徹底的に汚職を取り締まる
――汚職取締に取り組む態勢が強化される中、汚職に手を染めた政府高官が次々と失脚するとともに、より実効性のある制度や措置も打ち出された。また、政府は汚職の摘発に向けた国際協力を重視し始めた。
馮建華
今年1月8日、中央規律検査委員会第7回全体会議が北京で開かれた。昨年の汚職取締状況について総括するとともに、今年の取締対策を決定。昨年は大型汚職事件が頻発したことで、この会議は社会の高い関心を集めるものとなった。
昨年、上海市党委員会の陳良宇・前書記が社会保険基金を不正に流用した容疑で逮捕され、一切の政治的職務を剥奪された。
この事件は政界や産業界の要人をはじめ50人余りを巻き込む大型汚職へと発展。就任してわずか7カ月の国家統計局の邱暁華・前局長もその一人だ。取り調べに当たった幹以勝・中央規律検査委副書記は「この問題は当初公表したよりもずっと深刻だ」と語った。
また、この事件が発覚した前後に、少なくとも10数人の省・部クラスの幹部が相次いで逮捕されている。なかでも解放軍の王守業・前海軍副司令員が公金横領の罪で無期懲役を言い渡されたのが注目を引いた。
中央規律検査委の呉官正書記は「今後も汚職取締に取り組む態勢を強化し、犯罪者に対しては政治的身分を剥奪し、経済的に破綻させ、強く後悔させる必要がある」と強調した。
「ここ数年来、汚職取締が強化されてきたことは、政府の指導部が国内の腐敗に危機感を持ち、汚職取締が共通の認識になったことを示すものだ」。中央党学校で政治体制改革の研究に従事する王貴秀教授はこう話す。
汚職が増え続けるのは
06年11月8日、ベルリンに本部を置く世界的な汚職防止組織「トランスペアレンシー・インターナショナル」(TI)は同年の国家別クリーン度ランキングを発表したが、中国は05年の78位から70位へと上昇。
最高人民検察院によると、03年1月から06年8月までに検察機関が贈収賄容疑で逮捕した官僚は計6万7505人。1月当たり約1600人が刑務所に収監された計算になる。また、中央規律検査委の統計では、05年8月から06年6月までに全国で摘発した産業界での贈収賄事件は1万3376件。1日当たり約40件、金額は約38億元に達した。
しかし、こうした一連の統計を目にすると、なぜ汚職事件は減少するどころか逆に増え続けているのか、という疑問を呈さざるを得ない。廖担当官は「過去10年間、汚職事件は増える一方で、期待されたように次第に減少することはなかった。その要因は、過去の重大な問題は解決されたが、新しい問題が続々と出てきたからだ」と分析する。
さらに廖担当官は例を挙げてこう説明する。「98年以前は政府調達で汚職が非常に深刻だったが、99年以降は財産権取引市場を設けるなどの措置を取ったため、腐敗はほぼ食い止められた。だが、土地や金融市場で問題がここ数年の間に顕在化してきた。土地について言えば、過去10年間に国の収益は少なくとも年間100億元以上も失われた。土地は官僚の汚職を生み出す主要な温床となっていると言える。金融業界とくに不動産業界では資金や権力が集中し、制度は欠陥だらけで、利益が非常に大きいからだ。06年に摘発された大型汚職事件はほとんどが不動産に関連したものだ」
このほか、汚職が深刻なのは政治制度と関連がある、との意見もある。言い換えれば、「民主国家は必然的に非民主国家よりクリーンである」というものだ。これについて、廖担当官は「腐敗は一つの国の政治制度と必然的な関係はなく、主に『機会』と密接に関係している。機会がありさえすれば、中国であろうと、西側諸国であろうと、汚職官僚は生まれるだろう。現在の中国は計画経済から市場経済へと、農業経済社会から都市化へと転換する過程にあり、このように二つの転換が並行する過程では、汚職が起き、広がる『機会』は客観的に見て多いため、汚職事件が数多く起きることになる」と指摘する。
