2004 No.13
(0322 -0326)

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北京の交通渋滞――市長「最も頭の
痛い問題だ」

―――北京は今、交通渋滞が1980年代以来最も深刻な時期にある。2008年オリンピックを開催する都市として北京は世界に対し、いかなる競技施設の間であれ移動は1時間を超えない、と確約した。北京はこの確約を実現できるのか。

馮建華

2月23日朝6時半。新しい職場への初出勤となるこの日、胡志鵬さん早々とバス停に着いた。普通なら、家から職場まで約40分。出勤時間は8時半。北京では交通渋滞が日常茶飯事なので、胡さんは余裕をもって家を出たが、30分たってもバスは来ない。胡さんは焦った。だが、タクシーは高いし、別のバスに乗っても時間通り着くか当てにならない。

バスが来たのは、7時10分。たが、車内は超満員。胡さんは乗れないのではないかと、心配になった。車掌は「申し訳ありません、道が混んでいましたので、遅れてしまいました」と説明。胡さんは人を押しのけるようにして何とか乗車できたが、全身汗びっしょりで、髪も乱れ、きれいに磨いた靴も泥だらけ。8時20分に目的のバス停に到着。胡さんは降りると一気に走り出し、どうにか出勤時間には間に合った。

「毎日こうなのかと思うと、イヤになってしまう」と胡さん。

今の北京では、胡さんと思いを同じくする人は非常に多い。だが、不平はもらしても、これが普通だと感じている。「北京の渋滞は当たり前。渋滞が無いのがむしろおかしいぐらいだ」と、タクシー運転歴8年の譚愛民さんは話す。「数年前までは出社時や退社時に渋滞が起きていたが、今は毎日、いつでも渋滞だ。週末も例外ではない」。

雨や雪にでもなれば、一部でバス路線がマヒしてしまうのは当たり前。北京では、待ち合わせ時間に間に合わなかったり、出勤時間に遅れたりした場合、最も説得力のある理由は、「渋滞がひどくて」だ。

北京市交通管理局の統計によると、渋滞が深刻な区間や交差点は、1995年は55カ所だったが、1999年には99カ所に急増。その後に渋滞解消策が講じられて、2003年には87カ所まで減少した。

交通渋滞になると車のスピードは減速する。同管理局の統計では、1994年当時、幹線道路では時速45キロに達していたが、2003年10月以降は平均時速12キロ前後まで落ち込み、最高で7キロ以下となった。

2月に開かれた北京の「2会議」(人民代表大会と政治協商会議)でも交通渋滞の解消問題が焦点となり、社会各界の関心を集めた。

「不動産の開発と渋滞の解消との間の矛盾が今、北京市が直面している最大の難題だ」。2月17日、当時の王岐山・北京市代理市長は2会議でこう直言した。王岐山氏はSARS(新型肺炎・重症急性呼吸器症候群)が発生した際に緊急命令を受けて市長代理に就任し、その実行力で市民の信任を得た人だ。

「出勤や退社時の車や人の流れ、私はこの問題をいつも考えている」。王氏は市長代理になって以来、市民が寄せる交通渋滞改善への強い期待を心に刻み込んできた。

渋滞は抜本的に解決ができるのか。北京市長に正式就任したばかりの王岐山氏は「あらゆる努力はするが、一気に解決できないことは分かっている」と語った。

車時代がもたらす「災禍」は

北京の交通渋滞については、道路の拡張が車の増加に追いついていないのが原因だと考えている人が大多数を占める。自動車の増加スピードは確かに尋常ではない。3、4年前まで「自転車王国」と呼ばれていた首都・北京は今や、「自動車時代」だ。

雑誌『財経』によると、北京市の自動車保有台数が1949年の建国当初の2300台から1997年2月に100万台に達するまで、48年の歳月を要している。その後、2003年8月4日に200万台を記録するまで僅か6年。専門家は2010年と予想していたが、200万台突破は7年早く実現した。200万台のうち、個人所有は128万台で総台数の64%を占める。

だが、自動車の保有台数の急増に合わせた道路整備は遅々として進んでいない。北京市交通管理局の暫定統計によると、この数年、保有台数の増加スピードは年間15%、流通量は同18%でありながら、道路建設の進ちょく率は3%に過ぎない。

