2007 No.03
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>> 国際評論

世界の安全情勢を展望する

高祖貴
(中国現代国際関係研究院安全・戦略研究所副所長)

――2007年、世界の安全をめぐる情勢は総体的に安定し、一部地域の混乱状態に大きな変化は見られないであろうが、複雑化しつつあるのがすう勢であるため、世界の安全に影響を及ぼす一部の重要な要因は昨年に続いて今後も拡大し、新たな不確定性を生むことになる。

複雑な大国関係

大国間の協力と競争は引き続き交錯するように展開していき、相互関係はより複雑さを増すであろう。米国は反テロやイラク再建、アフガン再建、朝鮮の核問題、イランの核問題など厳しい状況の中、冷戦終結以来の対外戦略でやはり最大の難局に直面する。また、中間選挙で示された民意や民主党が上下両院で過半数を占めたことで、ブッシュ政権は対外政策で反省と調整を迫られる。米国は苦境から脱するため、一国主義を適度に修正し、多国間の協調へと回帰し、大国間の協力に委ねる意思を多少なりとも強めていく。その他の大国は国際環境の平和と安定を擁護し、米国と協力することで自国の利益を実現するため、対米関係の改善と発展という基本政策を今後も実施していくであろう。こうした背景の下、協力は依然として大国関係を主導する流れとなる。大国は連携して挑戦に対応し、共同の発展を目指す状況を維持し続け、テロ対策や核拡散防止、世界のエネルギー安全といった問題に向けた協力を引き続き深化させることができるはずである。その一方で、ブッシュ政権は対外政策を適度に調整するであろうが、世界の覇権を維持するとの米国の戦略目標が変わることはない。この点に、その他の大国との戦略上の根本的な相違、ひいては構造的な矛盾が存在していると言える。米国の「大中東」や「大中央アジア」、南アジア、アフリカなどの地域での行動には、地政学上の戦略的拡張の意図が比較的顕著に表れている。しかも米国は報告書「国家安全戦略」の中で、反テロという「当面の急務」に追われながらも、中ロなどの「戦略的十字路にある国家」の台頭の防止を強化することも忘れていない、と明記している。そのため、米国が拡張にやや慎重になったとしても、その他の大国の米国に対する懸念が根本的に解消されるのは難しい。大国間の競争が拡大するに伴い、地政学上の戦略や地域の主導権、各国の核心となる利益をめぐり摩擦が起きる可能性は依然としてある。独立国家共同体や中央アジア、外カフカスなどの地域での米ロの地政学的角逐、テロ対策や中東政策をめぐる欧米の意見の相違、エネルギーや民主、人権などの問題での欧州とロシアとの食い違い、戦略面での米日の相互不信などはいずれも進展、変化し続けていくであろう。

地域問題と核問題

地域問題に再び危機が生じる可能性は依然としてあり、一部の国では政局が流動的で、世界の不安定要因は今後も増していくであろう。東北アジアでは、朝鮮の地下核実験が深刻かつマイナスの影響を及ぼした。6者協議は再開されたとはいえ、朝鮮が核計画を完全に放棄するまで一歩一歩進展させていくことができるか否かが、やはり問題となろう。日本国内には「核保有」の問題をめぐって論議し、「平和憲法」の改正を積極的に推進する可能性もまだある。日本と韓国は独島(日本名「竹島」)の主権問題で対立する可能性がまだ残っている。中央アジアと外カフカス地域では、南オセチアや軍事基地、ロシアが供給する天然ガス価格などの問題をめぐるロシアとグルジアとの争いは解決されていない。キルギスの憲法問題もまだ完全には決着していない。ウクライナやグルジア、モルドバ、アゼルバイジャンの4カ国は非公式の地域組織「GUAM」を設立するとともに、「GUAM・民主主義と経済発展のための機構」に昇格させたが、独立国家共同体との関係をいかに処理するかが差し迫った問題になるであろう。

