2007 No.01
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環境保全にSOS

――中国では、政府はむろん、一般市民でも環境保全と生態系のバランスの重要性に対する認識はますます高まっており、現在、一連の適切かつ実行可能な措置を講じているところだ。

唐元ト

陳凱歌監督は時代劇の大作「無極」(プロミス)を完成させた。だが、彼は93年カンヌ映画祭の最高賞、パルムドールを受賞しているが、今回は幸運は訪れず、悪評どころか、オスカーからも見放され、逆に古傷を突かれるような痛みを何度となく味わった。「無極」は中国西南部のシャングリラをロケ地の一つにしたが、原始林に抱かれた自然景観が破壊されたとして、制作班は建設部から罰金を科せられた。監督として、陳氏が免れることのできない責任を負ったのは当然だ。

そればかりか、陳監督はネット利用者から“ブラックユーモア”のやり玉に挙げられ、今年の「グリーンな中国の年度人物」の候補に選ばれた。候補者を募ったサイトにはこんなメッセージが残っている。「彼が選ばれないことを十分知りながら推薦したのは、彼でなかったなら、環境保護をめぐる事件として、これほど大きな反響を呼ぶことはなかったからだ」

「グリーンな中国の年度人物」は、政府が環境保全に寄与した人を表彰するために初めて設けた賞。国家環境保護総局など7部・委員会が共同で主催し、国連環境計画(UNEP)が特別に支援しており、幅広い市民に参加してもらうため、公開で指名を募っている。

12月9日、8人の受賞者を発表。青海・チベット鉄道の環境保全対策で数多くの提言を出した「四川省グリーン河川環境保護促進会」の楊欣会長らが選ばれた。陳監督がこの特別な栄誉に浴さなかったのは言うまでもない。組織委員会のある関係者は「これは1つの警鐘だ。環境保全に配慮しなければ誰であれ重い代価を払うことになる」と指摘する。募集期間中、委員会に寄せられた電話は223本、ネット書き込みは8万件、投票者は延べ約63万人に上った。

ここ数年、中国経済は急速な発展を遂げており、それに伴い環境問題が深刻さを増している。経済を発展させ、生活を近代化させるうえで、物質的な富の創造と環境生態との間で、いかに全面的に、かつバランスと協調性を保ちながら発展させていくか。中国人にはこうした難題が突きつけられている。

地球上では、原始林は年間1600万ヘクタールずつ消失し、数多くの動植物の群落もそれに伴って姿を消している。人類の活動による地球の温暖化はいまや、洪水や酷暑、暴風雨などをもたらす悪循環に陥っている。

北京の青年ボランティアの唐盈さんも「グリーンな中国の年度人物」の投票に参加。「石油やその他の資源もそうだが、とくに淡水は今後、人類の需要を満たせなくなるのでは」と懸念する。

北京の16歳の高校生、韓文君は自分で集めた資料を示しながらこう訴えた。「僕たちは今、環境保護を軽視しているために極めて大きな代価を払っている。現在、全国の河川およそ700本のうち46.5%が汚染され、都市部では水域の90%以上で汚染が深刻で、3億6000万人の農民がきれいな水が飲めない……。僕が60歳になった時、人口が80億〜120億の地球はどんな風になっているでしょう。地球はもろくて弱いから、今からその保護措置を積極的に、時機を逃さず講じなければ、現在の生活は長くは続かないでしょう」

「環境汚染は発展する中国にとって重大な問題となっている。この問題はいまもってきちんと解決されていない」。温家宝総理は今年3月14日、全国人民代表大会(全人代)の記者会見でこう率直に語った。

第10次5カ年計画(2000〜2005年)で定めた環境保全指標は2つの項目でまだ達成されていない。二酸化硫黄の排出量は00年比で27%増加し、化学的酸素要求量(COD)は同2%減少した。

8月26日、全人代常務委員会の盛華仁副委員長は「すでにほぼ全ての水が汚染された状態にある」と指摘した。

常務委員会法律執行検査グループは今年5月から、固体廃棄物や水質汚染、大気汚染について全国範囲で調査を実施。盛副委員長の上述した発言は、汚染が深刻な「母なる河」と呼ばれる黄河の流域と渭河など4本の支流での実地調査の結果にもとづくものだ。例えば、陝西省内の渭河には年間6億トンを超える排水が流れ込んでおり、環境負荷容量のほぼ4倍に相当する。

また、工業関連固体廃棄物は80億トン近くに達し、13万ヘクタール以上の土地が占有、汚染されている◆全国の半数近くの都市で生活ゴミが処分されないまま放置され、地下水や地表水の汚染が深刻である◆40%の都市で大気の質が国の2級基準を下回っている――などが判明した。

政策を転換

今年4月17日、北京は再び砂嵐に覆い隠され、一夜にして30万トンのほこりが降り注いだ。市民1人当たり20キロに相当する。北京ではちょうど「全国第6回環境保護大会」が開かれていた。