中国社会科学院の邵道生研究員は「汚職取締への抵抗は主に地方政府に強い。つまり政治学で言う『中間梗塞』現象と言うものだ」と話す。
カギは政治改革の推進
政府は汚職を根絶するため、教育や制度、監督をともに重視する「汚職防止システム」の構築を打ち出した。また、規律検査機関は初めてクリーンな政治と汚職防止に関する法的枠組みをつくる構想を提起。この枠組みに基づき、10年までにクリーンな政治と汚職防止法制度の基本システムを確立し、20年前後までに、汚職防止とクリーン提唱の完備した制度システムを構築する方針だ。
収賄と贈賄は硬貨の両面とも言える。だが、現実の生活では、収賄側と贈賄側の運命は時にとてつもない差のあることがある。つまり、収賄側が刑務所に収監されたり、甚だしい場合は命を落としたりすることがあっても、賄賂を使った方はとがめられることもなく、悪事を働き続けることすらあることだ。こうした現象を「風をひいた患者を銃殺することには少しも容赦しない一方、さまざまな病原菌が蔓延するのを放置しながら健常者を感染させ続けている」、と比喩する声もある。
権威ある統計によると、ここ数年に摘発された収賄・贈賄事件の比率は年平均ほぼ100対7。TIの02年の賄賂指数ランキングでは、中国は贈賄指数(BPI)で最下位から2番目だった。これが汚職を根源から防止する上で大きな障害となっているのは言うまでもない。
昨年1月1日、インターネットで「贈賄ブラックリスト」を検索できるシステムが立ち上がった。贈賄関連情報は一旦入力されれば削除はできない。ただ、5年連続して贈賄の記録がなければ、リストから自動的に抹消されるという。
昨年12月5日、中央政府は北京と天津、上海の3大直轄市の規律検査委の書記を直接任命した。今回の人事異動は主に06年以来、3市で相次いで起きた大型汚職事件と関係がある、というのが世論の見方だ。また、広東や浙江、安徽など10省の規律検査委の書記に他省の官僚が着任したことも関心を呼んだ。いずれも中央政府が任命したものだ。
「中央が地方の規律検査委書記を直接任命し、派遣するやり方については、今のところ評価のしようがなく、効果のほどは様子を見るしかない」と王貴秀教授は話す。王教授は、汚職防止で最も根本となるのはほかでもなく制度自体にあり、中央指導部の指示に頼るだけではだめだと見る。「単に書記を派遣することだけで腐敗状況を改めようとしても、非常に難しいと思う」と話す。
国際協力を強化
87年9月から今年10月までに、中国は約30カ国と犯罪人引渡条約、49カ国と司法協力条約を締結。最高人民検察院は75カ国の司法・検察機関と83にのぼる二国間協力協定または協力覚書に調印した。
昨年の2月12日には、「国連腐敗防止条約」が中国で正式に発効した。
2月28日から3月3日まで、中国監察部が中心となって中米法律執行協力合同連絡グループ(JLC)の汚職防止専門家グループ第2回会合が開かれた。双方は中米間で汚職取締協力に関する定期協議と情報交換、連絡制度を確立し、専門家グループ会合を制度化することで一致した。
4月下旬、中米両国は上海でAPEC汚職防止シンポジウムを共催。
4月29日、全国人民代表大会常務委員会はスペインとの犯罪人引渡条約を承認した。中国が欧米先進国と同条約を締結したのはこれが初めてだ。
10月25日、国際反汚職局連合会が河北省香河に正式に発足した。
国連開発計画(UNDP)中国代表事務所の馬和励代表は「深みのある国際協力を展開することは、中国政府が汚職との闘いとクリーンな政治の確立を強化する決意と自信のほどを示している」と強調する。
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