2004 No.18
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政府のいま一つの重要な変革

             蘭辛珍

中国政府は事業体の全面的改革を進めることにしているが、これは難度がより大きく、より複雑な改革で、「経済建設型政府」から「公共サービス型政府」へ転換させる里程標的な変革である。

国家発展・改革委員会の李盛霖副主任によると、中国の事業体改革の方向は社会主義市場に適応し、公共サービスの要請に応えることのできる高効率の現代事業体体系を構築することにあるという。この目標は中国政府が「経済建設型」から抜け出し、「人を本(もと)とする」科学的発展観に基づいて「公共サービス体制」を確立することである。

中国における事業体(「Public  Service  Unit」 略称PSU )は、社会公益のために、国家機関、またはその他の組織が国有資産を使って、教育、科学技術、文化、医療・衛生などの事業を営む社会サービス組織を指す。

25年来、中国政府は国有企業と政府機構の改革を主とする機構の簡素化、職能転換の改革を進めてきたが、これらの改革が「法治政府、行政簡素化・権限下放、政務公開、民主的管理」と結びついて、中国政府変革の潮流となっている。

この事業体改革は国有企業と政府機構の改革に継ぐいま一つの重要な改革である。

事業体の改革は教育、医療、科学研究、文化・娯楽、スポーツなど130万余りの組織、3000万近くの職員・従業員の利益にかかわる膨大なシステム・プロジェクトであり、その複雑さは国有企業の改革以上であるとされている。

事業体の全面的改革の準備

3月23日、中国発展・改革委員会と世銀などが北京で開いた「公共サービス部門改革国際経験・中国事業改革国際フォーラム」で、中国発展・改革委員会の李盛霖副主任は、中国政府は事業体を全面的に改革することにしており、いま検討中であると明らかにした。これは公共サービス部門に勤務している3000万近くの人びとの利益にかかわることから、国内で大きな反応を呼び、「事業体をどのように改革するか」が大きな話題となっている。

ここ10年来、中国政府は事業体に対して小範囲の改革を試行してきたが、あまり大きな進展が見られなかった。そのため、中国政府は事業体の全面的改革にことのほか慎重な態度をとっている。「公共サービス部門改革国際経験・中国事業改革国際フォーラム」での李盛霖副主任の発言は、中国政府が事業体の全面的改革について行った正式の態度表明だとみられている。    

改革の必要性

事業体はその職責からすると3つのタイプがある。(1)政府の行政機能を直接担い、政府にサービスを提供し、主に監督・管理、資格認証などの仕事にたずさわる。(2)公共事業発展の機能を担い、社会にサービスを提供し、主に科学技術、教育、文化、医療・衛生、公共インフラ整備などの仕事にたずさわる。(3)仲介機能を担い、市場、企業にサービスを提供し、相談、協調などの仕事にたずさわる。

これらの事業体の大部分は政府機構に付属し、同時に「行政機構」と「企業」の2つの属性を兼ね備えている。資料によると、現在、中国の各種事業体は130万余り、職員・従業員は3000万人近く、国有資産は約3000億元にのぼっている。70%以上の科学研究者、95%以上の教師、医師が事業体に集中しており、事業体の諸経費支出は政府財政支出の30%以上を占めている。

25年の改革の実践を通じて、中国の社会主義市場経済体制の枠組みが形成されたが、事業体の改革と発展の面では、まだ明確な法的認定と財務管理モデルがなく、大量の事業体が政府機能を部分的に代行しており、政府機能がはっきりせず、効率が低く、財政負担が重い。国有事業体の予算内資金と予算外資金はいずれも政府財政予算のコントロール範囲内にあるべきであるのに、実際には全国の予算外資金の80%近くが事業体に占用され、しかもこの部分の資金はコントロールしがたい状態にある。同時に、多くの事業体がそれぞれ異なる政府機構に付属しているため、程度の異なる行政的独占が行われ、市場の分割、資源の浪費をもたらしている。中国の市場経済体制がたえず整備されるにともない、事業体に長期にわたって蓄積されてきたさまざまな弊害と市場経済体制に適応しない矛盾が顕著化してきている。

「かつての計画経済体制下でもたらされた事業体の機構の膨張化、効率の低下は、すでに中国の市場経済の要請に応えにくく、経済と社会の調和のとれた発展を大きく制約している」と李盛霖副主任は指摘する。

