2004 No.42
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遺産(相続)税は腐敗対策の利器なのか

最近、遺産税と贈与税の導入は「実名による銀行口座開設や預貯金」の実施と「上級公務員家庭財産申告制度」の充実と同じように、制度に頼っての腐敗防止の根本的対策の一つだという分析が、一部の腐敗防止専門家によって提起されている。

遺産税は腐敗対策の利器にしてはならず、その導入の主な目的は財政収入を増やし、貧富の差をなくすことであるという反対の声も上がっている。

遺産税は腐敗対策だ

腐敗防止専門家、国家社会科学プラン「新世紀における中国腐敗懲罰・予防対策研究」課題グループのトップの王明高氏は次のように指摘している。

遺産税と贈与税の導入は「実名による銀行口座開設や預貯金」の実施と「上級公務員家庭財産申告制度」の充実と同じように、制度に頼っての腐敗防止の根本的対策である。

遺産税の徴収によって腐敗行為のモチベーションを弱めることができる。腐敗行為はすべての投資行為と同じように、行為者が腐敗行為に走る際には必ず「ゲイン」と「コスト」の対照関係をじっくり考えるものである。市場経済の条件の下でリスクをおかしてやたらに金権取引や汚職・賄賂を行おうとするものが現われるのは、いずれも利益追求というモチベーションに駆り立てられたためである。もし「コスト」あるいは「リスク」が「ゲイン」を上回るならば、このような「所得」を得ようとするものはいないだろう。中国では現段階の腐敗行為のリスクとコストはまだ低い。

遺産税徴収は二つの面から腐敗行為の「コスト」を引き上げることが可能である。

一、遺産税は直接汚職・賄賂犯罪の「経済コスト」を増やし、これらの人がリスクをおかして受け取った不法所得のかなりの部分を徴税の形で国庫に納入させることとなる。

二、遺産税徴収は腐敗行為がばれる可能性を増やすことを可能とする。汚職・賄賂犯罪は非合法的な取引であるため、そのゲインも明るみに出せないものばかりである。遺産税の導入は「実名による銀行口座開設や預貯金」や「上級公務員家庭財産申告制度」など関連制度の制定と充実を強化することになる。政府要員の家庭財産が大衆の監督を受けるようになれば、その利益追求の心理もいくらか抑えられることになろう。

遺産税徴収のいまひとつの役割は一部の賃金以外の収入(灰色の収入といわれている)と不法所得を国のものに転化することができ、しかも相続の回数が多ければ多いほど、この転化ももっと徹底的なものになるということにある。もし厳しい規律と法律が腐敗行為を防ぐうえで役割を果たすというのなら、遺産税の徴収は腐敗行為の結果を国のものに転化するうえで役割を果たすことになる。

遺産税徴収の難点は課税額の確定にある。この問題を解決するには、遺産税徴収の目的をはっきりさせなければならない。遺産税徴収の主な目的は財政収入を増やすことにあるから、低い限度額から徴税すべきだと主張している学者も一部にはいる。

私はこの主張はいささか一方的だと思っている。世界各国を見ると、遺産税の税源はそれほど範囲に及ぶものではなく、財政収入全体に占める遺産税徴収の割合もかなり低い。実際には、遺産税徴収は確かに財政収入を増やすことにはなるが、その主な目的は大量の財産を占有する少数のものに対する徴税であり、財産の個人への集中過度を制限し、社会の所得格差を調節することにある。

課税限度額が低すぎるならば、例えばある学者が提案している10万元だと、所得が少ない人々にとってはショックになるかもしれない。もし課税限度額を引き上げるならば、徴収対象は少数の富裕層となり、徴収すべき税金を徴収すると同時に、税収のコストを減らすこととなる。

私は、中国の遺産税の課税最低限度額は80万元程度が妥当だと思っている。注意しなければならないのは、80万元には住宅の価値も含まれていることである。80万元なら、北京では住宅さえ買えないから、あまりにも低すぎると思う人も多分いるだろうが、中国の実情から見れば、地域の経済水準や個人財産の保有額の差が大きいので、80万元は全国平均値にすぎない。

