2006 No.35
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海外逃亡の汚職官僚の逮捕を強化

安 子

ここ数年来、官僚が職権を乱用して私腹を肥やし、発覚後に大金を持って海外に逃げる事件がたびたび起きているが、こうした問題をいかに解決して当事者を処罰するかが社会の焦点となっている。

公安部の武和平スポークスマンは会計検査署と5月23日に共同で開いた記者会見で、「海外逃亡で処罰を免れようとする刑事事件の容疑者は誰であれ、最終的に法的処罰から逃れることはできない。海外逃亡中の密輸事件を起こした頼昌星容疑者も法的制裁を受けるのは、時間の問題に過ぎない」と強調した。

公安部経済犯罪捜査局の高峰副局長によると、海外に逃亡中の経済犯罪の容疑者は現在800人、そのうち320人がここ数年の間に相次いで逮捕されている。事件にかかわる金額は約700億元に達した。

暫定統計によると、2003〜2005年、国家会計検査署(出先機関も含む)が公安機関に送検した事件は計212件、関係金額は421億5100万元と5645万ドル、容疑者は502人と、事件の件数は増加の傾向にある。とくに金融や経済貿易分野で多発しており、金額は会計検査署が摘発した事件の総額の86%以上を占める。

2005年には、海外へ逃亡した経済犯罪の容疑者53人が公安機関に逮捕された。

高副局長は「対外開放が進むにつれて、外国人が絡む事件や容疑者の海外逃亡が増えつつある。各公安機関は事件の調査、不法取得品の返還、犯罪者の逮捕、情報交換、業務の指導などで海外の関係機構と効果的な協力を展開している」と強調する。

頼容疑者の送還に期待

頼昌星容疑者は福建省廈門市遠華グループによる密輸事件の主謀者とされる。密輸金額は100億ドルにも上り、1949年の建国以来最大の経済犯罪だ。同容疑者は妻と子供3人を連れて1999年8月、観光を装ってカナダ・バンクーバーに逃亡。その後、政治亡命や難民資格の取得を求めていた。2001年11月、カナダ政府は同容疑者をバンクーバー郊外の自宅に軟禁した。

「遠華事件」の審理では、容疑者10数人が死刑または執行猶予付きの死刑を言い渡されたが、主犯格の頼容疑者は国外へ逃げていた。中国で裁判を受けさせるため、中国政府は同容疑者夫婦の引き渡しをカナダ政府に要請してきた。

カナダ最高裁は2005年8月に頼原告と家族の難民資格申請を拒否。その後、関係機関は送還によって本人が受ける身の危険性について検討を始めた。

今年5月18日、カナダ国境サービス局のスポークスマンは「カナダ連邦裁判所が頼原告の上告を棄却した場合、我々は5月26日に原告の送還手続きを本格的に進める。移民部はすでに送還による身の危険性の検討を済ませており、送還に必要な書類なども整った。連邦裁が棄却すれば、原告は26日に国境サービス局に来て送還を受け入れることになる」と発表した。

カナダ連邦裁は5月31日、原告の送還について審理した。そして6月1日、本国送還の執行は暫定的に見合わせるとともに、送還による身の危険性に関する頼原告の再審査の請求を受け入れるかどうかを審議、決定するとの判決を下した。判決文は、頼昌星原告の送還の延期は臨時的な決定であり、有効期限は連邦裁が再審査請求を受け入れるか否かを決定する期日までとする、としている。

連邦裁のスポークスマンは新華社記者の取材に対し、「頼原告と弁護士は30日以内に再審査請求書とその他の関連書類を法廷に提出し、移民部および公訴側の弁護士もその後の30日以内に反論文書を提出しなければならない。最終的には、裁判官と原告、被告の三者が公聴会の時間と場所を確定する。これは、頼原告の送還は少なくともさらに2カ月先となり、身柄もバンクーバーの自宅に軟禁されることを意味している」と答えた。

頼昌星容疑者の送還について、全国政治協商会議委員で国際刑事警察機構(ICPO)の朱恩涛名誉副総裁は、カナダ亡命は絶対あり得ないとし、「送還されるのは間違いない」と楽観的な姿勢を示している。

