中国政府は90年代から工業汚染の防止強化に乗り出したが、中小企業による汚染の防止が現在重点となっている一方で、問題点もそこに存在している。
中小企業が急成長を遂げたのは、80年代以降。基礎工業の立ち遅れが工業全体の発展の足かせとなっていたが、当時、緊急に必要とされていた石油製品や鋼材、セメント、ガラス等といった生産・生活物資が生産されたことで、この問題は次第に緩和されていった。
現在、工業関連の中小企業数が企業総数に占める割合は99%、生産高は国内総生産(GDP)の50%を占める。中小企業の発展が工業化、都市化のカギを握っており、いくらかゆとりのある社会を全面的に建設する上でも重要となっている。
だが、多くの中小企業は生産技術が遅れ、技術水準が低いことから、増産に伴って環境が汚染され、生態も破壊されるようになった。
国家環境保護総局の調査によると、中小企業の60%が汚染源となっている。長年にわたって汚染防止に取り組んできたことが功を奏し、一定の成果を上げてはいるものの、取り組むべき課題は依然として多い。
中小企業による汚染の防止
蘭辛珍
2004年9月、北京市は汚染の深刻な中小企業5社を摘発。時期を同じくして陝西省では製紙工場1社と化学工場8社、山東省で小規模製油所3社、天津市で化学関連企業3社、貴州省で粘結炭工場5社と火力発電所1社が摘発された。
政府は1995年から中小企業汚染の防止に着手すると共に、企業汚染による環境整備も年に1度実施しており、今年で10回目を数える。汚染問題で閉鎖あるいは生産停止の処分を受けた中小企業は、現時点で100万社近くに上る。
国家環境総局環境・経済政策研究センターの任勇副主任は「中小企業からの汚染物質の排出量はそう多くはないが、排出地点が多くかつ分散しているため、汚染防止対策に当たってはこの点が重点となる」と指摘する。
汚染は深刻
国内中部を東西に横断しながら3省・自治区を流れる河川、河。6、70年代、淮河には魚類やエビが群れを成し、水草が生い茂り、春と秋になれば南方から北方に向かう渡り鳥が経由する楽園だった。だが80年代以降、水質は徐々に黄色から黒色へと変色し、魚類やエビは死んでしまい、水草は枯れ、鳥類の姿も少なくなっていった。
環境保護機関の調査で、河川の変貌は両岸に建設された中小企業が原因であることが判明。これら企業は固形廃棄物や廃水を淮河に垂れ流ししていた。このため政府は巨額の資金を投入して汚染を防止してきたが、期待できる効果は上げることができなかった。
中小企業による汚染は既に社会問題となっている。国家統計局と国家環境保護総局の調査によると、中小企業数は現在約2900万社と、企業総数の99%を占め、うち工業関連企業の80%以上で汚染問題が存在しており、その60%が汚染源である。任副主任は「この数年、中小企業による汚染物質の排出量は急速に増大しており、環境汚染の元凶だと言える。しかも汚染源は過去の点状の分布から、都市部と農村部が複合化した面状の分布へと変化しつつある」と指摘する。
中小企業の汚染がこれほど深刻になった原因は、1978年に改革開放政策が実施されて以降、経済を急速に発展させるため各地に工業ブームが起こり、郷鎮(農村)企業を中心に多くの中小の企業が設立されたからだ。こうした企業の多くは技術的に遅れ、エネルギー消費は多く、効率は低く、汚染物質排出量も多い。また小規模で経済力がないため、汚染防止に投入できる資金が全くないのが現状。地方政府が企業を建設する際に考慮するのは、環境問題ではなく、どれだけ利益がもたらされるかであり、総合発展計画の作成に当たっても環境保護問題は軽視され、環境保護計画が策定されていないことから、企業の立地は随意に行われてきた。
課題は重い