中国人民大学管理学院副院長の許光建教授は、「事業体に存在している弊害は一に事業体の大多数が計画経済の運行モデルから完全には抜け出していず、行政化の傾向が強く、人材、技術、資金などの資源の分配が合理的でなく、あるものは機構が膨張し、設置が重複し、職能の交差がはっきりせず、互いに責任をなすりつけあい、あるものはサービスの内容が老化し、サービスの対象が単一で、サービス意識が薄い、二に大部分の事業体は国家の財政を使い、長い間市場から遠く離れていることから、惰性と依頼性がひどく、活力と市場競争力がなく、またメカニズムが活性化されず、管理が行き届かないため、往々にして“やる事があっても、やる人がいず、人がいても、やる事がない”という状態に置かれている、三に事業体の人員が増え続けているのに、政府の財力の投入に限りがあり、かつ社会の資金を事業体に投入できないため、多くの事業体は資金がますます不足してきている、ことである。公共事業の効率と有効性を保証するには、政府の役割を改めて区分する必要があり、これは事業体の改革にとって欠かせないことである」と述べている。           

どのように改革するのか

国家発展・改革委員会経済体制総合改革司の範恒山司長は次のように述べている。

全体的に中国の事業体の規模を小さくし、構造を調整することが事業体改革の第一歩であり、重要な一歩でもある。事業体の改革における調整の方法は、撤廃できるものは断固撤廃し、撤廃に適していないものは政府部門または企業に改め、国の財政から全額を支出する事業体を減らし、政府の出資でやるべきでない事業体は競売で他の投資家に譲渡すべきである。

国家発展・改革委員会は中国の事業体改革を組織し、協調をはかる主要機構であるため、範恒山司長の改革構想は中国の事業体改革の指導的方向であるとメディアからみられている。

中国人民大学管理学院副院長の許光建教授は、「事業体の改革のカギは効率を高め、メカニズムを整備し、行政管理と社会事業を切り離すことである。事業体の改革はシステム・プロジェクトであり、及ぶ分野が広く、難度が大きく、また参考することのできる既成のモデルもないので、まず一部の部門で試行してから、徐々に展開するしかない」としている。

2000年から、中国政府は一部の科学技術事業体と経営的事業体で企業化と人事制度改革を主とする改革を試行し、事業体を企業にし、従業員招聘採用制を実施し、事業体の職員・従業員の「食いはぐれのない」という悪平等を打破し、この試行は成功をみた。現在、全国の30余万の事業体、800余万人の職員・従業員において招聘採用制がとられている。

「改革後の事業体の性質は主に社会事業と公益事業に従事し、政府と企業から独立した非営利組織となるべきである」と許光建教授はいう。

李盛霖副主任によると、全国の事業体体制改革の具体的な指導意見はいま国家発展・改革委員会が作成中であり、今年の後半に公表されるとのことだ。

改革の難題

国家人事部専門技術者管理司の劉宝英司長は、事業体の改革を深めるには、いくつかの解決しなければならない問題があるとしている。

難題1、体制、機構。事業体の改革は体制、機構の改革と結びつけ、互いに協調させなければならない。事業体の体制、機構の改革を全面的に進めてこそ、事業体の改革を進展させることができるのであり、さもなければ、効果があがらない。

難題2、人事制度の改革。これは事業体の改革の前提、基礎であり、科学性、専門性の強い作業である。これまでの事業体は、人によって持ち場を設け、人が一人でもその持ち場を設けなければならなかった。今回の改革では、仕事によって持ち場を設け、持ち場によって人を採用することが求められている。各業種の性質の異なる事業体の仕事の持ち場を全面的に研究し、分析することを踏まえて、具体的な持ち場について設けるか否か、どれだけ設けるか、どのように設けるかなどの正しい結論を引き出さなければならない

難題3、分配メカニズム。これは事業体改革のカギである。労働、資本、技術、管理などの生産要素は貢献度に基づいて分配に参与するという原則を確立し、労働に応じた分配を主体とする多種類の分配方式が併存する分配制度を整備し、「効率を優先させ、公平にも気を配る」などの原則に基づいて、その検討を急ぎ、部門別に分け、関係規定を細かく定めなければならない。分配メカニズムが確立されなければ、職員・従業員の積極性をそぎ、事業体の改革も成功しない。

難題4、未採用者の身のふり方。事業体の改革で、一部の人が仕事を失うので、これらの人をどうするかがいま一つの難題。

難題5、社会保障メカニズム。統一的な完全な社会保障メカニズムを構築してこそ、人びとが移動するための「後顧の憂い」を解決し、人材資源の社会的配置を実現し、事業体の活力を引き出すことができるのである。

