2004 No.22
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>> 国際評論

 

EU東欧拡大後の米欧関係

――争っても離れず、闘っても破らず、合しても従わず、が成熟した米欧関係を如実に物語っている。

趙駿傑

(中国社会科学院)

2004年5月1日、中・東欧の10カ国が正式に欧州連合(EU)に加盟したが、欧州の一体化に向けた政治的版図の拡大はこれで5度目を数える。今回の東欧への拡大でEUの総人口と国土面積、国内総生産(GDP)は大幅に増大することになり、25の加盟国を擁するEUは現在の世界で最も経済力のある超国家的な政治体となる。これに関して考えるに値する重要な関心事は、米欧間の矛盾が一段と深刻化している中、EUの東欧拡大後の米欧関係の動向をいかに見るかである。

矛盾と対立の中で深まる変化

確かに、米欧関係には冷戦終結後に著しい変化が生じており、深まる矛盾、頻発する齟齬、微妙な関係、不即不離が総体的な情勢と言えるが、特に2003年に米国がイラク戦争を発動して以降、仏独を中心とした「古い欧州」諸国と米国との政治的矛盾は一段と突出した。米欧の矛盾と食い違いは全方位にわたっており、それは政治や安全、経済、社会・文化など様々な面でかなり具体的に表れている。

政治面における米欧の矛盾。米国はいかなる国に対しても対等に接触させず、世界を統治する権利を与えない「単独一極」的な覇権という世界大戦略を実行している。一方、EUが策定した世界戦略目標は、欧州一体化のプロセスを加速することで、統一された強大な欧州を築いて多極化された世界の枠組みを推進することにある。2002年9月に発表された『米国の国家安全戦略』は、超強力な国力を利用して、米国の国際的枠組みにおける指導的役割を発揮・強化することを強調しているが、この戦略には米国が単独一極的な世界の新たな秩序を確立したいと欲する戦略的意図が具現化されている。これに対し、シラク仏大統領は2003年2月の米タイム誌のインタビューで、力が統治された世界こそ危険だとした上で、「私が多極化された世界に賛同し、欧州がその中で明確な位置を占めるとしたのはそのためだ」と指摘した。EUのソラナ共通外交・安全保障政策上級代表は「EUは既に世界的に重要な役割を担うまでになっているが、それはより団結された、自由で、公正かつ安定した新たな世界の柱を支える1つになることを意味している」と公開の場で強調している。

それぞれの大戦略目標の実現するため、米欧政界の要人や学者は国際政治理念の面で真っ向から対決する幾つかの理論的観点を提起した。米国側は、いわゆる「悪の枢軸」論や「先制攻撃者」論、「新単独主義」論、「新帝国」論、ルイス主義や新キリスト教原理教主義などを打ち出しており、その核心となる考え方は、現在、米国は全世界を統治する時代に置かれており、国際関係における無秩序な状態は米国に歴史の重任を担う新帝国を求めており、必要な時には先制攻撃者による軍事的攻撃により、単独的な武力干渉という手段を用いて国際テロリストや悪の枢軸に対処することで、その政権の更迭を促し、米国式の民主と法制を推し進め、予見できる将来において匹敵することの出来ない単独一極的な主導的地位を維持するというものだ。一方、欧州側は、「有効的な多国間主義」や「予防的な外交」「政治的分業」、「平等な戦略パートナー」といった観点を提起すると共に、多国間主義の有効性を強化することで、更なる安定、より安定した国際秩序の形成を促進することを主張。また大国の交流においては共通の利益と権力の共有、平等な相互関係、その他の国家と調和の図られた利益を強調しているほか、拘束力のある共通のゲームルールと協力を準則にするとし、また重大事件や“無頼国家”に対しては、予防的な外交を重視し、極端な単独主義的な武力による干渉を行うことに反対している。

