2004 No.26
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麻薬犯罪の取締り

蘭辛珍

「国際麻薬禁止デー」の6月26日、全国各地で大規模な麻薬禁止キャンペーンが同時開催された。政府は麻薬禁止を訴えるキャンペーンや啓発活動を高度に重視している。

世界最大の麻薬源である「ゴールデン・トライアングル」と隣接する中国。20年前に対外開放政策を実施して以降、国際麻薬密売グループは中国を一貫して対外販売の1つのルートとして見なしてきた。そのため国内に麻薬が氾濫し、使用者が増加するなど大きな社会問題が生じた。現在、麻薬犯罪の取締りは政府の重要な課題。政府は1982年に麻薬専門取締りチームを結成し、以来、大きな成果を上げてきた。

「譚明林被告を、麻薬の密輸・販売・輸送罪と麻薬製造物質の不法売買罪で死刑に処すと共に、政治権利を終身剥奪し、個人の全財産を没収する・・・」。雲南省昆明市の中級人民法院は2004年5月10日、“ゴールデン・トライアングルのゴッドファーザー”と言われる譚被告に死刑判決を言い渡した。これで中国最大の密売グループは徹底的に壊滅された。

同省麻薬禁止局では「20数年にわたり続けてきた取締りで最大の犯罪者を逮捕することができ、国際社会に対しても、麻薬という大きな“腫瘍”を摘出することができた」と話している。

1950年代、タイとビルマ(現在のミャンマー)、ラオスの3カ国が境界を接するトライアングル地帯はケシの栽培やアヘンの加工でその名を知られようになり、羅興漢や坤沙など武装麻薬密売グループが暗躍していた。だが1980年代に、こうした武装グループは相次いで瓦解。90年代入ると、“ゴッドファーザー”と称される譚明林被告が出現する。

譚被告は四川省楽至県の出身。学歴は高卒。30歳の1992年、雲南省の辺境で出稼ぎ労働者となり、その後、ミャンマーの麻薬密売者だった楊国棟に出会う。1993年に楊国棟の娘と結婚しミャンマーに移り住み、やがて麻薬密売の道を突き進む。

1995年、譚被告は中国とミャンマー両国をまたぐ、規模巨大な買付・輸送・販売ルートを持つ麻薬密売プログループを組織。雲南省で押収された麻薬の60%は、同グループが関与したものだという。

2001年4月20日、ミャンマー警察は中国警察当局の要請を受けて譚被告の身柄を中国側に引き渡した。これを受けて雲南省公安当局は同省、重慶直轄市などでグループメンバー18人を逮捕。同時に国内6カ所にある連絡拠点を捜索して輸送通信設備などを封印した。

「譚グループは壊滅したが、麻薬をめぐる状況は依然として予断を許さない。完全に絶滅されない限り、取締りは1日たりとも止めることはできない」。雲南省麻薬禁止局はこう強調する。

 

深刻化する麻薬問題

中国麻薬禁止委員会のデータによると、2003年現在、登録された麻薬常習者は105万人にのぼり、前年に比べ5%増加した。青少年や無職、都市出稼ぎ者などで利用率が高く、全体の72.2%が35歳以下で、ヘロイン常習者は64万3000人。全国2863の県(市・地区)のうち2200県で麻薬問題が発生している。

同委員会の羅鋒副主任は「ヘロイン以外にも、国内ではMDMA(通称エクスタシー)、ケタミンなどの麻酔用薬物や向精神薬などの乱用者が増加し続けており、しかも様々な麻薬を吸引するなど状況は深刻だ。現在、国内の娯楽施設では麻薬の密売や使用、新疆ウイグル自治区や沿海の大中都市での大麻の乱用、東北地方や山西省、内蒙古自治区などでも麻薬の使用が広まっている」と強調する。

その上で羅副主任は「麻薬の氾濫は国に巨大な損失をもたらしている」と指摘。1人が毎日、0.3グラムのヘロインを吸引しているとすれば、全国で登録されたヘロイン常習者だけでも年間、少なくとも270億元を消耗していることになる。

麻薬は多くの犯罪を引き起こし、社会の治安に危害を与えている。統計によると、男性常習者の80%が窃盗や詐欺、強盗などの犯罪を起こしており、女性常習者では80%が売春行為を行っている。一部の地区では窃盗や強盗の60〜80%が常習者によるものだ。

