2004 No.29
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>> 経済

 

“一喜一憂”する銀行カード

魯 皮

「財布が膨らんでいる」。かつての中国ではこの言葉は豊かさと同義語で、財布の厚さからその人の財産の多寡を推し測るのが日常的だった。だが銀行カードが出現し、普及したことで、今ではこの“法則”も適用外に。

上海で最も賑わう第一デパート。バッグ類売場担当の祝頴さんは、時代の変化を一際感じている。「5年前は、財布を選ぶ基準は大きさや品質でしたが、今は増えるカードが納められるようにと、カードホルダーが幾つあるかに関心が集まっていますね」。

ある数字がカードの急成長を物語っている。中国銀行連盟総公司の柴洪峰・執行副総裁が青島で開かれたカードに関する会議で公表したデータによると、2004年3月末現在、全国で発行された銀行カードは6億9000万枚と、平均2人に1人が所有している計算になる。

柴副総裁は「現在、銀行カードの特約店は54万社に達しており、ネット機器も大幅に増加している。ネット会員組織は中国銀行連盟成立時の80行から、香港の16銀行を含む140行まで増え、1日の平均決済件数は448万件に上る。今年1〜4月までの銀行間の決済額は全国で1876億元に達し、去年同期に比べ103%も増えた。カードの銀行間の決済も質的に安定的に向上してきた。カード産業は現在順調に成長しているが、全体的にはまだ初期の段階にある。2008年に北京五輪、2010には上海万博が開かれるが、カード産業はこれを機に未曾有の急成長時代に入るだろう」と話している。

大中都市の新ファッションに

世界の2大カードの1つ、マスターカード中華地区の馮?権総裁は「現在、年収が5000〜1万2000ドルの世帯数は既に4500万〜6000万世帯に達しており、中所得者層の数では国際的に認可されるクレジットカードが急成長する時期にある。今後2年間にクレジットカード、特に大中都市で所有・使用されるカード数は爆発的な高成長を遂げるだろう」と予想している。

2008年五輪を控え、首都・国際大都市としてのイメージを高めるため、北京市政府は2004年末までに、カードによる消費の“バリアフリー”をほぼ実現する目標を打ち出した。固定した経営場所を有し、年間売上高が50万元以上の商店の50%でカードが取り扱えるようにし、重点となるビジネス地区や商業地区、星クラスのホテル、重点観光地、五輪施設周辺の商業サービス地区ですべてカードが使用できるようにする方針だ。またカード消費額が小売総額に占める比率を2001年の5%から20%前後に高めるほか、ATMを3000台まで増やすとしている。

市政府はさらに2008年までには90%の商店でカード取り扱いができるようにして、カード消費額の比率を25%前後まで高める計画。

上海の人口は2003年末で約1600万人。1人平均2枚の銀行カードを所有し、全国的に見ると、14枚あたり1枚は上海の商業銀行が発行、利用金額の銀行間決済の4分の1は上海で行われている計算になる。

上海のアウトドア・スポーツ族にとっては、旅行と探検が最大の趣味。余分な現金を持ち歩くのを望まないため、利用できる目的地近くの大中都市にあるATMを、親しみ込めて「補血ステーション」と呼んでいるという。

膨大なカード所有者と消費市場を睨み、洞察力のある上海の商店は銀行と提携し、有償カード消費キャンペーンを展開するなど、カードショッピングは既に上海人の新たなファッションに。今や上海では携帯電話などはニュースソースにはならない。カードを発行する金融機関17社は先ごろ連合で、カード消費を促進するため期間3年、賞金総額500万元のキャンペーンを開始した。最高賞は12万元相当の上海フォルクスワーゲン製の乗用車「ポロ」。

各大手銀行は、“不夜城”と呼ばれる上海市に24時間サービスのATMを数千台設置するなど、銀行カード使用に向けた外部環境の整備に努めてきた。2005年までには、市内の大中規模の商業・観光・飲食・サービス関連企業の50%がカード業務を取り扱えるようにする方針で、実現すれば上海でのカード消費が小売総額に占める比率は25%前後に達する見込み。

経済学者の胡維仁教授は「銀行カードの使用は、1地区の金融の発展の度合いと活性化の程度を示す重要な指標だ。上海は国内で最もカードが発達し、全国のカード産業にとって雛形が徐々に形成されつつある。上海ではカードがもたらす“金融文明”を味わうことができる」と指摘する。

潜在的な憂慮

今年6月、深センの大型デパートで組織する百貨店連盟に加盟する35のデパートは、カード手数料の引き下げ問題をめぐる銀行との交渉が決裂したことから2日間、カード取り扱いを一時停止したが、その後も同様の問題が生じている。

3月1日、中国人民銀行は新たな『銀行カードの銀行間取引収益配分に関する実施法』を公布した。新実施法は、カード発行機関の収益と銀行連盟のサービス料の比率についてのみ、一般商店の場合は取引額の0.7%〜0.1%、スーパーやガソリンスタンド、航空チケット関連は一般商店の半額と規定。中国人民銀行は、加盟店に対しかなりの程度配慮したものだと考えたようだが、加盟店の間にむしろ大きな反発を引き起こすことになった。深センのカード取り扱いの問題を例にすれば、新実施法で矛盾が根本的に緩和されたわけではない。