安全面においては、米欧には同じ様に具体的な政策理念に関して原則的な食い違いと対立が存在する。ブッシュ米政権は『国家ミサイル防衛システム』の配置を加速させながら、『京都議定書』の受け入れを拒否し、『核実験全面禁止条約』や『地雷禁止条約』『生物兵器禁止条約』『弾道弾ミサイル防止条約』からの脱退を表明すると共に、イラクへの攻撃を反テロ戦争としている。「古い欧州」は一貫して米国の一方的なイラクへの武力行動に反対すると共に、国際的行動の準則と多国主義の協力を尊重し、米国の前述した条約や公約からの脱退に不満を示した。米欧の安全分野における矛盾は、欧州の安全問題をめぐる主導権争いに集中的かつ具体的に表れている。米国は冷戦後、北大西洋条約機構(NATO)を、欧州をコントロールするための“切り札”にしようと試み、NATOの東欧への拡大を積極的に支持した。同時に、EUも欧州共同安全防衛政策を打ち出したことから、NATOとEUがほぼ同期的に東欧へと拡大しようとし、双方がそれぞれの即応部隊を早急に配備しようとする劇的な一幕が出現することになった。

経済面においては、米国は従来から自国が主体であり、他人を損ねても自己を利し、絶えず米欧間の貿易摩擦を引き起こし、全世界の経済問題でリードしようと試みてきた。その一方で、EUは統一された欧州大市場を整備すると共に単一通貨であるユーロを制定し、中・東欧諸国を加盟させることで、自身の経済力と米国に立ち向かえる能力はかなり増強された。この数年来、米欧の経済関係は、バナナから牛肉、税収問題から鉄鋼をめぐる大紛争と、貿易摩擦が激化しているなど、米欧の経済面での矛盾はそれぞれの戦略的利益の競争が激しくなっていることを示している。

社会・文化面においては、米欧は宗教信仰と民族主義の面でも相異があり、根本的な相違は宗教が政治に参与する程度の違いにある。米国の著名なサミュエル・ヘンティンドゥン氏は「西側諸国に存在している利益の摩擦は、米欧間の権力の落差によってもたらされたものである。冷戦後の米国は自らが政界で唯一の超大国であり、全世界の利益を代表するものだ、と考えたことが必然的に米欧間に利益摩擦を引き起こしたからだ。大多数の米国人は神と国家に対し強い感情を抱くという2重の特性を持っており、さらに善と悪という基準で問題に対処することを好むが、一方、欧州人はむしろこの2者とは距離を保ち、相対的に世俗的である。米国で台頭し、政府の外交政策に影響を与えた一例と言えばまさに、新キリスト教原理教主義だ」と指摘している。

米欧の矛盾が今日まで拡大してきたことについて言えば、より多くの欧州人が米国の覇権主義に対して嫌悪感を示しており、欧州政界の要人は常に「欧州の特性」や「欧州モデル」「欧州の価値観」といった個性化された色彩を帯びた政治概念を提起している。欧州人のこうした観点や主張は自然、米国政府に不快感を引き起こした。言えば、米国のグローバルな覇権戦略は実質的には、現在の世界で唯一の超覇権主義的地位を確保しようとするもので、こうした戦略的要求が「大欧州」を実現しようとするEUの夢想と対立するのは必然であり、米国はいきおいEUを全世界に潜む最大の競争相手として見なすようになった。そのため、米国は一貫して欧州諸国に対して“不和を仕掛け”たり、“抑圧政策”や“埋没政策”(即ち、経済・軍事など重要な分野でEU諸国と距離を置く手段を講じることで、欧州の関連分野での発展を別の形で阻止する)を実行したりしてきたが、イラク戦争後、米国はまたいわゆる「新しい」、「古い」欧州といった政治概念を練り上げた。これらは米国が国際問題において欧州が対等になることを永遠に望まず、さらにEUの独立自主が米国の戦略的利益に脅威を与えることを望んでいないことを示しており、まさに欧米間の矛盾の本質はここにある。

将来の分析

上述した矛盾の特性から、現在、米欧関係は比較的微妙であり、時に緊張を孕むこともある。例えば昨年のイラク戦争以降、米国とフランス、ドイツとの間の政治的矛盾は顕著となり、米欧関係は一時期、冷戦後で最も重大な危機に直面した。

EUの今回の東欧拡大については、その勢力と規模、影響が大きいことから、多くの人々の目は拡大後の米欧関係の動向に向けられるだろう。東欧拡大後のEUが米欧関係と一定の関連性を有するのは間違いなく、米欧関係がスムーズに発展するか否かは、主に以下の幾つかの戦略的要素の変化によって決定される。