私の調査では、清廉な政府要員なら、その住宅価値の平均額は20万ないし30万元で、定年退職までの預貯金は多くても50、60万元を超えないはずである。でも具体的な問題には具体的な分析が必要である。北京や上海、広州などのような高消費、高収入の都市では、遺産税の課税最低限度額はそれに応じて引き上げるべきであるが、具体的な限度額は現地の実情に基づいて決めるべきである。

そのため、私は遺産税を地方税に編入することを提案しているのである。そうすることにより、取り扱いを区別し、効果的に徴収できるようにするのである。同時に遺産税の徴収が地方政府の協力に頼って行われるため、このやり方は地方政府の徴税の意欲を引き出すことにも役立つことになる。

遺産税徴収を腐敗対策にするのは無理

「上海証券報」紙の王佳寧氏は次のように見ている。

遺産税導入の根本的な原因とモチベーションは、社会の財産の配分を調節し、貧富の差をなくすことにある。遺産税の導入は、かなりの程度において亡くなった人(被相続人)の財産が次の世代(相続人)によって継がれることを避け、社会の公平という目標を実現することにプラスとなるようにするためである。遺産税は貧富の差を縮め、配分の不公平を緩和させ、貧富両極への分化を防止し、勤勉な労働で豊かになることを奨励し、社会の人々を寄付へと導くことなどで優れた税目の一つになるかもしれない。現在、世界には遺産税を徴収している国は百余カ国もあるが、遺産税を政府要員に対する監督と管理に結びつけている国は聞いたことはない。

長い間、政府要員となることは一定の権力を意味していると考えられてきたが、権力は人間を腐敗させやすいものである。こうした権力が絶対化された後、権力を握っている人に根強い堕落性とエゴイズムが生じかねないからである。したがって、制度面から権力が危険なものになるのを防ぐことが必要である。

ここ数年来、ずっと制度面から政府要員の腐敗を引き起こす温床を取り除く方途を求めてきたが、遺産税を制度に頼っての腐敗防止の根本的な対策にするという提案には無理がある。事実上、制度は一種の特定のルールの体系であり、制度に頼って腐敗を防ぐことは既成のルールの体系で権力による腐敗行為の発生を防ぎ、抑制することを意味するものである。もし遺産税徴収が政府要員をターゲットとするならば、上級公務員財産申告制度や信用制度、個人所得申告制度という三つの問題をまず解決しなければならない。

疑いもなく、いかなる制度も対象相手のために制定されたものである。一部の制度は相手方を制約することはできるが、相手方を制約することができない制度も一部にはある。遺産税徴収を腐敗防止とリンクさせることによって、政府要員はその行為を制約できないルールに協力できるかどうか、相手方を制約できないルールは長続きするかどうかといった問題が現われることになる。経済学の角度から見ると、人々の収入の限界消費は逓減するものである。収入が多ければ多くなるほど、消費する時にまったく気にかけることなく、思うままにすることになる。そうすると、社会の財産は少数の者の手に過度に集中することになり、一連の違法行為や犯罪などの社会問題を引き起こすことになっている。例えば、腐敗官吏が資金を携えて外国に逃亡することがそれである。

遺産税徴収は腐敗行為がばれる可能性を増やすことが可能であるという課題グループの責任者の想定に至っては、そのために制定と充実を必要とする法律や法規がどれだけあるか定かではない。特に不動産の管理機関や車と船の管理機関、特許局、銀行、保険会社、証券取引所、商工業行政管理部門などには高官たちの財産の状況を提供する義務がある。また、警察、検察、裁判所や公証機関も協力して関連情況を提供すべきである。そのほか、納税者が遺産税を納める前に、納税者の財産を凍結し、その資金の海外への持ち出しを防ぐ必要がある。以上のことを実行するには莫大な数にのぼる機構と数多くの人の参与がなくてはならない。

