2004 No.50
(1205 -1212)

アドレス 
中国北京市
百万荘大街24号
北京週報日本語部
電 話 
(8610) 68326018 
(8610) 68886238

>> 国際評論

 

APECからの新しい声

テロ防止と貿易自由化の関係について、今回のサンチアゴAPEC首脳会議は上手に処理されることになり、腐敗との闘いが新しい議題となった。

陸建人
(中国社会科学院アジア太平洋研究所AEPC研究センター)

第12回APEC(アジア太平洋経済協力会議)首脳会議が11月20、21日の両日チリの首都サンチアゴで開催された。また、その前の17、18日に第16回APEC閣僚会議が開かれた。今回の首脳会議は「一つの共同体、われらの未来」というテーマをめぐって、世界的な多角的貿易体制、アジア太平洋地域の貿易・投資の自由化と円滑化、テロ対策、腐敗との闘いなどの問題を討議したうえで合意に達し、「サンチアゴ宣言」を発表した。

会議の主要な成果

今回の首脳会議は次の3つの成果をあげた。

1、WTOのドーハ開発アジェンダ(DDA)交渉を積極的に推進し、アジア太平洋地域の貿易・投資の自由化を促進することで合意した。

各国の指導者が最も関心を寄せたのは世界的な多角的貿易問題であり、とりわけDDA交渉の進展であった。2001年にDDA交渉が始まって以来、農業についての交渉は難航に難航を重ねてきた。これに対して、APEC加盟国の首脳たちは数回もDDA交渉をサポートする姿勢を示した。今年6月には、APEC貿易相会議がとくに声明を発表し、DDA交渉を期日通りに終えるよう呼びかけた。これはWTOが最終的に農業交渉の枠組合意に向ううえで重要な役割を果たした。しかし、それからまたさらに多くの難問が続いた。農業交渉の成否は05年に香港で開かれる第6回WTO閣僚会議の成否にかかわるものである。このため、今回の首脳会議はまたもDDA交渉をサポートすることを表明した。EU以外の世界の主要貿易大国と農産物大国はいずれもAPECの加盟国であるため、APECの声はWTOのDDA交渉の促進に役立つことになる。これは世界的な多角的貿易体制に対するAPECの貢献でもある。

また、首脳会議はアジア太平洋地域の貿易・投資の自由化を促進する面で大きな関心を示した。会議では「APEC内での貿易拡大のためのサンチアゴ・イニシアティブ」が採択された。このイニシアティブは2つの要素からなる。@APECの貿易・投資の自由化を深化させ、来年のボゴール目標の中間実績調査を上手に行うこと。AAPEC域内での貿易・投資の円滑化を促進し、貿易障壁を取り除くこと。イニシアティブは、APEC加盟国が高いレベルの自由貿易協定を結ぶことを保障するため、APEC地域貿易協定と自由貿易協定のベストプラクティスの強化に協働することを打ち出した。

2、人間の安全保障の強化、経済成長の下支えを呼びかけたこと。

テロ防止、急性伝染病の蔓延の防止、エネルギー安全の保障などは、人間の安全と経済の成長にかかわるものであり、首脳会議が特別に関心を寄せる問題となった。テロ対策については、首脳会議は各加盟国が昨年に行った約束の履行を促すほか、テロリストが国際金融制度を利用するルートを断つよう強調している。また、国際海事機関の定めた「船舶及び港湾の安全のための新たな標準」を遵守するための措置を打ち出した。それから、人間の健康を脅かすエイズ、新型肺炎、鳥インフルエンザなどの伝染病および石油価格の高騰がもたらしたエネルギー安全の問題でも協働する姿勢を示している。

3、グッド・ガバナンスを実施し、腐敗との闘いの展開で合意した。

グッド・ガバナンス(Good Governance)とは良い統治である。腐敗はアジア太平洋地域及び全世界がグッド・ガバナンスを実行し、良好な経済体制を構築する面でもっとも大きな脅威の一つであると首脳会議は指摘している。APECが率先して腐敗と闘うことは社会全体の価値を高め、経済の発展と繁栄にプラスとなる。また、腐敗との闘いには透明性の確保が必要である。このため、首脳会議は「腐敗との闘い及び透明性確保のためのサンチアゴ・コミットメント」と「腐敗との闘い及び透明性確保に関するAPEC行動方針」という2つの決議を可決した。腐敗との闘いは今回の首脳会議の新たな議題であり、APEC加盟諸国がこの世界的な問題に対する重視を示すものである。

APEC加盟諸国は構造改革についてのコミットメントを再確認した。構造改革の目的はAPEC加盟諸国の経済体制が市場経済によりよく適応し、アジア太平洋地域の経済成長の潜在力を十分に引き出すようにするためである。このため、首脳会議で「構造改革実施のための首脳の課題(LAISR)」が採択された。

今回のサンチアゴ首脳会議は、テロ防止と貿易自由化の関係を適切に処理した。2001年と2002年の首脳会議のようにテロ対策についてとくに声明を発表することもなかったし、昨年のようにテロ対策面で突出した表現も使っていないが、今年のテロ対策はいずれも貿易、金融諸分野の安全問題にかかわるものである。また、「大量破壊兵器」と「携帯ミサイル」の拡散と輸出の防止などの内容は、首脳宣言には出ていないが、閣僚会議の声明には盛り込まれている。それは非常に敏感な話題であり、加盟国の間で一致を見せるのは無理であるため、ほとんどの首脳たちの二国間会談に盛り込まれた。これはこの2年間政治的安全問題がAPEC首脳会議でいくらか弱化されたためでもある。ここで述べておかなければならないのは、中国、アメリカ、ロシアの3者は朝鮮の核問題について、平和的解決を堅持し、できるだけはやく六カ国協議を回復することで合意したことである。

