後も承継されていくだろう。

二.一貫して防衛的な国防政策を実行している

中国は平和を愛する国であり、一貫して防衛的な国防政策を堅持し、軍事同盟や軍備競争には参加せず、勢力圏を求めず、海外に軍事基地を設けず、いかなる他の国にも一人も兵卒を派遣し駐留させてはいない。また他国の領土を侵略し、占拠しようとしたことはなく、中越や中印など数度にわたる自衛的な反撃戦においては、敵軍を壊滅するために一度、敵国に進入したことはあるが、戦争終結後には即時に領土内に撤収した。中国は国連安保理の常任理事国であっても、この優位な立場を利用して政治、軍事あるいは経済面で他国を抑圧あるいは侵略したことはない。すべての形のテロリズムに反対し、大量破壊兵器の拡散に反対し、核兵器の全面的な禁止と徹底的な廃絶を主張している。核兵器を先制使用しないとの政策を変えることはなく、非核保有国に対しては核兵器を使用しない、あるいは核兵器の使用をもって脅威を与えることはしない。中国は戦争政策や拡張政策に反対しており、将来的に強大になったとしても、永遠に覇を唱えることはない。あくまでも平和な発展の道を歩み続け、世界と地域の平和と安定を擁護するために、引き続き大国としての応分の役割を果たしていくだろう。

三.軍事費は小規模であり、適度な増額は国情と国際情勢の推移に適合するために必要である

「中国威脅論」を鼓吹する者は常に、中国の軍事費を取り上げてあれこれ語ろうとする。しかし、以下のデータは「中国脅威論」を自ずと破綻させるに十分だろう。

中国は世界最多の人口を抱え、国土面積は世界第3位にあり、2万2000キロの国境線と1万8000キロの海岸線を有している。中国の統一はまだ実現されておらず、安全をめぐる環境も比較的複雑であるため、相対的に見て、軍事費は多いとは言えない。昨年の国防予算はドルに換算して約302億ドルだが、日本は約454億ドル、米国は4220億ドルにも達した。日本の3分の2に相当するに過ぎないものの、国土面積と人口はそれぞれ日本の26倍と11倍だ。

中国の1人平均年間軍事費はわずか23ドルで、米国は1256ドル、日本は1300ドル余りであり、中国にとって見れば米国と日本の端数に過ぎない。中国軍人の1人平均経費は1万3000ドルであり、米国は30万ドル、日本と英国でも20万ドルに近く、中国はわずか日本の15分の1である。

軍事費のGDPに占める比率から見れば、世界の平均は3%、米国は4%だが、中国はわずか1.6%。財政支出に占める比率では、世界平均は約15%だが、中国は7.8%に過ぎず、しかも改革・開放初期の1979年と比べて、逆に10ポイント下がっている。また中国の上記2つの指数はインド、韓国などアジア諸国よりも低いのである。

日本の2006年版「防衛白書」は、中国の軍事費は18年連続で2ケタの伸びを維持している、と述べている。実は、中国の軍事費の実質的な絶対増加額はそれほど多くはないのだ。1995年の「軍備抑制・軍縮白書」の統計によると、1979年から1994年までの16年間、国防費の絶対額の年平均伸び率は6.22%であり、同期の全国商品小売価格総合指数の年平均上昇率は7.7%と、実質的には1.48%のマイナス増となっていた。1970年代末から90年代中期まで、軍事費は実質的には平均してマイナス増であり、近年に軍事費が増額されたのは主に、過去の国防資金の投入不足を補うためなのである。原材料の値上げやインフレなどの要素も考慮すれば、絶対増加額は統計上の数字をはるかに下回ることになる。80年代の軍事費の投入は少なく、国防基盤は軟弱で、基数が小さいがゆえに、増額すると際立つことになるが、日本はそうではなく、基数が大きいがゆえに、1%の増額でも大きな数字となるのだ。ここ数年、中国が国防費を増額している要素として主に次の4点が挙げられる。

第1は、補完的支出だ。1980年代以降、国は、国防建設は経済建設の大局に従い寄与するものであり、軍隊は忍耐が必要だと強調してきた。そのために長い間、国防と軍隊の整備は資金の低投入と現状維持の状態に置かれていた。この10年近くの間に軍事費が増額されたのは先ず、以前の国防費の投入不足を補うためなのである。そうであっても、90年代以降のほぼ毎年、国防費の伸び率は財政支出の伸び率を下回っており、しかも実質的な軍事費と軍人の生活はインフレや物価上昇などの要素の影響も受けているのだ。

第2は、軍人の待遇の改善だ。近年、国家公務員や都市・農村部住民の所得は急速に増加し、軍人の給与水準も相応に向上しており、とくに今年は増加幅が大きく、人件費の支出はかなりのものになる。また、このほど削減された約20万人の軍人についても、退役後の再就職などを保障するために巨額の経費が必要となる。

