個人の貿易経営に“ゴーサイン”
唐元カイ
「個人もやっと外国人と貿易ができるようになった!」。米国に定住して3年弱になる黒竜省ハルビン出身の左思棋女史。彼女は最近、サンフランシスコの家を売り払って「氷の街」と呼ばれるハルビンに戻り、貿易企業を経営しようかと考えている。
その動機となったのが、今年7月1日に施行された改正『対外貿易法』だ。商務部は同法の施行を受けて『対外貿易経営者届出登録?法(運用法)』を施行。これにより、個人の貿易経営に対する規制はほぼ撤廃されることになった。
従来の対外貿易法では、個人の参入は許可されなかった。一方、新貿易法は第2章第8条で「対外貿易の経営者とは、法律に基づいて理工・商業関連の登録またはその他の業務の従事に関する手続きを行い、本法とその他の関連法律、行政法規の規定に基づいて対外貿易に従事する法人、その他の組織と個人を指す」と規定。これは、ごく普通の市民でも貿易経営に従事できることを意味している。
左女史は今年、44歳。国営の貿易会社で働いていた経験があり、4年前に辞職して独立した。だが、個人による貿易経営は主管機関から許可が得られず、貿易権を有する企業の名義で経営するしか方法はなかった。「明らかに私自身のビジネスなのに、私には合法的な身分はなかった。契約するにして名義企業の社印が必要だし、管理費など様々な経費も支払わなければならなかった」と、彼女は不満をもらす。
彼女の言葉から窺われるように、現実には個人で貿易会社を経営したいと思っている人は少なくなく、しかも、そうした希望を隠す必要もない時代にはなっていた。ただ、個人の貿易経営に関しては名も実もない、つまり法的にまだ整備されていなかったために、利益を上げるのはかなりの労苦を要した。
専門家は『対外貿易法』の改正について、個人による貿易経営がより現実化された、と考えている。中山大学嶺南学院国際ビジネス学部の黄静波教授は「個人による貿易経営に対する規制緩和は、中国の貿易事業が完全な意味で市場競争に突入したことを示すものだ」と評価する。
商務部国際貿易経済協力研究委員の劉雪琴研究院は「個人への貿易権の開放は、中国の市場経済の地位の高さを物語るものだ」と指摘。更に「貿易は既に市場化しており、経営形態による制限もない。生産や販売、価格も市場化されており、計画経済から市場経済への転換を既に終えた」と強調する。
市場の変化に伴い新法制定
従来の『対外貿易法』は1994年に制定された。同法は貿易に従事する者の範囲を限定すると同時に経営の許可制度についても規定を設けており、メーカーや商業・物資関連企業による輸出入権に関しても厳格な認可審査制度を規定。こうしたシステムの下で、政府は貿易権を一部の国有企業に与えてきたが、それは政府の特権と化していた。
「計画経済の下では、国有の貿易企業は、国が流通分野をコントロールすることで生産分野をコントロールするための有力な手段として存在していたが、市場化が深化するに伴い、こうした手段に依存しようとする国の姿勢は次第に弱まってきた」。国際貿易経済貿易仲裁委員会の沈四宝副主任はこう指摘。その上で「新貿易法が経営者の範囲を拡大したことは、市場経済そのものが求めるものであり、市場経済に離反する独占状態は打破されることになった。市場は今後、健全に発展していくだろう」強調する。
中国法学会WTO(世界貿易期間)研究会副会長を務める何茂春博士は「貿易権の限定された独占は、国内の体制改革を制限するのみならず、公平な競争をも阻害し、中国に大きな損失をもたらしてきたばかりか、中国のグローバル化にも影響を与えた」と指摘する。更に何副会長は「自由貿易は当今の世界の潮流であり、グローバル化にとって重要なのはまさに、貿易の高度な自由化であり、いかなる個人・企業・団体も自由に貿易できる権利を持てることだ」強調。改正貿易法で貿易権が拡大したことについては、「この25年来続けてきた貿易体制改革の大きな成果だ」と評価する。
この数年来、伝統的な計画経済型の貿易企業は市場から淘汰されつつある。貿易権取得のハードルは一段と低くなり、中央政府は今年1月、メーカーを対象に輸出税還付率を引き下げた。こうした一連の政策の目的は、国の政策支援を受けて独占経営状態にあった貿易企業を段階的に完全な競争へと向かわせていくことにある。国内政策の変化に追われるかのように、貿易企業はこれまでにない圧力を感じ始めている。多くの外国企業も進出を阻んでいたハードルの突破を模索してきた。
