インターネットは中国の“エンジン”
――インターネットブームは持続的で、ますます重要な役割を発揮しつつある。
唐元ト
あるWEBサイトが今年のネットをめぐる出来事を募ったところ、多くのネット利用者が少しもためらうことなくデルの「チップ・ゲート事件」を挙げた。
この事件が発覚したのは、6月23日のネット掲示板への書き込みがきかっけだった。デル製ノートパソコンを購入して3日後にバージョンアップをした際、注文書にチップはインテル製コアドゥオT2300プロセッサと明記したが、内蔵されていたのは、1台のコンピュータで複数のオペレーションシステム(OS)の実行を可能にする「シミュレーション技術」のないT2300Eだった――。偶然にもこの日、上海市盧湾区のあるIT企業のエンジニア、Aさんも同様のノートパソコンを購入、機器が自分の求めたものと全く違うのに気づいた。
数年前だったら、Aさんは「ついてない」と思うしかなかった。だが今は、数千万の中国人が頻繁に掲示板にアクセスし、同じような経験をした人が集まりやすくなり、書き込みを見た全国各地にいる消費者が疑いながら自分の購入したデル製ノートパソコンを調べたことで、「チップ交換」の事実が証明され、非難の声が高まっていった。多くのネット仲間の支援を受けてAさんは、製品は「約定と合致せず、しかも告知義務を果たしていない」ことを理由に、こうした行為は商業上の詐欺に当たるとして、デルを提訴。上海市盧湾区人民法院は訴えを受理した。
2006年全体を見渡して最も注目されるのが、ネット世界での人と人との協力だ。「中国のネット利用者はとりわけ活発で、常に言いたいことを思う存分に言い、直言してはばからない。ネットの持つ底力が十分表れている」。掲示板やブログを提供する上海CICデータのサム・フレミング最高執行責任者(COO)はこう強調する。何千もある掲示板には毎日、不親切な顧客サービスや消費者を惑わす広告、低劣な安全基準などを非難する書き込みが相次いでいる。団結して大規模な「バーチャル」アピールが発せられると、多くの国内企業や国内で業務を展開する多国籍企業は彼らの行動を重視するし、少なくとも軽視しようとはしない。
人と社会が受益者に
「伝統的なメディアのほかに、ネット掲示板は民意を表すルートになりつつある」。国務院新聞弁公室の蔡名照副主任は、一部ネット上の世論は直接、関係機関の政策決定や施政に影響を与えるようになったと強調する。蔡副主任によると、昨年7月、「物権法」の草案全文を社会に公表し、幅広く意見を聴取したが、まだ全国人民代表大会(全人代)で可決されていない。その理由の1つは、ネット上で賛否両論があったからだ。
03年に、ネットの威力を如実に示す事件が起きた。大学を卒業した孫志剛さんを巡る事件だ。
当時、孫さんは広州のある衣料品メーカーに勤めたが、20日後、都市の「一時居住証明書」と身分証を所有していないとして、地元の公安局に拘留された。理由は合法的だったようで、その根拠となったのが、「都市の流浪・物乞い者の収容・移送に関する方法」だ。だが間もなく、孫さんは「不明のまま」に死亡。広州の新聞「南方都市報」が彼の死を報じると、ネット上で抗議の声が高まり、ネット仲間は関係機関に関係者を厳罰に処分し、公開かつ透明性を持ってこの事件を処理するよう要求した。この間、共産党中央の機関紙「人民日報」の人民ネットはネット仲間が寄せた一文「孫志剛さんの事件、だれが聾唖を装えるか」を発表。「この一文で、公安当局の捜査への決心はある程度強まったと言っていい」。事件の調査経過を知るある人物はこう語る。「伝統メディアによる報道は少なかったが、ネット上の激しい非難と抗議は大きな圧力となり、『収容・移送』制度についても多くの疑問投げかけた」
孫さんを殴打して死に追いやった犯人が逮捕されて間もなく、国務院は21年実施してきた「収容・移送方法」を廃止した。
「実際、内外のどの重大事件でも、ネットでは強い反響や激しい論議を呼ぶことがある」。中国人民大学の彭蘭教授は指摘する。「ネットは世論にとって1つの表現の窓口となっており、それは人々の社会生活に参与する積極性を高め、自由に思考し発言する習慣を徐々に養ってくれるだろう」
錦涛国家主席と温家宝総理は異なる場で何度も、自らも「ネット住民」だと強調してきた。就任して間もなく胡主席は広州を訪れ、新型肺炎SARS治療の第一線に参与する医師に対し「あなたの提案は非常に良かった。私もネットで閲覧した」と述べ、温総理は北京大学を視察し、学生たちに「ネット上の文章を見て、大変感動した」と語っている。