南アジアでは、アフガンの経済発展は一向に進んでおらず、タリバンの復活で、再びテロの温床となる恐れがある。ネパールの動乱は、国王が主権を返還したことで鎮静化に向かいつつあるが、主要7政党と共産党毛沢東主義派は連立政権樹立で試練に直面する。スリランカ政府と反政府武装組織「タミル・イーラム解放のトラ」(LTTE)は、「有限なる内戦」を終結させた後、恒久的な平和共存の実現に向け、より大きな努力を払う必要がある。東南アジアのタイでは政変による影響がまだ残っており、高階層の人々と民衆の間にある不安定要因は今後も消えないであろう。

中東では、イラクの宗派間の対立は激化の一途をたどり、新しい世代のイスラム「聖戦」闘士が相次いで生まれているため、域内の暴力とテロが今後も加速することで、中東ひいては世界を不安定にする根源の地となる。パレスチナとイスラエルの和平プロセスは再開させたとしても、いくつもの重大な困難に直面する。イランの核問題は深刻さを増すとともに、危機を誘発する可能性があるため、中東の核開発競争が一段と進む。アフリカでは今後もソマリア、スーダンなどの情勢の進展が国際社会の幅広い関心を呼ぶ。南太平洋ではソロモン諸島、トンガ、フィジーなどで政局不安が続くであろう。

こうした地域での不安定ないし動乱は、関係する国が自国の特徴にあった発展の道を模索する上で生じる曲折であると言え、また外的な要因、とりわけ米国の抑圧によって激化する、それぞれの国の内部の政治や経済、社会的矛盾が激化する結果であるとも言える。こうした問題は具体的な原因やその状況はそれぞれ異なるとはいえ、程度の違いはあれ、グローバル化と情報化の進展でのマイナスの作用による影響を受けるからである。国際社会が今年、こうした国や地域を支援して不安定要因を少なくしようと考えるならば、グローバル化をより公正でバランスの取れた方向へと推し進め、世界の発展の周辺から中心へと向かうよう支援する、という根本的な問題から取り組み必要がある。

核の問題は依然として世界の安全分野で重要な焦点となり、核拡散防止体制は核拡散問題という厳しい試練にさらされるであろう。まず、「核不拡散条約」(NPT)の重要な締約国が条約上の自国の義務を厳格に履行していないことが挙げられる。例えば、米国は2重基準を堅持している。自ら小型で実用化された核兵器の開発を加速させているばかりか、NPT加盟を拒否するインドと民生用原子力協力協定に調印した。フランスは昨年初め、核兵器を使用して先制攻撃する可能性はあると宣言している。英国は核による威嚇を保持するため、核戦力の再編を発表した。これらいずれも世界の「核の不拡散体制」に重大な衝撃となった。

次に、イランや朝鮮などが核開発と核保有に固執していることで、東北アジアや中東ひいては全世界で核軍備競争が引き起こされる可能性が増すことである。現在、核兵器の開発能力を有する国は40カ国近くを数える。中東のサウジアラビアやアラブ首長国連邦、エジプト、アルジェリア、モロッコ、チュニジアの6カ国はすでに原子力開発の意思を表明しており、湾岸協力会議(GCC)の6カ国も同様の意思を示している。日本では、核兵器を保有するか否かをめぐる論議は止んでいない。加えて、核不拡散体制そのものにも欠陥がある。例えば、核保有国と非核保有国に対する待遇が差別的である、実効性のある監督保障措置に欠ける、大国の核拡散防止協力への信頼度がやや低下しているなど、こうした要因は今後も世界の安全分野で核開発や核拡散問題をめぐる角逐を招くであろう。いかに新たな核拡散防止体制を構築するかが、今年の世界の安全分野で重要な焦点となる。

国際原子力機関(IAEA)のエルバラダイ事務局長は、国際社会または数カ国の協力を通じて問題を解決し、核の技術水準と運営の開放・透明性などで信頼できる国に対しては政策の適用を緩和すると主張している。米国は大量破壊兵器拡散防止構想(PSI)の推進に力を入れると同時に、依然として「米国と馬が合う」か否かを制限緩和の基準にしている。ロシアは国際社会が核物質の取引を統一的に把握するよう提言し、しかも最近では、取引センターの設立をカザフスタンとともに提案した。こうした様々な動きは、国際社会での核拡散問題をめぐる競争の序幕がすでに切って落とされたことを示している。

