2006 No.42
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独占状態、法律で規制へ

王君

香港特別行政区から大陸に電話する場合、携帯だと通話料は1分あたりわずか025香港ドル。大陸から香港にかけると、同1.5元、約1.03香港ドルもかかる。

香港は面積1103.72平方キロ、人口690万。携帯事業会社は合計6社だ。一方、960万平方キロの国土に13億の人口を抱える大陸には、チャイナモバイルとチャイナユニコムの2社しかない。いずれも国有企業。チャイナモバイルの昨年の営業収入は2430億4000万元(1元約14.4円)、純利益は535億5000万元にのぼる。年間伸び率はそれぞれ26.3%に28.3%。それに比べ、チャイナユニコムの営業収入はわずか870億5000万だ。年間伸び率は10.1%に過ぎない。

だが、こうした状況はじきに変わることになるだろう。「独占禁止法」の草案が最高の立法機関、全国人民代表大会(全人代)常務委員会に提出され、審議されることになったからだ。

政府は商業賄賂や、市場での独占的地位の乱用、競争を制限する取り決め、市場価格の操作など、競争を制限する行為を規制する「不正競争防止法」や「価格法」「対外貿易法」をすでに制定してはいるが、現行の法律ではその効果は非常に限られている。これまでは各部・委員会(省庁に相当)が個別に独占的行為を取り締まる職責を担っていたが、現在は協調性のある包括的な独占禁止法が必要とされている。

全人代に提出された「独占禁止法」草案は8章56条からなる。内容は、独占的な協定を禁止する、市場での支配的地位の乱用を禁止する、行政関与の独占を禁止するなどだ。この草案に基づき、国務院は「独占禁止委員会」を設置し、部・委員会の間で協調性のある作業を進めていくことにしている。

行政関与の独占

計画経済から脱却したとはいえ、部・委員会が行政権を利用した経済活動への関与が習慣化しているのが実情だ。そのため、一部の地方、また電力や石油、天然ガス、鉄道、電信、民間航空など一部の業界は独占的な状態にある。

中国人民大学法学院の孟雁講師は「中国の市場経済はまだ成熟していない。競争も十分ではない。そのため、競争行為を制限する規範も熟していない。行政が関与した独占は、経済的な独占と同様に公正な競争を妨げている。長年にわたり、行政が関与した独占を正す規定がなかったがために今、社会的に大きな関心を呼んでいる」と強調。さらに「海外ではこうした状況はあまり見られず、参考にできることは少なくない」と指摘する。

行政関与の独占も「独占禁止法」起草の過程で多くの議論を呼んだ。商務部と国家工商行政管理総局は2004年に共同で起草した「独占禁止法」草案に、行政関与の独占禁止に関する条項を独立した1つの章として盛り込んだ。2005年9月の草案作業で、その行為の範囲は縮小され、さらに2006年4月に国務院に提出された草案では、1章そのものが削除されてしまった。だが、最終的に全人代が審議した草案で再び復活した。

起草グループに参画した専門家は「行政関与の独占禁止に関する条項が紆余曲折を経たのは、その成因が複雑であるほかに、一部の業界監督機関が強く反対したからだ」と指摘する。

「独占禁止法」の制定によって、電信や鉄道、民間航空、電力などの業界での行政関与の独占行為が制限されることに大きな期待が寄せられているが、国務院法制弁公室の曹康泰主任はこれについては悲観的だ。「禁止するには経済体制改革と政治体制改革を一段と進める必要がある。一つの法律ですべての問題を解決することはできない」と強調する。

独禁委員会の設置

国務院は現在の草案に基づき、独占禁止委員会を設置する計画だ。だが、孟講師は「委員会の設置は少なくとも政府が非常に重視していることを示すものだろう。それでも、すべての法律が1つの専門の委員会で執行できるものではない」と指摘する。

そもそも草案の規定も矛盾している。草案は、同委員会は国務院関連機関の責任者と法学、経済学の専門家から構成するとしているが、具体的な職責については規定がないのだ。しかも、独占禁止に関する事務は国務院の独占禁止法執行機関が執行するとしながら、同委員会と同執行機関との関係に関する規定は設けられていない。

中国政法大学の時建中教授によると、現在、十数の部・委員会が「独占禁止法」の立法作業に参加したり、関連する規則・制度を検討したり、日常業務の責任を負ったりするなど、それぞれに独禁に関する職責を担っているのだ。例えば、1999年から今年にかけて、国家工商行政管理総局は8年連続して独占禁止法の執行業務を全国的に展開している。2003年には、国家発展・改革委員会が、価格独占行為の認定と処罰、規定の解釈などの権限は同委員会にあるとする「価格独占行為の制止に関する暫定規定」を策定している。2003年に新設された商務部は一貫して、「独占禁止法」制定の過程で重要な役割を発揮しようとしているのだ。