タクシー運転手の譚さんは「車は猛スピードで増えてはいるが、今の道路は全く役立たず。だから、渋滞は当たり前だ。それに、バス停の設置が合理的でないことや、運転手の交通規範に対する自覚の無さも、渋滞を招く要因になっている」と話す。 

だが道路の拡張や、マイカーを制限することで交通渋滞を緩和することには一部で反対意見がある。都市交通管理の研究で第一人者の段里仁教授も、その1人だ。

段教授は「国際的に通用する都市人口に基づく人口構造や、都市機能などの要素から推算すれば、北京の自動車保有台数は少なくとも700万台は受容できるが、現在の実際保有台数は200万台と、その3分の1にも達していない。1人平均保有台数を見ると、北京は12人に1台の割合で、国外の先進都市では10人に8台。従って、北京で交通渋滞が起きているのは車が多すぎるのが唯一の原因だ、というのは説得力に欠ける」と指摘する。

郊外の団地はまさに“ホテル”

北京市政府は渋滞解消のため財政面からも尽力してきたが、状況は総体的に改善されていない。有識者は「道路の整備が進むにつれ渋滞は深刻化している」と異常な状況を指摘する。こうした状況になったのは、何故なのか。関係者の多くが矛先を向けるのは、北京市が志向する発展モデルだ。

北京地図を開くと、道路が同心円状に外に向けて拡大しているのが分かる。いわゆる環状線で、すでに6つの環状線が形成されている。その中核を成すのが、第2環状線内の旧市街地で、面積は約62平方キロ。市街地面積に占める割合は12%に過ぎないが、行政や商業、文化教育、医療、観光面での機能を備えており、北京市の3大商業地区の1つ、また金融ビジネス地区でもある。中央・市政府機関の数は300超。

人口の過度な集中による市中心部での交通渋滞を解消するため、北京市政府は1993年以降、人口の散逸を目的に第4・第5環状線の沿線で衛星都市の建設を進めてきた。だが、公共交通が発達していないためマイカーの利用に歯止めがかからず、これが渋滞の元凶の1つとなっている。

「今住んでいる家は、言えば“ホテル”のようなもの。“1泊”した後は、ほとんどの時間が出勤と時間に割かれてしまい、すごく疲れる」と、市の東部にある望京団地に住む劉さん。「ここなら便利だと家を買ったけれど、こんな風だったら、3倍高くても、市街地に購入すべきだった」。

環状線の建設である程度、市街地の渋滞は緩和されたものの、環状線へのアクセスが整備されていないことから、交通量を分散できないため渋滞の深刻さは解消されていない。

「新交通システム」を構築へ

 王岐山市長は北京の2会議で、市交通委員会が策定した『北京交通発展綱要(2003〜2020)』(討論意見草稿)はほぼ一定の内容を持つまでになったと評価した。『綱要』は北京の過去50年にわたる交通計画の得失について全面的に調査研究した上で総括しており、今後重要な時期を迎える北京市の交通計画、交通関連政策と実施計画を制定するに当たって指導的な文書となるもの。『綱要』の中で北京市は、2010年までに「新交通システム」を構築して、渋滞を根本的に好転させる方針を表明している。

「新交通システム」は公共交通を発展させる上で核心となるものだ。世界を見れば、広範囲を網羅し、利便性があり、サービスの優れた公共交通システムがなければ、自動車の増加や交通量を抜本的にコントロールするのは難しい。このため『綱要』は、交通関連資金を公共旅客輸送に段階的に傾斜させていくと提起しており、その比重は現在の18%から2010年には50%を超える。軌道車と大容量の公共バス運行システムを整備することが、公共交通の重点となっている。

北京市は既に20件の交通関連重要プロジェクトを策定しており、今年は6件のプロジェクトに着手して2005年までに完成させる計画。これにより渋滞は更に緩和されるほか、その他の交通インフラ整備が進めば利用者の利便性は一層高まり、それに伴ってマイカーの使用が減少すると期待されている。

専門家は、2003〜2010年までの公共交通インフラ整備への投資額は2000億元から3000億元に達すると分析している。北京市交通委員会の劉小明副主任は「財政資金が不足しているため、今後も段階的に市場化政策、外国資本導入による社会資本投資を促していく」との考えを示した。北京では既に交通インフラと経営は外資に開放されており、市政府は料金の改定や運営企業の管理についてのみ責任を負っている。