まず第1は、戦略利益追求の要素だ。双方は根本的な戦略的利益の追求において本質的な相異があり、一国と多国という2種類の主義の対立が、米国間の矛盾の長期性と複雑性、構造性を決定するだろう。もちろんある程度、その矛盾には利益の調和と妥協的要素はあるものの、こうした要素の存在と作用により、矛盾が融解するのは難しいため、米欧関係の将来は決して楽観的なものではない。EUの東欧拡大後も「矛盾が協力より大きい、争論が協調を勝る」局面になるであろうし、米国が大統領を換えたにしろ、米欧関係が冷戦時代の友好的な状態に戻るのは非常に難しい。

第2は、価値観承認の要素だ。西側資本主義国が緊密な戦略的利益関係を有してきたのは、単に地縁関係と経済関係の緊密さのためではなく、さらに重要なのは同様の政治体制と政治文化を有していたからであり、民主や自由、人権、市場経済制度で共通の信念を持ち、こうした政治観の承認がまさに、米欧の連携が緊密であるための1つの深層的な原因となっていた。だが、冷戦終結以降、米欧が高い次元から承認し合ってきた政治文化と基本的な世界観に変化が生じ、双方に一部の重大な国際問題で意見の隔たりが見られるようになり、時に鋭く対立するまでになった。米欧の価値観に生まれた亀裂と変化が米欧関係の行方に影響を及ぼすのは確かであり、価値観の食い違いが今後も存在するようであれば、米欧関係の調整には限界がある。

第3は、経済的利益依存の要素だ。米欧の経済的連携はかなり緊密で、双方の経済システムには「貴国に自国があり、自国に貴国が含まれる」といった緊密な共同行動構造が既に築かれており、冷戦後に相次いだ“貿易大戦争”は、二国間の経済関係におけるこうした利益の要素を如実に反映している。EUの一体化が進展し、欧州の政治的版図が拡大し続けるに伴い、米欧の経済関係における摩擦と紛糾はさらに数多く出現することになり、これが米欧関係の発展に影響を及ぼす変数となるだろう。

第4は、利益妥協メカニズムの要素だ。米欧関係の発展史が再度示しているように、その矛盾は尖鋭化しつつあり、摩擦を回避するのは難しいものの、カギとなる時に常に大局を重んじ、リスクを融解して安定を維持させているのは、双方の関係に極めて重要とも言える利益協調メカニズムが存在し、しかもこのメカニズムは常に実効性のある作用を発揮できるものであることを証明している。同時に、米欧間の矛盾は、対立と摩擦の一方で、転化と調和という2重の特性を備えていることをも示している。こうした協調メカニズムの背後には事実、米欧の戦略的利益をめぐる関連性や価値動向に対する承認性、経済利益の緊密性が内包されており、それら共通の作用によって米欧関係の発展に向けた特性が決定されるだろう。

我々は時に米欧関係の矛盾と対立により目を向けやすく、往々にして二国間関係の協調と妥協を軽視しがちだ。やはりイラク戦争を例に挙げれば、米国が1年前にイラク戦争を発動した際、米国と仏独を中心とする「古い欧州」諸国との矛盾が激化し、米欧政界の要人とメディアは互いに批判し合い、大規模な舌戦を繰り広げた。米国のライス国家安全保障問題担当大統領補佐官は「欧州の一部の人間は、米国が幾つかの“悪の枢軸”国より人々を不安にさせているかのように考えている」と強い不快感を示し、ラムズフェルド国防長官に至っては“恥知らず”との言葉でEU諸国に対し不満を表明した。仏紙フィガロは「米国が仮に反テロリズムの名を借りて勝手きままなことを行おうとすれば、それは“国際秩序の後退”であり、“様々な新植民地主義に至便な門を開く”のと同等となり、その結果は想像に耐え難い」と指摘した。だが1年後の今日、米欧関係はむしろ緩和され、双方は米欧共通の利益が食い違いより大きいことを意識するまでになった。米国のパウエル国務長官は「米欧の共通認識は食い違いより遥かに多く、ブッシュ大統領はドイツやフランスに主体的に近づき始めた」と強調。一方、フランスのシラク大統領は「多極化の実現は米国への挑戦ではなく米欧関係を強化することであり、フランスのメディアも言っているように、欧米は互いに敵視すべきではなく、互いに学んで改めて連合すべきだ」と指摘している。ドイツのシュレーダー首相は「独米両国は共通の経験と価値観を基礎に築かれた、友好的な連係が共に強化されたものだ」と強調した。ここから、争っても離れず、闘っても破らず、合しても従わず、が成熟した米欧関係を如実に物語っていることが分かる。

