急速に進む住宅建設
―――急成長を遂げる不動産業は既に、国民経済の発展をけん引する1大基幹産業となった。
蘭辛珍
モルガンスタンレーの国際チーフエコノミスト、ステファン・ローチ氏は中国経済の研究に強い関心を寄せ、これまでに何度も中国を訪れている。ローチ氏が中国経済の飛躍的な発展、各地の建設工事現場に強い印象を持ったのは間違いない。林立する高層ビルや各所に誕生した住宅団地、幅広い道路、繁華な商業街と、中国の姿は刻一刻変貌を遂げている。「僅か数カ月来ない間に、老朽化した平屋は現代的な高層ビルに生まれ変わっている」。ローチ氏は中国の発展をこう表現した。
ローチ氏と同様、中国を訪れた多くの外国人は中国の文化を味わいながらも、沸き返る建設ブームに戸惑いも感じているようだ。
住宅制度改革にプラス
90年代初めから現在に至るまで、不動産産業はいささかも低迷することなくブームは続いている。中国不動産協会の顧雲昌副会長は「この10年来、不動産業の発展規模、業界の構造変化の速さともに世界のトップにある」と強調する。
不動産市場が急成長した要因は何か。人口が多い、市場が大きいからだ、指摘する声もあるが、顧副会長の見解は違う。「大市場が1つの原因でもあるが、主因は住宅制度の改革にプラスになるからだ」
計画経済の時代、都市住民は自己資金で家を購入する必要はなく、職場が分配していた。だが分配に当たっては、年齢や勤続年数、学歴などの条件が勘案され、この条件を満たせば家は割り当てられるが、でなければ、両親と同居せざるを得ない。この時代、一家三世代、7、8人が十数平方メートルの狭い部屋で暮らすのはごく当たり前のことだった。
不動産開発がブームになったのは、1992年から。市民が市場を通して住宅を購入するようになり、不動産という概念も生まれたのもこの時からだ。全ての国有企業や事業所は1998年から住宅分配を廃止し、助成金支給による住宅購入制度を開始。それまでは年齢や勤続年数、学歴などに基づいて住宅を分配していたが、言えば、新制度によりその制限は排除され、資金があれば住宅を購入できるようになった。制度の改革で個人の住宅需要・消費は拡大し、住民の居住条件は大幅に改善された。
北京市国土資源房屋(家屋)管理局の苗楽如局長は「1949年の新中国建国当初、北京の住宅面積は1354平方メートルで、1人平均すると4.75平方メートルに過ぎず、1990年になっても面積は7.72平方メートルまでしか拡大しなかった。だが、2003年末時点で建築面積は2億4000万平方メートルに達し、増加幅は90年代初めの年300万平方メートルから2000万平方メートルまで増え、1人平均居住面積は18.7平方メートルに拡大した」と説明する。
だが既に、住宅購入に当たっては単に面積が広いだけに止まらず、周辺の環境や文化、サービスの良し悪しが重視されるようになってきた。住まいの快適性、健全性が強く求められており、スーパーや銀行、学校、医療機関など付帯施設の完備も住宅の選択にとって重要な要素だ。特に2003年にSARS(新型肺炎・重症急性呼吸器症候群)がまん延したことから、居住者が少なく、環境が保全されたエコロジー重視型の住宅に人気が集まっている。
基幹産業の1つに成長
国家統計局が公布した「2003年国民経済社会発展統計公報」によると、建築業界の売上高は8166億元と、1998年以来6年連続して国内総生産(GDP)の7%近くを占め、不動産業はこの年のGDP成長率を約2ポイント押し上げた。
中国人民銀行研究局の調査によると、2003年の不動産開発分野への投資額は前年比29.7%増の1億106万元に達し、6年連続して社会固定資産総額の20%前後を占めた。顧副会長は「このデータから不動産業が国民経済の基幹産業になったことが分かる」と強調する。
不動産業の発展は上・下流産業の発展をも促した。2003年の鋼材生産量は2億4100万トンで、前年比25.3%の増。セメントは同18.9%増加して8億6200万トン。
より顕著な効果が見られたのは、不動産業の発展で雇用が創出されたことだ。出稼ぎ労働者数は2003年に9000万人余りに達し、うち建築作業員は44.7%で、農民が首位を占めている。
不動産業が国民経済をけん引する中、政府は不動産業の発展に極めて慎重な姿勢を示すようになってきた。建設部や国土資源部など8部・委員会(省庁)は2003年末以降、不動産業監視システムを構築したほか、国務院は既に2004年に入って既に2回、ハイレベルの会議を開催して不動産問題を討議している。こうした会議は過去なかったものだ。
中国不動産協会の顧副会長は「住民の居住条件が大幅に改善され、住宅不足時代に終止符が打たれた今、政府が特に重視しているのは不動産建設のバランス、安定した発展だ。この分野で問題が生じれば、経済に与える影響は大きい。政府はこの点に非常に関心を寄せている」と指摘する。
発展の余地は大きい
2004年の第1四半期、建築関連の投資額は前年に比べ93.4%増えて43億元に達した。中国不動産協会の楊慎会長は「業界の発展の勢いが急速に落ち込むことはなく、少なくとも20年は急成長を遂げるだろう」と話す。
更に楊会長は「住宅需要の増大は客観的に言って、都市化プロセスと年間1000万人近い人口の自然増に支えられている。同時に住宅更新の時代を迎えていることもある。家屋の大半は寿命が70年しかなく、2025年を過ぎると、1950年代に建てられた家屋は次々に建て替えの時期を迎える。市街地の再開発などを含め、こうした状況を考えると不動産業は今後も20年は発展していく」と強調。
不動産業がGDPに占める割合を中国と米国で比較すると、米国は17%前後だが、中国は7%に過ぎない。この格差を考慮すれば、中国が米国の水準に達するまでには十数年の時間が必要であり、中国の不動産業が発展する余地は大きい。
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