2006 No.39
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米国の世界安全戦略の調整

――米国の最近の軍事配備をめぐる一連の動きは、その安全戦略の調整を意味している。

徳泉
(中国軍備抑制・軍縮学会副秘書長)

米国はこのところ軍事面で一連の行動に出ている。米メディアは8月31日、ラムズフェルド国防長官がアフリカ問題を専門に扱うアフリカ軍司令部の新設を検討していると報じた。また米軍は、世界範囲で通常戦争を行い、それに迅速に対応できる新たな作戦能力を有するため、核弾頭を搭載した大陸間弾道ミサイル(ICBM)を通常弾頭装備のミサイルに転換するなど、新たな軍事戦略を策定したといわれる。この二つの措置は米国の唯一超大国としての地位と、テロ対策の必要性とが緊密に結びついたものだ。

冷戦終結後、米国は単独で世界で覇を唱え、唯一の超大国としての地位に対する国家あるいは地域組織のいかなる潜在的挑戦をも防ぐため、「2.5戦争」(欧州・アジアでの大規模戦争と、世界のその他の地域での小規模紛争)に同時に勝利できる世界安全戦略を策定。2000年に政権を取ったブッシュ大統領は、この戦略を新たな段階へと引き上げた。01年9月11日の同時多発テロ後、米国は強い反応を示し、伝統的な脅威に向けた安全戦略を、まず反テロの優先、次に大量破壊兵器の拡散防止と同時に民主と人権に関する価値観の推進へと改めた。米英連合軍が国連の承認を得ることなく、核兵器の拡散防止と反テロを口実にイラクに侵攻したことは、米国の世界安全戦略を最も具体的に説明するものだ。

世界各国が協調したことで、テロの勢いはある程度食い止めることができた。アフガン戦争とイラク戦争では短期間に所期の目標が達成できない状況の中、米国は経済や軍事、科学技術におけるその超強力な優位性に依存し、冷戦後に変化した世界の枠組みに即して、西太平洋の最前線における配備の強化や、中・東欧と東アジアにおける軍事基地の増設など、世界の軍事展開の調整に乗り出した。また、情報システムの改革や「先制攻撃」を前面に押し出した戦略的原則、新型の核兵器と通常兵器システムの研究開発、迎撃ミサイルの宇宙配備、ミサイル防衛システムの完備などの「軍事革命」を進めている。これら一連の新たな措置はテロに反対し、覇権を求めようとする方向性を示すものだ。

通常弾頭搭載の長距離ミサイル

長距離ミサイルに通常弾頭を搭載するという考え方は2つの要素に起因している。第1は時間的要素だ。テロとの戦いにおいて、テロリストと?あるいは武器の集結場所が米国本土以外の軍事基地から遠く離れているとの情報を得た場合、長距離爆撃機が現場に到着するまでには数時間かかり、付近にいる艦艇が指定場所に直行し巡航型ミサイルを発射するまでにかかる時間はさらに長い。こうした攻撃方法ではテロリストの人的戦力を適時かつ効果的に撃破するのは難しい。1時間以内(大統領承認を得る時間も含む)に数千キロの地点からテロリストの集結地を効果的に攻撃できる武器があれば、テロとの戦いの過程は大幅に短縮される。

第2は長距離ミサイルの威力だ。戦略原子力潜水艦「オハイオ」に数十年来搭載されているトライデントII戦略核弾頭(1隻にそれぞれ搭載された24基のうち、22基は核弾頭、2基は通常弾頭)は、衛星に誘導されて数千キロをわずか10数分で飛行し、しかも命中精度は非常に高く、誤差は5フィート程度。核弾頭を通常弾頭に交換するか、あるいは通常弾頭を搭載し地上から発射する新たな長距離ミサイルを開発すれば、間違いなくテロリストに迅速かつ効果的な打撃を加えることができる。

ペンタゴンはこうした考えは合理的かつ実行可能だとして、上下両院に動議を出した。しかし、両院軍事委員会では多くの議員が疑問を呈した。まず、テロリストの集結時間や場所に関する情報は正確性、適時性、信頼性が極めて重要だというものだ。過去の経験に照らせば、これを実現するのは甚だ難しい。次に、より重要なのは、長距離戦略ミサイルを突然発射した場合、搭載するのが通常弾頭だとしても、ロシアなどが米国によるミサイル攻撃だと誤判し、迅速に対応することで、核による衝突や大戦が引き起こされる恐れが極めて高く、リスクは相当大きいというものだ。そのため、ミサイル発射を事前に関係諸国に通告するか、または平時から早期警戒体制を構築することで、各国とミサイル発射に関する様々な情報を共有する、また米国の特定の場所に限定して発射する、といった提言がなされた。ところが、こうした提言は米国の国家安全上の利益を大きく損ねるとされた。双方の議論は続いているが、今に至っても決断を下すのは難しいようだ。

だが、もし米国がこの種の長距離戦略ミサイルを随時発射できる特権を有した場合、反テロと言えば聞こえはいいとはいえ、では誰が、核弾頭の搭載されていないミサイルを見分けられると保証できるのか。

反テロに向けた新たな拠点

米国がアフリカ軍司令部を増設しようとする理由の1つは、テロ組織や過激派が宗教信仰を借りてアフリカでその勢力を急速に伸ばしているため、一部の貧困地区がテロリズムを生む温床に変わり、政局や社会が混乱し、不安定になっているからだ。いま1つの理由は、アフリカの豊かな自然資源、とくに石油や、銅やウラン、ダイヤ、金といった戦略的資源を全面的に手中に収めようとしているからだ。現在、米国がアフリカから輸入する石油は全体の12%にとどまっているが、今後15年間にサハラ以南からの輸入は25%に達すると米国の専門家は予測している。

反テロという角度だけから言えば、アフリカ北部は決して“オアシス”などではない。ケニアとタンザニアでは米大使館が同時爆弾テロに見舞われており、アルジェリアやモロッコなどでもテロ事件が何度も起きている。テロリズムと過激派がこの地域にすでに浸透していることを物語るものだ。

週刊誌「タイム」によると、ラムズフェルド国防長官は近いうち、テロとの「長期にわたる戦い」を貫くため、アフリカの軍事問題を個別に処理するアフリカ軍司令部を設立するとともに、国務省と中央情報局(CIA)と協調していく方針を発表する。これも米国の世界安全戦略の調整を具体的に示しており、冷戦時代の防衛姿勢を、攻撃型だと強調する必要のある先制攻撃に改めようとしている。

反テロを目標とした米国のアフリカ進出には、異論もある。「帝国構築」の一部であり、石油資源の保護には別の大国に手を出させないようにするためだとの見方だ。ブリュッセルに本部を置く国際危機グループ(ICG)が発表した論文「サハラ以南のイスラム過激主義  

事実それとも伝説か」はこう指摘している。「サハラ以南には60数年前からイスラム原理主義が存在しているが、これまで西側に反対する暴力とつながりを持ったことはない。安全の角度から言えば、西側がサハラ以南における問題に巻き込まれるケースはずっと多かった、というのが理にかなっていることを証明する事実は十分ある。しかし、そこは決してテロの温床ではない。米国の軍人が誤った考え方と高圧的な手段で問題を処理しようとするなら、その地の平静を打ち破ることになる」と。