20060306
 

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焦点は民生

――地方政府の「両会」から

馮建華

1月中旬、中国伝統の春節を迎える前、各省・自治区・直轄市の政府で「両会」(人民代表大会と政治協商会議。地方議会に相当)が相次いで開かれた。「両会」は毎年1回開かれており、約2カ月後には全国的な「両会」(国会に相当)が開催される。

この期間、重大な政治活動が展開され、上層部の人事調整も頻繁に行われるなど、中国特有の「政治季節」を迎える。ただ、例年と異なるのは、2006年は各地方政府が制定した「十一五」(第11次5カ年計画・2006〜2010年)がスタートする年であり、さらに中央政府にとって「十一五」は、新政権の指導部が初めて自ら制定した国の長期的発展綱領となるものだ。新たな発展綱領は恐らく、新政権の理念と考えを体現したものだ。このため、今回の「両会」(全国と地方を含む)は外国からより高い関心を集めるだろう。

「両会」での議題は社会のバロメーターでもある。すでに開催された地方の「両会」を見ると、「民生」が最も目を引くキーワードとなった。市民の関心が最も高い話題は、具体的には医療や住宅、教育、就業、交通、環境保全だ。とくに教育と医療、住宅関連の高額費用の支出は、市民から頭上を圧する“三大大山”と見なされた。

「発達した地区の校長たちが、コンピューターなどの教材をどれだけ用意するかを考えることに追われている時に、遅れた地区の校長たちは、壊れた教室の屋根をどうやって修繕するか、どうしたら子どもたちが冬に寒さを心配しなくてすむかを考えている。これは教育資源配分の不公平を映したものだ」。甘粛省政治協商会議で劉仲奎委員は憂慮の念を示した。

これについて、劉委員は「政府は公平な教育に向けた施策を講じるべきだ。教育への支援や資金の増加、とくに辺境地区と民族地区の基礎教育への資金投入を増やすことで、都市部と農村部の基礎教育の大きな格差を徐々に縮小していく必要がある」と提言した。

今年2月初め、知名度の高い独立した市場調査会社が発表した研究報告で、2005年に都市・農村部の住民が経済的に苦しくなった主因が教育費にあることが分かった。都市と町、農村の貧困層ではいずれも40〜50%の住民が苦しくなった理由として、「家に学校に行く子どもがいるからだ」と答えている。とくに農村部では、家庭の最大の支出は教育費だった。

貧困層にとって第2の負担は医療費だ。とりわけ農村部では顕著で、貧困層の約25%が経済的に苦しいのは「家に病人がいるからだ」と回答。国務院発展研究センターのデータによると、大病を患った場合、平均支出は7000元以上にのぼるが、全国の農民の年間純収入は2000元前後だ。

調査会社の専門家は「総体的に言って、貧困の根源はやはり教育にある。教育費が高ければ、学校に行けず、行けなければ、知識や技能は得られず、お金を稼ぐこともできないからだ」と指摘する。

診察が受けられない、医療費が高いといった問題を解決するため、衛生部は今年、公定価格の病院の建設や豪華病室の抑制などを含む一連の新たな措置を発表した。今回の地方の「両会」でも、この措置が話題となった。

山西省人民代表大会で、趙懐棠代表は「現在の病院の薬代は、政府が集中入札を行って購入した薬品の価格だが、多くの入札価格が薬局より高いことがすでに分かっている」と指摘。そのうえで、衛生部と多くの地方政府が進めている公定価格病院に対し、「薬品の入札を取り消し、政府がメーカーから直接取り寄せるべきだ。中間経由を減らせば、薬品のコストは下がり、市民を利することになる」と強調した。

このほか、資金の投入不足などの原因から、多くの県クラスの病院はこの数年ほとんど設備拡充などがなされておらず、維持できない状態に陥っている病院もあるほどだ。医療設備が限られているため、患者が診察に来ないことも、悪性循環の原因となっている。実際、県クラス病院の医療技術でも一般的な疾病なら大半は完全に治療できることから、趙代表は「政府が資金を出して公定価格病院に改め、収支の管理を実施することで、県クラスの病院を正常に運営させ、その機能を発揮させるべきだ」と提言した。

甘粛省政治協商会議では委員が「公定価格病院は過去のような営利追求の病院になってはならない。医薬を分離させ、あくまでも薬による治療を止めることで、薬価を大幅に引き下げる必要がある。また薬品を巡るリベートをきっぱりと止めることだ。公定価格病院での診察対象は、医療保険を受けている幅広い層ではなく、一時帰休者や生活が困難な退職者、出稼ぎ農民などに絞るべきだ」との考えを提起している。

民生問題が社会の強い関心を集めていることから、一部の地方政府の責任者は徐々に政府活動の重点をこの問題に移すようになってきた。河南省の省長は「十一五」の発展に向けた基本的考え方と力点について説明した際、「民生により関心を寄せ、経済と社会発展の非協調性という問題をさらに解決していく」との考えを強調した。省長が行った政府活動報告では、民生に関する問題が全体の3分の1を占めたほどだ。

北京市の王岐山市長も活動報告で、(1)今後5年間に、医療費の非合理的な増加を有効に抑制し、市民が診察を受けられない、医療費が高いといった問題の解決に力を入れる(2)教育事業を優先的に発展させ、全市で九年義務教育(小学6年・中学3年)での雑費と教科書代を完全に免除するとともに、経済的に困難な家庭の児童・生徒に補助金を支給する(3)農民の収入増に努力し、2010年までに1人平均純収入を1万元(現在の全国平均は2000元前後)まで高めるとともに、農村部への資金投入を増やす(4)財政面から教育や衛生、文化、計画出産などの事業経費を増やし、農村部への割り当て率を70%以上にする――ことを提起するなど、民生問題の解決が大半を占めた。

上海市の韓正市長は「今後5年間は市民が最も関心を寄せ、最も直接的で最も現実的な利益の問題を真しに解決することに全精力を傾け、市民が改革と発展からより多くの実益が得られるようにしたい」との考えを示した。

湖北省の羅清泉省長は「今年は約30億元の資金を調達して、経済的に困難な住民のために10件の問題の解決にあたるつもりだ」と強調。農村部の貧困家庭の児童や生徒への資金援助、住民の診察難の解決、農村部のとくに貧しい住民や孤児への支援、都市・農村部の生活資金源のない家庭の就業や生活保障の解決など、いずれも民生問題に関するものだ。

このほか、今回の「両会」の期間で注目に値するのは、民生問題をより反映させるため、一部の地方が民意を汲み取る新たな方策を模索し始めたことだ。例えば、ある代表は主体的にその日に行った仕事をネットで公開し、市民や学生と共に関心を寄せる問題を討議。また、ある地方はネットで人民代表大会の代表との連絡方法、議案を明らかにするとともに、市民が関心を持つ議案を公募するなど。

民生は政治の本。今回の多くの地方政府の「両会」では、期せずして経済成長指標にはそれほど関心が集まらなかった。これまではむしろ、注目されたキーワードだったが、今日、このキーワードは「民生」に取って代わることになった。そこから、中国の政治に静かな転換が訪れつつある、と判断してもいいかも知れない。