2006 No.49
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WTO加盟後、打撃を受ける農産品

――世界貿易機関(WTO)に加盟して5年来、農産品の割当額は実施期限に基づいて次第に減少し、輸入関税もすでに世界平均水準を下回っており、中国農業が輸入農産品から受ける影響はますます強まりつつある。

蘭辛珍

于大壮さんは穀物取引で生計を立てている。故郷の黒竜江省は国内有数の大豆と米の生産地。地元の農民から大豆や米などの農産品を買い入れ、その他の地域に転売して利ざやを稼ぐ。だが、「今年は損をした」と于さんは話す。

国内の大豆価格は2004年から2年連続して下落。05年に黒竜江省で生産された大豆は20%余りが農民の手元に残った。そのため、今年の栽培面積は約25%も減少した。2年連続で価格が下がり、栽培面積も減ったことから、今年は必ず上昇すると考えた于さんは、1キロ2.5元(1元は約14.5円)で120トンの大豆を買い入れた。だが十数日後に発送の準備をしていた際、価格は2年前の水準の2.22元まで下落。4、5年前は3元、最高で3.72元まで高騰している。

于さんと同様、大豆の生産農家の多くも利益を上げられないでいる。種子や化学肥料、農薬などの生産手段が値上がりし、さらに土地賃貸料を加えて計算すると、少なくとも1キロ2.4元で売れれば損失にはならない。多くの農家に大量に積まれた大豆はまだ売れないままだ。

大豆と同様、価格の過度の下落により、綿花生産農家もコスト維持が精一杯で、これ以上の利益を上げるのは難しいのが実情だ。

対外経済貿易大学の劉富祥教授は「こうした状況は同類商品の輸入価格が低すぎるのが原因だ。中国の農産品はすでに輸入商品の攻撃を受け始めている」と指摘する。

輸入品の攻撃

劉教授は「現在、国内大豆市場に絶大な影響を及ぼしているのが、輸入大豆だ。こうした影響はWTOに加盟して2年後に現れてきた」と説明する。

劉教授によると、中国は96年に大豆の純輸入国となった。だが、当時はまだWTOに加盟しておらず、輸入商品の絶対的数量を制限する「絶対割当額管理制度」を実施していたため、輸入大豆による具体的な影響はまだなかった。01年末に中国はWTOに加盟。「関税割当額制度」を実施し、数量の絶対的制限がなくなったことから、輸入農産品による国内同類商品への影響が次第に顕著になってきた。加盟1年目の02年、大豆の輸入量は1134万トンで、数年前と大差なかったが、03年から3年連続して2000万トンを突破し、05年には2659万トンに達した。同年の国内総生産量は1635万トンで、輸入量はその1.65倍、全世界の3分の1を占め、中国は世界最大の大豆輸入国となった。

輸入大豆は主に搾油用。輸入価格が国産価格より5〜10%低いため、油脂企業の大多数が輸入大豆を買い入れている。国産大豆は輸入物に押されて下がり続けざるを得ない。

国産大豆価格はすでに輸入物と同じ水準まで下落しているが、油脂企業にとっては、国産物を使用すると、運送費や諸経費、コストなどの要因から、1トン当たりのコストは輸入物より約170元も高くなる。そのため企業はやはり輸入大豆を選択している。06年上半期の大豆輸入量は1405万7000トンと、去年同期の1201万4000トンに比べ17%増えた。

国務院は02年に「大豆振興計画」を制定。だが実際には、育種機構と農民が化学肥料を購入する際に政府が与える一定の助成を除いては、何の補助もなく、しかも機構が育成した大豆の優良品種の種子は、農民は自分の資金で購入しなければならない。実質的に、農民は大豆栽培にかかわる全コストを負担することになった。そのため、大豆が農民の手元に残ることは、農民の負担がさらに増え、損失を被ったことに等しい。

大豆と同じような状況は綿花にも見られる。

04年と05年に綿花の輸入は大幅に増加。03年は87万トンに過ぎなかったが、04年から一気に190万トンまで急増、05年には257万トンに達した。外国の綿花業者は1トン当たり国産物より2000元も低い価格で中国に輸出している。このため国内価格は下落せざるを得ず、綿花企業の多くが損失を被った。大量かつ低価格の輸入綿花が国産物の販売を著しく停滞させているのだ。

