2004 No.46
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2004年APEC首脳会合を展望する

――今回のトップ会談の主要議題は反テロとAPECの組織改革

陸建人

(中国社会科学院APEC・東アジア協力研究センター副主任、研究員)

今年のアジア太平洋経済協力会議(APEC)の首脳会合は11月20日と21日の2日間、チリの首都サンティアゴで開催される。17日と18日には閣僚級会議が、17日から19日まではビジネス諮問委員会(ABAC)の会議が予定されている。今年はチリが議長を務めるが、APECの一連の会議を南米の国が主催するのは今回が初めてだ。

3つの主要議題

APEC会議では毎年、主催国がメインテーマを設定する。チリが設定したのは「1つのコミュニティー、われわれの未来」。このメインテーマは、APECが現在、アジア太平洋地域の将来の「共同体」確立に向け努力していることを象徴している。このテーマの下、今年に入ってAPEC会議は、世界貿易機関(WTO)のドーハプロセスへの支援、APEC枠内での自由貿易協定(FTAs)と地域貿易協定(PTAs)の問題、貿易簡素化行動計画の実施、反テロと安全に対する確約の実施、透明度基準の制定と実施、構造改革行動計画の実施、「ボゴール目標」の中期評価審査の準備作業、データベースの拡充と構築、組織能力の強化、利益関係者との連動と組織改革など、11項目のテーマを巡って討議してきた。この11項目は今年のAPECの主要な作業であり、その多くが以前から引き継がれてきたものだが、一部は理論面から検討されてきた。そのうち閣僚級会議と首脳会合で討議されるメインテーマは、以下の3点である。

反テロと安全の問題

2001年の「9.11」事件後、反テロ対策が上海での首脳会合から重要な議題となってきた。今年、テロ事件は世界的に増えてこそすれ減ってはいない。APEC域内では、より世界を震撼させたロシア・北オセチア共和国での人質事件、インドネシア・ジャカルタでの爆破事件など、重大テロ事件が発生した。反テロ協力は自然、メンバーの関心事となり、とりわけ米国はそうだ。米国がAPECで関心を寄せる最大の事項はまさに反テロだが、主として米国の全世界の反テロ戦略者と関連する問題である。昨年のバンコク会合で、米国はメンバーの脅威となっている国際テロ組織を解散させる、大量破壊兵器(WMD)及びその運搬手段の拡散がもたらす重大な脅威を消滅させることを強く求め、特に携帯式防空ミサイル(MANPADS)拡散を防止する問題を提起した。米国は今年、数回に及ぶ会議でメンバーに対し再度、昨年提起した反テロに関する確約を着実に実施するよう促し、MANPADSとWMDの拡散防止について具体的な行動を取るよう求めた。米国の強い要求に対するメンバーの反応は同一ではない。日本やカナダ、オーストラリア等の先進国メンバーは米国に追随・協力すると共に、APECが政治・安全面でより大きな役割を発揮するよう主張。一方、インドネシアやマレーシア、メキシコ等の発展途上国のメンバー考えは、APECは経済協力組織であり、政治・安全に関する問題には多介入すべきではなく、しかも反テロには多くの費用がかかり、具体的な行動を展開するための十分な資金と能力を備えていない、というものだ。ただ貿易の安全面から、反テロと拡散防止への協力は支持するとしている。サンティアゴ首脳会合では、反テロとこれに関連する安全問題が再び重視されると予想され、首脳による「反テロ声明」が再び発表される可能性がある。

中期評価審査作業

1994年にインドネシアのボゴールで開催された首脳会合で、先進国メンバーは2010年、発展途上国は2020年までに貿易と投資の自由化を実現する、との目標が提起された。これが有名な「ボゴール目標」だ。2001年の上海会合では、各メンバーが目標の実施状況について2005年に中期評価審査を行うことが決まった。来年には大規模な点検が実施されることになる。今年に入り既に数カ国が自主的かつ試験的点検を実施。昨年のバンコク閣僚級会談は各メンバーに対し、今年の会議開催までに中期評価審査の準備作業について、その内容や形式、取り扱い方法などで合意するよう求めたものの、現時点に至っても意見に食い違いが見られる。先進国がボゴール目標を達成するまでの時間(2010年)はそう多くは残されていないが、日本やオーストラリア等の先進国はまだ準備を終えていない。目標の実質的な進展は依然として緩慢だ。中期評価審査作業が近づくにつれ、先進国は目標のAPEC全体の進展具合を重点にすべきだと強調しているが、各メンバーの具体的な姿勢はそれとは異なり、目標を定義づけることや、具体的なタイムテーブルを制定しないよう主張している。マレーシアやチリ等は先進国が率先してボゴール目標に関する確約を果たす共に、メンバーが実施している具体的な状況についても着実に評価審査するよう主張。こうした状況から、双方の溝が一気に埋まるのは難しい情勢だ。来年に予定されている審査の全面的な実施にある程度影響が出ることも予想される。