遺産税は決してすべての人が高い自覚を持つことを前提とするものではない。自己制約意識のより強い政府公務員にしても、無私の精神で貢献するというモラルの基準や時代と共に前進するという時代の基準を実践させることはできないだろうが、自己制約意識のより弱い公務員にとっては、みずからの利益や社会に対する影響及びみずからの将来などによって理性的に制度と規範を守らせることはできないだろう。言い換えれば、モラルの的自覚からにしろ、現実的な功利からにしろ、遺産税徴収により、政府要員を社会の標準に従わせることは保証できるものではない。

フリーライターの周士君氏は次のように見ている。

腐敗防止専門家の意見によれば、中国の遺産税の最低限度額は80万元にしてもよい。それはこの専門家の調査では、清廉な政府要員なら、その住宅の平均価値は20万元ないし30万元で、生涯を通じて預貯金も50、60万元を超えないからである。そのため、遺産税が導入されたら、腐敗官吏の劣悪な行為はその子孫が遺産を引き継ぐ時にすべて明るみに出るだけでなく、多数の清廉な政府要員の正当な利益も保護されるという結論が導かれている。しかし、私の見方では、遺産税徴収は、汚職や贈収賄を行ったが、犯罪行為が発覚しなかった腐敗官吏のばれる確率を増やすことができ、また腐敗官吏の腐敗行為のリスクを増やし、腐敗行為のモチベーションを弱めることができるということにはいささか無理があると思う。

まず、遺産税の導入で腐敗官吏に汚職や贈収賄でかき集めた資産の一部分を「財政に上納させる」ことにも、腐敗官吏の「家庭財産を大衆の監督の下に置かせる」ことにも、整った遺産税徴収の実施環境の支えがなくてはならない。しかし、今日の現状から見て、上級公務員財産申告という提案をかなり前から唱えられてきたが、実際の行動はいまだに目にしていないどころか、まともな財産申告制度さえも出来ていない。このような望ましからぬ遺産税徴収の環境では、遺産税の「申告額」も査定できないし、またどのようにして遺産税を徴収するのか。結局、逆効果になるしかないだろう。

その次に、腐敗官吏が目下汚職や贈収賄でかき集めた巨万の富を不問に付して、遺産税という遠い将来の行為で防止することは、意識的に腐敗官吏に抜け穴を示しているのではないだろうか。ひいては腐敗官吏にマネーロンダリングの機会と時間差を与えていることに等しいのではないか。たとえ今後一定額の遺産税を徴収したとしても、それらの腐敗官吏はとっくに不正な金に頼って楽々として一生を過ごし、しかも堂々とその子孫にいくらかの「腐敗の分け前」を残し、子孫にも楽な生活を送らせることとなる。したがって、連中がそのことをしないはずはないのである。腐敗官吏から遺産税を徴収する過程はほかでもなく、合法的な手段で腐敗官吏の不法収入を合法化する過程であるため、腐敗官吏に喜ばれるにちがいない。その腐敗行為のモチベーションを弱めることができるだろうか。また、腐敗官吏が汚職や贈収賄でかき集めた不法収入で国と「山分け」するということが認められることとなり、任期中に贈収賄が多ければその子孫の「わけまえ」分も多くなる。このような徴税は、逆に腐敗行為のモチベーションが強化されることになるかもしれない。

したがって、現行の制度に変化や改善がなければ、いわゆる遺産税はいかなる腐敗官吏にとってもしかるべき抑止力にはならず、彼らの腐敗行為のモチベーションを弱めることにもならなければ、彼らの「腐敗追求の信念」を動揺させることにもならないだろう。遺産税を徴収する前に、腐敗官吏の劣悪な行為がいったん明るみに出たら、その不法収入は全部国庫に上納されることになるが、遺産税徴収が始まったら、たとえ腐敗官吏の劣悪な行為がばれたとしても、彼らは依然としてその不法収入をもって堂々と国と「山分け」をすることになる。そうなると遺産税導入後の腐敗防止メカニズムは腐敗官吏にとってはさらにゆったりしたものになるのではないだろうか。

したがって、遺産税は税収の調節手段として徴収すべき時に徴収してもよいが、それを腐敗防止の手段とするのはあまりにも甘すぎる考えのように思える。