政府は1996年から「十五小」(汚染が深刻な15業種の小企業・参考資料参照)と「五小」(安全生産条件に合致しない5業種の小企業・参考資料参照)の閉鎖・生産停止に向けて企業を取り締まることを目的にした環境保護行動を展開。それから既に8年が過ぎたが、効果は期待できるものではない。閉鎖された企業の多くが生産を開始したり、新たな汚染源となる企業が設立されたりしている。
国家環境保護総局は2003年に実施した防止対策で、閉鎖されながら生産を再開した企業約3万5000社を摘発。だが2004年に、摘発された企業が生産を続けていることが判明した。
こうした現象が起きるのは何故か。国務院発展研究センター社会発展部の蘇楊氏は「地方の利益と環境保護メカニズムとの不整合が要因だ」と強調する。
中小企業が創出する生産高がGDPに占める割合は50%超、輸出では60%、納税では43%を占めているほか、都市部では就業機会への貢献度が75%に達するなど、雇用創出に大きな役割を果たしている。地方にとっても主要な税収源だ。山西省を例に見ると、石炭や冶金、電力、建材、コークスが基幹産業であり、うち石炭の生産高と税引き前利益はそれぞれ全省の37%。農民1人平均収入の6分の1は石炭に依存している。国家環境保護総局は1999年、同省の汚染企業について取り締まりを実施。汚染が深刻な企業が閉鎖されたことで、その年の経済成長率は前年比5ポイント低下した。2000年上半期には、「五小」の閉鎖により生産高は67億元、税引き前利益は5億6000万元の減少となった。
経済的利益に配慮するため、多くの地方政府は中小企業がもたらす汚染に対しては言わば見てみぬ振り姿勢であり、見逃しているのが現状。こうした企業が摘発されないようかばう幹部もいるほどだ。行き過ぎた地方の保護主義が、環境保護を顧みず違法に生産する企業を醸成させていると言える。
一方、国内では汚染防止設備や運営コストが高すぎるほか、汚染物質排出基準を超えた場合の処罰が、基準を達成するために要する費用に比べかなり低いことから、企業は積極的に汚染対策を講じようとはしない。汚染対策を講じた場合、大半の中小企業では、それにかかる費用が利益を上回るからだ。それは規模や技術面に問題があるからだろう。製紙業界の汚水処理を例に見ると、1日150トンのアルカリを回収するには約1億元が必要であり、運営費が売上高に占める割合は10%を超す。また汚染物質を違法に排出したとしても、行政処分が厳しくないため、汚染防止対策を講じるよりは処罰を受けたほうがましだ、と考える企業もある。
更に蘇楊氏は「経済利益の追求、地方保護主義の影響を受けて、中央の環境保護機関は環境問題が深刻な地区に対し何度も取り締まりを督促してきたが、一向に効果は上がっていない」と指摘。
国家環境保護総局の汪紀戎副局長は「閉鎖企業による生産再開を取り締まるため、総局は今年から始めた防止行動を契機に、3年間かけて継続的に違法行為を厳重に取り締まっていく方針だ。環境管理規定に違反する建設プロジェクトや、国の規定による期間を設けて生産を停止されていない汚染源企業も重点的に摘発するほか、典型的な違法事件の場合には公開して処分すると共に、現地の政府や関係機関の行政不作為を厳しく追及する」との姿勢を示している。
その上で汪副局長は「中小企業は地方経済の発展に向けて重要な役割を担ってはいるが、環境破壊や資源の浪費をその代価にすることは絶対に許されない」と強調する。
融資が難点
2004年8月26日、山西省の省都・太原市環境機関は、汚染防止費用が未払いだからと、ある印刷工場に対し生産停止を命じる通知書を送付した。「汚染した者が汚染を防止し、汚染を防止する費用を支払わなければならない」という政策が、生産停止の理由だ。
この政策が実施されたのは、80年代から。工業関連企業は自ら汚染を防止すると共に関連費用も負担することになったが、大企業では着実に実施されてはいるものの、中小企業の間では困難を極めている。