反テロと宇宙での競争

国際テロと反テロとの戦いは戦略的に対峙する状態を呈し、新たなより大きな危険性をはらむであろう。多くの国は一連の反テロ戦略と政策措置を制定し、すでに一定の効果を上げた。米国は昨年9月、「テロとの闘いに関する国家戦略」を打ち出した。英仏も相次いで新たな「テロ取締法」を採択している。欧州連合(EU)は関連法制と情報の国際協力を強化し、テロ組織の規模拡大を防止する協力協定に調印したほか、「マネーロンダリング禁止法」を採択した。ロシアが新たに公布した「テロ取締法」は、自国の軍隊が全世界で「核兵器を除く全ての手段」を行使してテロを取り締まることを認めると規定している。

だが、その一方、国際テロ組織はこの5年の間に態勢を建て直し、南アジアを「精神の揺籃」、イラクを実践訓練の基地、欧米を浸透させる最前線とする複数の中心的な活動を実行するネットワークを確立するとともに、欧米のイスラム社会内部や、アフリカや中南米などの地域に向けて勢力を拡大させている。その特徴は「本土化+各自の戦い」という構造である。国際テロ組織が重大な被害をもたらす攻撃を画策、実行する力は衰えておらず、依然として公共交通機関を「堅固な攻略」目標とするなど、その思考方法と攻撃手段にはテロ取締技術の発展を超えるものがある。

この2つの要因から、国際テロと反テロとの戦いは今後も戦略的に対峙する状態を呈するであろう。それに加え、反テロの目標をイスラム過激派に定める、反テロとの戦いを民主と専制という価値観の戦いと考えるなど、米国をはじめとする西側諸国の誤った戦略的位置づけが続くことで、国際テロと反テロとの戦いはイデオロギーの色彩が濃厚となる。06年の「イスラム聖職者の戯画化」事件や、ブッシュ大統領の「イスラム・ファシズム」や「文明の戦い」といった発言、ローマ教皇による「イスラムの暴力的特徴」に関する発言などの諸要因が引き金となって、国際テロと反テロとの戦いは今、西側文明とイスラム文明の対立を誘発する方向へと進んでおり、その危険性はますます増大する。国際社会も引き続き反テロへの協力を強化するとともに、「文明の対立」を防止するため努力していく。国連事務総長に就任した潘基文氏は、年内に「テロ取締に関する国際条約」の制定を目指す考えを表明したが、新たなルールと体制づくりの過程で再び、世界の主要な力が激しくぶつかり合うであろう。

大国は宇宙開発の問題をめぐって激しく角逐し、宇宙での兵器配備のスピードが一段と加速する可能性がある。昨年、米国は新たな「国家宇宙政策」を採択し、宇宙戦闘機の開発を加速すると発表した。その目的は宇宙の軍事化分野での技術の独占的地位を強化し、さらに宇宙での覇権を求めることにある。これはその他の大国の行動をより刺激することとなった。ロシアは今後も宇宙産業を国家安全戦略の重点の1つとし、宇宙空間基地の戦略的抑止力を絶えず強化していくであろう。プーチン政権は1800億ドルを支出して、15年までに宇宙関連を含む新型兵器を購入、開発すると発表した。この政策の効果は07年かそれ以降に徐々に顕在化してくる。日本は昨年、全地球の情報を収集する3個目の偵察衛星を打ち上げたが、今年は4個目を目指し、09年には新型衛星の打ち上げを予定している。また、軍事を目的にした宇宙開発の自己規制を取り消すかどうかについても検討を始める。EUは米国の宇宙での兵器配備の独占を非難するとともに、欧州の軍隊に高解像度の写真を提供するため、宇宙開発計画の着手と宇宙レーダー衛星の配備を加速する。こうした競争状態が宇宙での兵器配備を速めることになる。

総じて言えば、上述した各方面の新たな特徴とすう勢が交錯することにより、今年の世界の安全をめぐる情勢はより複雑、より多変的になっていくであろう。国際社会がさらに積極的に協力し、新たなより合理的な安全体制の構築の模索に努力してこそ、より効果的に対応できるのである。