薬膳業界に新たな活力を
――漢方薬と食材を組み合わせた薬膳。中国ではその歴史は長いが、業界関係者は、規範を強化し、ブランドを確立することが業界の直面する急務だと指摘する。
馮建華
34歳の王友紅氏は薬膳を主体にしたレストランの料理長。開業して半年、店は地理的に不便なところにあるが、経営は好調だ。外国人も頻繁に来るという。薬膳関連料理の月間売り上げは約40万元(1元は約14円)と、業界内でも非凡な数字だ。
王氏は「薬膳には大きな発展に向けたチャンスがまた訪れるだろう。今後10年以内に、業界に『全聚徳』(北京ダックの老舗)のような内外で知名度の高いブランドが出てくるのは間違いない」と予想する。
中国の薬膳は歴史が長い。太古の時代、中国民族の先祖は生存の必要性から、自然界の至る所に食材を求め、そうしていくうちに、飢えをしのぐための食物としてだけでなく、さらに薬用の価値を備えた植物を発見し、食物と漢方薬を一体化させたのが、薬膳の起源だとされている。史書の記載によると、1000年余り前の周代に、皇室に薬膳専門の料理人が登場。その後、社会経済の発展につれ、薬膳は次第に一般市民の間へと広まっていった。
現在、常用される漢方薬は約5000種。だが、薬膳に使用できるものはどれほどあるのか、正確な数字はまだない。中国薬膳研究会の李宝華副会長によると、薬膳への使用が許可されている漢方薬は108種に過ぎない。
90年代末、多くの大都市で“薬膳ブーム”が起きた。5つ星ホテルも、街の小さなレストランも、“薬膳”で消費者を呼び込もうとした。
李副会長は「薬膳ブームは、人々の生活レベルが着実に向上したことを示すものだ。健康や文化を重視するようになって、飲食の質がますます重視されるようになった」と説明する。
だが、監督管理が行き届かなかったことから、薬膳レストランは乱立。薬膳を“看板”に掲げただけのレストランも少なくなく、薬膳の特性や作り方を理解しない料理人も多く出てきた。
薬膳を運用する際には先ず、消費者の体質や健康状態、季節性の流行病、地理的環境などの状況を全面的に分析し、それを基礎に、相応の食事療法原則を確定しなければならない。季節性流行病について言えば、中国医学理論では、春は肝臓、夏は脾臓と胃、秋は肺、冬は腎臓を強くするとされる。反対に、漢方薬の特性を理解していなければ、薬膳は適切に作られることなく、逆の効果が現われる恐れがある。
だが、王氏から見れば、伝統的な薬膳は“薬”としての特性を過度に強調し、治療効果を過度に宣伝するあまり、薬膳の料理として備えているべき美味が軽視されている。こうした考え方に支配されて作られる薬膳は、人々に料理の香りより薬の味が濃いといった感じを持たせることになり、食べたいという欲望を起こさせるのは難しい。
王氏は「私が作る薬膳では先ず、おいしい料理であることを強調している。美味がその前提であり、次に養生・保養機能に留意する」と話す。
1997年、小さいころから料理を作るのが好きだった王氏は薬膳業界に入り、一流の料理人に師事。後に高級薬膳レストランの料理長となった。
10年もたたないうちに、知的財産権を取得した薬膳料理本「百草養生宴」を編集した。料理の数は200種超。
「これらの薬膳の調合は、薬用植物専門家の厳格な検査をパスしたものだ。料理人の役割は、いかにこれらの薬膳をさらにおいしくさせるか、薬と薬の間に、最適な結合点を見出すことである」と王氏は強調する。
王氏によると、薬膳の看板を掲げた有名レストランはわずか7、8店。だが実際に、“ヘッジボールを打っている”店はどれだけあるのか明確ではない。その主因は2つある。
1つは、厳格な専業規範がないため、薬膳料理人と名乗る人は少なくないが、真の力量のある料理人は非常に少なく、数年前に中国薬膳研究会が薬膳料理人の養成に乗り出したものの、実際の需要と大きな開きがあるからだ。
もう1つは、市民の考え方がある程度、薬膳レストランの「公開化」の妨げになっていることだ。王氏によると、現在の薬膳業界にはタブーがある。対外的な普及に当たって「薬膳」と言うことはできず、「養生」とか「保健」といった言葉しか使えないことだ。
王氏は「多くの人は薬膳にある『薬』という字を聞くと、病気を治すためだと考えて、食べに行きたくなくなる。これが人々の心理的障害となっている」と指摘。
まさにこうした事情を考慮して、多くの薬膳レストランが自らの行動を改めるようになった。以前のような治療効果を追求するのではなく、薬膳の色や香り、味を高めることをより重視するようになったのだ。
多くの消費者は、薬膳を食べたいのは、その主要な前提はおいしいからだと話す。養生の効果については、それは美しい期待に過ぎない。もちろん、病気治療の目的で薬膳を食べに行く人もいる。長年便秘に悩んできたお年寄りが、治療しても治らないため、最後に薬膳による治療を求めるしかなくなり店を訪れた。事情を知った王氏は、オニクの用量を増やしたところ、便秘はすぐに良くなったという。
だが、王氏は再三強調する。「消費者が病気治療の目的で薬膳を食べに来た場合には、大きな期待は持たないようはっきり言っている。薬膳は補助的な養生・保養機能を果たすだけであり、目に見えた効果を上げることはできない。しかも全ての病症に適用できるものではない」
世界中国医学連合会が編集中の「薬膳学」の編集主幹で、北京中医薬大学基礎医学院で栄養学を研究する周倹副教授によると、薬膳の主要な養生・保養機能は、肌を潤し美しくする、髪を黒く豊かにする、脳の働きを良くする、ダイエット効果がある、骨や腰を強くする、性機能を改善するなど。
周教授は「どんな人もむやみに薬膳を食べてはいけない。事前に漢方医など専門家の意見を聞くのが最良だ」と指摘する。
王氏によると、消費者が薬膳を食べに店を訪れると、明確な要求がない場合には、専門の訓練を受けたサービス係りが客の身体状況に照らして参考意見を書き出し、こうした参考意見は料理長が認可して初めて、料理に反映される。
「おいしくて安全、これが私たちの第1の原則だ」と王氏。
王氏は、北京の薬膳業界では「2極化」が進むだろうと見る。薬膳は、高級でなければ、非常に低級なもののどちらかとなり、膨大な消費者を持つ中級なものはますます少なくなる、という考えだ。
「これは非常に大きな市場の空白だが、潜在力は巨大でもある」と強調する。
薬膳業界の発展について、王氏は「政府の関係機関は市民が薬膳について正確に理解するよう指導する必要がある。それを踏まえて、薬膳料理人の参入のハードルを引き上げ、料理人の条件を明確にすることで、業界のさらなる健全、秩序だった発展を推進していくべきだ」と強調する。
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