麻薬はまた心身の健康をも害している。1990年以降、麻薬常用による死亡者数は3万9000人に上っており、衛生部の試算によると、HIV(エイズウイルス)感染者は84万人、その約55.3%が麻薬の静脈注射が原因だという。

2大麻薬生産地

中国麻薬禁止委員会の楊鳳瑞常務副主任は「麻薬問題が深刻化し続けているのは、中国が2大麻薬生産地に囲まれているからだ。西南部には、世界最大の“ゴールデン・トライアングル”、西北部にはアフガニスタンやパキスタン、イランの3国と交差する地帯“ゴールデンニュームーン”と隣接しているため、麻薬の多ルートによる浸透が可能であり、その危害は一段と増大している。

2003年に“ゴールデン・トライアングル”で生産・加工されたヘロインは70〜80トンに達し、その大半がミャンマーとの国境を通じて陸路、国内に流入したといわれる。国内のヘロイン使用の大半はこの地区からのもの。密売グループは雲南省の辺境に集中しており、車両や体に身につけての輸送、郵送など様々な形で麻薬を国内に密輸しているが、取締りを逃れるため、グループはインドやネパールを経由するなど、新たな販売ルートを開拓してきた。“ゴールデン・トライアングル”で生産されるメチルアンフェタミンが大量に国内で密売されており、とくに東北地方での常用が際立つ。1999年以来、10キロを超えるヘロイン摘発件数は101件に上り、うち9トンがこの地帯から密売されていることが判明した。

西北部では“ゴールデンニュームーン”が脅威となっている。20世紀末には、この地帯が“ゴールデン・トライアングル”に代わる世界最大のアヘン類の麻薬生産地となった。国連統計によると、2003年のアヘン生産量は3600トン、20004年は4000トンを突破すると予想される。アヘンのほか、大麻やコカインも生産。大半は欧州に密輸されているが、一部は新疆ウイグル自治区や甘粛省、陝西省などにも流入している。また、メチルアンフェタミンやMDMA、ベンゼドリン、ケタミン、幻覚剤のLSDなど新たな薬物も東南沿海部から国内にもたらされている。

麻薬使用者の摘発

2004年6月4日、雲南省芒信の辺境防護検査所を2、3歳の幼児を抱えた40ぐらいの女性が急ぎ足で通り過ぎるのを目にした検査官は、僅かに表れていた慌てふためいた女性の表情を見逃さなかった。この女性が抱く幼児の体から、約100グラムのヘロインが発見された。

雲南省麻薬禁止局では「譚明林被告のような大物はいなくなったが、少量販売する者が後を絶たない」と話している。

中国麻薬禁止委員会のデータによると、2003年の麻薬犯罪摘発件数は9万4000件に達し、逮捕者は6万3700人、押収したヘロインは9.53トン、メチルアンフェタミン5.83トン、MDMA40.9トン、麻薬製造化学物質は72.8トンに上る。

麻薬販売に対する罪は非常に重い。販売量が50グラムを超えれば死刑にすることができる。だが、販売による利益がかなり大きいため、厳しい取締りを犯してでも危険な道を突っ走るのが現状。中国麻薬禁止委員会の羅副主任は「麻薬問題は益々深刻になっている」と強調する。

販売者のみならず、使用者の摘発にも力を入れている。2003年の強制的麻薬断絶者は延べ22万2500人、労働改造を伴う麻薬断絶者は延べ6万1500人。麻薬使用者が1000人を超える県(市・地区)では、「麻薬のないコミュニティー」や「麻薬のない村」などの麻薬撲滅運動を展開している。

「麻薬のないコミュニティー」作りは1999年8月に開始。都市・農村部の小規模な居住地域(都市部では街、農村部では郷・鎮)を単位に、管轄する地域ごとに麻薬の使用・販売・栽培・製造を禁止する作業を分担し、各段階で明確な目標と着実に実施する措置を策定した、管轄地域全体をカバーする麻薬管理メカニズムと分担責任制度を確立する。その上で、それぞれが責任書に署名すると共に定期的に審査・評価を実施することで、「麻薬利用者のいない、麻薬販売者のいない、麻薬を栽培しない、麻薬を製造しない」目標を実現して、最終的に「麻薬のないコミュニティー」を作るというものだ。

現在、甘粛省では27カ所に「麻薬のない村」が生まれており、広西チワン族自治区では「麻薬のない県」は29カ所、「麻薬のないコミュニティー」は4万8524カ所を数える。