銀行カードの使用回数が増大するに伴い、カードをめぐる犯罪も多発してきた。中国人民銀行によると、犯罪関連金額は年間1億元、実際被害金額は3000万元にのぼっており、しかも増大傾向にある。馮?権・マスターカード中華地区総裁は「磁気カード技術の欠陥が犯罪の主因となっている。装置を使えばいとも簡単に磁気データを盗み取って、新しいカードにデータを複製できる」と指摘している。

国内の一部商業銀行はこうした犯罪に即座に対応。工商銀行は多くの反対を押し切って署名制度を実施したが、その1年半後の2003年11月11日から再び暗証番号制度を復活させ、「牡丹国際カード」を除く全てのカードについてPOS機(店舗の売上データを入力するハードウェア)に個人の暗証番号を入力することにしたことから、一時鎮静化していた「署名と暗証番号のいずれがより安全か」といった論争が再び業界に巻き起こった。また銀行は他人のカード使用防止システムの構築を強化しており、取引額が一定以上の金額に達した場合、数秒間でカード所有者のデータが取得できるようにもなる。

だが、リスクは長期にわたり存在する可能性がある。クレジットカードの偽造行為による被害額が取引総額の1.5%に達している現在、国際的に講じることができる主要な対応策は、EMV(ICカードを使用したクレジット決済の仕様)の安全認証を大々的に普及させ、磁気カードを徐々にインテリジェントカード(チップカードまたはICカード)に代えていくことだろう。だが、国内の6億1300枚に上る磁気カードについては、最新の情報によれば、中国人民銀行はEMV移行に関する統合プランの策定を急ピッチで進めてはいるが、ICカードのルール改定、インテリジェントカード普及についての明確なタイムテーブルはまだ確定されていない。業界関係者は「ICカードには約40元のコストがかかる。コストが高く、しかも国内の一部のPOS、ATM機はインテリジェントカードに技術的に対応できていないため調整が必要となる。こうした膨大なプロジェクトは安定的に進めていくことが肝要だ。また、国内のクレジットカードについては更なる完備を求める声が相次いでいる。クレジットカード関連の法律は皆無であり、『銀行カード管理条例』の制定も遅々として進んでいない」と指摘する。

1人平均GDP(国内総生産)が既に1000ドルを突破した中国。VISAアジア太平洋地区の熊安平副総裁は「クレジットカード発展の潜在力が最も大きな市場は、中国だと見ている。だが悪性の競争やリスク管理の遅れ、信用保証システムなどの問題が続出してきた。より深刻なのは、銀行の不良債権が増えることだ。こうしたことから、3月に開催された全国銀行会議の場で、銀行経営を管理する中国銀行監督管理委員会は昨年からの“クレジットカード・ブーム”を抑制するシグナルを送った」と強調した。

同じ土俵で競争に

米シティバンク中国地区のチーフエコノミストの黄益平博士は、2006年に銀行業界が外資に全面的に開放されれば、クレジットカードは内外銀行間で最初に熾烈な競争が生じる分野だと予想する。

現行の『銀行カード業務管理実施方法』によれば、小売業務が全面開放されても、外国銀行は5年あるいは5年以上、人民元クレジットカードの経営に従事していなければ外貨カード業務に参入できない。

だが実際、ほぼ全ての外資系銀行は中国政府にクレジットカード市場の早急な開放を要求している。チャータード銀行や東亜銀行、米インターナショナル・グループ、モルガンスタンレーなどは中国を「カード産業として位置づける」と共に、既に前後して中国銀行業監督管理委員会に外貨クレジットカードの発行を申請済み。今年1月、香港上海銀行と上海銀行は米ドル単位の「Aカード」を発行、両行の従来の戦略的協力がより緊密化された業務提携へと深化したことが明らかになった。また2月17日、シティバンクは更に上海浦東発展銀行と連名カードを発行し、全中国のクレジットカード市場開放をめざし第1歩を踏み出した。シティバンクは中国で初めてこの分野での管理・技術を提供し、外国ブランドとして外貨・元建てのクレジットカード発行を認可された外資系銀行。両行は持ち株方式で中国人民銀行と中国銀行業監督管理委員会からカード発行を認可された後、発行カードに独自のロゴマークを刻印。シティバンクにとって真の狙いは、クレジットカード合弁企業の雛形として上海浦東発展銀行のクレジットカードセンターの管理に参与し、同センターの独立採算の認可を取得することにある。中国資本の銀行では現在、工商銀行のクレジットカードセンターが独立採算を認可されているだけで、その他の銀行のカードセンターは1つの傘下部門に過ぎない存在。シティバンクは認可が得られれば、約2年後には利益を計上できるという。

上述した2枚の銀行カードはいずれもシティバンク、香港上海のネットワークを通じて全世界で通用し、VISAを通じの決済が可能。

世界一流のクレジットカードの中国市場での出現で、国内銀行はその巨大な圧力に真正面から立ち向かうことになる一方、一流ブランドは国内市場のモデル育成という点で大きな役割を果たしてくれるだろう。