朱名誉副総裁によると、逃亡犯罪者の逮捕に積極的に対応するのが米国だ。両国の間に引き渡し条約がないにもかかわらず、中国が死刑判決を下さないと保証することで、米国は2001年11月に締結した「中米刑事司法協力協定」に基づき、2004年4月に中国銀行広東開平支店の支店長だった余振東容疑者を中国側の警察に引き渡した。余容疑者は公金8247万ドルを着服した疑いがあり、2001年に香港経由でカナダに逃げた後、米国に逃亡した。今年3月、余容疑者は広東省江門市中級人民法院の一審判決で、公金着服や公金流用などの罪で懲役12年、個人財産100万元没収の実刑判決を言い渡された。

「今年は余被告の一味だった許凡超容疑者と許国俊容疑者も送還されるだろう」と朱氏は言う。現在、二人は米国司法部に起訴されており、「判決後に送還手続きに入るだろう」と朱氏。ICPOで仕事をしてきた朱氏がマスコミから最も多く質問されるのは、いかに汚職官僚を国外から引き戻すかだ。中国が引き渡し条約を締結している国はまだ少ないため、逃亡犯の送還は難しい。しかし、中国はICPOに加盟しており、ICPOが逮捕状を出せば、181カ加盟国は逃亡犯罪者の逮捕に協力しなければならない。

中国は現在、浙江省建設庁の楊秀珠元副庁長の引き渡しを巡りオランダの警察と交渉中である。

「国連腐敗防止条約」が発効

「腐敗の防止に関する国際連合条約」(「国連腐敗防止条約」の略)は2003年12月、87の締約国の代表によって正式に調印された。

条約の中の資産の返還に関する一章は、発展途上国にとって重要となる内容だ。実際、この問題に関しては、長年にわたり先進諸国と発展途上国はまったく異なる主張を繰り返してきた。これによって、すべての締約国が受け入れられる解決策が見出されたことになる。腐敗による不法所得はその国にとって大きな損失だ。今後はこの一章に基づき、犯罪者が逃亡した国が締約国であれば、不法所得の返還を求めることができるようになった。

条約を制定する過程で、特別委員会は各国の意見を幅広く聴取した。中国も積極的な姿勢で参与し、特別委員会への提言の中で――(1)各国の社会・経済・政治体制の違いを考慮して、すべての国は自国の国情と法体系に基づいて犯罪の予防・処罰の措置を講じなければならない。こうすれば、腐敗防止の効果を高めることができる(2)国際的に見て、腐敗防止が直面する主要な問題は、金を持って逃亡した犯罪者の引き渡しが難しいことだ(3)被害国が犯罪者に不法所得を返還させるのは難しい。そのため、犯罪者は法の網を潜り抜けて国外で富裕な生活を送ることができる。その影響はマイナスであるばかりか、腐敗を奨励するようなものだ――との3点を強調した。中国の意見は国連腐敗防止条約に盛り込まれた。

同条約は2005年10月22日、立法機関の全人代常務委が審議した上で署名した。温家宝国務院総理は条約審議の中で「この条約の発効は国際協力の展開、逃亡犯罪者の送還、不法に国外に持ち出された資産の返還、教育と制度と監視を重視する腐敗防止体制の整備にプラスとなる」強調した。

スペインと犯人引き渡し条約を締結

余振東被告の送還と「国連腐敗防止条約」の批准に次いで、全人代常務委は今年4月29日、「中華人民共和国とスペインの犯人引き渡し条約」を締結することを決定した。条約では、両国には規定に基づき、相手国の請求に応じて、一方の国内で発見された相手国が指名手配した犯罪人を互いに引き渡す義務がある、と規定されている。

中国が欧米先進国と引き渡し条約を結んだのは、これが初めて。この条約の締結で、逃亡した汚職官僚の引き渡しが加速されることになる。1993年以来、中国はベトナム、ベラルーシ、ラオス、南アフリカなど21の発展途上国と引き渡し条約を締結した。