組織改革

設立された当初のAPECは、1つのフォーラムに過ぎなかった。外交・貿易担当の閣僚会議しか設けられておらず、参会者も少なく、会期も短かったが、この15年来、会員の増大、機構の拡大に伴い様々な会合が設置されてきた。首脳会合や閣僚級会議のほか、最高経営責任者(CEO)サミット、研究センター会議や婦人会議、青年会議、中業企業会議、更に各種専門委員会や作業グループなど、1年を通じて多岐にわたる会議や活動が行われており、その人数、費用はかなりに上る。その一方で、官僚化と事務効率の低下傾向が深刻化しつつある。このためAPECは昨年から、組織改革を議題に取り上げるようになり、バンコク会合では、各メンバーが、今年の首脳会合開催までに改革に向けた具体策を提出することで一致した。

現在のところ、その具体策は2つに大別される。1つは、オーストラリアやカナダ、日本といった主要先進国側の、改革に大なたを奮い、首脳会合の核心的な役割をより発揮させ、「下意上達」式に議題を確定すると共に、政治・安全問題を公式に取り上げることでAPECの変化に対応する能力を増強していく、という考えだ。インドネシアやフィリピン、チリ等はどうか。改革は慎重に、安定的にワンステップずつ実施し、重複する機構は撤廃し、会議や活動を削減して機構の協調性を強化するよう求めると共に、首脳間による議題の確定に反対する姿勢を示している。改革はAPECの位置づけ、また将来に向けた発展方向、各方面の利益に係るために、短期間で見解を一致させるのはかなり難しい。

上述した3項目の主要議題以外にも、今年のAPECに見られる新たな動向も関心を寄せるに価する。カナダが5月の会議で提案した「アジア太平洋自由貿易区」(FTAAP)構想で、FTAAPは完全にAPECメンバーで構成され、遅くとも2007年までに創設するというものだ。提案した側は「これは欧州連合(EU)の拡大による挑戦に対応すると同時に、WTOのドーハ交渉の先行きが不透明なこと、APEC内部で2国間や地域貿易協定などの交渉が次々と始まってはいるが、APEC自身の貿易自由化の進展がむしろ緩慢である、といったマイナスの状況に対処したものだ」と説明する。

この提案はAPECメンバーの間に大きな反響を呼んだ。支持したのは大多数が先進国で、「メンバーがそれぞれFTAを進めるよりは、メンバーが一致して大規模なFTAを進める方が得策だ。FTAが大規模であればあるほど、メンバーが分かち合える福利がそれだけ多くなる」というのが理由だ。発展途上国の多くは反対の姿勢を示している。「提案は、ボゴール目標を削ぐのが目的である。大規模な自由貿易地区を確立するには少なくとも10年以上かかるからだ」。FTAAPが進められれば、その時点でボゴール目標によって定められたタイムテーブルはおのずと無効となる。意見の相異は大きいものの、APECはこの提案を正式に首脳会合で議論することを決定、FTAAPは今年の首脳会合での検討項目となった。

APECが直面する主要な挑戦

APECが創設されて15年になるが、この間、アジア太平洋地域と世界の政治、経済情勢は大きな変化を遂げた。APEC自身も今、変化する国際情勢に反応しつつある。現在、メンバーが最も関心を寄せているのは、APECは一体どこに向かうのか、今後、どの様な組織に変わっていくのかだ。こうした関心は、この数年に及ぶAPECの著しい変化と発展傾向に由来する。

