2006 No.48
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エイズ予防・治療、高リスク層を中心に

――男性同性愛者(ゲイ)、性産業従事者、麻薬常習者……。政府はエイズの予防・治療について、従来の方針を変更し、こうした高リスク層を中心に積極的かつ主動的に進めていく考えだ。

馮建華

12月1日の19回目となる「世界エイズデー」を前に、北京市の朝陽区疾病予防制御センターに国内初のゲイ専門診療科がオープンした。同科は1年を期限にエイズウイルス(HIV)検査や性病の治療を無料で行う。注目されるのは、設備や経費は政府系医療機関が負担するが、運営と管理はゲイのボランティア組織が責任を負う点だ。その責任者が30歳の肖冬氏。関心を集めている人物で、彼自身も“同志”(ゲイの俗称)だ。

衛生部が公表した調査結果では、現在、ゲイは500万〜1000万人。中国には同性愛を禁止する法律はないが、ゲイはそうであることを隠して表に出すことはなく、いわば“日陰の存在”。それがかなりの程度、ゲイがエイズに感染し蔓延させるリスクを高めている。

湖南省の中南大学湘雅二医院でエイズの予防・治療に当たっている専門家の鄭U煌教授は「同性愛によるHIV感染者数は16〜30歳の男性を中心に年々増えており、この層のリスクが最も大きい」と指摘する。

その特殊性が妨げとなって、エイズを含む性病を患っても多くの男性が正規の病院で治療しようとせず、大多数が民間の診療所に流れているのが実情だ。

「診療科には“同志”の医師も、“同志”のボランティアもいるので、診療に訪れる人は心理的障害を克服できる」と肖冬氏。診療科を設立したのは主に、ゲイが「効果があり、低料金の持続性のある医療サービス」を受けられるようにするためだ。1年に5回、連続して無料でHIV検査をするほか(申込者500人まで)、カウンセリングなど様々な対処的な支援やサービスを提供している。

診療科は当面は3つの病院内に開設する予定で、今後は時期が熟するのを待って増やしていくという。診察で感染者と確定すれば、国家プロジェクトであるエイズ無料治療を受けさせるとともに、HIV検査を定期的に無料で続ける。同時に、プライバシー保護の面から医師は原則、身分について過度に質問することはせず、診察・治療前後の相談やカルテの管理、事後追跡はいずれもゲイのボランティアが責任を負う。

肖冬氏がゲイのエイズ予防事業に従事するようになったのは、ある人物と緊密な関係があったからだ。朝陽区疾病予防制御センターの師偉主任だ。二人が偶然知り合ったのは2005年5月2日、ネットの“同志”間のチャット上。師偉氏は「“同志”が自らの権利をよりしっかりと擁護し、社会や専門機関、政府のサービスをより多く受けられるよう支援したい」と語った。

普通なら、非“同志”はこの種のチャットはかなり毛嫌いするものだ。この日、肖冬氏は真面目で忍耐強い師偉氏に信頼を寄せ、チャットを続けていくうちに、「考えの深い、決意のある医師」だと感じるようになった。師偉氏は長年、専門や仕事の必要性から、ゲイのボランティア組織を創設したいと考えていたが、“同志”でないためうまく進まなかった。

肖冬氏はメディアで働いた経験があるため、社会活動に参加したり組織したりすることに強い興味があり、試してみたいという気持ちと好奇心から、最終的に師偉氏に説得されたという。

05年5月18日、「朝陽中国人エイズボランティアグループ」を設立した。中心メンバーは大学教授や医師、ジャーナリストなど7人。年齢は26〜53歳。肖冬氏は専任だが6人は兼職だ。同日、ゲイを対象にした、エイズの予防・治療をめざす国内初のサイト「ニーハオ・ボランティアネット」(www.hivolunt.net)を立ち上げた。

