2004 No.40
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テロ戦争時代に入った世界

――冷戦終結後、多数の死傷者を出すテロ事件が世界で続発して、世界は「テロ活動」と「テロ対策」が勝敗を争う時代に入っている。

韓旭東

(国防大学戦略教学研究部)

冷戦終焉後の世界は人々の所期のように平和を迎えることはなかった。冷戦時代の軍事対立に覆い隠されていたさまざまな矛盾が顕在化しはじめ、非伝統的安全保障問題に対する人々の関心が高まっている。

まず、世界各国は「テロリズム」の大きな脅威にさらされている。冷戦時代において、東側陣営と西側陣営の軍事対立により、軍事的脅威が各国の直面する主な安全問題であった。冷戦終結後、軍事安全の地位は下がり、経済安全などの地位が上昇するようになった。つまり、国家安全に影響を及ぼす諸要素の中に、非伝統的安全問題は次第に伝統的安全問題に取って代わる、注目すべき重要問題となっているのである。非伝統的安全分野における最も際立つものはテロリズムである。それは各国の経済や文化、国民の生命と財産などを脅かすばかりでなく、各国の政局をも脅かしている。テロリズムによる脅威が増えており、テロ戦争は各国の安全を脅かす要因となっていると言える。テロリズムとの戦いは各国が直面する主な闘いとなっている。

その次、テロリズムとの戦いは各国の軍隊の要務となっている。なぜかというと、テロ活動はすでに軍事化へと進んでいるからである。テロ活動の軍事化について、次のいくつかのパターンが挙げられる。

@テロ組織の軍事化。現在、世界で記録にとどめられているテロ組織は1000余りもあり、そのうち、悪名高きものは数十もある。例えば、ビン・ラディンを頭とするテロ組織、フィリピンのアブ・サヤフグループ、スペインの反体制武装テロ組織ETA、スリランカのタミル・イーラム解放の虎、インドネシアのジュマ・イスラミア、パレスチナの過激派組織ハマスなどがそれである。また、たえず新たにテロ組織に指定される武装組織も現れている。例えば、ロシアのチェチェン武装組織、イラクのサダム政権の残存勢力など。ビン・ラディンのテロ組織はもともとアメリカが一手に育て上げた旧ソ連と対抗するための勢力であった。旧ソ連のアフガン侵入期間に、ビン・ラディンのテロ組織はアメリカから2億5000万ドルの軍事援助を得て、正真正銘の軍事組織となった。湾岸戦争終結後、ビン・ラディンはサウジアラビアの親米政策およびイスラム聖戦へのアメリカの異教徒の冒涜行為を不満に思ったため、その指導する武装組織をテロ組織に変身させることになった。フィリピンのアブ・サヤフグループは1998年までに数百人もの規模に発展し、パレスチナの過激派組織ハマスは1992年までのメンバーは2万余人を上回り、しかも数百人からなる決死隊もつくった。イラク戦争終結後、サダム政権の残存勢力はアメリカ軍と対抗する軍事テロ組織を結成している。

Aテロ勢力の装備の軍事化。ナイフ、小型自動小銃、プラスチック爆弾などがテロ分子の在来の兵器だったが、現在、テロ分子の兵器装備は絶えず改善され、軍事化に向っており、軍隊のそれよりも先進的なものもある。例えば、ビン・ラディンのテロ組織はかつてアメリカから供与されたスティンガー地対空ミサイル数百基を装備していた。また、1995年に日本で発生した地下鉄サリン事件は、テロ組織が大規模破壊兵器を保有して使う可能性があることを示唆するものであった。旧ソ連解体後、核密輸事件が頻発し、テロ勢力は核原料を手にして簡易な核兵器を作り出す可能性が高くなっている。ビン・ラディンは200万ドルの代価で戦術核兵器を購入しようとしていた。ロシアのチェチェンテロ組織は早くからかなりの軍事装備を持つ正規軍事組織となっていた。現在、サダム残存勢力はテロ活動を始め、それにつれて、世界のテロ組織が持つ軍事装備はますます多くなり、そして広がりを示し、本格的に軍事化に向って展開することになろう。

Bテロ手段の軍事化。20世紀60年代以前に、暗殺、拉致などはテロ活動の主な手段であったが、60年代に入った後、ハイジャック、爆破などのテロ事件も現れてきた。冷戦終結後、テロ勢力の拡大や兵器装備の軍事化につれて、テロ勢力は軍事目標をねらって攻撃するようになり、武力衝突ひいては戦争を引き起こす傾向が強まることになった。パレスチナのハマスは現在中東地区にはびこり、イスラエルの軍事目標を攻撃の対象とする最も活動を強めている組織である。フィリピンのアブ・サヤフは絶えず政府軍と衝突し、ロシアのチェチェン武装グループはロシア連邦政府軍と対抗し続けており、アフガンのテロ組織はときどきアメリカ軍と交戦しており、南米のいくつかの国のテロ組織は内戦を引き起こす傾向にあり、サダム政権の残存勢力によって結成されたテロ組織はイラク新政府に矛を向ける可能性もないわけではない。

