2006 No.47
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慈善事業のための法整備を

――政府と社会各界は現在、慈善事業が円滑に進むよう尽力しているところだ。

唐元ト

風向明媚な浙江省の省都・杭州。いくらにもならない古紙が「愛の心」に包まれた慈善活動に役立っている。この「愛の心の紙運動」を始めたのは、陳波琴さんらレイオフを体験した3人の個人事業者だ。就職の難しい一時帰休者や知的障害者を雇い、古紙を売った利益を独居老人の介護サービス費用に充てることで、弱者を救済することができた。現在、市内にはこの活動を通じて古紙を処分している政府機関や事業所、非営利団体は400余りにのぼる。

だが、活動は円滑に進んできたが、業務量が拡大するにつれて支出が膨らみ、公益事業に用いる金額も次第に増えつつある。3人はそうした心配に困惑し、思いもかけず、気まずさややるせなさを味わう結果になった。一部の人から「慈善の名を借りて私利を図るもの」と誤解されたのだ。彼らは関係機関に監視や管理を行うよう要請したが、当局からはまだ回答はないという。

実際、慈善組織とその活動の実体的内容を適正化するための対処性と特定性の強い専門の法律はまだ制定されていない。制度の欠落は、多くの人が活動の過程で直面する最大の悩み、戸惑いでもある。愛の心を必要とする事業として、慈善活動には保障となる良好な法的環境がとくに必要だ、と多くの人が考えている。

遅延問題を解決

全国政治協商会議(政協)委員の王克英氏は「慈善事業に関する政策や法律の整備が事業の発展より遅れていることが、広がりのある奥の深い事業の発展を阻害している要因だ」と指摘する。

今日に至るまで、一部の行政法規や主管機関の規約を除き、慈善事業と寄付に言及した法律は「紅十字会法」(1993年に公布)や「公益事業寄付法」(99年に施行)など数部しかない。寄付金の運用に対してどの機関が管理と監督を担うのか、どう監督するのか、受理者は寄付を受けた状況や受理した財産の使用、監督の状況などをどう公開するかなどに関しては、特別に明確な規定はない。

広東省紅十字会常務副主席の徐火周氏は「現有の法規については、原則性は強いものの、参考にしたり、着実に実施したりできる実施細則がないため、比較的まとまりがなく、その他の法体系との関連性も十分ではない」と強調する。

昨年来、王克英氏をはじめ中華全国工商業連合会副主席の辜勝阻氏、少林寺住持の釈永信氏、著名なテレビキャスターの楊瀾氏ら政協委員や全国人民代表大会(全人代)代表が相次いで“雷同”するかのように、慈善事業を円滑に進めるための立法作業を加速することを内容とする意見や議案を提起してきた。

辜勝阻氏は「慈善事業の発展を阻むネックの1つは、慈善組織と基金の役割が有限であることだ」と指摘する。昨年末現在、各地方の民政機関に登録した民間組織は合計31万5000団体。うち社会団体が16万8000、基金が999、民間の非営利団体が14万6000。だが、非営利の慈善組織は数百にすぎず、社会全体の寄付金や物品の10%前後しか取り扱っていない。

民間組織は管理機関と業務主管事業所に登録して二重の管理を受けなければならず、「これが法人の地位を失わせている」と楊瀾氏。現在、合法的な慈善組織はいずれも独立した法人としての地位を備えておらず、業務主管事業所に登録する必要があり、しかもこれらの事業所は基本的には政府機関または政府から権限を授与された組織だ。楊瀾氏は「これが法律や行政体系における慈善組織の層的レベルを低くさせていることから、政府が依然として慈善事業で主要な役割を演じ、そのため慈善組織の創設や参入が大幅に阻まれ、その数は慈善的な援助を満たすにははるかに及ばない。また権限と責任を曖昧にし、効率も低下させている」と強調する。

新聞・雑誌の慈善事業コラム作家の紀綱氏は「私募基金の一部は業務主管事業所の承認を受けたいと思ってもより難しいため、客観的に見て、一部の民間財産を社会に還元しようとしても円滑には行えない。公募・私募基金が登録する際には200万〜800万の資本金を前提条件にする、との現在の規定も基金の発展を妨げている」と指摘する。

専門家は政策や法規の整備の遅れについて議論とする同時に、政府が近年一貫して慈善事業の発展に役立つ環境を整備し、制度面から保障と長期的かつ効果のある体制を構築するために全力を挙げるとともに、慈善事業の発展に向けた位置づけを明確にしたことを評価している。04年9月、共産党中央第16期中央委員会第4回全体会議は初めて、慈善事業の発展を社会保障制度の重要な一部であることを明確にした。05年3月には、温家宝総理が「政府活動報告」で「慈善事業の発展を支持する」と表明。同年11月20日、初の中華慈善大会で民政部が「中国慈善事業の発展指導要綱(06〜10年)」を公布した。

国務院と全人代常務委員会の立法計画にはすでに総合的な法律「中華人民共和国の慈善事業促進法」が盛り込まれ、民政部は現在、国務院の関連機関とともに社会各界の専門家や学者と連携して、計画に基づく同法の起草作業を進めており、来年の全人代常務委員会で審議される予定だ。

免税で局面打開

国内で登記された企業は1000万社を超えたが、寄付をした企業は10万社以下だ。「これは99%の企業が慈善活動に参加していないことを意味する」。1年前の中華慈善大会で、中華慈善総会副会長の徐永光氏はこうしたデータを明らかにした。同統計によると、昨年の個人の寄付金はわずか17億元と、1人平均すると1元(1元は約14円)に過ぎない。国家発展・改革委員会経済研究所流通・消費研究室主任の陳新年氏は「企業や個人は寄付に積極的ではない。多くが制度上の原因であり、税収の一大ネックともなっている」と指摘。

