中国人が保険に興味を示さないのはなぜか
唐 遠
「昨日まで道ばたで野菜を売っていた人なのに、今日からは保険会社のセールスマンに早変わりするかもしれない」と、北京の湯浄さんは中国国内の保険セールスマンの資質に対して感慨深げに語っている。また、中国国内の保険会社はほとんど保険掛金志向で、保険証券の数にばかりとらわれてその質を無視しているようなので、どの保険にも加入しようという気持にならない、と語った。
中国保険監督管理委員会上海監督管理局の孫国棟局長は、保険業は本来は立派な職業であるが、いまではオフィスビルの入口には「保険代理人の立入禁止」という立て札のある会社がたくさん現われ、これは悲しむべきことと言わざるを得ない、と語っている。
中国では現在、多くの保険会社がとっているセールスの手法は顧客志向ではなく、従来の保険掛金志向と商品志向であり、一部の保険会社の信用度低下は契約者の再契約率低下の原因となっている。
分かりにくい保険契約書
最近、ある保険セールスマンは売り込みの際に、数ページもある契約書をめくり、「長すぎで読みにくい。契約書に何が書いているかも分からないのに、どうして加入できるか」と、顧客から断わられた。
この顧客の不満は多くの人々の意見を代表するものであり、中国保険業の「お客様から浮き上がる」という現状を反映するものでもある。
中国保険監督管理委員会主席を務めたことがある馬永偉氏は現行の保険契約書に触れて、中国保険監督管理委員会の前主席である私でさえわかりにくいのに、一般の人たちにどうして理解することができようと、遠慮なく指摘している。
ある外資保険会社の責任者はこう見ている。
保険は専門性が強い金融商品であり、顧客は保険に入る前に保険についての知識を深める必要がある。先進国と比べれば中国人の保険についての知識は乏しく、国内の保険会社は保険知識の普及に努めたことはなかった。一部の保険代理人は自分がセールスしている商品さえ分からないまま顧客誘致のセールスを行っているので、顧客はわかりにくい専門用語に面食らって断わることもしばしば起こっている。
収益の低い保険投資
投資型保険商品にそれほどのメリットのないことも人々が保険に加入しようとしない主因となっている。この投資型保険は発売の当初はたいへんな人気であったが、数年後、投資者は自分の口座を見て投資による収益はそれほどてもなく、解約の場合解約返戻金がストップとなることも知り、一杯くわされたと思わず考えてしまうのである。
北京商工業大学保険学部主任の王緒瑾教授はこう見ている。
中国の保険会社の商品設計には、顧客志向のものが少ないようである。深く掘り下げれば、これはやはり体制に関連する問題である。現在では体制改革も進められているが、総じて言えば依然として転換期にあるといえ、国有資本を主とする資本構造となっている。会社の利益を個人の利益としっかりと結び付けなければ、この問題の解決はむずかしい。民営資本をいっそう導入する必要があり、株主が本当に会社の発展と顧客の利益に関心を持つにはこれ以外にない。
専門家の見方では、保険会社は新規商品の開発を強化し、保険会社と顧客の関係を「提供するものしか買えない」ことから「顧客ニーズに応じて開発する」ことへ転換する必要がある。
中外合弁の中宏生命保険会社総支配人の林重文氏は次のように語っている。
いかなる新規商品にも新たなシステムや新たなチャンスが生まれるため、保険会社は絶えず顧客ニーズに合致した新規商品の研究、開発を行わなければならない。つまり、商品の設計には優れたアクチュアリー陣のほか、優れた代理人に顧客のニーズを反映してもらい、構想を描いてもらう必要もある。
難しいクレーム
単林さんはお姉さんのために保険に加入し、三年間も保険料を支払い続けた。今年4月、お姉さんが突然亡くなった。単林さんは何回も保険会社とクレームの交渉を行ったが、「保険加入前に保険契約者が病気にかかっていたのに、被保険者は告知の義務を履行しなかった」という理由でつっぱねられた。しかし、単林さんは「姉は大量の出血で亡くなったのであり、もとの病気とは関係はない。保険を勧誘する際には美辞麗句をならべたのに、クレームを申し出るととても冷たくあしらうていたらくでは、誰もこのような保険に加入する気にならない」と憤慨している。
中国では、クレーム処理が難しいということに同感する契約者もたくさんいる。ここ数年、クレーム紛争についての訴訟がしばしば起こっているため、人々の保険会社への信頼度はかなり落ちている。
これに対して、海外で働いたことがある北京大学の教師の馬建軍さんはこう見ている。
国内の一部保険会社のクレーム対策は近視的なものが多いようである。保険会社としてはお金より会社のイメージを選ぶべきであり、たとえ契約者の過失だとしても、人道的見地から一定のクレームについて対価を払うべきである。実のところ、一回だけの訴訟で契約者の不満を買ったら、会社の死活にひびくことにもなりかねない。保険サービスのよしあしはクレーム処理にあり、保険会社としては、補償すべきではないケースには適切なやり方で顧客の理解を求め、補償すべき場合には簡潔明瞭な手続で顧客に行き届いたサービスを行う必要があり、このようにしてこそはじめてクレームが難しいという問題を解決し、保険会社のイメージアップにつながるようにすることができるのである。
弊害のある代理人制度
鄭?さんは四年前に保険に加入したが、最近になって子供の名前が変わったので被保険者の名義変更の手続をとったところ、もとのセールスマンはすでに転職し、この保険相談には乗っててもらえないを知った。
調査によると、中国では保険業の従業員の転職率がかなり高く、一部の保険会社が外国の保険会社のように経験のある代理人が業務を引き継ぎいくれないため、「誰も取り扱ってくれない身なし子同然の」保険証書が現われるという問題も生じている。
鄭?さんは、「保険会社はむやみにセールスマンを交替させており、身分証明書の番号や口座番号などの個人データを漏洩されたら、たいへんじゃないか。本当に当初の契約事項を守れるのか。いまではとても後悔している」と懸念をあらわにしている。彼女のようなケースは保険代理人のクレジビリティーの危機を反映するものである。
代理人制度の弊害に対して、業界筋はブローカーなどの仲介機構の増設を強化すべきだと呼びかけている。保険会社の立場に立つ代理人と違って、仲買人は被保険者の利益の確保を目的とするのである。そのほか、保険会社の就職は中卒でもよいのに、ブローカー会社の場合は少なくとも専門学校以上の学歴が必要であるため、保険業全体の従業員の資質の向上を促すことができる。
現在、国内の仲介機構は急速な発展をとげている。今年3月末現在、代理会社を含めた保険仲介会社は776社に達している。しかし、市場全体の需要から見ればまだ大きなギャップがあり、先進国とのギャップはなおさら大きい。例えば、イギリスの場合は、95%以上の保険業務はブローカー会社によって取り扱われるものである。
王緒瑾教授は、仲介機構を発展させると同時に、代理人制度の監督と管理を強化する必要があり、海外の経験から見れば、個人クレジットカード情報制度を確立し、ルール違反者をブラック・リストに組み入れるほか、代理人の専門技能の養成と審査などを強化しなければならない、と強調している。
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