事業体の職員・従業員が最も関心を寄せているのは事業体の改革によって進められる人事制度の改革、分配メカニズムと社会保障メカニズムの確立である。事業体に勤める人たちの事業体改革に対する考え方は複雑で、収入が安定している事業体の職員・従業員はこれまで危機感を抱いたことがなく、競争心がないので、改革によって、もとの保障が無くなることを恐れ、改革を望まない。撤廃される事業体の職員・従業員は経済的保障が無くなるのを心配し、改革に積極的でない。

李盛霖副主任は、「事業体の改革は旧体制、旧観念の束縛を打ち破る過程でもあれば、公共事業の産業化、社会化を促進する契機でもあり、市場による資源分配の役割を十分に果たさせるための重要な前提であり、政府の機能を転換させる重要な条件であり、経済・社会の全面的発展を促進する客観的要請でもある。これはきわめて複雑なシステム・プロジェクトであり、関連の措置、政策を整備し、必要な保障を行い、穏当に推進すべきである」と指摘する。           

新たな失業者大軍が現れないか

これは事業体の改革で最も懸念されている問題であり、事業体の大勢の職員・従業員が新しい職の選択に迫られることになる。事業体は大量の就職の機会を提供し、政府、企業のために大きな社会的負担を担っている。中国発展・改革委員会の事業体改革に関する調整構想によると、一部の部門が撤廃され、一部の事業体の職員・従業員が削減されるので、これまでの政府機構と国有企業制度の改革と同じような難題――改革で余った人員をどうするか――にぶつかる。事業体の改革でかかわりのある人員は国有企業の改革のときの人員より少ないが、国有企業と政府機構の改革のときに一部の人員が事業体に移ったため、事業体の余剰人員が多くなっている。

中国人民大学社会学部の李勇志教授は、「もし事業体で科学的に持ち場を設け、実際の持ち場に基づいて必要な人員を採用するなら、改革後の事業体の必要とする人員は現在の70%で足りる。つまり今の事業体の30%近くの人が失業する可能性があるのだ。事業体の改革で削減される人は社会に入るしかなく、これらの人の“活路”を社会が解決しなければならない。これはもともと厳しい就職情勢により大きな圧力をもたらすことになる」と指摘する。

中国人事人材科学研究所の王通訊所長は、現在の中国の社会保障の実状から見ると、養老、医療、失業保険など関連の政策がまだ十分に整備されていず、相応の各種社会保険制度もまだ完全には確立されていず、事業体の改革で失業者が増加すると、社会に不安定要素をもたらすことになる、とみている。

これについて、中国人民大学管理学院副院長の許光建教授は、一部の事業体の職員・従業員を早めに退職させ、同時に失業者が自ら創業するのを奨励するのも良い方法であり、「事業体の人たちの多くは教育を受け、国有企業の改革の時の一時帰休者よりも学歴が高く、自主的創業の能力をもっている。現在、中国の教育、医療などの市場空間は非常に大きく、しかも市場の開放度が十分でないので、政府が適切な政策をとって、これらの人が市場に入り、自主的に起業しやすくすればよい」と述べている。

これに対して、北京大学政府管理学院の白志立教授は、「事業体の改革のカギは完全な社会保障制度を構築することである。社会保障制度は事業体改革の“緩衝器”だからだ。したがって、関係部門は社会保障システムの整備に力を入れ、一連の関連措置を講じ、とくに養老保険、失業保険業を強化して、転職する人や一時帰休者の“後顧の憂い”を除くべきである。失業はなにも怖くはない。怖いのは失業後に社会保障がないことだ」と指摘する。

事業体の改革で大量の失業者が出るのではないかという懸念について、中国人民大学社会学部の夏堅中教授は、「事業体の改革で大量の人が失業することはない。事業体では教師、医師および科学研究機構の人員が大多数を占め、しかもこれらの人は今大量に必要としている人材である。教師について言えば、中国では、現在、小・中・高校の教師が100万人余り不足している。事業体では仕事の割りに人が多すぎる現象が見られるが、これはメカニズムの問題によるもので、今のメカニズムでは従業員の積極性を十分に引き出すことができない。事業体の改革は競争的な労働人事制度と効果的な激励・制約制度を確立すべきである。仕事にあまり熱心でない人が仕事に熱心になるように導き、より多くの人が一時帰休者にならないようにすべきである」と述べている。

事業体の改革には多くの不確定要素があり、失業者が出るのをできるだけ防止すべきである。中国発展・改革委員会経済体制総合改革司の範恒山司長は、「改革措置を定めるに当たっては、各分野の利益にも配慮を払い、過度的性質を具現し、同時に関連の改革を推進し、必要な保障の仕事に力を入れ、改革の進展度合いと社会の受容力を結びつけ、事業体の改革を穏当に、秩序よく推進すべきである」としている。