国内初の「中国慈善賞」を受けた大連万達グループ総裁の王健林氏は「企業は良い事をしたくないというわけではないが、良い結果にならない時もある」と不満を漏らす。その理由として、「企業所得税暫定施行条例」の規定を挙げた。企業所得税の納税者が公益性や救済性のある寄付を行った場合、その年度の課税対象額の3%以内であれば、税は免除される。「個人所得税法」も、個人が慈善組織に寄付した場合、納税額の30%以下については、免税すると規定している。「寄付金が多ければ多いほど、納税額は多くなる。これは重複課税だ」と王総裁は強調する。

企業または個人が慈善活動に従事するということは、政府を支援して一部の社会福祉面での責任を担っていることであり、その意味から言えば、政府の免税待遇を得るのは当然だろう。だが現在、減免の選択の範囲はむしろ非常に狭い。企業の年間利益が1000万元とした場合、33%の企業所得税、330万元を納めなければならない。だが、この企業が100万元を寄付すると、3%を上限に税を控除、30万元は納税する必要はない。即ち、企業は970万元を利益として320万1000元の所得税を払う。寄付金については、70万元に対して23万1000元の所得税を納めることになる。

この数年来、国家税務総局や財政部は、企業が10数団体の慈善組織に寄付した場合は全額免税が受けられるとの通達を出してきた。だが、それは一定の範囲に限られており、全ての公益団体がこの待遇を受けられるわけではない。

民政部災害救助・救済司々長の王振耀氏は「中国では、多くの人が寄付した後に免税の申請をしていない。原因は税法を理解していないだけでなく、申請手続きが煩雑なため放棄しているからだ」と指摘する。王振耀氏自身も中華慈善総会に個人名で500元を寄付したことがある。規定で50元の免税を受けられるが、そのために10件の手続きが必要であり、2カ月も費やした。「私たちの制度設計と事務・措置に大きな欠陥があるのは確かだ」とも強調。王振耀氏によると、「慈善事業促進法」は免税申請手続きの簡素化を規定するものになるという。

企業所得税は第2の税源。個人所得税に次いで、税収全体の20%を占めている。個人や企業の寄付に対する税の優遇を厚くすれば、国の税収に多少影響を与えるのは必至だ。財政部財政科学研究所税収政策研究室副主任の張学誕氏は「税収の基数は比較的低いため、さらに優遇するとしても、一気に大幅に引き上げるのは不可能だ」と強調する。

また、「慈善の名目で脱税をしている企業も一部にある。表面上は寄付金が大幅に増えても、実際にはかなりの部分が免税を通して企業自身の懐に回収されている」と懸念を示す専門家もいる。

民政部副部長の李立国氏は「現行の『企業所得税法』や『個人所得税条例実施細則』が規定する免税待遇では、企業や個人の寄付に対する積極性を引き出すのは難しい。『慈善事業促進法』が現在の優遇処置を基礎に局面を打開してくれるだろう」と話す。

“透明度”を向上

2億3300万元を寄付し「06中国慈善家ランキング」で第5位となった吉利ホールディング・グループ社長の李書福氏は再び悩みを抱えることになった。品行、学業ともに優れた千人の学生を資金援助して大学を卒業させることを決意。だが、「カネを出すのは問題ないが、難しいのは、名実相伴う被援助者を探し出すのによりコストがかかることだ。一度騙されたことがある。“貧しい子”が一転、現地の幹部の子弟にすりかわってしまうのだ」と語る。

こうしたことを慈善家が目にしたくないのは確かだろう。だが、似たようなケースはよく起きる。今年の慈善家ランキングに名を連ねた半数以上が関連する慈善組織に不信任票を投じ、全力を尽くすことをより期待する、との姿勢を示したのもうなずける。

北京青年ボランティアの陳小竹氏は「多くの人に意識的、無意識的に軽視されている根本的な問題が2つある。慈善家の権利と慈善組織の公的な信用力だ。ある意義から言えば、そこに現段階の慈善事業の発展を制約している病巣がある」と指摘する。慈善家の権利には(1)自身の寄付金に関する情報を知る権利(2)自身の寄付金に干渉する権利――が含まれる。陳小竹氏は「寄付した人には自らの寄付金がどこに用いられ、どう配分されたかを知る権利がある。また、具体的な使用に関して意見を出す権利もあり、慈善組織は寄付した人の意志に背いてはならない」と強調。だが、「多くが会計を公開していないため、それが資金の運用効率を低下させている。さらに監督機能が不備であれば、内部に不正行為が起きやすくなり、人々の信頼を失うリスクが発生する」と懸念を示す。

陳氏の夫、が勤める企業は数年連続して中国貧困支援基金のプロジェクトに寄付しており、「私たちはプロジェクトの対象が明確であるか、実施が適正であるかを重視している」と強調する。

同基金副会長の何道峰氏は「基金に対しては企業化された管理を実施する必要があり、管理会社のように基金を運営している」と話す。「企業化された管理」とは、「プロジェクトの管理」システムを指す。目的は慈善基金の運営をより効率的にすることだ。「企業の目標は最少のコストでより多くのカネを稼ぐことだが、基金は資金を集めるとともに、合理的な方法でより多くのカネを支出する必要がある。各プロジェクトのカネの出入りを通じて、カネを誰に支出するか、どう支出するかを確定すると同時に、各プロジェクトを独立採算にし、支出したカネがどこに用いられたかが、寄付者にとって一目瞭然でなければならない」と強調する。