だが、「独占禁止法」草案には一部の重要な問題について明確な規定が設けられていない。部・委員会の間の関係だ。時教授は「こうした状況では、法執行の重複、あるいは法の執行による空白が生じやすい」と指摘する。

M&Aの制限

1992年以来、中国が導入した外資は3200億ドル以上に達した。同時に外資の間では中国企業、とりわけブランド企業のM&A(買収・合併)が増え続けている。中国企業を買収し巨額の利益を得ると、その競争相手の外国企業に売り渡す外国ファンドもあるほどだ。今年3月の全人代と全国政治協商会議で、李徳水・前国家統計局長は「外資によるM&Aは国家の経済的安定を脅かす」と警告している。

市場競争を損ねる可能性のあるM&Aを制限するため、「独占禁止法」草案では、一定のシェアを超える場合、買収提案者は国務院の独占禁止法執行機関に申請しなければならないと規定。だが、同規定は直接、多国籍企業を対象にしたものではなく、国内企業と外資系企業を一体的に適正化する、というものなのだ。草案は何度か修正を重ねるにうちに、基準となるシェアも上方修正された。最終的に全人代に提出された草案では、M&Aの関係者の世界のその年の売上高を、50億元から120億元、中国国内でのその年の売上高を2億元から8億元に引き上げた。

国務院法制弁公室では「中国社会科学院数量経済・技術経済研究所の経済学専門家に申請基準に関する検討を委託した。主にアメリカやカナダ、ドイツ、日本などでの申請基準と、国家統計局によるデータのほか、2004年の全国経済調査資料を参考にして、産業の集中度と国際競争力を向上させるために、絶対多数の企業がM&Aにあたって申請する必要がないようにすることで、最終的にこの数字を確定した」と説明する。

孟講師は「消費者にとっては、『独占禁止法』で公平な競争が促されるのでメリットはある。企業にとっては、その形式がどうであれ、いずれも同じようにチャンスとチャレンジに直面することになるでしょう。企業が現在もっとすべきことは、『経済の憲法』とも呼ばれる法律をめぐる議論に積極的に参与することだ」と強調する。

国務院法制局は昨年8月、ゼネラル・エレクトリック(GE)や松下電器など外資11社と、欧州連合(EU)や米国の在中国商工会議所の代表を招いてシンポジウムを開催。出席者はいずれも「基準が低すぎれば、外資にとってM&Aのハードルが当然高くなる」との懸念を表明した。

「立法法」の規定によれば、法案は採決される前に普通、少なくとも3回審議される。全人代常務委員会は2カ月に1度、会議を開くことから、法律の成立には提出して最初の審議が始まってから、少なくとも6カ月はかかる。また、法案は2年以内に採決されなければ、審議を終了する。

※参考資料

独占禁止法立法の過程

1987年:当時の国務院法制局は専門グループを発足させ、独占禁止と不正競争防止の一括法案を起草した。

1988年:「独占禁止と不正競争防止に関する暫定条例草案」を提出。当時の国家経済貿易委員会と国家工商総局は調査の結果、独占は常態化していないとして、「独占禁止法」と「不正競争防止法」を切り離して起草することを決定した。

1993年:第8期全人代常務委員会は「不正競争防止法」を採択した。

1994年:第8期全人代常務委員会は「独占禁止法」を立法計画に盛り込み、国家経済貿易委員会と国家工商総局が共同で起草することになった。

2003年:国務院の機構改革で、国家経済貿易委員会は廃止され、新設した商務部が「独占禁止法」の起草作業を引き継いだ。

2004年:商務部と国家工商総局は、共同で起草した「独占禁止法」の草案を国務院に提出。草案では、商務部が独占禁止業務に責任を負う機関とされた。

2005年2月:国務院法制局弁公室は「独占禁止法」に関する第1回起草会議を開催。商務部の草案は破棄され、同弁公室が起草作業を組織することになった。「独占禁止法」は全人代常務委員会の立法計画に盛り込まれ、6月までに草案作業を終え、年末までに正式に公布することになった。草案は10月になっても常務委員会に提出されなかったため、当該法の審議は2006年まで引き延ばされた。

2006年6月:国務院常務会議は「独占禁止法」の草案を原則採択。さらに修正した後、全人代常務委員会に提出され、第1回審議が24〜29日まで開かれた。