APEC最大の変化はまさに次の3点に尽きる。第1は、貿易と投資の自由化プロセスが遅れていること。第2に、経済技術協力(ECOTECH)が重視されなくなりつつあること。第3は、政治と安全を巡る問題への偏りが顕著になってきたことだ。議題が絶えず拡大されてきたことで、核心となる課題であるボゴール目標の実施に関する話し合いは徐々に薄れつつあり、WTOの交渉結果を受動的に待っている、というのが今のAPECだ。この間、メンバーの間では2国間のFTAが雨後の竹の子のように持ち上がり、現在交渉中のもので50件余りと、あたかもそれぞれが勝手に「門前の雪を払う」かの様な状況にある。ECOTECHに至っては、ほとんど停滞状態だ。反テロが議題に盛り込まれて以降、APECの「汎政治化」の傾向は一段と強まっており、APECはその本質である経済組織を改めて、経済と政治、安全など多方面にわたる総合的な組織となる可能性がある。しかも、APECは拘束力を伴わないフォーラム的な性格の「ソフトな組織」であるため、真に成果を得るのは容易ではない。そのため一部のメンバーは、この15年来、APECが具体的な成果を上げられなかったことに苛立ちと不満を抱いている。総じて、APECの魅力は失われつつあると言えるだろう。

一側面からら見れば、APECが今日まで発展してきたのは、離脱するメンバーがいなかったのは、更に「解散」にまで至らなかったのは、メンバーがこの組織を必要としていることを示している。アジア太平洋地域には「10+3」(ASEAN・東南アジア諸国連合加盟10カ国と日中韓)など、様々な協力メカニズムが確立されてはいるが、APECの役割を代替するのは依然として難しい。現在の主要課題は、APECの再生である。ボゴール目標の実施に全精力を傾けるべきであり、決して途中で放棄してはならない。APECはアジア太平洋地域の協力という方向を位置づけるべきであり、議題を多くし、無駄を多くしてはならない。APECは改革を行い、会議や活動を簡素化し、協調性を強化し、ECOTECHを最優先する必要がある。先進国はボゴール目標の実施で模範を示す共に、発展途上国の能力向上を支援し、ECOTECHを積極的に展開すべきである。これこそが、まさにAPEC特有の機能である。つまり、ボゴール目標を実現した後でも、ECOTECHはやはり大きな価値があり、APECの生命力もこの分野において維持されていく。

APECと中国

2001年12月のWTO加盟以前、中国が国際的な経済組織に唯一参加していたのがAPECだ。中国はAPECをWTOに向けた「揺籃」と見なしていた。では今日、WTO加盟を果たし、しかも東アジ地域の協力メカニズムである「10+3」に参加した中国にとって、APECの重要性はどこに体現されているのだろうか。

先ず、アジア太平洋地域は中国が対外的な経済貿易を行う上で最も重要な地域であることだ。現在、貿易の70%、直接投資の72%はAPECメンバーによるものであり、APEC地域で貿易と投資が自由化されれば、中国は大きな利益を手にすることができる。APECにとっても、中国の経済成長が持つ意義は重要だ。

第2に、APECは中国が経済面での外交、大国間の外交、そして首脳間の外交を展開する上で重要な舞台であることだ。メンバーは21を数えるが、経済力で世界最強である米国と日本の両大国、そしてロシアといった重要な隣国かつ大国のほか、韓国やASEANなど重要な経済協力パートナーも加盟している。世界の多極化の推進にとって、大国間の外交は重要な意義を持つ。だが、それには首脳同士の接触が極めて肝要だ。1年に1回開催されるAPECの首脳会合は、中国の首脳が米国や日本、ロシアなど、大国の首脳と会談する絶好の場となる。なかでも、中米首脳会談は最も重要となる。中米間が常に不安定要素にさらされている中、両国が定期的に会談する唯一の機会がAPECであり、その重要性は言うまでもない。

第3に、APECは、中国が国際的なイメージを樹立し、対外政策を宣伝する上で重要な場であるということだ。1年に1度の首脳会合は世界にとって最も重要な国際的な活動であり、全世界の眼を引き付ける。中国の最高指導者はAPECの場で演説を行い、全世界に向けて中国の平和、開放の外交政策を伝え、中国経済の発展状況を紹介することで、中国の声を世界に直接伝えてきた。APECは世界に中国を理解してもらい、中国の政策を理解してもらい、中国の指導者を理解させることができる場なのだ。

中国はAPECの重要なメンバーである。長年にわたり、人的資源の開発や能力の向上、金融・開発プロジェクト、科学技術団地など、中国は数多くの建設的な提言を行ってきた。今後も中国は、APECの活動に積極的に参与し、ボゴール目標実現のために、アジア太平洋地域の平和と繁栄、発展のために貢献していくだろう。