同グループの会員は現在、全国で2700人余り。バーや公園などゲイの集まる場所で、エイズの予防・治療を啓蒙するパンフレットなどを配布したり、座談会や集会など様々な活動を通じて権利意識と生活への自身を高めたりするのが主な仕事だ。

肖冬氏は「性病を根本的に理解せず、エイズに対してはより無知な恐れを持っているゲイが多い」と指摘。

グループはゲイの信頼を得るとともに、性病やエイズの予防・治療に尽力する政府機関もグループとの協力を模索するようになった。今回のゲイ専門診療科の開設は、政府系医療機関である中国疾病予防制御センター、朝陽区疾病予防制御センターとグループが良好な協力を展開した成功例と言える。

メディアによると、エイズの予防・治療という難しい課題に直面して、一部地方政府あるいは医療機関もすでに思い切った措置を試験的に講じている。例えば、朝陽区疾病予防制御センターは、ゲイを対象にした「同志フォーラム」をトップページに設けたエイズ専門サイトを開設。政治的な色彩を帯びた同性愛者のためのフォーラムは北京市では初めてだ。

サイト責任者の符青遠氏は、フォーラム設置の目的について「多くの同性愛者に医療機関に真の要望を語ってもらい、双方が意思を通わせることで、存在する可能性のあるエイズのリスクをより予防し、制御したいからだ」と説明する。

高リスク層に対するエイズの予防・治療は、民間組織のほうが政府機関に比べてより効果的で、かかるコストもより少ないのは確かだ。だが、時には苦しい立場に置かれることもある。肖冬氏について言えば、自身の仕事の効果に非常に満足しているものの、人知れぬ悩みもある。なかでも最大の難題が、経費不足だ。グループは民間の公益団体であるため、社会的寄付は受けていない。財源はサイトに掲載する企業の広告収入など。年間の収入はわずか2万元(1元は約14円)、費用は4万元余り。ボランティアは無報酬で、交通費も自己負担だ。

「資金にいま少し余裕があれば、もっと多くのもっと効果的な活動を組織できるし、もっと多くの人が組織に参加してくれるだろう」と肖冬氏。

中国では急速にエイズが蔓延している。国連エイズ計画や世界保健機関(WHO)などの専門家の推計によると、中国のHIV感染者数は65万人。だが、実際に確認されたのはわずか14万人。80%の感染者がいまだ“水面下”にいる計算だ。

常識的に見れば、この“水面下”の人たちの多くは性産業従事者、麻薬常習者や同性愛者など高リスク層に潜んでいる、と判断していいだろう。彼らに対するエイズの予防・治療は厳しい挑戦とも言える。こうした現実から、政府はこの数年来、従来の方針を変更し、彼らに真正面からかつ積極的に関与するようになった。例えば、感染率を低下させるため、政府は特定の条件の下で麻薬常習者に消毒済みの針を提供すると同時に、「メサドン(一種のヘロインに代替可能な低依存性薬物)による代替療法」の試験的運用を拡大しているところだ。

今年10月、黒竜江省のハルビン市疾病予防制御センターは女性の性産業従事者を対象に、彼女たちの身分や職業を公開した上で、エイズ予防とコンドーム使用について教育する学習班を開設した。多くの場合、公安当局の取り締まりの対象になるのが彼女たちだ。そのため、こうした教育は当然、強い反発を受けた。だが、中国性病・エイズ予防治療協会副会長の張孔来教授は「これはむしろ非常に象徴的な意義がある。ある程度、エイズ予防・治療事業の春がすでに訪れたことを示唆するものだ」と強調する。

このほかにも関心を集めている事例がある。江蘇省の南京市政府が初めてエイズを医療保険の対象にしたことだ。長年にわたり、エイズは社会から明るみに出せない“汚れ病”と見なされてきた。一部の感染者はこうした社会的プレッシャーを恐れ、正規の医療機関に治療に行こうとはしなかった。こうしたことから、エイズを政府の医療保険の対象にしたことは、社会の寛容度が大幅に高まったことを示すものだと言えるだろう。