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2004 No.33
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「国家賠償法」改正へ

十年前に施行された「国家賠償法」は情勢の変化にともない、欠陥が顕著になってきたため、その改正作業がすでに開始され、4年内に完成される予定。

呉綜之

「国家賠償法」は1994年5月12日に公布され、1995年1月1日から施行された。

石家荘市橋西区に住んでいる 董士銀さんは1955年、政治運動のなかで、間違って反革命罪で刑務所に入れられ、1979年に出所し、1981年に名誉を回復された。24年の受刑生活の補償金は1200元だった。「当時は国家賠償法もなかったので、これだけの補償金でも満足したものだった。今なら恐らく数十万元はもらえるでしょう」と董さんは言う。

「国家賠償法」を改正することになった理由の一つは賠償額の基準が低すぎることである。

全国の一部高級人民法院(地裁)による「国家賠償法」改正についての研究討論会がさる7月27〜29日に天津で開かれた。天津高級人民法院は昨年11月、最高人民法院(最高裁)から「国家賠償法」改正の調査研究を委託され、「中華人民共和国国家賠償法」の改正についての建議」を起草した。今回の研究討論会では、同「建議」について討論が行われた。

神話に別れを告げる

董さんが若かったころ、国家機関は誤りを犯した人に対して、それを是正し、その名誉を回復しても、賠償するようなことはなかった。それはまさに神話であった。10年前に施行された「国家賠償法」はこの神話に終止符を打った。

最高人民法院の曹建明副院長の紹介によると、2003年末までに全国の法院が受理した賠償案件および人民法院賠償委員会が審理した国家賠償案件は15867件、結審したのは15315件、うち賠償することを決定した案件は5442件で、受理した案件総数の三分の一を占めた。

欠陥が日増しに顕著化

法曹界の関係者はこう指摘する。10年来、「国家賠償法」の施行の過程で、いろいろ問題が現れ、賠償すべきなのに賠償せず、執行すべきなのに執行しないなどの現象がしばしば見られ、その原因をさぐると、国の法治環境が整備されていない、公民、法人、賠償義務機関の法意識が高くないなどの原因のほかに、国家賠償法そのものの欠陥が直接の原因となっている。例えば賠償の範囲が狭い、違法であることを認める規定に欠陥がある、賠償手続きが不合理である、賠償額の基準が低い、賠償保障制度が不備であるなどがそれである。

中国政法大学の馬懐徳教授は、賠償基準が低すぎるのは法律の懲罰と懲戒の精神を体現することができないと指摘する。

精神損害はまだ国家賠償の範囲に入っていない。これも人びとが普遍的に不合理だとみている問題である。現有の法律の規定では、違法行為によって、公民の人身の自由と生命健康権が侵犯された場合、物質損害については賠償するが、精神損害は賠償しないとなっている。

馬懐徳教授は、当事者の精神損害の賠償について明確な規定がないのが「国家賠償法」の大きな欠陥である、というのは多くの場合、当事者の精神損害は物質損害よりもはるかに大きいからだとしている。

10年来、審理された国家賠償案件は多いが、その数は賠償すべき実際の誤審案件の一部に過ぎない。多くの誤審案件の当事者は損害賠償を放棄しているからである。武漢市中級人民法院賠償委員会弁公室の張沢斌主任の紹介では、2000年と2001年を例にとると、武漢市中級人民法院が無罪を言い渡した被告はそれぞれ57人と55人で、このほかに是正された民事、行政誤審案件が一部あるが、この2年間の全市の国家賠償案件は23件と26件にすぎず、ほとんど半分近くの賠償すべき誤審案件が賠償手続きに入っていない。

どうして多くの当事者が賠償を求めないのだろうか。これについて、張沢斌主任はこう分析する。当事者が法律に暗いこと、賠償義務機関が示談で済ませてしまうこと、現行賠償制度に欠陥があること、これらがこのような現象が起こる3つの原因である、と。