麻薬禁止に関する法整備にとって重要な内容となるのが、麻酔薬や向精神薬の厳格な管理と乱用の禁止。政府が既に公布した法律や法規、規則は30を超えており、刑事関連法律を主体に行政法規や地方法規を含めた法体系が既に整備された。

羅副主任によると、麻薬利用者の実質数は上昇傾向にあるが、取締りによって増加率は2002年の13%から昨年は5%まで低下している。

国際協力

麻薬犯罪は国境を越えた行為であるため、政府は国際的な協力を非常に重視してきた。

羅副主任は「政府は長年にわたり麻薬に関して、“ゴールデン・ライアングル”の周辺諸国との間で地域協力や2国間協力を展開してきた」と強調。国連麻薬委員会の支援を受け、“ゴールデン・ライアングル”地帯にアセアン(東南アジア諸国連合)サブ地域6カ国メカニズム、アセアン・中国メカニズム、中国・ラオス・ミャンマー・タイ・インド5カ国メカニズムを確立した。

この3体制の下で、政府は関係国との間で情報の交換、協力の推進、国連の麻薬撲滅行動、担当官の養成などを主体とする協力を展開すると同時に、『薬禁止協力に関する覚書き』に調印したミャンマーやラオス、ベトナム、タイとメコン川流域で麻薬使用状況に関する調査も行ってきた。

警察当局は昨年、ミャンマーとラオス当局と38回にわたり麻薬共同取締りを実施。製造拠点3カ所を捜索し、ヘロイン281キロ、メチルアンフェニタミン8キロ、アヘン429キロを押収した。

公安機関は2月12日、フィリピンの司法当局と共同で国際麻薬密売事件を摘発し、両国の容疑者5人を逮捕したほか、マニラでメチルアンフェニタミン296キロ(人民元に換算して1億元相当)、資金197万元を押収。

麻薬源を根絶するため、雲南省は90年代以降、ミャンマーやラオスなどと麻薬に代わる植物の栽培推進プロジェクトを展開してきた。

このプロジェクトは、ケシの代わりに穀物や工芸作物の栽培を支援するというもの。ミャンマーのワバンに隣接する中国の滄源や孟盟、瀾滄などの県は積極的に資金や技術力を投入してワバンでの交通、エネルギー、都市化、商業、観光などのインフラ整備を支援。その結果、ミャンマーとラオスではケシの栽培面積が従来の24%から15%まで減少した。

“ゴールデンニュームーン”での麻薬問題について、羅鋒副主任は「上海協力機構(ロシアやキルギスタンなど6カ国で構成)加盟国は麻酔薬や向精神薬、化学品などの密売の取締りで協力することで合意し、協定書に調印した。中国はイランとの間でも協定について協議中だ」と強調した。

麻薬がもたらす危害

◇身体的影響:麻薬は大脳や心臓に病変を引き起こし、人体の免疫メカニズムを破壊するなど、様々な疾病が起きやすくなり、エイズは常習者の間で極めて多い。

◇自己損傷・自殺:常用者は薬物依存がもたらす大きな苦痛に耐え切れず、往々にして自らを損傷し、最悪の場合は自殺することで依存による発作を回避しようとする。

◇致死加速:常習者は中毒による過度の吸引(注射)がもたらす中枢神経機能の低下によって死亡、あるいは麻薬に混雑した有毒物質、有害物資がもたらす過敏性ショックや様々な併発症によって死に至ることがある。

◇家庭の崩壊:麻薬にかかる費用は“底なしの沼”であり、しかも中毒者は永遠に麻薬に依存し続けるため、家庭の崩壊につながる。麻薬購入のために老人を見捨てる、娘を売る、ひいては妻に売春を強要して資金を捻出するなど、妻子離散や家族の死を招くことにつながる。

◇後世への影響:麻薬が後世に与える影響は大きい。母親の吸引は直接、嬰児に影響を及ぼす。嬰児は時に暴力を受けるなど、麻薬を常用する父母が発作を起こした際のはけ口の対象となる。

◇犯罪の誘発:麻薬と犯罪は表裏一体をなす。麻薬常習者は個人、家庭の財産を使い尽くした後に切羽詰まって犯罪に走るケースが多い。密売や汚職、詐欺、窃盗、強奪、殺人などに起こす。ヘロインについては調査で、購入資金の94%が刑事事件を起こして賄われていたことが判明している。