何副会長は「総体的に言えば、新法は1994年の対外貿易法を補充するもので、WTOへの加盟以降、WTOのルールに基づいて行った立法上の調整だ」と説明する。
WTO加盟時の公約に従い、貿易経営は来年1月に認可制から登録制に移行する。貿易権については、全ての外国の個人と企業に中国企業を下回らない待遇が与えられる。仮に外国の個人が中国で貿易できるとなれば当然、中国の個人も従事できることになる。
だが新法が制定されたからといって、いかなる個人も無制限に貿易に従事できるというわけではない。何副会長は「個人が貿易権を取得しても、実施の過程で法定な手続きを踏まなければならない。税関の監督・管理や税収といった問題のほか、製品や目録、割当額、許可制度、安全や環境保護などでも制約を受ける。だが、一定の時間を経て徐々に秩序ある発展を遂げていくだろう」と強調。
その上で何副会長は「新法は旧法に比べ、より系統的で、運用しやすくなってはいるものの、依然として幾つかの問題がある。新条項については原則的な規定は設けられていても、具体的な実施手順や運用法の説明が欠落していることだ。貿易法のほかに、関連する法律や法規を補充して対外貿易に関する法体系を確立する必要がある」と指摘する。
商務部条約・法律司の尚明曽司長によると、関連する法律や法規は十数件に及び、現在、その軽重に即して草案の準備作業を急ピッチで進めているという。
経営には様々な問題が存在
「個人の貿易経営には期待を寄せていない」。貿易ビジネスに携わって8年余りになる林献雄氏は言う。「貿易業務に携わる個人は、これまで全ての企業が負ってきたリスクを負うことになるだろう。価格の面で、悪循環の競争がもたらされる可能性も大きい。また外貨の決済や信用証の発行、税関への届出、納税の問題、いかに取次店との間の信用を維持するかなど、解決しなければならない問題が出てくる」
大連で貿易企業を営む于兵氏は、個人の貿易が自由化されても、貿易は非常に専門性の強い業種だと強調した上で、「そこには目に見えないハードルが数多くあり、それを素人が突破するのはなかなか難しい。貿易障壁や反ダンピング問題などは、個人ではとても解決できない」と指摘する。
于氏は更に「個人が貿易に従事する上で、大きなハードルとなるのが信用だ。一旦問題が生じれば、補償すべき法的責任をどう担うのか。しかも個人貿易に関する細則を定めた法律はまだ制定されていない。登録手順や税関申告などについても明確な規定はなく、どうして外国企業の信用を得られるだろうか」と疑問を呈する。
「個人の貿易経営は楽観視できない。何故なら、個人が社会的信用を確立するのは非常に困難だからだ」。商務部国際貿易経済合作研究院の李雨時副院長もこう指摘。
貿易企業の職員を取材しても、独立志向派はマイナーだった。この分野で長年にわたってノウハウや顧客を獲得しても、また外国の顧客を持ったとしても、国内企業と連係を保持しなければならず、しかも個人の信用評価システムがまだ確立されていない中、個人に商品を直接供給するメーカーがあるだろうか。商品の供給源が確保できなければ、何を輸出できるだろうか。そんな不安があるようだ。
専門家は「一部の先進国のような個人信用評価システムが早急に制定されれば、個人の信用に関する記録はこのシステムを通じて調べることができるようになり、個人の貿易経営は一段と促進され、適正化される」と指摘している。
実際、貿易において個人がいかに信用を保証するかといった問題は税関、外貨管理局、商工業など関連する政府管理機関の間でも議題に上っており、関係機関は現在、新しい管理方法を出来るだけ早く打ち出すため協議を進めているところだ。
左女史は「個人貿易でカギとなるのは、顧客と貿易の専門的基礎を持っていること。この2点で、個人は貿易会社と比較することは出来ない」と強調した上で、「貿易会社を辞めた時、一部の顧客に私に発注してくれるよう試みたが、私が個人で経営することを知ると相手にせず、元の職場に発注してしまった」と、経験を語ってくれた。