23歳の私営企業の社長、Bさんは「何か疑問があれば普通、ネットで答えを見いだせる。だから、中央政府の施政方針や関係する法律や法規、政策を理解したければ、早く政府機関のサイトに登録することだ」と話す。
現在、中国では中央、地方政府いずれもサイトを開設している。今年1月1日、新華ネットが制作した中央政府のポータル(玄関)サイトが正式に開設。昨年12月28日に温総理が主催した国務院の常務会議が決定したものだ。「電子行政は庶民により透明で、より効率的な政府をもたらしてくれた」とBさん。
都市部ばかりでなく、インターネットによって農民も受益者になりつつある。今年初め、海南省永興鎮の農民、Cさんはレイシをネットで販売する新しい方法を試みた。「ネットで販売情報を流したことで、顧客層がより広がった。販売は去年に比べ好調で、フランスや米国、カナダなど多くの国に輸出されるようになった」と喜ぶ。
現在、ネット利用者は1億2300万人超。登録者数は米国に次ぐ多さで、しかも爆発的に増え続けており、今年は上半期だけで、昨年下半期の1.5倍に当たる1200万人も増えた。世界の多くの国と同様、ネットは中国社会に影響を与え続けている。
蔡副主任は「インターネットは、中国の社会や経済が最も急速に発展する時代にあって、ネットの発展は改革開放、社会主義市場経済の確立、世界貿易機関(WTO)への加盟で社会のニーズとなり、一段と推進された。影響力が巨大で、最も潜在力を備えたメディアとなっている」と強調する。また、計画経済から市場経済へと転換し、閉鎖体制から全方位の開放体制へと転換し、社会の階層が激しく分化し、価値観が常に多元化する社会で、ネットに比べてより適度に参与し、見解を表明できるルートは他にあるだろうか、と蔡副主任は問う。
健全な発展を促進
「総体的に見て、中国のネット世論の環境は良好だ」。蔡副主任はこう評価する。一部の報道関係機関が創設した総合的なニュースサイトが急速に広がっており、人々がニュース情報を得る重要なルート、その他のサイトがニュースを掲載する主要な情報源となっている。法に基づく管理の中で、商業サイトのプラスの役割も拡大し続けている。現在、情報取得のためのアクセスでは、主要なニュースサイトと大手商業サイトで95%以上を占める。
だが、蔡副主任は「商業利益のみに走ったり、虚偽の情報を伝えたり、猥褻な内容を流したり、迷信を煽ったり、違法な広告を載せたりするサイトも少なくない。ネット上のこうした好ましくない現象は、社会に害を与え、ネットメディアの信頼を損なうなど、ネットの健全な発展に影響を及ぼす重大な問題となっている」とも強調する。
今年11月の「第5回アジア太平洋地域のメディアと科学技術及び社会発展に関するシンポジウム」の閉幕式で、蔡副主任は「中国のネット利用者は実際、高度の自由を持っており、世界は全面的な理解に欠けている」と指摘。
そのうえで「政府がネットの管理に対して順守しているのは、国際慣例だ」と述べ、概括して、法規による規制と業界の自律、ネット利用者による監督の3点を挙げた。
この数年来、中国は「インターネットの安全の維持に関する全人代の決定」や「インターネットのニュース情報サービスの管理規定」「インターネットの情報サービスの管理方法」「インターネットの電子公告サービスの管理規定」といった法律や法規を相次いで制定してきた。
中国インターネット協会組織会員事業者とインターネット業界は03年12月に共同で「中国インターネット業界の自律公約」に署名。業界の自律で優れた貢献をした事業者や個人を表彰するため、同協会は「中国ネット業界自律貢献賞」を設立した。今年の受賞者「中捜」は、率先して自社のサイトに切り込み、ポルノや暴力関連の全ての掲示板や書き込みを削除するとともに、内容について随時監視の目を光らせている。
04年6月10日、サイト「違法・有害情報通報センター」が開設。中国ネット協会ネットニュース情報サービス活動委員会が主催するもので、「違法な情報の通報、公共の利益の擁護」が宗旨だ。これまでに通報件数は35万件に上る。
ネット実験室の創設者で、ブログネットの方興東・会長兼COOは「政府のネット管理は大きな成果を上げている、と言っていいだろう。この数年来の、世界のその他のどの国にも引けを取らないほどネットが発展している状況が、そのことを最もよく物語っている。現在最大の課題は、利用者とサイト、政府機関3者間の責任と義務を果たして、いかに配分し均衡の取れたものにするかだ」と指摘する。
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