各国のテロ対策も軍事化へ

軍隊はテロ対策実施の主体となっている。もとはテロ対策の実施者は国の安全部門であったが、テロリズムの広がりやテロ活動の活発化によって、各国はテロ防止を重視するようになり、テロ対策を軍隊の要務に盛り込むことになった。1998年8月、ケニアとタンザニアの米大使館では同時に爆弾事件に見舞われ、百人にのぼる死傷者を出した。アメリカはテロ組織のしわざだとして、スーダンとアフガニスタン国内のテロ組織の基地に対し限定的な軍事打撃を加えた。それ以後、アメリカは世界で率先して「テロへの対応」を理由に軍隊を繰り出してテロリズムに打撃を加える道を歩み出した。「9.11テロ事件」発生後、アメリカは軍隊を出動させてアフガンに攻め込んだ。昨年、アメリカは大規模破壊兵器を保有し、テロリズム支援をしたとの口実にイラク戦争を起こした。テロ対策はアメリカ軍の当面の要務となっている。ロシアもテロ対策を軍隊の要務とし、テロ勢力を国の現実的な脅威としている。インドはカシミール地区のテロ勢力に対応することを軍隊の要務に盛り込んでいる。昨年のG8サミットの期間に、人口1000人足らずのエビアンというフランスの小さな町は強大な敵を相手にしているように、フランス軍に一寸のすきもないほどの警備で固められ、対空ミサイルまでも配置された。中国政府も軍隊のテロ対策への介入を非常に重視している。昨年、中国、ロシア、カザフスタン、ウズベキスタン、タジキスタンなど5カ国の軍隊が、反テロ合同軍事演習を行った。また今年は、中国とパキスタンが新疆で合同反テロ軍事演習を行い、演習の科目は通路の封鎖、テロ分子の逮捕などであった。

テロ対策は戦争形態の一つとなっている。国際社会はますますテロ対策を重視するようになっている。チェチェン戦争で勝利するため、ロシアが多大な代価を払ったことを教訓にして、各国もテロ対応の手段を練っている。西側メディアの予測によれば、ロシアがチェチェン戦争に対する軍事支出は月に1.5億ドルにも達し、ロシア軍側は1万人以上の死傷者、チェチェン側は3万人の死傷者を出している。また、50余万に上るチェチェン人と22万ものロシア人が戦乱を避けるために難民となっている。ロシア軍側はテロ対策を中心とする「特殊戦役」という概念を打ち出したが、アメリカはテロ対策を口実にさまざまな形の戦争を起こした。以上からして、対テロ戦争が21世紀における新たな戦争の形態となっていることを見て取るのは難しいことではないだろう。

テロリズムとの戦いは長期的に存在していく。テロ組織には複雑な歴史的背景があるばかりでなく、現実的にはそれが存在する温床もあって、テロ対策は一朝一夕に完遂できることではない。また、テロ組織の国際化と軍事化、国際社会のテロ対策の欠如、それにテロ対策にある大国のダブルスタンダートがあるため、短い期間にテロリズムを一掃することはほとんど不可能である。それから、「対テロ戦争」はある「勢力」が望むものである。なぜかというと、@「対テロ戦争」はアメリカが世界の新秩序を構築するうえでの「障害排除のシャベル」となっているからである。1990年代中ごろ、アメリカは「テロ対策」を錦の御旗としてスーダンとアフガンに対しミサイル攻撃を実施した。それから、アメリカは覇をとなえる過程での障害を取り除くため、また同じなやり口でユーゴスラビア連邦を空襲し、アフガンに攻め込み、サダム政権を覆した。それと同時に、対テロ戦争はアメリカが協力の盟友を選別するものともなっている。A「テロ」は一部の勢力が虚勢を張る第一の選択となっているからである。冷戦終結後、アメリカは世界で唯一無二の超軍事強国となっている。その他の国もそれぞれ2つの陣営に属さなくなり、軍事対立の局面も存在しなくなった。B一部の「国境割拠」地区はテロリズムの存在する重要な基盤であるからである。植民地主義による国土係争地区、例えばカシミールなどの地区は現在すでにテロリズムの発生源となっており、イスラム原理主義、極端主義、民族分離主義などは国家安全を脅かす主因となっている。これらの勢力はアメリカなどの国々と立ち向かって対抗することができないので、自らの目標実現のためにテロ活動を行うことになっている。そのほか、ある国は真のねらいを覆い隠すため、テロ手段で相手に打撃を加える必要もあるわけである。この面では、イスラエルのパレスチナへの打撃がその実例である。