温家宝総理は「我々はドアを閉めて会議をしてはならない。北京の砂嵐はもう10数日間も続いている。これには気候の要素もあるだろうが、環境問題の重大性も反映している」と強調した。

会議は「三つの転換」を打ち出した。(1)経済成長を重視し環境保全を軽視することから、環境保全と経済成長をともに重視する方向へと転換し、環境保全の強化を経済構造を調整し、経済成長方式を転換するための重要な手段とする(2)環境保全が経済発展に遅れている状態から両者を同時に発展させる方向へと転換し、新たな債務を持たず、過去の債務を多く償還することに努め、汚染後に対策を講じ、対策を講じながら破壊し続けてきた状況を改める(3)行政による環境保護から、法律や経済、技術、必要な行政措置で環境問題を解決する方向へと転換し、経済法則と自然法則の遵守を自覚することで、環境保全事業の水準を向上させる――としている。

国家環境保護総局の周生賢局長は「この転換の重要性は決して一般的なものではない」と強調。そのうえで環境保全事業の新たな位置づけに関し、「重要」という言葉を4つ用いて、環境負荷容量を地域の計画策定の重要な根拠とする◆環境管理を構造調整の重要な手段とする◆環境基準を市場参入のための重要な条件とする◆環境コストを価格形成メカニズムの重要な要素とする――と説明した。

三つの転換は、これまで30年余り続けてきた環境保全事業にとってキーポイントになると見られている。73年に開かれた第1回全国環境保全会議で、環境保全が初めて議題に上った。83年の第2回会議は、環境保全を基本国策に定めた。89年の第3回会議は「環境汚染に宣戦する」と明確な姿勢を示し、8つの環境管理制度を確立。96年の第4回会議は「環境保全は実質的に生産力を保護すること」との考えを明確に打ち出し、主要汚染物質の排出総量の抑制を環境の安全を確保するための重要な措置とし、重点流域や地域で汚染対策を重点的に展開することを決定。02年の第5回会議は、環境保全事業を生産力の発展と同等の重要な位置に据え、経済法則に従って環境保全事業を推進し、市場化と産業化に向けた道を歩んでいくよう求めた。

新たな保全措置

「環境保全政策とその実行力は、豆腐のように軟弱ではなく、鉄鋼のように堅硬なものにしなければならない」と周生賢局長は強調する。

国家環境保護総局は今、官僚を対象にした「環境保全目標の査定・責任の追究制度」を制定中だ。

地方政府の指導者は環境保全については口で大きく叫んでも、実際には全く動こうとしない、というのが常だ。こうした政府の実行力の無さが環境対策で最も脆弱な部分と見られている。制定中の環境目標責任制では、環境の質、汚染物質の排出総量など各指標達成の目標と任務が省や自治区、市など各地方政府のトップに課せられる。

12月5日、国家環境保護総局に西南環境保護監督調査センターが発足。政府は7月、華東と華南、西北、西南、東北の五大地区にそれぞれ同センターを設立することを決定していた。センターの主な任務は、流域や行政区域を越える環境問題を解決することだ。また「環境保全支出項目」をすでに策定しており、各地方政府の環境保全機関は中央政府の関係機関とともに必要な資金を確保しなければならない。

環境保護総局の専門家の推算によれば、環境を多少改善させるには、少なくともGDPの1.5%の資金を投入する必要がある。しかし、長期にわたりGDPの0.5%前後で推移しており、1%に達したのはようやく99年になってのことだ。

環境保護総局のWEBサイトによると、資金総額は5年後までにGDPの約1.6%に相当する1兆3000億元に達する。過去5年間は累計で1100億元だった。

法律を拡充へ

「企業は罰金を納めるのにやぶさかではないが、それでも汚染防止装置を使おうとはしない」。全人代代表で、広東省恵州市環境保護局の黄細花副局長が法の執行でほとんど毎日直面する難題だ。環境保護機関の統計では、違法による罰金は平均して汚染対策コストの10%未満で、環境破壊による代価の20%にも至っていない。中国政法大学の王燦発教授は「関係する法律が欠けているというのではなく、現在の最大の問題は、環境を犠牲にして経済を発展させている今、法律が定めた行政処分としての罰金の上限があまりに低いことだ」と強調する。中国はすでに環境保護法や自然資源保護法を制定したほか、51の国際的な環境関連条約を批准・署名しており、各地方政府が策定した環境保全関連規則はおよそ1600に上る。だが王教授はこうも指摘する。「多くの法律は計画経済時代に制定したもので、現行の『環境保護法』にしても89年の施行以来、17年間も改正されていない」

環境保護総局政策法規司の楊朝飛司長は「法律面から対処しなければ、違法によるコストは低く、法律遵守によるコストは高い、というこの二つの大きな問題を根本から解決することはできない」と指摘。周生賢局長は「5年ないし10年かけて、各分野を網羅し、完全な機能を備えた環境保全の基準となる法体系の構築をめざす」との考えを表明している。

同総局はすでに環境保全に関する立法を今後5年間の「全国環境保護法規整備計画」に盛り込んでいる。「環境保護法」の改正についても検討中という。