于兵氏は「だから、僕は新対外貿易法が制定されても、職員が独立することは少しも心配していない」と強調。更に続けて「少なくとも短期間は、個人による貿易経営が我々のような大企業に影響を与えることはないだろう。個人の信用が多くの場合、外国企業に認められるのは難しいからだ。彼らが重視するのはその企業の信用であり、ある職員に対する信用ではない。信用力のある企業の顧客が、職員に奪われるようなことはあり得ない」と自身を示した。
現在、個人の貿易経営者が輸出商品商談会など大規模は商談会に参入するのは非常に難しい。主催する組織委員会は、一定の輸出額の実績を基準に企業の出展を許可しており、個人経営者に対しても同様の基準を採用。だが、個人経営者がこの基準をクリアするのは困難だ。この措置はある意味で、個人貿易の発展を阻んでいると言える。
「貿易経営権のハードルを低くする、経営主体を多様化することが、貿易の機会をより創出する上でプラスとなる。だが、投資家が利益を得られるかどうかは、最終的には個人による投資が理性的か否か、また国内の関連する措置・制度が完備され、着実に実施されているかによって決まる」。こうした考え方が専門家の大半を占める。
個人が貿易を営むとなれば、税関から始まって検疫、銀行、税務、外貨管理、商工業など20〜30に及ぶ政府の関連機関と接触しなければならない。主管・管理機関から言えば、法人を相手にするだけでなく、大衆、個人をも相手にすることになり、これは今までにない1つの“チャレンジ”となる。
だが、いずれにせよ、新たな『対外貿易法』と『対外貿易経営者届出登録?法(運用法)』の施行により、個人貿易は刺激を受け、更に個人貿易の発展に向けた潜在力がより掘り起こされると期待される。
※参考資料
対外貿易の歴史
◆第1段階(1949〜1978年)
中央政府は貿易と管理の一体化、政府と企業の不可分、損益の統一責任という貿易管理体制を確立した上で、少数の貿易専門公司に対し計画を指令して貿易実務に当たらせていた。(1978年末時点の貿易公司は約130社)
◆第2段階(1979〜1991年)
1978年から貿易体制改革を実施。この段階では、貿易権(外資系企業も含む)の一部開放と貿易公司の自主的改革が主体だった。
1979〜1987年、貿易体制の改革は政府と企業の分離を主体に進められ、代理制度や貿易計画内容の簡素化、輸出請負経営責任制度が実施された。
1988〜1991年、対外貿易請負経営責任制度を全面的に実施。貿易業務を担う地方政府や貿易専業公司などが、外貨獲得や経済指標の向上で大きな役割を果たした。
貿易企業の改革を通じて、貿易体制は徐々に正常な軌道に乗り始め、対外開放と商品経済社会に向けて発展し始めた。
◆第3段階(1992〜2001年)
貿易政策は国内の各管理分野を含め、国際ルールに即した方向へと進んでいった。
輸出入管理については、1992年に輸入調節税を廃止。1994年には輸出入に関する政府計画の指令を廃止。その後、相次ぐ関税の引き下げで総体的に世界の平均レベルに達し、世界市場により近づいた。輸入割当額やその他の非関税障壁も年々廃止されていった。
1994年に『対外貿易法』を施行。これを機に、貿易分野に関する系統的な法整備に着手した。国際的な規範を目標に、商品貿易や外資、知的財産権、反ダンピングなどそれぞれの分野で一連の法律・法規が制定され、同時に政策の透明性も向上していった。
貿易体制の改革で市場経済メカニズムの調整的役割は一層強化され、貿易の市場化が促進された。
◆第4段階(2002年〜)
この段階で特筆すべきは、2001年12月の世界貿易機関(WTO)への加盟。貿易政策やシステムの改革は国際社会とリンクされ、国際社会と共に発展するようになり、国際社会との協調性を重視するようになった。こうした変化の原動力となったのが、経済の高度成長、膨大な市場、先進国との経済・貿易面での相互補完性、政策の安定性、世界に対する強い責任感であり、世界経済に対する影響力は徐々に増大しつつある。
今年改正された『対外貿易法』は、WTOに加盟した際の公約を反映したもので、平等・非敵視・公正な貿易・透明度・権利と義務のバランス・内国民待遇・最恵国待遇・貿易救済・自由競争の阻害・知的財産権の保護などに関するルールは全て盛り込まれている。
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