中国の立場

胡錦涛主席は首脳会議の期間に重要な発表を2回行った。1回目は19日のAPEC商工界サミットにおいて「協力とともにウィンウィンになることを推進し、持続可能な発展を実現する」をテーマとして行った講演であり、2回目は首脳会議においての発言である。胡錦涛主席の講演と発言は、世界経済の持続可能な発展とAPECの今後の発展方向に関する中国の立場を表明したものであり、参会者たちに高く評価された。

胡錦涛主席は講演の中で、経済のグローバル化が日ましに広がる中で世界経済の持続可能な発展を実現するという中国政府の主張を重点的に述べた。

持続可能な発展は当面の世界経済が直面している際立った問題である。それは世界各国の当面の発展にかかわるばかりでなく、全人類の未来の発展にもかかわるものである。現在の世界で、経済の発展が最も急速で、人口が最も多く、エネルギーの消耗が大きな中国がどのような主張と見方を持っているかがとりわけ注目されるのは当然である。

胡錦涛主席は次の四つの主張を提出した。@発展途上国のさらなる発展をサポート、推進し、世界経済の安定成長を保つ。A科学的な発展観を樹立し、実践し、経済社会の全面的進歩と人間の全面的な発展を実現することに努める。B資源節約型の経済発展パターンを構築し、循環経済の発展に力を入れる。C国際間の経済・技術協力を強化し、公平かつ合理的な競争環境を作り出す。この四つの主張は中国が自らの発展を通じて体得したものであり、APEC加盟諸国の願いを反映するものでもあり、APECの発展と世界経済の発展にとっても重要で建設的な意義を持つものである。

その中の4番目の主張は、発展途上国の経済発展のために公平かつ合理的な競争環境をつくりだすことを意図したものである。「世界の恒久平和と持続的発展は、経済成長の成果を公正、公平かつ合理的に幅広く分かち合うことを基礎としなければならない」(胡錦涛)からである。しかし、当面の重要な事実は、先進国、とりわけ世界で最も発達した大国または超大国グループが世界の経済秩序と貿易ルールの制定、経済成長の成果の分かち合いの面で明らかに優位を占めているが、貧困国、小国の声は往々にして重視されていないことである。こうした不公平かつ不合理な国際環境は、発展途上国の経済発展にマイナスとなるばかりか、南北間の格差がさらに拡大されることになる。中国のこの主張は、APECの今後の改革やWTOの多角的貿易体制の改善と世界経済の新秩序の構築にとって重要な意義をもつものである。

胡錦涛主席の首脳会議における発言には3つの重点がある。

@ APEC域内でテロ対策をとることについての中国の見方を表明した――まず、中国はすべ

ての形態のテロリズムに反対しており、この立場は確固不動のものである。一方では、APECは自らの強味を生かし、テロ防止能力の向上に取りかかり、協力を通じて、アジア太平洋地域の貿易・投資活動の展開のために安全な環境を作り出すべきである。言い換えれば、APECのテロ対策は貿易の安全との関係をつくることになる。A次の2つの提案を打ち出した。一つはエネルギー協力を強化し、エネルギー政策についての対話をくりひろげ、エネルギーの効率的利用を高め、新エネルギーを開発し、貧困人口へのエネルギー供給の面でさらに協力をくりひろげることである。いま一つは、APEC加盟諸国が交流と協力を行うアジア太平洋財政経済と発展センターを中国に設立することである。BAPECの発展方向について四つの見方を提出した。A.経済協力を主とする方向を堅持する。B.差異を尊重し、平等互恵、自主と自発、話し合いによる合意というAPEC方式を堅持する。C.秩序整然とした漸進的な前進の道を歩む。D.時代とともに進む改革精神を堅持する。この四つの見方がAPECのこの数年における懸念すべきいくつかの変化について提出したものである。前の2つの見方はAPECの健全的な発展を保証するうえで重要な意義をもつものである。

中国はAPEC加盟諸国の中で最大の発展途上国であり、中国の立場と見方はAPECの大多数の発展途上国の声を反映しうるものであるため、その支持を受けている。また、中国は世界で上位にある貿易大国となっており、開放的で、公平的な貿易環境づくりやその他の先進国との意思疎通および協力は中国の目指すものでもある。APECでは、中国は発展途上国と先進国を結びつける橋とコーディネーターの役割を果たしており、双方に重視されている。

APECが直面する挑戦

APECの核心的課題はボゴール目標を実現することにある。つまり、「先進エコノミーは遅くとも2010年までに、また、途上エコノミーは遅くとも2020年までにAPEC域内での貿易と投資の自由化という目標を達成する」というものである。しかし、2010年が迫ってくるにつれて、いくつかの先進加盟国の間では、しり込みをする傾向が見られ、期限までに貿易自由化を実現するには困難があるとする国までも現れた。これで、ボゴール目標が実現できるかどうかは未知数となっている。これこそAPECが直面する最も大きなチャレンジである。来年はボゴール目標の「中間実績調査」を実施する年であり、各加盟国は実施状況の調査を受けることになる。しかし、調査がいかに行われるかは、各加盟国はまだ合意するに至っていない。

現在、アジア太平洋地域ではさまざま地域貿易協定と自由貿易協定および10+3協力メカニズムなどが現われており、APECにもいくつかの満足できないところがあるが、アジア太平洋地域の貿易・投資の自由化を推進する唯一の国際機構として、その役割はかけがえのないものである。現在、加盟諸国はAPECの発展を促すために協力している。