第3は、世界の新たな軍事変革に適応する必要があることだ。中国全体の装備水準は先進国と比べその差は依然として大きく、総体的にはまだ機械化・半機械化から情報化への移行段階にあり、国家の安全と統一を擁護するという現実的必要性に適応していないとの問題が尚、非常に突出しているのである。現代の戦争形態の変化に適応するには、陸軍の整備を引き続き重視するとともに、装備関連経費を適度に増額して、海軍や空軍の整備を強化し、戦力の協調のとれた発展を目指すことも、世界の新たな軍事変革に適応する上で必要だ。

第4は、軍事の透明度は相対的なものであり、中国が徐々に透明度を高めていることを見る必要があることだ。2006年版「防衛白書」は、「中国に対する懸念を払拭するためにも、中国が国防政策や軍事力の透明性を向上させていくことが重要である」と述べるとともに、中国は「従来から、具体的な装備の保有状況、整備ペース、部隊レベルの編成、軍の主要な運用や訓練実績、国防予算の総額や内訳の詳細などについて明らかにしていない」と非難している。先ず、中国の国防政策は従来から公開された透明なものであり、毎年の「政府活動報告」と「国防白書」で詳細に説明しているのである。中国の国防政策は「不透明」だと言うのは、日本が中国の発展方向に懸念を抱いているからだ。次に、軍事の透明度は相対的なものであり、軍事には絶対的な透明性はなく、たとえ米国や日本でも完全には透明ではなく、でなければ、偵察やスパイなどはあり得ないだろう。一般的に言えば、往々にして強者はより敢えて透明にしようとするが、弱者は基盤が弱いがゆえに敢えてぼろを出そうとしないのだ。各国によって軍事力の水準が異なるために、安全への関心も違うのであり、透明度の問題で完全に統一させるのは不可能である。第三は、軍事費の問題について2006年版「防衛白書」は、中国が公表した軍事費は実際の一部に過ぎず、装備購入費と研究開発費は含まれていないと述べ、さらに米国の今年の「中国の軍事力に関する年次報告」における言い方を引用して、中国の実際的な軍事費は公表された2〜3倍だとしているが、それが事実だとすれば、財政支出に占める軍事費の比率は20%に達することになる。これは経済建設を中心とする中国にとって想像できないものであり、財政的にも受け入れられないものだ。軍事費の構成については、実際には国によって採用する編成方式は違っている。西側の一部の国では、軍需・民需両用技術の研究開発や宇宙開発、核兵器の開発に係る経費は直接、軍事費には計上されていない。それに比べ、中国の軍事費は全国人民代表大会が審査し、認可された後に外部に公表しているため、公開された透明性のあるものなのである。第四は、中国の軍事費の透明度が絶えず高まっていることを見る必要がある。安全環境の評価や軍事戦略、軍事力の構造、管理システム、軍事外交、軍事費の総額及びその基本的な構成などはいずれも公開されている。1996年以降、中国はすでに「国防白書」を5回、白書「軍縮、軍備抑制と核不拡散」を2回発表しており、白書に関連する作業は制度化、系統化、適正化の方向にある。こうした白書が作られるようになり、次第に厚みを増し、回数も多くなってきたことは誰もが認めるところのものだ。2005年10月、中国は訪中したラムズフェルド米国務長官に戦略ミサイル指揮部を開放した。今年7月には、日本の自衛隊の制服組代表団に南中国海艦隊の湛江基地を初めて参観させた。これらはいずれも中国が軍事面の透明度を高めるために講じた実効性のある措置であり、外部は中国が払っている努力に目を向けるべきだろう。しかし、体制などさまざまな要因から、軍事を透明にするには一つの過程を経なければならず、必要なのは外部の側の忍耐であって、圧力ではない。

以上の分析から見れば、「中国威脅論」は猜疑心や、中国の近年の急速な台頭に適応しないことによるところがより多いと言える。ここ数年来の中国経済の急速な発展と総合国力の増強を前にして、日本は正常な心理状態を保つことができず、それを脅威と見なすことで、中国の強大さを目にすることを望まず、至るところで中国に難題を吹きかけている。中国の台頭を抑えようとしても抑えられないという日本の変形した心理が、中日関係が悪化をきたした根本的な原因だと言っていい。こうした心理状態を変えなければ、中日関係が長足の発展を遂げるのは難しい。実のところ、文化的伝統から見ても、現実的な意図から見ても、中国の台頭が日本への脅威になることはないのである。一衣帯水の近隣であり、アジアの大国でもある中日両国は、もう少し理解し、いま少し猜疑心をなくしていくべきではないか。こうしてこそ初めて、中日両国は睦まじく付き合い、両国関係の順調な発展を促進し、繁栄して安定したアジアをともに築き、世界の平和と安定に貢献できるのである。