2006 No.37
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学術界の名誉を揺るがす腐敗

――このところ、学術界での腐敗が社会各界の幅広い関心を呼んでいる。不正行為を根絶し、学術的気風を浄化し、刷新をめざす環境を整備することが、関係各方面の強い共通認識だ。

安子

中国科学技術協会の統計によると、現在、科学技術者は2174万人を数え、世界のトップに位置する。

この十数年近くの間、中国経済の急成長で科学技術の巨大な価値に目を向ける人々が一段と増えたことから、科学技術や学術分野はこれまでにない金銭や優遇政策を得ることができるようになった。だが同時に、科学技術分野でも研究者による論文盗作や捏造といった前代未聞の不正行為が出てきた。韓国の科学者ファン・ウソク氏の学術論文捏造が明るみになって以降、市民は科学者を懐疑的な、あらを探すような目で見ざるを得なくなってきた。中国科学院の路甬祥院長は「余りに多すぎる誘惑が、一部の技術者の研究に従事する動機をあやふやにさせている」と指摘する。

驚くべき捏造

今年5月12日、論文盗作ではなく、別人が開発したチップを直接利用して国から数億元の経費を詐取するという捏造事件が発覚した。上海交通大学はこの日、調査結果と処分を発表し、当事者である陳進氏の教授雇用契約を解除することを決定。科学技術部や教育部、国家発展・改革委員会も即時、陳氏が担当する科学研究プロジェクトと特別待遇の提供を取り止めるとともに、関係経費の返還を求めることを決めた。

3月10日には、清華大学も、医学院々長代理の劉輝教授が個人のホームページに掲載した履歴、学術成果に関する資料に不実の記載があり、同姓で名前の略称表記文字が同一の人物の論文を自己の業績にしたとして、捏造の疑いがあると指摘し、免職処分にしている。

北京大学の前副校長の王義道氏は「短期間に成果を上げられなければ、経費は取り消されてしまう。そのため、研究者は成果を上げられないと捏造したり、論文を寄せ集めたりするようになる。こうして粗製濫造された、寄せ集められた、ひいては捏造された論文が数多く発表されることになるのだ。中国は論文の数は多いが、質的には低い」と指摘する。中国科学院の統計によると、2004年に中国人学者が発表した論文は総数で世界第9位だが、論文1篇当たりの引用回数では同124位に過ぎない。

5月4日、米国と中国で仕事をする120人の生命科学分野の教授とその他の研究者は連名で科学技術部、教育部、自然科学基金会、中国科学院などの政府機関に書簡を送り、中国の科学研究の威信に強い関心を示すとともに、関係機関に対し行動を起こして適切に処理するよう訴えた。書簡の責任者で、米インディアナ大学の傅新元教授は「中国には現在、学術界の不正の糾弾を適切に処理するシステムはない。そのため捏造した者が情状に応じた処罰を受けることはなく、あるいは無実であっても糾弾された者が保護されることもないため、正常な研究ができない状態にある。こうした状況は糾弾された研究者の名誉を傷つけるだけでなく、正常な科学研究や国際科学界の中国の研究者に対する信用にも影響を及ぼす」と強調する。

社会的土壌

多くの学者は、その背後にはより大きな問題が存在しており、体制上の改革がなさらなければ、同じ様な問題は続出すると見ている。

同済大学海洋地質学部の汪品先教授は「最近発覚した数件の学術界の腐敗は氷山の一角にすぎず、実際はこれだけに止まらない。しかも科学技術界で明らかになった問題は孤立したものではなく、社会全体の浮き足立った気風と関係している。偽札の横行、スポーツ選手の八百長やドーピングの使用、学術界の論文捏造、虚偽などは珍しいことではない」と指摘。

真の科学研究には苦しい努力が必要だが、捏造は元手をかけずに巨利が得られるため、一部の研究者は陳進氏やファン・ウソク氏のように向こう見ずな行為に走り出してしまうのかも知れない。

中山医科大学実験動物研究所主任の陳系古教授は「学術界の捏造問題は現在、国際的にも広く見られており、中国が例外であるわけではない。学生の卒業論文を直接利用して文章を書いて発表したり、他人の文章に自分の名前やテーマを加えたり、テーマ名を変えて用いたりすることは、騙し取るのではなく、奪い取る行為だ」と強く批判する。

さらに陳教授は「論文捏造は外国では学術上の不正行為とされており、中国でも完全な意味では学術上の腐敗とはされていないが、それは学術分野での権力の乱用にずっと表れている。証書の売買や学術誌の紙面の売買、他人の研究成果や経費の強引な独占、学術界や行政での地位を利用しての研究資源の独占、不正行為隠ぺいの幇助、プロジェクトや成果申請過程での虚偽報告、これらがより大きな腐敗と言えるだろう。権力に対する監督システムの欠落や、評価システムの一面的な基準への依存が、学術界に腐敗を生む土壌だ」と強調する。

解決の方法

※中国科学技術協会:「科学者の行為に関する準則」を起草

5月24日、中国科学技術協会の周光召主席は同協会の第7回全国代表大会で活動報告を行い、研究者の間に良好な学風と職業道徳を培うため、「科学者の行為に関する準則」を起草したことを明らかにした。