このほかに、現行国家賠償手続きが煩雑であること、賠償範囲が狭いこと、賠償額の基準が低いことなども当事者が賠償を放棄する原因となっている。

「手続きがたいへん面倒で、それにたいして賠償してもらえないので」と言って請求を出さない当事者が少なくない。

改正についての専門家の提言

最高人民法院の曹建明副院長は、「人を基本とする」という考え方を「国家賠償法」改正の指導思想とし、「国家賠償法」の改正、整備を、国家の尊重と人権の保障に関する憲法の規定をいっそう深く実行する過程とすべきであると指摘する。

全国人民代表大会法律工作委員会の王勝明副主任は、賠償範囲の拡大、賠償額基準の引き上げ、賠償手続きの整備が同法律の改正の主な内容であり、同時に「国家賠償法」は「行政訴訟法」「行政再討議法」「行政許可法」「刑法」など多くの法律と関わりがあるので、これらの法律との関係をどのように結びつけ、どのように処理するかもこの法律の改正で解決する必要のある問題であると語っている。

北京市第一中級人民法院の李新生副院長は、「国家賠償法」を次の5つの面から修正すべきであると提言している。

1、 民法院の賠償委員会を審判手続きに組み入れるべきである。

現行賠償法に基づいて設けられた賠償委員会が執行する賠償決定手続きは審判手続きでもなければ、行政手続きでもなく、独立した両者の中間の手続きであり、しかも賠償決定は一審終審の方法がとられている。これは実際の操作で問題が多い。例えば具体的な審理手続きがないため、賠償決定の手続きは随意性が大きい、多くの具体的な賠償事項にかかわる問題ははっきりさせにくい、賠償決定の法的終局の設定によって、賠償義務機関または賠償請求人には申し立てる機会がない、賠償委員会による賠償決定に付帯の執行手続きが欠けている、実践において賠償義務を主導的に履行しない部門に対して有効な執行手段をとりにくいなどがそれである。

2、 償法第20条第2項の「認められない場合、賠償請求人は不服申し立てをする権利がある」という規定は取り消すべきである。

国家賠償法の規定によると、国家賠償を請求する第一歩は賠償義務機関の事件の誤審を認めてもらわなければならず、さもないと次の手続きに入ることができない。この規定は、多くの賠償請求人の賠償請求の救済の道をとざしている。なぜなら実践において、賠償義務機関がこの規定を使って、賠償案件を認めるべきであるのに認めないことが多くあるからだ。賠償法第20条第2項の規定は明確すぎて、解釈しにくいので、取り消すべきである。

3、 国家賠償の帰責原則を修正すべきである。

国家賠償の帰責原則は国家賠償法の中核的内容である。帰責原則はつまりどのような基準で国がその権利侵害行為に対して賠償責任を負うかを具体的に定めることである。国内の理論研究と賠償の実践からみると、国家賠償の帰責原則は大体次の3種類がある。すなわち違法責任原則、無過失責任原則、過失責任原則である。中国の「国家賠償法」第2条で確定されているのは違法責任原則である。今からみると、違法責任の範囲が明らかに狭いようだ。「国家賠償法」は、違法ではないが明らかに不正である行為の賠償責任を排除すべきではない。

4、国家賠償の範囲を拡大すべきである。

現行の「国家賠償法」の賠償範囲は公民、法人とその他の組織の特定の人身権および財産権が国の侵害を受けた場合だけに限られており、国家賠償の範囲を拡大すべきである。例えば違法判決によって公民、法人とその他の組織が損害を受けた場合も賠償範囲に入れる、最大限に国家免責条項を減らす、刑事賠償範囲を拡大するなどがそれである。行政賠償面では、行政機関内部の禁止規定に違反したことによって損害を与えた場合、相応に適度の補償を与えるという条項を追加する。

5、国家賠償の金額を引き上げるべきである。

現行「国家賠償法」の規定によると、個人の権益が侵犯された場合、一般に直接損害を賠償するが、間接損害と精神損害は賠償しないとなっており、しかも賠償金額が低すぎる。したがって国家賠償の金額を引き上げるべきである。また実際の損害に基づいて賠償するとき、最高賠償の制限を取り消すと同時に、間接損害を適度に賠償すべきである。このほか、精神損害の賠償額についても考慮すべきである。