綿花については、政府はその年の買入価格を確定する買入保護政策を実施している。市場価格が保護価格を下回った場合、農家は保護価格で政府に売り渡すことができ、市場価格が保護価格を上回った場合には、市場で販売できるほか、市場価格で政府に売り渡すこともできる。だが、国産物の販売が滞り、政府の綿花関連企業も赤字であることなどから、政府の買入能力は大幅に低下しつつある。収穫されても、販売できないために綿花の多くが手元に残り、農民にとってかなりの打撃となっている。

不均衡な競争

農民が輸入農産品による打撃を受けている原因は、生産コストの差が大きいからだ。

劉教授は「中国はまだ伝統的な農業であり、国外の近代的な機械化農業に比べると、生産規模は小さく、生産コストも高い。こうした状況で、農産品市場を完全に開放すれば、国内農産品の競争力が輸入品にかなわないのは確かだ」と強調。

北京師範大学管理学院の唐任伍・常務副院長も、科学技術面での差が最も大きいと指摘する。

公共機関の農業研究費が農業生産額に占める比率は国際的に「農業科学研究強度」(ARI)と定義されている。中国の場合、このARIはかなり低く、0.25%に過ぎない。先進国の大多数は2%超から3%。技術進歩は現代農業を成長させる原動力であり、中国ではその貢献度はわずか45%、先進国は60〜80%だ。

発展途上国では農民の収入は多くが400ドル以下だ。だが、政府が農民に支給する補助金は先進国の4分の1に過ぎず、さらに先進国の要求を受け入れて半減させなければならない。

中国農業大学経済管理学院の劉李峰副教授によると、この5年来、中国の農業補助金支出が農業生産額に占める比率はわずか1.23%。一方、同期の米国と欧州連合(EU)はそれぞれ50%に60%、日本は76.7%にも達している。

唐副院長は「先進国が農業に対して高補助・高保護政策を取っているため、中国農業の発展にとって不公平な貿易環境が形成されてしまった。このため農産品の輸入は輸出をはるかに上回る速さで増えており、04年に初めて赤字となった」と説明する。

規模生産や産業化の程度、政府の補助、地理・気候といった様々な要素から、外国の農産品コストは中国よりはるかに低い。統計によると、03年の中国の大豆1トン当たりの生産コストは1592元、米国は1395元、ブラジルはわずか984.4元だ。こうした状況は基本的に大きな変化はない。

WTO加盟時の確約に基づき、農産品の平均関税率は加盟前の01年の23.2%から05年には15.3%まで低下した。これは米国やEU、日本など先進国よりはるかに低く、さらには世界の農産品平均関税水準の62%を下回っており、中国は関税の最も低い国の1つである。

劉副教授によると、中国の農業市場は全面開放に向けて各種の障壁はほぼ撤廃された。04年以降、穀物など重点農産品の輸入関税割当数量は最高点に達しており、国有企業による貿易比率も徐々に低下している。また羊毛の輸出指定制度も05年に廃止。06年には大豆油やパームオイル、菜種油の輸入関税管理も廃止され、9%の単一関税を課している。

何を栽培するか

トウモロコシもじき打撃を受ける農産品になる可能性がある。

今年のトウモロコシの輸入は少なくとも昨年の15倍になると見込まれている。

農業部が昨年7月に米国の遺伝子組み替えトウモロコシの輸出を認可した後、深センや山東省、四川省の企業が6万トン近くを購入した。

業界は、国産トウモロコシが打撃を受ける序幕が下ろされたとして、数年でトウモロコシの純輸入国になると予想している。

価格の下落から、05年に綿花と大豆の栽培面積は前年比で減少しており、トウモロコシ価格も下落すれば、農民は栽培面積を減らすことになるだろう。

実は、綿花や大豆、トウモロコシだけが輸入品の打撃を受けているのではない。

WTO加盟前は輸出で優位にあった一部の農産品もまた輸出難の問題に直面しているのだ。

花卉や野菜、果物、肉・家禽類など労働力集約型農産品はかつて外国よりも強みがあると考えられていた。これら農産品はWTO加盟で輸出は拡大するだろうが、現況を見ると、環境や標準など非貿易障壁の制限をますます受けつつある。

この数年来、茶葉や野菜、果物、割りばし、むしろ、ニンニク、家禽類、肉類はたびたび反ダンピング提訴されたために、生産コストは大幅に上昇し、農民の世界市場での競争力は低下してしまった。

トウモロコシや大豆、コウリャン、小麦などは競争力は備えていないが、強みを持ったとしても輸出は難しいだろう。こうした状況の中、直接的な被害を受けるのは農民だ。「将来、農民は何を栽培できるのか」。于さんは憂慮する。