2004 No.15
(0405 -0409)

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日中関係への提言

波多野宏一

私が物心がついたころから、日本は中国と戦争を進めていた。そういった環境の中で私自身も大学を出て兵隊にとられて、中国で戦うという羽目になった。1945年に敗戦になって平和になった。中国との関係が正常化するまでの道のりは大変長かった。1972年の日中共同声明は日本にとってはまさに墓標であり、道標であったと思っている。私は当時新聞社にいたわけですが、論壇でも、またその後大学の教壇でもそういうふうに主張してきた。しかし21世紀に入ってから日中関係にはふたたび暗雲が漂い始めてきた。一方では経済関係では相互発展というものが進んでいるのに政治の面では暗雲が漂い始めている状況にある。私のいう暗雲の源は1972年の日中共同声明が日本の墓標であったことを忘れている、或いは理解していない人たちが増えてきていることにある。それでおおまかに言って今後どういうふうに日中関係を打開していくかについて、きめ細かい政策論は別として、戦略的な観点から三点をあげて置きたい。

一、現在日本と韓国との間で行われているように、双方の歴史についての共通認識を持つために、日本と中国との間にこれまでに存在するあるいは新たに作ることになるかもしれない話し合いの場、或いは委員会のようなものを生かして、双方の共通認識を作り上げていくと非常に有難いと思う。

二、若い世代、特に国の政治に関わっている青年政治家の間の積極的な交流を日中双方でやるべきだと考えている。いま日中間の暗雲の源になっているのは、戦争世代よりも、むしろ戦後生まれの若い人たちの歴史に対する認識不足が非常に大きいな問題だと私が考えている。急がば回れということわざがあるように、時間はかかるが、長い将来を考えると若い世代の認識を深めるということは、これからの戦略的な取り組みとして非常に重要なことだと思っている。

三、上述の二つ目の提案と関連して、日本の青年たちの中国留学がとても増えているが、それはどうしても語学或いは専門課程の学習が重点になってしまっており、双方の考え方や歴史に対する認識の教育にもっと力を入れるべきではないかと思う。逆に日本側も中国から日本に来ている留学生に対してもっとあらゆる面で、例えば日頃の生活などを通じて日本に対する理解を深める必要な措置をとるべきだと思っている。

日本では経済の発展に伴って、IT、つまり情報時代になってきた。日本でも「向銭看(すべてがお金目当て)」という考え方が濃厚になっている。中国でも最近ここ10年来、同じような傾向が若い人たちの間で広がっている。資本主義的な経済発展として避け難い問題であるが、日中が当面している思想的な問題というものに双方がもっと注意をしていかないと、日中の相互理解を阻害する原因となるので、私は中国に来ている日本の青年に対しても中国のことをもっと知るように教育してもらいたいと思っている。また、日本に来ている中国の青年に対してもそういう観点から付き合って行きたいと思っている。これは時間のかかる問題であるが、これから日中間の基本的な問題の一つになるだろう。

今後の日中関係の展望については、私はこれ以上悪くはならないと思っている。いま悪くなっている原因の一つは、靖国神社の問題であるが、いまの内閣はそんなに長く続かないと思っている。経済の面で日中がかなり相互依存を深めてきており、そういう面から考えると、日本の国益からみて中国との関係を上手に処理しなければならない。それから、中国自身も改革・開放以来経済がかなり発展してきた。中国はいまアメリカに対してもずいぶんノーと言えるようになったし、東南アジアに対する影響力もかなり強くなってきた。そういう意味においても日本はもし中国との関係をあまり悪くすると、アメリカとの関係も難しくなるだろうし、それから、アジアにおいて中国と競争するためにも、東南アジアとの関係をも悪くしてはいけない。だから、日中関係はこれ以上悪くなるはずはないと見ている。

大局からみれば日中関係はこれ以上悪くはならないが、ミクロから見ると、まだ懸念すべきこともある。つまり、数多くの日本人は日本と中国が同文同種で、同じ漢字を使っているから、ものに対する考え方も同じだと安易に思い込んでいる。同じ漢字を使っている日本人と中国人のものに対する考え方がかなり違っていることを認識している日本人はまだまだ少ない。これについて私はかなり懸念している。

(筆者は日中協会評議員、元大東文化大学教授、元朝日新聞論説委員)