同準則制定の目的は、研究者に対して、科学に従事する者としての道徳や厳格な自律を明確に提唱することで、研究活動での剽窃や盗作、成果の誇張、捏造といった不道徳な行為に断固反対する姿勢を示すことにある。それに合わせて、もう1つの目的は、成果を盗作されたり、論文が剽窃されたりした被害者を支援し、彼らの正当な利益の保護に努めることにある。

※科学技術部:研究者信用データベースを確立へ

さらに周主席は報告で、科学界の道徳に関する規約や規範を策定し、研究者の信用調書の確立と完備を進めることで、彼らの学術上の道徳を監視監督するよう呼びかけた。

科学技術部はすでに作業に着手。同部の馬頌徳副部長は「学術上の腐敗や捏造の問題を解決するカギは、研究者の信用と道徳にある」と指摘。その上で、「科学者信用データベース」を構築する考えを示し、「個々の研究者の研究、科学技術の評価審査への参与状況などがデータベースとして記録される。このシステムを見れば、研究者の過去の学術上の行為が妥当かどうかかすぐ分かる」と強調する。

※教育部:学風確立委員会を設置

教育部は5月23日、学風確立委員会を設置。課題は捏造行為を失くすことだ。メディアは委員会の設置について「官が初めて学術界の学風の問題を適正化する専門の機関を設置した」と報じている。

教育部社会科学司の袁振国副司長は「現在、学術界には深刻な問題が存在している。最も際立っているのが、浮き足立った学風、学術論文の捏造や粗製濫造、理論の実質からの逸脱、規範の順守違反、投機的行為などだ。学術成果の評価審査ですら、不正な手段で私利私欲を図る者がおり、中国の学術界のイメージや気風を著しく損ねている。こうした問題を適正化するには、専門の機関を設置することが必要だった」と説明。

学風の確立には自律的行為がより求められる。そのため委員会は道徳や学風に関する研究や調査、相談や説明を行うことで、評価基準を策定していく計画だ。

教育部は2002年以降、学風の確立を求める「学術上の道徳の確立の強化に関する若干の意見」や「大学の哲学・社会科学研究の学術上の規範(試行)」「教師の道徳教育の更なる強化と改善に関する文書」などを相次いで制定している。

外国を参考に

復旦大学中国歴史地理研究所の葛剣雄所長は学風委員会の副主任委員に就任。「瞭望東方週刊」のインタビューを受けた際、「腐敗を防止する上で、外国の経験は参考に値する」との考えを強調した。

例えば、匿名による評価審査制度、論文の多寡ではなく、本人が最高レベルの論文と考える2篇を提出させる代表的研究成果制度、不正の追跡調査制度、引用文字数に係わらず、いかなるケースでも出所が明記されていなければ盗用と見なすなど、具体的な規定を設けている国が多い。これらはいずれも成熟した方法であるため、参考できると葛所長は説明する。

問題は、これらの良い方法をうまく中国に導入できるかどうかであり、また、そのまま援用するのが良くないのは確かだ。中国にはこれまで真の学風が確立されたことはなかった。清代に西洋学が入ってきて以来、中国は常に動乱に見舞われ、10年続けて太平だった時代はほとんどない。新中国建国後ですら、同じような“運動”が続き、改革開放後になって未曾有の大きな変革の時代を迎えたことで、社会は政治や経済のことを考える余裕が出てきた。だが、学術界には着実に是正していく時間はなかった。中国は優れた学風の確立と人格や道徳の育成、世界に通用する職業道徳の範ちゅうに属する多くのものを非常に必要としているが、中国人は恐らくそれを全く意識していないのだ。

制度の効果を

学術界の名誉を維持する上で、第一歩となるのは学者の廉潔と自律だが、自律が機能しなくなった時には、関係する学術界の相応する規範で責任を負わなければならない、との考えがある。現在、関係機関は制度の整備を急ピッチで進めているが、相応する制度や規範はまだ不完全であるため、腐敗の発生から罰則に至るまで効果的に監視管理することは不可能だ。

これについて学者は関心を示し、海外の中国人学者もいろいろと提言している。5月初めに120人の研究者が連盟で出した書簡は、不正行為の対応と規範の確立について(1)不正行為の処分は合法的かつ適切な調査手順に沿ったものでなければならない(2)国の権威ある機関を設立し、学術上の不正の糾弾に関係する調査に当たっては政策、制度面から保障する(3)正常な学術論争と不正の糾弾とを区別する(4)大学や研究機関に科学研究の信用に関する必修の専門課程を設置する――などの6項目を提言した。

また、監視監督・罰則制度の確立は事後的な対応策に過ぎない、との意見もある。ある社会学者は「学術界の腐敗は、成果評価制度や学者の昇級制度、社会の風習など様々な要素を総合した上での結果だと考える。従って、対処療法は問題を解決する根本的な道ではない。どのようにしたら学者が心の底から学術界の信頼を維持したいと願うかを、人々はしっかりと考えるべきではないかと思う」と強調する。