上述した4つの要素の判断に基づけば、今回のEUの東欧拡大後の欧米関係の動向は一定の影響を受けるだろう。先ず、中・東欧諸国がさらにEUの政治的版図に加わったことで、経済面で従来の加盟国間の連携はより緊密となり、欧州の一体化を形成する政治的影響力と経済的拡張力は増強され、EUは必ず欧州においてより大きな役割を発揮することになる。それに反して、米国の欧州に対する影響力は軽減され、米欧の貿易摩擦が一段とエスカレートする可能性がある。とくに農産物分野においては、米欧の交渉と協議はより難しくなる。農産物貿易はまさに中・東欧諸国の強みとするものであり、新しい加盟国の利益にも配慮するには、EUの対外貿易政策の制定と貿易交渉において、貿易保護主義的色彩が色濃く出てきやすいからだ。

次に、EUは外交と安全の分野において更に欧州の特性を際立たせるだろう。殊にこの数年来、EU委員会が欧州共通の安全と貿易政策を実施するために払ってきた努力は、米国の神経を深く刺激している。米国が既に欧州において獲得した安全問題の主導的地位を軽々とは放棄することはあり得ず、NATOの東欧拡大プロセスを推進することで、EUの東欧拡大が米国にもたらすマイナスの影響を相殺しようと試みるだろう。今年3〜5月の短期間内に、先ずNATOの東欧拡大があり、その後にEUの東欧拡大があり、NATOに加わった新たな加盟国は、そのかなりの国がじきにEUの新加盟国となった。この2大組織の同時的東欧拡大の背後には事実、米欧関係の調整と戦略的利益をめぐる摩擦という矛盾的な特徴が具現化されている。

更に、米国のとらぬタヌキの皮算用は中・東欧諸国をNATOに加盟させることで、EUにロシアと対峙するという不利な局面に直面させると同時に、これらの国と親米的な政治的同盟関係を確立し、これら「新しい欧州」諸国が欧州の一体化プロセスにおいて「古い欧州」諸国と駆け引きし、掛け合うことを支持しようとするだろう。こうすれば、米国は漁夫の利を得ることができる一方、EUは内憂外患という2つの難しい境地に陥ることになる。米欧政界の要人は再三再四、NATOとEUは欧州の安全と貿易の分野において相互補完性があり、NATOの役割は摩擦に干渉し、EUの役割は危機を防止し、平和を維持することだと強調してはいるが、長期的に見れば、EUは必ず欧州即応部隊を再編することで欧州の安全問題を主導しようとするだろうし、これにより米国がコントロールするNATOとの間に矛盾が生じるのは必至であり、相互補完の役割が対立に転化する可能性があることから、確かに米欧関係の動向は余り楽観できない。

最後に、米欧関係の発展・将来は主に3つの変数によって決定される。第1は、米国のグローバル大戦略と対外政策の調整が、EUの重大の戦略的利益を配慮する上で有利か否かということだ。仮に米国が多国間主義の軌道に戻ることができれば、双方の戦略的利益に配慮することができて害にはならず、米欧関係には依然として改善に向けた余地がある。第2は、欧州一体化の発展が今後も成果を収められるか否かということだ。仮にEUの東欧拡大以降、内部が直面する若干の難題を適切に解決することができれば、加盟国の利益と立場をより調和の図られたものにし、内輪もめや紛争に陥るのを回避すると共に、欧州を一体化する運行メカニズムが失調するのを回避できる。そうであれば、欧州が国際的枠組みの中で独立した1つの大きな極になるのは時間の問題であり、その時には米欧関係が協力と競争、独立と連合という平等な戦略的パートナー関係へと発展する可能性はある。第3は、米欧の総合力対比の変化であり、それは必ず将来の世界の枠組みの動向に影響を与えるだろう。