スペインとの引き渡し条約では死刑の問題について「請求国の法律に基づき、請求された引き渡し人が引き渡しの請求に伴なう犯罪を理由に死刑判決を言い渡される可能性のある場合、請求国が死刑を言い渡さない、または死刑を言い渡しても執行しないと被請求国に認められ得る十分な保証をしなければ、被請求国は引き渡しを拒否しなければならない」との条項が初めて盛り込まれた。

外交部の武大偉副部長は「スペインは欧州連盟(EU)の中で影響力のある国であり、引き渡し条約の締結は逃亡犯罪者を追跡し逮捕する法的根拠となり、犯罪者を威圧することもできる」と指摘している。

条約締結交渉に臨んだ代表団団長で外交部条約法律司の徐宏参事官は「外国と刑事司法の面で協力を展開して以来、逃亡犯罪者、とくに汚職官僚の追跡と逮捕を重点としてきた。欧米諸国を逃亡先にするケースが多いが、これまではこれらの国との間では引き渡し条約は結ばれていなかった。多くの国では憲法に死刑禁止の条章があるため、死刑犯は引き渡さないとの条項を加えるのがこれらの国の慣行であり、これを条約締結の条件としている。スペインもそれが条約の核心的な内容だと指摘した」と説明する。

「中華人民共和国刑法」には死刑に処すための68の罪名が依然として残っており、その大半は経済犯罪関連の罪名だ。欧米先進諸国ではほとんど死刑を廃止しており、国内法にも「死刑犯と政治犯は引き渡さない」との規定がある。この規定は次第に国際司法協力の準則の一つになりつつある。そのため、余振東被告や頼昌星容疑者の事件に関しては、中国政府は、先進諸国の法律との間で双方が受け入れられる解決策を見出すことに腐心した。

中国政府が「良性の約束」をしたとしても、余振東容疑者の送還は例外なものであり、中国は今日に至るまで米国やカナダ、オーストラリア、シンガポールなど汚職官僚の最も多い逃亡先である国とは引き渡し条約は締結していない。

2000年11月、「遠華事件」が発覚した後、全人代常務委は「中華人民共和国引き渡し法」を採択した。同法第50条は「良性の約束については、最高人民法院が決定をする」と規定。量刑上の最終決定権を最高人民法院に授与することを法律で明確にしたのである。この規定によって、先進諸国と引き渡し条約を締結し、逃亡犯罪者を追跡し逮捕するための門戸がさらに大きく開かれたと言えるだろう。

今年の全人代会議と全国政治協商会議開催期間、公安部は「逃亡犯罪者追跡逮捕に関する費用」を初めて公表した。国内では1万元(1元約14円)から最高で数百万元。余容疑者の事件では、中米は3年にわたって交渉を繰り返し、その間に取り調べや証拠取得に要した費用は計算するのも手間のかかるほど膨大な金額だ。今後もこうしたケースが増え続ければ、財政上の負担は重くなる。

こうしたことから、「国連腐敗防止条約」に署名するとともに、各国と引き渡し条約を締結し、他国の協力を得て逃亡犯罪者を逮捕することが、政府にとって現実的な選択肢となった。

「国連腐敗防止条約」の発効に向けて国内法を整備するため、立法機関は「反資金洗浄法」など一連の法律の改正に取り掛かった。「反資金洗浄法が完備されれば、引き渡しに関する認識は米国により近づくことになる」。さらに中国社会科学院法学研究所の屈学武教授は、「中国は米国のテロリストによる資金洗浄の取り締まりを支援する。その一方で、米国は中国の汚職・腐敗による資金洗浄の取り締まりを支援する。こうすれば、両国間の将来の引き渡し条約締結に向けた条件は整うだろう」と指摘する。

EU加盟25カ国はいずれも死刑を廃止しており、「死刑犯罪者は引き渡さない」との原則を堅持している。とはいえ、中国とスペインとの引き渡し条約の締結で、ドミノ倒しが起きるのではないかとも予見される。徐参事官は「この引き渡し条約は非常にプラスな意義を生み出すのではないかと信じている」と話す。