任副主任は「中小企業は規模が小さいため、汚染防止に必要な資金を調達するのは難しい。環境投資への70%以上は政府と公共機関が資金を投入しているが、中小企業に防止資金が不足しているのは、第1は、自己資金に制限があること。第2に、信用リスクが大きいため、融資が受けにくいのが要因だ」と説明する。
国家環境保護総局環境・経済政策研究センターの周国梅副研究員は、中小企業への汚染防止関連融資について「融資を支援するシステムを確立することが必要である。融資が困難な状態にあるのなら、積極的に支援していかなければならない。また国の産業政策に合致し、成長の潜在力のある中小企業に対しては、企業自身の汚染防止を援助することが肝要だ」と強調する。
また同センターの夏光主任は、現行の「中小企業発展基金」や「中小企業発展専門資金」「環境保護専門資金」に中小企業が汚染を防止し環境を保護するための専門資金項目を追加することが必要だ、との考えを示している。更に夏主任は「政府が汚染を防止する専門企業の設立を奨励し、専門資金をこうした企業に運用させることもできる」と指摘している。
◆関連資料
1.企業分類
業種名 |
指標名 |
単位 |
大型 |
中型 |
小型 |
工業 |
従業員数 |
人 |
2000以上 |
300-200以下 |
300以下 |
|
売上高 |
万元 |
30000以上 |
3000-30000以下 |
3000以下 |
|
資産総額 |
万元 |
40000以上 |
4000-40000以下 |
4000以下 |
建築業 |
従業員数 |
人 |
3000以上 |
600-3000以下 |
600以下 |
|
売上高 |
万元 |
30000以上 |
3000-30000以下 |
3000以下 |
|
資産総額 |
万元 |
40000以上 |
4000-40000以下 |
4000以下 |
交通運輸業 |
従業員数 |
人 |
3000以上 |
500-3000以下 |
500以下 |
|
売上高 |
万元 |
30000以上 |
3000-30000以下 |
3000以下 |
2.明文で禁止された「十五小」、「五小」の重大汚染企業
明文で禁止された重大汚染小企業とは、1996年の『環境保護強化の若干の問題に関する国務院の決定』で閉鎖と停止を明文化した15種の汚染が重大な企業と、前国家経済貿易委員会が期限を設けて停止、閉鎖させた資源を破壊し、環境を汚染し、製品の品質が粗悪、技術や設備が遅れた、安全生産条件に合致しない5種の小規模企業を指す。
●「十五小」の重大汚染企業
1.製紙:年産5000トン以下、年産能力1万トン以下のパルプ生産装置
2.革製品:牛皮で換算して年産3万枚以下
3.染料:年産500トン以下
4.コークス精錬:立て穴式等の原始的な方法
5.硫黄精錬:土式、コークスと同様の方法
6.ヒ素精錬:年産100トン以下の土式
7.水銀精錬:年産10トン以下の土式
8.鉛・亜鉛精錬:年産2000トン以下の土式
9.製油精錬:許可書を無所有(国務院が認可する)
10.金精錬:溝止め、浸透法等
11.農薬:生産許可証を無所有、設計の非正規
12.電気メッキ:シアンノーゲン電気メッキ、設計の非正規、技術的遅れ
13.石綿製品:土式
14.放射性製品:認可証明書を無所有
15.漂白染色:年産1000万メートル以下
●「五小」の重大汚染企業
1.セメント:窯径2.2メートル以下、年産4万4000トン以下の「機立窯」、窯径2.5メートル以下の乾燥式「中空窯」
2.火力発電所:出力5万キロワット以下か同等の発電ユニット
3.石油精製:100万トン以下の認可を得ない精油所
4.炭坑:安全設備がない、採掘・生産・炭坑長資格・営業許可書を無所有、単一鉱で年産9万トン以下
5.鉄鋼:平炉、10トン以下の電気炉、1.5メートル以下の送風炉、100立方メートル以下の高炉、15トン以下の転炉
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